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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第4章 光の討魔団と破壊の巨人
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117.度の過ぎた訓練

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

「本気よ、じゃないよ!! 正気に戻れ!」ヴレイズは真剣な顔をしたスカーレットの肩を大きく揺さぶる。それ程に彼女の言う事、特訓内容は常軌を逸していた。


 実際に彼女がその身に受けると言ったライトニングハンマーはベンジャミンが設計した兵器であった。その威力は雷の賢者が放つ攻撃魔法を完全再現しており、その威力は一撃で堅牢な要塞をペシャンコにする程であった。


「私は正気だ! このぐらい出来ないと、私はパトリックには勝てない! あいつは私が倒さなきゃいけないんだ!!」と、彼女は腹の底から吠え、ヴレイズを怯ませる。


 すると、ずっと何かを考える様に俯いていた艦長のニックが前に出る。


「いいか、スカーレット。このライトニングハンマーは要塞攻略や航空支援の為の兵器であり、一個人に向けていい代物じゃないんだ。実際に俺はこいつを一発、ヤオガミで撃ったが……お前に向けて撃ちたくはない。特訓で使うべき物じゃない。わかってくれ」


「……それでも、私は強くならなきゃ……」と、眼に涙を溜める。彼女はヤオガミ列島でオロチの熱線を、村を守る為にその身に受けた事を思い出した。その時は二発耐えたが、三発目が来る目の前で膝を折り、自分の命を諦めた。が、そのタイミングでヴレイズに助けられ、命を拾った。あの時の惨めな思いは二度とは御免と言わんばかりに今迄修行を積み重ね、今、覚悟を見せていた。


「強くなるにはどうすればいいか、言ったよな?」ヴレイズも本気の目を覗かせ、彼女を睨む。


「強くなろうとするだけじゃ、強くなれない、でしたよね。その意味、少しは理解したつもり。その上でやるって言っているの!」


「わかった……ニック、もしもの時は俺に任せてくれ」彼女の覚悟を汲み、ヴレイズは頷いた。


「ラスティー総司令に知れたら大目玉だぞ? 作戦でもないのにこんな兵器ぶっぱなすんだから……ったく、ヴレイズが言うなら……わかったよ。信じるぞ」と、ニックは乗組員らに指示を出し、ライトニングハンマーのチャージを始めた。




 キャメロンは微かに残った視力を頼りにアリシアに向かって火炎弾を飛ばす。彼女はスカーレットとの試合を終えて魔力も体力も殆ど残っていなかったが、実戦さながらに気力を振り絞り、炎翼を生やして跳んだ。


「視力が無くても戦えるんだね」アリシアは感心した様に口笛を吹く。彼女は構えず、腕を組み、眼を伏せたままだった。


「実戦で鍛えてきたからね! 目も鼻も利かない戦場、水中、気配の無い相手! 強敵と戦ってきたのはあんただけじゃない!!」と、羽ばたかせて熱風で襲い掛かり、殺意の籠った足技を見せる。それは視力が無いとは思えないほど正確にアリシアの首を狙った。


「そのつもりで相手をしているよ」と、アリシアは余裕たっぷりにそれを薄皮一枚で避け、片手でフラッシュブラストを放つ。この技は炎属性の熱線とは違って破壊力はさほど無かったが、代りに呪術をたっぷり練り込むことが可能の為、熱線よりも恐ろしい技であった。


 キャメロンはその光波動を避けて空を舞い、火炎熱弾を連射する。


 アリシアは鼻歌混じりに後方へと跳び、優雅に着地する。


「鼻歌で自分の居場所を教えているつもり? 鼻に付くハンデね!」と、鼻歌の方角へ火炎弾を放つ。



「ハンデじゃないよ?」



 と、アリシアはいつの間にか彼女の背後へと回り、人差指で首の下を撫でる。


 首筋に氷を詰められた気分を我慢しながらキャメロンは後方へ向かって回し蹴りを放つ。が、蹴りは空を虚しく斬る。


「光魔法は目眩ましや呪術を飛ばすだけじゃないの。身体に上手く循環させれば、雷使い以上の高速移動を可能にする」と、空を舞う幽霊の様にふわりと間合いを詰め、キャメロンの身体に5発ほど拳を見舞う。その拳は容易に肋骨を砕き、内臓へ甚大なダメージを与えた。


「ごほぁっ!!」身体を丸めて動けなくなり、膝を付く。


「もうやめておきな。訓練や試合で重傷を負う事はない。その目は私が治せ、」と、彼女の失明を治療しようと近づくと、指先に火傷を負う。「あづっ!!」


「まだ、終わってないよ……こんなもんで終われない……次の戦いは、こんなもんじゃない!! あたしはもう指令に迷惑を掛けるわけにはいかない!!」と、キャメロンは殺意に満ちた白濁した目の鬼面を向けた。


