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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第4章 光の討魔団と破壊の巨人
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94.スカーレットVSドンオウ 中編

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 スカーレットの心臓は止まり、ゆるゆると走馬灯が流れ始める。輝きを失った瞳はドンオウとヨーコの睨み合いを映した。頭の中では、小さい頃の自分、兄、家族、平和だった頃のチョスコが流れる。その中で、自分の兄との思い出が映し出された。


「兄上はどうやってクラス4になったのですか?」彼女は5歳だが、既に雷魔法の修行をし、騎士学校へ入る為の勉学に勤しんでいた。


 兄のビリアルドは得意げな顔をし、指先で雷球を3つ玩んでいた。彼はこの質問をされると、同級生には『ボディヴァ家なのだから当然』と、鼻を高くした。


 しかし、いざ妹に問われると困った様に鼻の頭を掻き、ワザとらしく喉を鳴らした。


「皆には内緒だぞ? 正直……この僕にもわからないのだよ。いつの間にか目覚めていたし、特別、努力した訳でもない。ただ、これだけは言える。僕はこの雷魔法を操れるのがとても楽しかった。どこまでも操り、飛んでいけるような気がした。勉強とか、修行とかそういう頭で考える様なモノではないのだよ」と、彼女の肩に手を置く。


「では、私はどうやってクラス4になるのですか!! 私も早く兄上の様になりたい!!」


「そんなに焦る必要はないのだよ。スカーレットはスカーレットの持ち味があるんだし、それに……恥ずかしながら雷魔法を操る力はお前の方が上なのだよ」


「そう、なのですか……兎に角、強くならなければ!! 兄上、御手合わせをお願いします!!」


「お前はもう僕より強いからな……訓練にはならないのだよ」と、ビリアルドは苦笑した。




「お前ぇぇぇ!! また汚いマネをしてぇ!! あたしは、お前みたいな卑怯者が一番嫌いなんだぁぁぁ!!!」ヨーコはウォーターロットを振り乱し、ドンオウの上半身を滅多打ちにした。


「お前はどっちの味方だ?! これ以上、お前が俺に逆らうなら……」彼女の一撃を防ぎ、一歩引きながらガントレットに備え付けられたスイッチに指を置く。


「逆らうならなんだぁ!!」と、水魔法を込めてウォーターロッドの先の水球を大きくさせ、フレイルの様にして振り回す。


 ドンオウがスイッチを押した瞬間、ヨーコの手足が火花を上げて力を失ったように動かなくなり、武器を手放して頭から地面に転がる。


「ぐえっ!! な、なに?」魔力を込めても動かなくなった手足に驚き、ドンオウをキッと睨む。


「反乱防止用にパワードスーツやエレメンタルガンの停止スイッチがあるんだ。お前の義手義足にも対応していてよかった」と、彼女の頭をムンズと掴んで持ち上げる。


「ぐっ……本当に卑怯なヤツ……」と、口にした瞬間、腹に彼の拳がめり込む。「ぐげぇ!!」


「卑怯ではない! 全て戦術だ! 使える物を使い、勝利する! パワードスーツでも、麻痺ガスでも、そして、停止スイッチでもな!」と、勢いよく地面に叩き伏せ、蹴り上げる。彼女は宙を舞い、手足はあらぬ方向へと曲がる。


「ぐ……ぅ……げ……」血反吐を吐き、動かなくなった義手を無理やり動かそうともがく。


 それを見てドンオウは高らかに笑い、ゆっくりと倒れた彼女に近づく。


「謝罪し、俺の下で働くと誓うなら許してやる。さぁ? どうする?」


「お断りだ、このクソy」と、奥歯から絞り出した瞬間、彼女の腹に彼の踵が突き刺さる。「ぐぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「減らず口を……なら、お前はここで戦死した事にしよう」と、足裏から大地魔法を流し込み、ヨーコの身体を激震させる。大地に皹が入り、何かが潰れる様な破裂音と共に血の泉が広がる。


「が……か……ぁ……!!」義手義足がカタカタと震え、白目を剥く。


「俺も言わせて貰おう。お前のその歯に衣着せぬ言動には我慢ならなかった!! いい厄介払いだ!!」と、もう一撃打ち込むと、ヨーコの義手義足が根元から千切れ飛ぶ。


「ぁ……っ……」ヨーコは吐ける血を吐き切り、か細くなった声が絞り出される。


「ふん、雑魚がぁ!!」ドンオウは勝ち誇ったように再び天高く笑った。


 すると、数メートル先で転がっていたスカーレットの身体が何かに反応する様にビクンと跳ねる。彼女の胸には雷魔法が渦巻き、爆ぜる様な音と共にまた身体が撥ねる。また音が弾けると、彼女は思い出した様に息を吸い込み、一瞬で立ち上がる。目には稲妻を蓄え、ドンオウの気配の方へと向ける。


