97.目覚める新兵器
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
トウオウの街はおろか、ヤオガミ列島全土が激震し、機甲団本部の地面に地割れが奔る。そこから火炎と土煙が吹き上がり、咆哮の様な轟音が鳴り響く。
反乱軍らは半数以上が無傷、残りはかすり傷で済み、ほぼ干渉して勝鬨を上げていたが、それに水を差す様に地が揺れ動き、皆、動揺した。
討魔団本部では、反乱軍を迎え撃たずに基地内部を警備していた隊員らは狼狽して港方面へ双眼鏡を向けていた。新兵器は港のドッグから顔を出し、海上運航テストを行うと聞いていた為、オロチの出撃を今か今かと待っていたが、地震でそれどころでは無かった。
「この揺れは何だ? ロザリアさんのせいじゃなさそうだが?」皹の入りつつある壁を見て冷や汗を掻いたニックが表情を引き攣らせる。
「内通者がやってくれた様子だ。これでプランがAかBかで分かれるな」ラスティーは精神安定作用のあるヒールウォーターで薬を流し込みながら口にし、顔色を良くさせる。
「で、その内通者ってのはどんな奴なんだ?」ニックが口にすると同時に指令室の扉が開く。そこには白衣姿の小さな子供が丸眼鏡を光らせていた。
「どうも、遅くなったかな?」と、ベンジャミンがツカツカと入室し、ラスティーの前に立つ。
「丁度いい時間だ。で、この感じだとプランはAかな」
「そうだね。完全破壊には失敗したが、魔力供給は中途半端の状態。地中深くから脱出するのに相当な魔力を必要とするから、ここに顔を出す頃には、魔力の枯渇したデカブツになっている筈。反乱軍で攻略するのは容易いよ」と、ラスティーから書類束を受け取りながら眼鏡を光らせる。「これで全部?」
「……えぇ? こんな子供が内通者ぁ?!」ニックは目を丸くさせながら人差し指を向ける。ラスティーは頷きながらベンジャミン・ガルムヘッドの紹介を滑らかに行いながら煙草に火を点ける。
「こ、こんな子供が?」と、ニックは信じられない者を見る様な目で再び指を向ける。
すると、ベンジャミンは手に持った小さな装置のボタンを押し、彼に投げ渡す。
「ん?! なんだコレ!!」それは警告音の様な耳障りな音を立てながら赤く点滅していた。
「僕が作った無属性爆弾だよ。威力はこの部屋が消し飛ぶ程。カウントは調整可能」
「ちょ、ちょ、ちょ!! 俺達を殺す気か?!!」冷や汗を滝の様に掻き、へっぴり腰で爆弾を持つニック。
そんな彼からベンジャミンは爆弾を取り上げて再びスイッチを押して停止させる。
「爆発前に押せば簡単に停止できる。言っておくけど、こんなに安定した無属性爆弾を作れるのは父さんか、僕くらいなもんだよ」と、彼には目もくれずに爆弾を懐に仕舞う。
「は、はぇ~すっげぇ子……」
「さて、エレ……じゃなくてマリオンには次の策に移って貰いたいんだが……大丈夫か?」と、ラスティーは心配そうに彼女の方を見る。
マリオンは優雅に窓の外の混乱を眺めながら楽しそうに微笑んでいた。
「えぇ。反乱軍リーダーさんを上手く裏から操って、戦いを勝利へと導くんでしょ? あっちは上手い事終わったみたいだから、そろそろ行ってくるわ」と、腰を上げる。指令室を出る途中、ベンジャミンと目が合い、彼の顔を覗き込む。
「……ん?」マリオンは彼の表情から何かを読み取り、悪戯気な表情を作りながら近づく。
「な、何ですか?」とっくに読み終わった書類で顔を隠しながらベンジャミンが苦しそうに問う。
彼女は書類を指で捲り、彼の赤くなった顔を意地悪そうにのぞき込む。それと同時に露わになった胸元を見せ付け、したり顔を覗かせる。
「これが終わったら、ゆっくりとお話しましょうね~」と、踵を返して指令室を出る。
ベンジャミンは鼻血をこっそりと拭いながら激しく咳ばらいをし、ラスティーの前まで近づく。
「……討魔団本部に、あんな女性が沢山いるんですか?」
「ん……いいや。てか、元々あの人もあんな女性じゃ無かったんだがな……」
「よかった。あんなのが沢山いたら、気が散って仕事が出来ない……」と、熱くなった顔を振って冷まし、大きく息を吐く。
「ったく、マリオンって奴は一体何を考えているんだか……」呆れた様にニックは呟き、双眼鏡で今度はロザリアの方を見た。
