108.墓参り
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
ラスティー達がヤオガミを出てから半日後、ニーロウ国のブランダの街。飛行戦艦は町の上空で滞空し、ラスティー、アリシア、ヴレイズの3人は下船していた。アリシアとヴレイズは街で花を買いに向かい、ラスティーは一足早く町外れにある墓地へと向かった。
彼は墓前に立つと、懐から葉巻を取り出し、吸い口を噛み切ってマッチで火を点け、ゆっくりと煙を立てる。辺りが葉巻の香りで満たされると、彼はそっと墓前に供えた。
そんな彼の背後から、ラスティー同様にフォーマルな格好をした男が歩み寄った。
「よく来てくれたな」ラスティーは懐かしむような笑顔を滲ませながら振り向く。
「それはこっちのセリフだ。今や世界の司令官として、世界中を飛び回っているのに」
彼はドン・ブランダの息子であり、現在のブランダファミリーのボスであった。名をアルフレッドと言い、マフィア時代のラスティーとは兄弟の様に育った仲であった。ラスティーがマフィアを抜ける時、彼は海外に滞在していた為、それ以降は手紙でのやり取りのみ続けていた。
「飛び回るのはこれからかな。ボスの最期は、どんなだった?」ラスティーは煙草を取り出し、アルフレッドに渡して火を点ける。
彼は煙を吐き出すとしばらく考える様に上空の飛空艇を見上げた。
「実に……実に穏やかだった。自宅のソファーに座って、葉巻を咥え、酒を片手に……いつの間にかな。医者が言うには心不全だと……」
「そうか……これからやっと恩を返そうって時に……間に合わなかったな」
「そうでもないぞ」アルフレッドは大きく煙を吐き、ラスティーの目を見た。
「なに?」
「西大陸同盟が成ったって新聞に出た時、オヤジは満足そうに言っていたぜ。『ラスティーはやっぱり、マフィアにしておくには惜しい男だった。追い出して正解だ』ってな。お前が立派に魔王討伐へ向かっているってだけで十分恩返しになっている」
「……そうか……」ラスティーは一筋垂れそうになった涙を拭い、サングラスをかけた。
「まぁ、リボルファミリーは壊滅し、他の組織や強盗団も規模を縮小。この街は拡大し、更にビジネスも成長。この国の政治にも大きな影響を与えられるようになった。ファミリーは安泰だし、お前もいい活躍をしているからな。安心したんだろう」
「俺の討魔団ビジネスも負けていないぞ。で、モノは相談なんだが、アル……」と、煙草を取り出して咥える。
「なんだ? お前のそう言う時って、悪い企みをしている時だよな?」と、昔を思い出す様に口にする。
「今やブランダファミリーはこの国に大きな影響を与える組織だし、お前自身政治の円卓の中心人物だ。そんなお前に、この国に東大陸同盟を提案して貰いたい」
「ほぅ」アルは口を挟まず、黙って煙草を吸った。
「既にイモホップ国とオレンシア国にも話は通してあるし、あとはフラッダ国を説得すれば同盟は成ったも同然だ。あとはこのニーロウ国だ。この国は合議制を取っていて、王がいなくてやり辛い。アルが会議を動かし、この大陸を纏め上げてくれないか?」
「……面白いな。で、このまま西、南、東の三大陸同盟を締結させ、バルバロンを孤立させる訳か」
「本格的な戦いはそれからだ。もし上手くいけば、ブランダファミリーは一躍……」
「英雄の称号は他の連中にくれてやる。俺らみたいな輩は、他のご褒美を欲しがるものだろう?」と、サングラスの向こう側を覗き込む。
「流石、わかっているな、アル。俺の討魔団と手を組めば、円滑に南や西の大陸と貿易が出来るぞ? 武器弾薬だけじゃなく、まともな物資も転がす事が出来る。利益は……」
「独り占めはしないさ。オヤジの教えだ。欲張りは身を亡ぼす。上手くやるさ。お前の様にな」アルフレッドはクスクスと笑いながら煙を吐く。
そこへ、大きな花束を抱えたアリシアとヴレイズがやって来る。彼女は墓前に綺麗に整えた花束を添え、ヴレイズは眼を瞑って3年前の頃を思い出した。
「この2人がお前の仲間か……」アルフレッドは丁寧にお辞儀し、自己紹介をした。
「あぁ、最高の仲間だ。思い出すな、2人とも」
「初めて会った時は、あたしたちを捕まえようとしていたよね?」
「あの頃から口達者のヘビースモーカーだな、ラスティーは」と、もう一本吸おうとする彼の煙草に素早く着火する。
すると、アリシアがラスティーの顔を覗き込み、首を傾げた。