「こわっ!!」




 ガルムフォートレス改め、スレイヤーフォートレスはライトニングハンマーのチャージを完了させ、砲身に稲光を奔らせていた。その遥か真下ではスカーレットが深く息を吐き、全身に魔力を漲らせていた。彼女もまた、キャメロン同様満身創痍であり、戦えるコンデションではなかった。が、彼女はこの振り絞らなくてはならない状況を望んでいた。


「いつでも……いいよ!」と、彼女は指先から雷光を迸らせ、合図を送る。


 それを確認し、ニックは大きくため息を吐き、酒瓶を探す様に辺りを見回す。が、彼はこの戦艦の艦長になってから酒を一滴も呑んではいなかった。


「……あぁチクショウ!! スカーレット、ヴレイズ、信じているぞ!!」と、射撃命令を出す。


 が、乗組員のひとりがボタンを躊躇し、冷や汗混じりにニックの方を見る。


「あのぉ……本当に撃つんですか?」と、他の乗組員が思っている疑問を口にする。


「あぁそうだよ! 艦長命令だ!」


「模擬訓練でこいつを? 出力10パーセント強すぎるのに?!」


「いいから撃て! それがあいつの望みなんだ!!」ニックは内心、感情を引き裂かれそうな気持で口にする。


「……俺にはできません。艦長が撃ってください」と、席を立つ。


「あぁ、わかったよ。責任は全部俺が取る! くそ、何で、シラフでこんな真似を?!」と、ニックは射手の席へ向かい、ボタンを指の腹で撫でる。彼はそこでまた躊躇し、大きくため息を吐く。遥か真下では急かす様に雷光が瞬く。



「後悔すんなよ!! チクショウ!!」



 と、ニックはボタンを勢いよく押す。


 同時に落雷とは比にならない程の轟音が鳴り響く。目にも止まらぬ速さでそれはスカーレットへ向けて着弾し、同時に砂埃と雷嵐、地面には巨大な地割れが出来上がる。


「スカーレットぉ!!」ニックは慌てた様に甲板に出て真下へ向かって目を凝らす。


 しばらく経つと、遥か真下の砂塵が晴れ、ふたつの影が姿を現す。



「ったくぅ!! 2度とやるって言うんじゃないぞ!!!」



 そこには赤熱右腕で巨大な稲光の塊を受けたヴレイズが立っていた。流石の彼でもライトニングハンマーの一撃を砕く事は出来なかったので、身体全身の魔力を赤熱右腕に集中させ、受け止めていた。その凄まじい衝撃のみ地面へ受け流していた。


 スカーレットは汗まみれでその場にへたり込み、荒々しく呼吸を繰り返していた。


 ヴレイズは彼女に着弾する寸前で彼女の瞳に映った恐怖の色を察し、間一髪で割って入ったのであった。


 彼は時間をかけて赤熱右腕で握った雷矢を少しずつ小さくしていき、やがて消滅させた。


「情けないとは思わない。だが、自分の実力を計り損ねない事だ。次にやる時は、せめてニックや他の皆に迷惑を掛けないでくれ。俺がいくらでも付き合ってやるよ」と、精神安定の炎魔法で彼女を包み込む。


 スカーレットは口を塞ぎ、その場でしばらく泣いた。




「いくぞぉ!! アリシアぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」キャメロンは再び地面を蹴り、火炎の礫を撒き散らし、彼女の顔の中心へ向かって拳を見舞う。


「どっかの誰かさんみたい……あたしって憎まれる質なのかな?」と、アリシアは頭を掻きながらスカーレットの拳を鼻先まで近づける。


 次の瞬間、アリシアの放った二本の光の矢がキャメロンの両目を貫き、脳に突き刺さる。その光は頭蓋の中で乱反射し、キャメロンの脳を焼き尽くす。


「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「試合だから、訓練だからと言って、必殺されないと思った? その甘さが命取りだよ」と、地面で無様に転がるキャメロンの髪の毛を引っ張り、引き起こす。


「な゛、な゛に゛?」泡を吹きながら最後に残った疑問を口から零す。


「命を振り絞る、逆境に立たされる。そういう状況になる前に勝利を掴むか撤退する。それが現場指揮官の戦い、でしょ? あんたは失格だよ」と、アリシアは容赦なくキャメロンの頭を地面に叩き付け、無慈悲に踏み砕いた。




「っは! はぁ? え? あぁ?」目の中から不可思議な光が消え、キャメロンが正気を取り戻す。目の前には作業を続けるアリシアが座り、周囲は何も変わらない日常が流れていた。「あれ? 今迄戦って……あれぇ?」スカーレットは先ほどとは打って変わって傷は負っておらず、眼も失明していなかった。


 そんな彼女に気付き、アリシアは立ち上がって彼女の鼻を小突いた。


「根性で呪術を解ける程、甘くはないの。どう? あなたご希望の訓練は。何か、得る者はあった?」と、笑顔を見せる。


 キャメロンは表情を引き攣らせ、一歩退いた。


「あんた、魔王軍より怖いんじゃない?」


「そうじゃなきゃ、魔王討伐なんか出来ないよ」


いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

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