98.オロチ攻略戦!
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
デストロイヤーゴーレムの海上護衛艦として建造された『オロチ』は、8本の龍を模した頭を有し、巨大な胴体と陸上歩行可能な脚が4本ついていた。これにより、陸でも活動、戦闘が可能であった。龍の頭からはガルムドラグーンに積んであるプラズマ砲とは比較にならない程の威力を誇るプラズマブラスターが搭載されていた。更に、都市制圧用無属性爆弾を撃ち出せる砲台も設置されており、対無属性シールドも完備されていた。
そんな魔王軍の新型兵器は地下深くのドッグの爆発に巻き込まれ、魔力補充も不完全のまま機甲団本部の地面を破壊し、無傷で現れたのであった。
「完成度100パーセントで出てきたか。損傷もほぼ無し……やはり、図面と設計図とは違う方法で建造したな、ゼオめ」本部建物の屋上から見下ろしていたベンジャミンはメモ帳にペンを奔らせながら口にし、溜息を吐いた。
「君の目からは、どう見える?」隣に立ったラスティーが煙草に火を点けながら問う。
「どうやら魔力供給を必要としないエンジンを採用した様だ。恐らく、クラス4の術者の体内魔力循環を模して設計されたクラス4エンジン。デストロイヤーゴーレムにも搭載されている。アレがあると、無尽蔵に動かす事が可能だ」
「弱点は?」
「例え無限に動かせても、やはり整備は必要だ。そのタイミングで攻めるのが一番だ。が、僕の予想が正しければ、ゼオはその整備が必要なタイミングが来る前に作戦を終わらせると思う」と、丸眼鏡を光らせる。
「って事は、弱点はない、と?」
「いや、そんな事はない。君たちの兵隊にどんな動きが出来るかによるんだが。戦力は?」
「任せろ」ラスティーはニヤリと笑いながら小高い山へ向けて照明弾を撃った。
オロチは8本ある龍頭を縦横無尽に動かし、甲高く咆哮した。
そんな巨大な兵器を目の前にしてロザリアは眉ひとつ動かさず、大剣を構える。
「またドラゴンか……いい加減にして欲しいな」と、オロチの動きを観察する。
オロチ内部のコクピットでは、ゼオが画面越しにロザリアを視認し、鼻で笑っていた。
「1人で挑む気か? 無謀な戦士だ……反乱軍は戦力外。ん? 西の山に大きな魔力反応が2つ。集中すべきはそちらか」と、龍頭を7本山の方へ向け、プラズマブラスターのエレメンタルチャージを進め、残りの1本だけロザリアの方へ向け、牙を光らせた。
「1匹だけとは舐められたものだな……さて」と、ロザリアが一歩踏み出した瞬間、龍頭の首が伸び、顎が開き、地面ごと噛み砕く。彼女は一足飛びで龍頭の頭上を取り、脳天に大剣を突きたて、一気に首の根元まで駆け抜け、真っ二つに斬り裂く。龍頭は淡い緑色の魔力を放ちながら力なく地面に突っ伏し動かなくなる。
それに気付いたゼオは驚き、2本の龍首をロザリアへ向かわせる。
「あの女、中々にやる様だ。試運転の邪魔だが……再生機能の実戦テストには丁度いい」と、コンソールを弄る。
すると、真っ二つに裂かれた龍頭と首に電流が奔り、斬り裂かれた部位が接着され、数瞬で再生する。目を光らせ、合計3本の龍頭がロザリアに襲い掛かる。
「黒龍並の再生力だな。そうこなくては!」と、一瞬で大剣を背に収め、魔刀蒼電に手を掛け、居合一閃で龍首を3本同時に斬り落す。が、その一瞬で切断面に電流が奔り、再び首が修復されて襲い掛かる。
「厄介だな……」
その頃、スカーレットはヨーコを連れて世話になっていた村へとたどり着き、手当てを施していた。
「何だか外が騒がしいけど、どうしたの?」ヨーコは頭を上げ、首を傾げる。
「ちょっと見てくる」と、スカーレットは重そうに身体を上げる。
「あんたは大丈夫なの? そんな身体で……」
「あんたには言われたくないかな……」彼女の身体はまだ完治はおろか、全身皹だらけで戦えるコンディションではなかった。ヨーコも義手義足を失っており、戦う以前の問題であった。
