114.アリシアVSヴレイズ?!
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
「見ろ見ろ見ろ!! ここまで出来るのもここで俺しかいないだろう?」ヴレイズの道場で一番血気盛んな団員が調子に乗った声を上げる。彼は道場内で長時間の魔力高速循環を成功させ、周囲の者を驚かせていた。
彼の名はハリソンと言い、道場が開いた初日にヴレイズに喧嘩を売った団員であった。キャメロンの隊に配属されていた。
「こりゃ凄い!! これならヴレイズさんは無理でも、キャメロンさんになら勝てるんじゃないか?!」
「実力を上げれば大隊長にも抜擢されるぞ!」と、他の団員が興奮して煽り立てる。
そこへ騒ぎを聞いたヴレイズが歩み寄り、彼の肩に触れる。
「お、やるじゃないか! ここからもっと安定して長時間循環させる事が出来れば、実戦でも通用するぞ」と、にこやかに口にする。
すると、ハリソンは不満そうな表情を向ける。
「おいおい、ここまで力を上げたんだぜ? ちょっと試しに腕相撲をしてくれないか? 先生!」と、机の上に左腕をドスンと置く。「左腕の方がいいだろ、先生?」
「まだ早いと思うけどなぁ……」と、彼の腕に応えてため息を吐く。
「で、先生。循環の準備をしたらどうだい?」
「いつでもいいz」と、彼が応えた瞬間、ハリソンは思い切り腕を動かす。
が、ヴレイズの腕はピクリとも動かなかった。
「な……に……?」ハリソンは冷や汗を掻き、乱れそうになった高速循環のバランスを深呼吸で整える。再び腕を動かそうと力むが、岩の様に微動だにしなかった。
「これは力みではない。いや、腕相撲って奴の力の流れさえわかれば、最小限の力だけで済む。そして、魔力循環って奴を実戦で使うなら……」と、ヴレイズは目をカッと開く。
次の瞬間、ハリソンの手の甲が机をコツンと叩いていた。
「はれ?」
「魔力の高速循環を実戦で使うには、長時間持続も大事だが、循環の最高速を短時間で済ませるのが一番重要だ。これが出来るのは、ミシェルだけみたいだな。引き続き頑張ってくれ」と、遠巻きに騒ぎを見ている彼女へ目くばせをする。
「最高速を短時間で……? どうやって?」ハリソンは顔色を悪くさせながら表情を強張らせる。
そんな中、外からアリシアの生徒が入って来てヴレイズの名を呼んだ。
「なんだ?」
アリシアの生徒に呼ばれたヴレイズは、討魔団本部の大広場へと向かう。そこにはアリシアが腕を組んで彼の事を待っていた。その周囲には彼らの戦いを一目みたいと大勢の団員やこの街の住人が集まっていた。
「……俺と戦うって? 確かに話のネタに広がってはいたが……マジか?」ヴレイズは乗り気ではないのか苦そうな顔でため息を吐く。
「その通り。この試合であたしとヴレイズの実力を測る事が出来るし、あたしみたいな得体の知れない使い手の対策を練る事も出来るでしょ?」と、手首足首を回す。
「確かに……アリシアの戦い方には謎が多いからな……よし!」ヴレイズはやる気を出した様に髪を逆立て、赤熱右腕を燃え上がらせた。
アリシアも全身を淡く光らせ、練習用の弓と先にゴムを被せた矢を数本、背中に装備した矢立へ入れ、刃引きしたナイフを確認する。
「じゃあ、やろうか!」と、アリシアが指先を光らせる。その光には数々の呪術が練り込まれており、ヴレイズの眼球に襲い掛かる。
ヴレイズの目は炎で保護され、それらの呪術を全て焼き払った。
「やって来ると思ったよ……」ヴレイズは彼女の一手を防ぎ、不敵に笑う。
「こんなのは小手調べ。行くよ!!」と、アリシアは光と共にその場から消える。それに応える様にヴレイズも火の玉に包まれ、上空へと飛び上がる。
そこからはギャラリーが望むような分かり易い戦いではなく、未知の攻防が繰り広げられた。晴天の中、光と炎が激しく衝突し、間合いを取って何かを飛ばし合い、また激突する。その戦いはもはや人間同士の試合ではなかった。時折、ヴレイズの放った火花が地上へ落ち、ギャラリーの顔へ降り注いだ。
