104.勝ち誇るにはまだ早い!
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
オロチ内部で、ロザリアは得物を両手に構え、変わりゆくゼオを睨んでいた。
ゼオはもはや原型を留めておらず、周囲の機械類を吸収して肥大化し、オロチの一部となっていた。周囲の機械部品やコード、チューブは生き物の様にうねり狂い、蒼い火花を散らしていた。
「アスカ……王風を返してくれ、俺も……」ケンジは壁にボロボロの身体を預けながら立ち上がり、へし折れた腕を無理やり動かす。
「無理をするな。出来れば、早く逃げてくれ。と言うか……その」と、ロザリアは言いにくそうに口をモゴモゴさせる。
「……邪魔か?」
「そうだな。早く逃げてくれ」
「わかった……死ぬなよ、アスカ」ケンジは身体を無理やり引き摺りながら踵を返し、風の吹いて来る方へと向かった。
「ケンジも……さて」ロザリアは表情を引き締め、両手の得物を風と雷で唸らせ、変わり果てたゼオに集中した。
ケンジはふらふらと入って来た場所へと向かう。そこはロザリアが無属性爆弾で空けた穴だった。そこからは風が勢いよく吹き荒れており、ケンジは引き摺られそうになる。
「なんだ? 来た時はこんな風にはなってなかったが?」と、朦朧とした頭でヨロヨロと穴へと引き摺られる。今の彼は回復魔法のお陰でギリギリ立っているが、重症である事に変わりなく、立っているのがやっとであった。
更に彼は、今、オロチが上空2000メートルを飛んでいる事に気付いておらず、そのまま出入り口の穴から吸い出されてしまう。
「んぉ? ……う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」ケンジは抵抗も出来ずに飛ばされ、錐揉み回転しながら落下する。朦朧としている頭では何が起きているのか分からず、200メートル程落下したところで自分が大空を落ちている事に気が付く。
「なに? オロチ飛んでるの? 俺も飛んでる? いや、落ちてるぅぅぅ?!」落下風で身体が冷え始め、意識が薄れ始める。
すると、彼の遥か下方から火の玉が上昇し、ケンジを優しく抱きかかえる。冷え切った身体を温め、更に炎の回復魔法で包み込む。
「おい、あの中から出て来たのか? 凄いなぁ! てか、お前誰だ?」彼を助けたのはヴレイズであった。
「あ……あんたは?」
「質問しているのは俺なんだが……まぁいいか。これから覚悟しろよ? こってりと情報を搾り取られるからな?」と、ヴレイズはラスティーが待つ飛空艇へと飛んでいった。
オロチ内部では肥大化したゼオが襲い掛かっていた。機械部品の塊となった腕が襲い掛かる。ロザリアは一足飛びで避け、腕を切断する。
「悲しい程に弱くなったな、ゼオ」ロザリアはため息をかみ殺しながら口にする。
「そう言う口は、俺を倒してから言うんだな!!」切断された腕を一瞬で再生させ、もう一本の腕で彼女を押し潰そうと振るう。
ロザリアは蒼電を振るい、襲い来る両腕を細切れに斬り裂く。
「化け物に成り下がった者は、大体こんな者だ」
「いいや、侮ったな……」と、ゼオがにたりと笑う。
すると、彼女の背後から無数の細い触手が襲い掛かり、手足に絡みつく。
「こんなモノ……」と、振りほどこうとするが、この触手はオロチの部品やゼオの肉体と同じ物であり、柔軟且つ頑丈な代物であり、彼女の一暴れでは決して千切れなかった。
「このまま大人しくしてもらうぞ。共にこの国の終わりを見届けようじゃないか!」
「誰が……」ロザリアは握った得物を振るおうとしたが、別の鋭い触手が彼女の背中を貫く。「ごふっ!!」
「大人しくしないなら、搾り取ってやる」と、ロザリアの身体に漲る魔力を触手で吸い出す。
「う゛あああああああああああああああ!!!!」今迄どんな攻撃を喰らっても声を荒げなった彼女が初めて激痛の雄叫びを上げる。肉体の痛みは殆ど耐える事が出来たが、神経を引き抜かれる様な激痛は耐えがたく、手から剣を取り落とす。
