107.次の戦いへ
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
「ってことで、エレンの代りにウチで働く事になる、マリオンだ」ラスティーは指令室へ皆を集め、改めて彼女を紹介する。実際、彼自身もふんわりとしか実感できておらず、信じたくない事実ではあった。
「よろしくぅ」彼女は軽めの挨拶をし、手でピースサインを作る。
「本当にエレンさん、なの? 顔は間違いないんだけど、雰囲気が違い過ぎる……」治療を受け終わり、包帯だらけのスカーレットは目だけを動かして首を傾げる。
「信じられないなぁ……精神を回復させる為とはいえ、別人格になるなんてよ」ニックも訝し気に口にする。
「でも、ロザリアさんって前例もあるしね」アリシアは納得している様に頷く。
彼女の言う通り、エレンはアスカとロザリアの精神保護術を参考にして自分の中に別人格を作り出して育て、自分にもしもの事が遭った時の備えとしていた。
皆の視線を一身に受けてもマリオンは怯まずに微笑んだ。エレンとは真逆で、挑発的な服装で胸元を露わにし、男達を刺激した。
「……エレンの身体で勘弁してほしいなぁ……」目のやり場に困ったヴレイズが俯きながら口にする。
すると、マリオンは彼に近づき、顔を覗き込む。
「短い間だからさ、アタイの好きにさせてよ」と、ウィンクする。
「エレンの身体で、変な真似はしないでよ! マリオン!」こう言ったことには敏感なアリシアが釘を刺す様に口にする。
今度は彼女の顔をワザとらしく覗き込んで微笑む。
「変なマネって具体的に何よ? ん?」
「くっ……やり難いヤツ……」歯痒そうに表情を歪め、顔を背ける。
「兎に角、皆よろしく頼むぞ! さて、これからが忙しい!」と、ラスティーは逃げる様にその場から離れて指令室の卓へ手をついた。
それを逃さないつもりか、マリオンは素早く駆け寄って耳元へ近づく。
「で、あんたの夜のお楽しみはどうするの? アタイで良ければ……楽しませてあげるけど?」
「夜の?」
「お楽しみぃ?」その言葉はアリシアとヴレイズの耳にも入り、2人も光と炎を噴射させて近づいた。
「おい! 言葉に気を付けろ! カウンセリングだろうが!! 夜のカウンセリング!!」
「夜のカウンセリング? そっちの言い回しもいやらしく聞こえるなぁ……」目を座らせたアリシアが更に顔を近づける。
「おいラスティー、皆が休みを返上して働いているのに、お前は夜、楽しんでいるのか? エレンと……エレンとぉ!!」ヴレイズも気に入らないのか、殺気を滲ませながら彼の背後から言葉を投げつける。
「だぁかぁら違うって! マリオォォォォォォォォォン!!!」
その後、空中戦艦に乗せられた機甲団の生き残りであるケンジ、ヨーコ、リクトがラスティーに呼ばれ、今後についての作戦を言い渡される。
ウィルガルム機甲団はこのまま残す事となった。オロチ破壊に成功はしたものの、まだ魔王軍の支配下から脱するには至らず、もし機甲団が全滅したとあれば、本国はまた別の部隊を派遣し、彼らに国の運営を任せると予想した。
その為、あえて機甲団はリーダーのゼオの殉職と共にオロチ防衛に失敗した、とだけ報告させ、国の運営は今まで通り機甲団に任せるに至った。
その代り、反乱軍は壊滅したと報告させ、彼らを機甲団に入団させ、実質、運営は反乱軍に任せる事となった。
「文句はないし、それでいい」ケンジは納得した様に頷く。
義手義足を付け替え、自由に動ける様になったヨーコも攻撃的な性格を潜ませ、ただ黙って頷いた。
「で、サブロウの処遇はどうするよ?」リクトは縛り上げて芋虫状態にしたかつての師に向かって指を向けた。
「任せる。ただ、あぁ言う年寄りは口が回るし、主導権を握ろうとする。下手に喋らせようとするなよ」と、ラスティーは助言し、サブロウを一睨みする。こういった姑息な裏切り者に対して、彼は辟易していた。