民家から出て機甲団本部の方角を見ると、そこには見た事もない化け物がおり、天高く咆哮していた。
「な、なんだあれは……まさか、あれが魔王軍新兵器?!」スカーレットは表情を強張らせながら目を凝らす。
オロチは8本の首をゆらゆらと動かし、足元の何かに向かって襲い掛かりながら巨体を動かし、ゆっくりと歩行していた。
「何と戦っているのか? あんなモノと?!」と、信じ難いものを見る様に眼を擦った。
「エレンさん、プランBとは何ですか?! 教えてください!!」ゴウジは彼女の肩を掴んで強く揺さぶる。
「ちょ、ちょ、ちょっと落ち着いて!! 指揮官のあんたが落ち着かないでどうすんの!!」と、無理やり引き剥がし、周囲の隊員たちの顔色を見回す。彼らはとんでもない化け物を目の当たりにし、身体を冷やして士気をどん底まで下げていた。
マリオンは精神安定のミストを撒いて兵らの士気がこれ以上落ちない様にし、ゴウジにもヒールミストを濃く振りかける。
「落ち着いた? いい? プランBは一旦退いて、待つ!! 以上!!」
「それだけか!! 戦わないのか!!」
「万全のアレと戦って勝機があるの?」
「策があると言ったではないか!!」ゴウジはオロチを指さして訴える。
「プランAは半壊状態のアレを相手にしての作戦! プランBは無傷状態のアレを相手にしての策! で、無傷状態のアレは私達では手に余る! だから退くの! それとも無駄死にを出させたいの?」マリオンはなるべくエレンのキャラを崩さずに怒鳴り、ゴウジの代りに指揮をとり、オロチの射程範囲の外まで奔る。
「で、アレを打倒する次の策は?!」ゴウジは馬を奔らせながら急かす様に問いかける。
「知るか!!」
マリオンは我慢できず、素で彼を怒鳴り付け、おまけに舌打ちを漏らした。
「……え?」彼は目を点にし、つい落馬しそうになった。
「で、俺たちはどうするんだ?」本部建物の屋上でニックが頬杖を付きながら問う。8本首をうねらせるオロチを見下ろし、うんざりした様な表情を覗かせる。
「もうそろそろだ」ベンジャミンが眼鏡を上げた瞬間、上空の雲から武骨な影がおりてくる。それはガルムドラグーンよりも巨大な代物であった。
「な、な、な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
ニックは仰天して尻餅をつき、巨影に向かって指を向けた。それはベンジャミンがここまで乗って来た巨大空中戦艦であった。
「ガルムフォートレスって名前だけど、これからは好きに付けるといいよ。ガルムドラグーンを4機格納可能。4門のプラズマキャノンにヒートバルカン。そして全属性対応のエレメンタルシールドに、無属性シールドも完備」
「おいおいおいおいおーい! ラスティー!! こりゃあどういう事だ!! こんなデカイなんて聞いてないぞ!!」ニックは頭の中を真っ白にさせて問いかける。
「こいつが俺たちの帰りの足、ベンジャミンからの土産だ。こいつがこれから、お前の相棒になる」と、ラスティーは腕を組みながら得意げに笑う。
「…………はぁ? 冗談じゃないぞぉ!! 俺は空を飛ぶのが嫌いなんだよ!!」
「一度とんだ事があるみたいな言い方だな?」
「あぁ、一度な! ガルムドラグーンを試運転して、墜落しかけたんだよ!! 俺は乗らねぇぞ!!」と、その場にドカリと座り込む。
「まぁ、君が乗らなくても乗組員3人いるから大丈夫だよ。臆病者に用はないよ」この言葉が気に入らなかったのか、ニックは腰を上げた。
「おーし、やってやろうじゃねぇか!! こんちくしょう!! シラフならなんだって出来るんだ!!」ニックは腕まくりをし、足を踏み鳴らしながら着陸した飛空艇へ向かった。
「「わかりやすいヤツ……」」彼らは呆れ顔で肩を竦めながらニックの後を追った。
如何でしたか?
次回もお楽しみに!




