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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第4章 光の討魔団と破壊の巨人
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99.ベンジャミンの覚悟

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 ガルムフォートレスに乗り込んだ3人は、デッキへ上がった。この飛空艇はガルムドラグーンの様な兵員輸送用の閉鎖的なコクピットではなく、広々とした作戦司令室として使える、まさに空飛ぶ要塞であった。操縦桿にひとり、コンソールにふたり乗組員がついており、忙しそうに手を動かしていた。


「で、艦長席にはニックが座ってくれ」ラスティーは司令官用の椅子を指さして促す。


「えぇ? 俺がここ? ここはラスティーの席で、俺は操縦桿じゃないのか?」


「言っただろ? この飛空艇の指揮権はお前に任せるってな」


「なんだか想像と違うな……」馴れない様に司令官席に腰を下ろし、正面に広がるパネルを眺める。


「じゃ、よろしく。俺はベンジャミンと少し話があるんで、乗組員たちと挨拶をしておいてくれ」と、ラスティーはベンジャミンのいる後部デッキへ向かった。


「お、おぅ……えぇっと、俺はニックだ! この飛空艇の艦長だ! ヨロシク!」


 ちなみにこの乗組員3人はベンジャミンに応えて討魔団に入団しに来た者らであった。


「で、艦長。ご指示を」コンソールの前で眼鏡を光らすひとりが指示を仰ぐ。


「えぇっと……まず、この艦の武装は、どれだけ使えるんだ?」


「プラズマキャノンにヒートバルカン、それと対人用ウィンドグレネードランチャー。そして、ライトニングハンマーがチャージ中です」


「ライトニングハンマーとは?」


「この艦の真下に武装された最新兵器です。雷の賢者最強の攻撃魔法、ライトニングハンマーをエレメンタルキャノンで再現したベンジャミン博士の最高傑作です」


「その威力は……真下の新兵器に通用するか?」と、ニックは画面に映し出されるオロチを指さしながら言う。


 すると、コンソールの前の眼鏡男が手を忙しなく動かし、オロチの分析を始める。数秒後、データがはじき出される。


「機体の中央、コクピットの真上に直撃させれば、数分間行動不能にはできます。が、決定打にはならないですね」


「成る程。じゃあ、チャンスをこじ開けるタイミングでぶち込むしかないな……とりあえず、監視を頼む」


「了解いたしました」と、眼鏡を光らせながら画面へ目を戻した。


「よし、この空域を旋回し、異変があったら知らせてくれ」と、ニックは真顔で臆さず、胴に入った指示を出し始めた。




 ベンジャミンは後部デッキ近くにある制御盤の点検をしていた。


「ウチの隊員を整備士として教育してくれよ」ラスティーが彼の背後から声を掛けながら煙草に火を点ける。


「もちろん。それだけでなく、武器工房、さらには新しい飛空艇を設計する為の工場も立てて貰うよ」と、制御盤からは目を離さずに口にする。


「そう言えば、この艦には無属性爆弾やガルムドラグーンを4機格納してあったはずだが?」ラスティーはガランとした格納庫を見回った後で、不思議に思っていた。



「……実は、僕が討魔団へ入る事は父に相談済みなんです」



「なんだと?!」ラスティーは目を丸くして煙草を取り落とす。




 1週間前、ベンジャミンは荷作りを済ませ、自分の想いの内を父と慕うウィルガルム本人に打ち明けに向かっていた。


 彼はデストロイヤーゴーレムの建造および、手足の各部位の精密動作の起動テストに立ち会っており、多忙であった。


「父さん、別れの挨拶に来ました」ベンジャミンはいつもの白衣とネクタイの出で立ちで彼の前に立った。


 ウィルガルムは日常生活用ボディであり、コーヒーカップを片手に書類を眺めていた。


「行くのか。それがどういう意味なのか分かっているな?」


「はい。次に会う時は敵同士。捕まって処刑されても文句はありません」12歳とは思えない凛とした顔つきで口にし、眼鏡を光らせた。


 彼は魔王に盲目的に従うウィルガルムのやり方に疑問を持ち、更に魔王軍のやり方、デストロイヤーゴーレム計画、そしてその先の世界統一の構想を聞き、疑問は疑念に変わった。仕舞には魔王には従えないと考え、仕方なくウィルガルムから離れる事を決意したのであった。