ロザリアとケンジは大地の揺れは意に介さず、バランスを崩す事なく、足も取られず、大剣をぶつけ合っていた。激しく火花が散り、互いの想いが衝突し、心中で何かを語り合っていた。
次第に、ロザリアは攻撃の手を緩め防戦一方になる。そこからつけ入る隙を見つけたケンジは、踏み込めなかった一歩の間合いから大きく踏み込み、大剣を首元へ向かって振るった。
寸でのところで刃を止め、目をカッと開く。
「勝ったぞ!! 退けぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
凄まじい気迫と共に吠えるケンジ。
「ケンジ……最初から私に一太刀も浴びせる気がない癖に、何が勝った、だ」呆れた様に口にし、刃を払いのける。
「当たり前だろうがぁ!! 俺はっ……俺はお前を殺したくもない!! 斬りたくもない!! あの時……どんな気持ちだったかわかるか? あの連中に目の前で成す術もなく蹂躙されるお前の姿……聞かされる悲鳴、顔に塗りたくられる血! 下郎共の下品な声!! 全てが俺にへばり付き、洗い落とす事は出来なかった!! お前が帰って来て、やっと……やっと救われると思ったのに……今度はお前と斬り合っている!! 冗談じゃねぇ!! 何の悪ふざけだチクショウ!!!」ケンジは涙を流し、大剣を大地に突き刺して喚いた。
すると、ロザリアは兜を脱ぎ捨てて彼の胸倉を掴み、思い切り頬を殴り抜いた。
「何も終わっていないのに、涙なんか見せるな!! そんな迷いがあるなら剣を握るな!! 何の覚悟も無い癖に、私の前に立つな!!!」彼女は凄まじい気迫と共に吠え、大剣を背に戻す。
「……くっ……今の俺は、魔王軍の兵士だ。もう以前の俺じゃない……お前が魔王軍の前に立つなら、俺は迎え撃たなきゃならない……一度国を裏切った俺が、二度も裏切る訳にはいかないんだ!!」と、ケンジは再び大剣を構える。
「なら斬る覚悟をするんだな。私はもう覚悟をした」ロザリアは静かに腰を落とし、目を鋭くさせる。
しばらく2人は何も言葉を発さずに見つめ合う。風が流れ、地震が未だに激震し、砂埃が舞う。
ケンジがピクリと動いた瞬間、破裂音と共に焦げの香りが漂い、蒼い雷が空気に奔る。彼の右義手は宙をくるくると舞い、ロザリアが魔刀蒼電を納刀するのと同時に地面に落ちる。
「さ、流石アスカ……」斬られた肩口を抑えながらしゃがみ込むケンジ。
「その身体ではバランスを取れず、大剣を振るえないだろう。終わりだ」と、ロザリアは彼に一瞥もくれずに背を向ける。
「アスカっ……」ケンジは彼女の背に向かて呼び止めようとしたが、もはや何をしても止められないと悟り、彼は大剣を手放してその場に座り込んだ。
マリオンは羽織っていたローブの前を閉じ、振り乱した髪を束ねてエレンの格好に服装を正して反乱軍へ近づく。彼女の姿を見ると、数人が駆け寄って戦いの報告と言う名の自慢話を始め、ゴウジが掛け声を上げる。
「エレンさん、ご無事でしたか! ウォルターや他の皆は?」
「作戦遂行の為、各自戦っております。皆さまは作戦の本番です! 魔王軍新兵器、オロチの破壊を!」マリオンは精一杯エレンのモノマネをし、御淑やかに接した。
ゴウジは勝利の核心をし、全員を討魔団本部の広場へと向かわせる。
すると、街中に奔る地割れがパックリと口を開き、地の底から巨大な龍の首が現れる。その頭は機械とも生物とも取れない鱗をしており、街のどの建物よりも高く聳え立つ。そんな首が2本、3本と次々と現れ、建物を倒壊させながら本体が姿を現す。その大きさは身体が凡そ50メートル、首の長さが80メートルと途方もない大きさであった。
オロチの全体が姿を現すと、龍の首が8本現れ、4本の太い脚が大地を深く踏みしめ、のそりと歩き始める。
「な……こ、これが……魔王軍の新兵器?」
「こんなデカイの相手に……戦うのか?」
反乱軍の士気は一気に下がって疲弊し、オロチを目の前にして身体を震わせる。
オロチは魔力供給は中途で終わり、地中深くで爆発に巻き込まれ、瓦礫に押し潰され、そこから脱出するのに魔力を殆ど使ったかに見えたが、すでに機体全身に魔力が巡っており、いつでも性能を発揮できる状態にあった。
「こりゃあ、プランBかな……?」マリオンは片眉を上げながらため息を吐いた。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