「ゴウジ達反乱軍はこの話を受け入れてくれるだろうか?」ケンジは心配そうに口にする。
「最初は躓くだろうが、歩み寄る気持ちがあれば大丈夫さ。何かあれば、遠慮なく言ってくれ。この国にも討魔団の連絡員はいる」
「そうか……上手く行く様に頑張らなきゃな。それと……」と、ケンジは仮設診療室へ顔を向けた。
ケンジは集中治療をひと段落終えたロザリアの眠るベッドに座る。彼女は小さな寝息を立てていたが、彼の視線に気づくと目をゆっくりと開ける。
「ケンジ……」その顔つきはロザリアのモノではなく、彼と再会した時のアスカのモノであった。
「アスカ、でいいのか?」
「今はね。貴方はもう大丈夫なの?」と、彼の胸に触れる。ケンジもロザリアと変わらない程の重傷を負っていた。
「討魔団の魔法医は本当に優秀だな。あれ、本当にエレンさんか?」
「私も信じられないが……この回復魔法は彼女のモノだ」と、安心する様に自分の傷があった個所に触れる。いつも通り、傷らしい痕を残さずに完治していた。
「で、アスカはこれからどうするんだ? このまま討魔団と一緒に行くのか?」
「そのつもり。魔王を倒すまで、この国にも真の平穏は訪れない。でも……」
「でも?」
「全てが終わったら、必ず帰ってくる。その時は、今度こそ一緒に暮らしましょう、この国で」と、ロザリアは穏やかに微笑み、ケンジの手を取った。
「アスカ……その時まで、この国は任せてくれ」ケンジは固く誓う様に口にし、彼女の唇へ顔を近づけた。
ベンジャミンは機関室で計測器のデータを取りながらある人を待っていた。
「なぁに?」その者はアリシアであった。
「アリシアさん。父に代わって、謝罪します」彼は深々と首を垂れた。
「父? 貴方のお父さんって確か……」
「はい、ウィルガルムです。義理のですがね。貴女は、魔王軍の最高幹部の中でかなり重要視されています」と、眼鏡を光らせる。
「みたいね。賞金首にして刺客でも放ったりするのかな?」
「いえ、どちらかと言えば、仲間に引き入れたいと考えている様子です」
「……そう……」アリシアは心当たりがあるのか、俯いて唸った。
「心当たりがあるんですね?」
「魔王の目的は知っているし、それにはあたしの力が要るのも知っている。言っておくけど、あたしは絶対に魔王に力は貸さない!」と、拳を固めて震わせる。
「そう願います。ですが、その計画はデストロイヤーゴーレムで破壊の杖を見つけ出した後の最終段階です。信じられませんが、その計画が上手く行ったら、魔王は……」と、ベンジャミンは眼鏡を外して目を擦り、唾を飲み込む。
「手が付けられなくなるね……これだけは言える。魔王の唱える世界平和はまやかしに過ぎない。絶対に、屈しない」アリシアは眼を座らせて鼻息を荒くさせ、額に汗を滲ませる。言葉とは裏腹に声は震え、明らかに彼女の中で大切な何かが揺らぎ始めていた。
その事にベンジャミンは気付かず、測定器のデータ取りに戻った。
その後、ラスティーは機甲団と反乱軍、更にはヤオガミ国王と謁見してこれからの事を詳しく話し合い、1カ月ほど滞在した。その間にアリシアらは破壊された首都の復興に力を貸し、更に反乱軍と機甲団両軍のわだかまりの解消に尽力した。
その間に西大陸マーナミーナ国の海岸沿いがククリス王クリスのホーリーレギオンズの巨大基地が完成し、布陣が整ったと報告が入った。彼らはそのまま魔王軍に睨みを効かせ、いつでも北大陸へ攻め込める状態であった。
ラスティーはクリスが自分の出方を見ていると勘付き、次の一手を慎重に選ぶために悩み、一旦討魔団本部へ戻る事に決め、南大陸へと進路を取り、空中戦艦を奔らせた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに
 