「そう言えばラスティー、なんか悪い事を企んでるぅ? すごく楽しそうだね」
「あぁ、俺もそれを感じる。ロクな事を考えてないぞ、きっと」と、2人はラスティーの微笑みを見て、苦そうな表情を浮かべた。
「企むだなんてそんな、失礼だな! 俺はただ策を……」
「ははっ、いい仲間だな」と、アルフレッドは声を上げて笑った。
時を同じくしてバルバロン、ファーストシティの魔王の居城。ここでは六魔道団会議が行われ、円卓に6人の魔人的属性使いらが座っていた。が、今回の会議進行役は存在感を放っており、全員が手持ちの資料よりもそちらへ集中していた。
「魔王様がこの会議の進行役とは久々ですな」爆炎術士のパトリックが目を丸くする。
魔王は頬杖をつき、気怠そうな表情を見せながらため息を吐いた。
「……いや、いつもはウィルガルムの役なんだけどさ。あいつはデストロイヤーゴーレムの試運転中だし、代りを頼まれたロキシーは気が乗らないとヴァイリーに……で、ヴァイリーから俺に、と。はは、不思議だな、回ってきちゃったよ」
「それはそうと、早く始めようじゃないか?」と、元雷の賢者エイブラハムが急かす。
魔王は立ち上がり、慣れた様に会議を滑らかに進めた。今回のデストロイヤーゴーレムによる破壊の杖探索の為の作戦を口にする。
「探索はミッドオーシャンだ。そこへデストロイヤーゴーレムを侵攻させる。が、早速問題が発生した。海上護衛艦であるオロチが破壊された」
「なんですって?」大海の女王を自称するメラニーが耳を大きくさせる。
「地元反乱軍にしてやられたそうだが、噂によると討魔団の手伝いがあったらしい。しかも、その連中に最新型の空中戦艦を盗られたとか。まったく、出鼻を挫かれるとはこの事だな」と、魔王は内容の割にはあまり気にしていない様に口にする。
「では、海上護衛はどうしますか?」メラニーは興味ありげに腰を上げる。
「そうだな。メラニー、頼めるか?」
「お任せください!!」と、やる気満々の声を上げる。
「あと、空の援護もガルムドラグーンだけでは心許ない。スネイクスも頼む」
「……はい、了解」彼女は腕を組んだまま頷く。
「はぁ? なんで彼女まで!?」邪魔者扱いする様にスネイクスを指さすメラニー。
「言っただろ? 大型空中戦艦も手元にないんだ。あれのライトニングハンマーと同等の攻撃を上空から放てるのは、スネイクス・ブリーズガンしかいない」魔王は手でテントの様な三角形を作り、淡々と話す。
「しかし、私ひとりで!!」
「俺様に文句でもあるのか?」
魔王は鬱陶しい小蠅でも見る様に睨み付け、小首を傾げる。
「い、いえ……その……申し訳……ありません」メラニーは先ほどの態度から委縮しきり、誰よりも小さくなってしまう。
「今回の作戦では、恐らく水の賢者であるリヴァイアが動く。そして、その上にいるヤツもな……」
「その上?」スネイクスが興味ありげに問う。
「ヤツの師である、大海の監視者、ノインだ。破壊の杖はヤツの監視下にある。デストロイヤーゴーレムで激しく小突けば、出てくるかもしれない」
「しかし、文献によれば神聖存在は我々とは不干渉のはず……」パトリックが納得できない様に唸る。
「いや、神器……しかも破壊の杖と創造の珠は神の力そのモノ。それを手にしようとすれば、連中は必ず動く。奴らを相手にすれば、この俺様でも勝つことは出来ないだろう。その為のデストロイヤーゴーレムだ」と、魔王はここにきて楽しそうな表情を浮かばせる。
「魔王様の力なら例え神でも……」パトリックが力説する様に立ち上がるが、魔王がそれを諫める。
「おだてるな。まぁ、負ける事もないとは思うが……闇の力では神聖存在を消し去る事は出来ない。で、話を進める。西大陸マーナミーナ国の港付近に、ククリス国の王の私兵団が基地を建設し、こちらに睨みを利かせているつもりだ。おそらく、最高のタイミングで殴りかかってくる可能性がある。そちらへはパトリックとエイブラハムに牽制して貰いたい」と、2人を指さす。
「連中が動くタイミングは、やはりデストロイヤーゴーレムが本格起動した時、ですかな?」エイブラハムが問うと、魔王は指を振った。
「いいや……討魔団、ラスティー・シャークアイズが動いたら、だ」魔王は眼を輝かせ、不敵に笑った。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