「さぁ、そろそろいい高さだな……」と、オロチに降下を命じる。
高度8000メートルに来たと同時にオロチの首は8本揃って上を向き、青い火を噴き始める。同時にオロチ全体が火に包まれ、巨大な隕石の様な姿になる。このオロチはただ落下しているのではなく、凄まじい推進力で降下しているのであり、この勢いで地表へ衝突したら、一国が滅ぶのは目に見えていた。
そんなオロチを確認し、ラスティーはため息を吐いた。
「さて、どうするか……」
「まさか、今迄ずっと唸っておきながら策無しか?!」ヴレイズは声を荒げてラスティーを揺さぶる。
「こうも展開が一転二転すると流石にな……一件落着した後の事ばかり考えている」と、遥か上空の小さな火の玉を見上げながら口にする。
「……例え、上手くいったとして……もう手遅れなんじゃないか?」ヴレイズは言い辛そうにため息を吐きながら言う。
すると、彼らの腰元にベンジャミンが歩み寄る。
「いや、内部のコアを、つまりオロチを司っている心臓部を完全破壊出来れば、瓦礫残さず塵に出来る。あれは形状記憶マシン細胞と3種類の呪術式回復魔法で非現実的な回復能力を実現している。コアさえ潰せば、砂粒よりも細かく崩れるよ」落ち着きを取り戻したベンジャミンはサラサラと口にしながら上空の火の玉を眼鏡に写す。
「って事は……内部にいるロザリアさん次第って事か。もう降下を始めているが……本当に大丈夫なのか? おい、中の様子を見て来たんだろ、あんた? どうなんだ?」と、マリオンの治療を受けるケンジに歩み寄るヴレイズ。
「大丈夫だ。アスカなら、絶対に勝てる……信じろ、仲間なんだろ?」ケンジは苦しそうに応える。
「ところでアリシアは何処だ?」ラスティーは周囲を見回しながら訊ねる。
すると、ヴレイズは赤熱右腕で上空を指さす。
「この空のどこか」
「そりゃあ、頼もしい」ラスティーが煙草を咥えると、ヴレイズは無言でそれを着火した。
「オタクら暇そうだな!!」
大型飛空艇を指揮するニックは羨ましそうに怒鳴りながら乗組員たちに指示を与え、急な次の動きに合わせられるように準備を進めた。
「これが終わったら休暇だな」ヴレイズは片眉を上げながら口にする。
「いや、そんな暇はないかな……しばらくこの艦を使うんでね」ラスティーは煙を吐きながら容赦なく口にする。
「この野郎」ヴレイズは参った様にため息を吐きながら、上空の火の玉を眺めた。
「っか……ぐっ……」ロザリアは笑う膝を何とか折れない様に踏ん張り、血走った目をゼオに向ける。彼女は全身の魔力を殆ど抜き取られ、半死半生だったが、気力だけで立っていた。更に、無理やり魔力を奮い立たせようと力む。
「無理をするな」と、ゼオは更に彼女の胸下や腹部に触手を突き刺し、更に魔力を吸い尽くす。
「あ゛ああああああああああああああああああああ!!!」白目を剥いて泡を吹き、激しく痙攣し、ついに膝が折れて顔から倒れる。
「無様だな、ロザリア。いや、アスカ。お前の国はあと少しで潰れる。それを見届けた後、お前の首を背骨ごと引き抜き、ウィルガルムに贈り付けてやる!」と、ロザリアの頭を掴み上げ、同じ目線まで持ち上げる。
「……っ……ぅ……ぁ」
「なんだ? まだ意識が? いや、話せるのか?」
「勝ち誇るにはまだ早いぞ、化け物……」ロザリアは殺気を帯びた眼で睨み付け、拘束された両腕両足に力を入れる。
「悲しい程に力を感じないぞ? もう終わりだな、アスカ。ダメ押しだ!」と、また彼女から魔力を吸い尽くそうと触手を動かす。
すると、触手を通じて雷撃が奔り、周囲が激しく爆発を起こす。
「な、なにぃ?!」ゼオは急な爆発に狼狽し、何が起きたのか理解できないのか表情を歪める。
「言った筈だ……勝ち誇るのは早い、と!」両手両足に絡みついた触手を引き千切り、落とした得物を拾って再び構えた。「最後だ、ゼオ!!」
如何でしたか?
次回もお楽しみに