「そうか……残念だ。が、その考えも理解できる。俺も、魔王のやり方や行きつく先は全て賛成できるものではない。が、俺は魔王には返しきれない恩がある。あいつのお陰で俺はあらゆるアイデアや夢を叶える事が出来た。このデストロイヤーゴーレムもそのひとつだ。だから、俺は魔王を裏切る事はできない」ウィルガルムは優し気な表情をベンジャミンに向けながらコーヒーを飲んだ。


「父さんとは戦いたくありませんが……必ず魔王を倒し、貴方をその恩と言う名の呪縛から解き放ってみせます! では……」と、ベンジャミンは一礼して踵を返す。


「達者でな、ベン」ウィルガルムは顔を背けたままコーヒーを啜り、ベンジャミンは声を押し殺しながら涙しながらその場を去った。




「なるほど。で、兵員輸送機と無属性爆弾は取り上げられたわけか……」納得した様に口にするラスティー。


「いえ、全て積んでありました。無属性爆弾に至っては、爆破範囲が調整できるタイプから都市攻撃用のモノまで揃っていました。僕は、そんな父さんの気遣いに甘えたくなく、私情で全て降ろして来ました。申し訳ありません」と、ベンジャミンはラスティーに頭を下げる。


「……へぇ……中々、真っ直ぐな男だな。君みたいな学者タイプは遠慮なく持ってくると思ったが……気に入った」と、ラスティーは彼に握手を求め、堅く手を交わした。


「これからよろしくお願いしますね、司令官」


「こちらこそ。これから忙しくなるぞぉ~」と、新しい煙草を咥えてニッと笑い、踵を返してデッキへと向かった。


 が、その道中、誰もいないのを確認してラスティーはその場にしゃがみ込み、床にのの字を書き始めた。


「兵員輸送機と無属性爆弾……惜しいなぁ……カッコつけるにしても、あまりにも惜しいなぁ……」幽霊のひとりごとの様なボソボソ声で漏らし、1分だけ壁に体重を預けた。




 そんな飛空艇の真下では、未だにロザリアはオロチとの激闘を繰り広げていた。未だにオロチは彼女に向かって頭突きと噛みつきのみで対応していたが、全て避けられては首を切断され、驚異の再生速度を見せるだけに留まり、戦いはイマイチ進んではいなかった。


「さて、対クラス4の使い手の戦闘データはこのぐらいでいいか。次に移ろう」と、ゼオはコンソールのボタンを押し、左舷に位置する龍頭に指令を送る。それは、『近隣の村を超熱線で焼き払え』というモノであった。


 龍頭はロザリアから目を背け、口をパカッと開き、スカーレットのいる村へと極大熱線を放った。




 スカーレットがオロチの様子を伺っていると、殺気と異変に気が付く。傷ついた身体ながらも魔力を練り、いつでも動ける様に稲妻を纏う。


「一体何をする気? こちらを向いて口を開いたって事は……」と、オロチの次の動きを予想し、顔を引きつらせる。


 案の定、その口からは凄まじい熱量の熱線が放たれる。


「……くっ……!!」スカーレットは恐れずに熱線の前へと向かい、一瞬で雷の魔障壁を張り、両腕で防御態勢を作り、更に障壁を厚くさせる。


 数瞬で熱線が直撃し、耳を劈く破裂音と共に熱線とぶつかり、火花が飛び散る。その熱は彼女のガントレットを赤熱させ、筋肉を溶かす。彼女の後ろの木造民家はきつね色に焦げたが着火はせず、破壊されたのは障壁から外れている民家の一部分のみに留まった。


 熱線が止まった瞬間、スカーレットは身体から蒸気を噴き上げ、両膝と両手を付き、吐血する。


「ゲハッ……あっ……キツぅ……」血走った目をオロチへ向けた瞬間、絶望が脳へ叩き付けられて泣き出しそうになる。オロチは再び口を開き、熱線を放っていた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」スカーレットは再び魔障壁を張り、村を、世話になった民家を必死になって守る。


 彼女のガントレットは溶けて原型を無くし、防具も崩壊して弾け飛び、全身が焼け焦げ始める。


 熱線が途切れると、スカーレットは白目を剥いてその場で昏倒し、痙攣する。暖かな血だまりが広がり、鼓動が小さくなる。


 彼女のお陰で村は守られたが、オロチは既に3発目の熱線の準備を進め、3匹目の龍頭が口を開いていた。


「ん……ぐ……あきらめる……もん……か……」ゆっくりと立ち上がるスカーレットだったが、障壁を張る事は出来ず、そのまま熱線に身体を曝した。

如何でしたか?


次回もお楽しみに

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