「うわぁ……アレが2人の、本気か……」ここまで見に来たハリソンは先ほどの青い顔を更に青くさせる。
「いえ、まだまだ本気じゃないわ。彼のお兄さんと戦った時はもっと凄かった」と、グレイとの戦いを見届けたミシェルが口にする。
「お兄さん? ヴレイズさんにお兄さんが……てか、お前ミシェルだよな? 先生が言うには、最高速化が出来るらしいが?」
「まぁね。これでもサンサ族の生き残りだから……独学で色々と修行もしてきたし」
「俺に教えろ!」上空の戦いから目を離し、彼女の正面に立つ。
「それが人にモノを頼む時の態度?」
アリシアとヴレイズの戦いが始まったころ、スカーレットは大広場へは向かわず、ある場所へと向かっていた。
そこではキャメロンがひとり運動着姿で汗を流していた。彼女は身体が魔力の高速循環に耐えられるように基礎体力作りのハードトレーニングを行っていた。
「ちょっといいですか?」スカーレットは改まった様な言い方で訊ねる。彼女は今までは誰の隊にも所属せず、ニックの船で海賊相手に戦っていたが、今はニックの元から離れてグレーボン港の守りを任されていた。
「あんたは……チョスコのボディヴァ家の令嬢……家族の事は気の毒だったね」キャメロンがバルバロンにいた頃、魔王軍はチョスコ国境まで迫っていた。ボディヴァ家の事も耳にしており、気にかけていた。
「……その話をしに来たわけじゃない……今の私は多分、貴女に匹敵すると思います。どうでしょう? 私と戦ってみますか?」と、拳に稲光を纏わせる。
「……今のあたしはリハビリ中で、以前ほどの実力よりも頭ひとつ低いかもね。でも、丁度いいかもね。一風呂浴びる前に、やってみる?」キャメロンは炎の翼を生やし、眼を光らせた。
ところ変わって討魔団本部から離れた荒野にて、ふたつの影が立っていた。その者はロザリアとケビンであった。2人は遥か遠くで衝突する二つの光の玉を眺めていた。
「凄い……追いつけるだろうか……」腕を組んだロザリアが小さく唸る。
「追いつけなくとも、役割はあるだろ」
「少しでも実力を伸ばさねば、いざという時に手を伸ばす事が出来ないからな……新たに手に入れた得物の調子も見ておきたいんだ。付き合ってくれないか、ケビン殿」と、ロザリアは背の大剣と腰の刀に手を置く。
「俺も同じ気持ちだ。ロザリアさん、こちらこそ付き合って貰うぞ」と、短剣を取り出し、自分の心臓に突き立てる。
「何を?!」
「ぐぁ! 驚かせて悪いな! こうでもしないと、本気の本気を出せなくてな!」次の瞬間、ケビンの身体の筋肉が鼓動と共にグンッと膨らみ、瞳に赤みが帯びる。
「これは凄い……ゼオに匹敵するかそれ以上か……そう来なくては!!」ロザリアは臆さず間合いを詰めて大剣を振るい、激しい竜巻を起こす。
ケビンは不敵な笑みと共にその竜巻へと突っ込み、大剣を振るった。
その瞬間、彼らが立つ荒野が真っ二つに割れ、大地使い顔負けの大地震が引き起こされた。
この異変に気が付いたのか、本部指令室で仕事をしていたエディが血相を変えて外へ出る。上空では太陽の様な二つの塊がぶつかり合い、更に裏手では火炎を撒き散らすキャメロンと稲光を轟かせるスカーレットが暴れ、更に正体不明の地響きがグレーボン全土へ轟いていた。
「なんだなんだなんだ?! 新手か? ドラゴンか? 魔王軍か?!」と、冷や汗を掻きながら周囲を見回す。
「どうやら、試合、模擬戦闘みたいだな」レイは落ち着いたように分析し、何が起きているのか理解した。
「模擬戦闘って規模か?! てか、この地響きはなんだ?! 怪物か賢者でも暴れているのかよ!?」
「きっと、これも訓練だ。あの2人の試合に触発されて、次々に始めている様子だ。良いことだ」
「良い事、なのか?! ……まぁ、これからの大規模作戦に向けて……いいのかな?」と、エディは複雑そうな表情を覗かせた。
「で、エディ。どっちが勝つと思う?」
「お前、呑気だな?!」
「余裕が出て来たんだ」と、レイは涼し気な表情を彼に向け、笑って見せた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