「なんだ?」ヨーコから脚を退かし、忌々しそうに異変の方へ顔を向ける。


「私の持ち味……焦る必要はない、私は私……」虚ろな目でぼそぼそと呟き、苦しそうに呼吸を繰り返す。起き上ったのは良いが、彼女の怪我は少しも治癒しておらず、まだ全身の骨や胸骨は砕けたままであり、内臓の損傷も激しく、折れた骨が刺さっていた。


「そんな身体でどうする気だ? ちゃんとトドメを刺して欲しいのか?」と、ドンオウはズイズイと間合いを縮めていき、スカーレットを掴もうと手を伸ばす。


 が、その場に既に彼女はおらず、背後を取られていた。


「なんだとぉ?!」と、振り向きざまに拳を振るうが、スカーレットはその動きを知っていたかの様に無駄のない脚運びで避けていた。


「一体どういう事だ?」


「見える……」と、虚ろな瞳に稲妻を纏わせ、ドンオウの身体に集中する。彼女の目には、彼の体内に奔る微少な電気信号の動きが見えていた。そのため、ドンオウの攻撃は形に成る前に察知する事が出来た。その攻撃を避けるのは、傷ついた身体でも容易であった。


「何が見えるって言うんだ!!」ドンオウはスカーレットを揉み潰す勢いで襲い掛かったが、また彼女はするりと抜け、義手義足を失ったヨーコを抱き起す。


「まだ息がある……」と、少し離れた場所に横たえる。


「いや、お前らはここで死ぬんだよ!! 俺に勝てるわけが無い!!」


「……いいえ、あんたにもう勝ち目はないわ」満身創痍の身体でも弱味を見せない表情でゆったりと構えた。




 その頃、ラスティーとニックは堂々と指令室へと足を踏み入れ、重要書類の束を手に取って読み漁っていた。ラスティーはまるでこの部屋の主の様に堂々と構え、次々と書類を抜き取っていく。


「で、作戦は順調なのかねぇ?」ニックは外の様子を見る様に窓を覗く。


「大丈夫だ。エレン達を信じろ」と、慣れた手つきで指令室の煙草を頂戴し、咥えて吹かす。「いい葉っぱ使っているな」


「まぁ、ヴレイズ達も連れてきたから大丈夫だろうけど……予定の時間は過ぎてないか? もしかして、オロチの破壊は失敗して、もう起動しているんじゃ?」


 ニックが心配の果てに急かす様に詰め寄ると、指令室の扉が乱暴に開き、彼は背筋をピント伸ばした。


「よ、待たせたな」そこにはワイルド且つセクシーな格好をした彼らの見知らぬ女性が立っていた。その者は胸元をこれでもかというぐらい覗かせ、つかつかと彼らに近づく。


「……どなた?」ラスティーは煙を吐きながら首を傾げ、まじまじとその者の顔を眺めた。


「アタイだよ。っても、わかんないか。まぁいいか。まず報告させて貰うが、色々アクシデントが起きてねぇ」


「ちょっと、待て! 本当に誰だ、あんた?」ニックも彼女の顔を覗き込み、目を丸くする。


「元、エレン。理由あって、今はお休み中。アタイはマリオンだ。どうぞよろしく」


「…………え? 状況が飲み込めないんだが……どういう事だ?」ラスティーは煙草を落とし、立ち上がって彼女の眼前まで近づく。


 マリオンはエレンの身体や心に何が遭ったのか短く説明する。話が終わる頃、ラスティーの顔面は蒼白し、膝から崩れ落ちた。


「ちょっと、待て!! ってェ事は、エレンさんは……どこいったんだ?」ニックは彼女の肩を揺り動かし、詳しい説明を求めた。


「だから、ストレスと疲労で壊れかけたから、しばらく休暇を頂いているの。代わりにう乱されたのがアタイって事。わかったらお仕事!」と、指で合図をするマリオン。


 すると、ラスティーが半べそを我慢するような表情で彼女の服の裾を握った。


「なぁ、セラピーはどうなる? ここ数日我慢したんだが……なぁ?」


「さぁ? アタイの専門外だな、それは。エレンが起きてから頼むんだな」と、彼女はそっけなく返した。ラスティーは灰色になり、その場に崩れて倒れ、ピクリとも動かなくなった。


「おい、ラスティー!! ここでお前が倒れてどうする!!」


「モウダメ、ムリ……ツカレタ」

如何でしたか?


次回もお楽しみに

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