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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第4章 光の討魔団と破壊の巨人
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91.オロチの秘密

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ!

 アスカは何かを嗅ぎつける様に真っ直ぐ武器庫へと向かった。周囲の隊員たちは、まるで手に負えない獣を見張る様に、遠巻きで武器を構えていた。彼女は見向きもせずに武器庫の扉を開き、真っ先に自分の得物である刀『蒼電』を手に取る。


「もう大丈夫、問題ない」と、滑らかに抜刀して刃の具合を確かめる。まるで生きている様に蒼く光り輝き、アスカの握りの強さに反応して稲妻がのたくる。満足した様に納刀し、今度は紅色の鎧に手を触れる。



「調子に乗り過ぎだぞ」



 不意に飛んできた言葉に瞳を見開きながら狼狽し、振り向くと、そこには機甲団リーダーのゼオが立っていた。彼は他の重武装隊員とは違い軽装であったが、アスカの目には何か違和感があるのか不自然に見えていた。


「気配の殺し方が見事だな」素直な感想を口にし、刀に手を掛ける。以前とは違い、確実に抜刀できる手応えを感じ取り満足するように口元を緩めた。


「我は他の者とは違うのでな。その気配、アスカではなくロザリアか?」と、拳を固く握る。すると、彼の肌は真っ赤に染まった。


「炎使いか……? 今の私はアスカだ。舐めると痛い目に遭うぞ」鋭い眼光と殺気を飛ばし、腰を落として居合の構えを取る。以前見せた、瞬間稲妻抜刀斬りの構えであり、直撃すれば切断面から稲妻が落雷の衝撃で流れ込み、四肢で爆散させる技であった。これを喰らえば、例え瞬間回復術を持つ使い手でも絶命させる事が可能であった。


「それは、」と、ゼオが口にした瞬間、間合いが潰れ、いつの間にか彼はアスカの利き腕を掴んでいた。


「な、」


「こちらのセリフだ」と、片目が真っ赤に光った瞬間、彼の右ストレートが紅一色の一閃が炸裂し、アスカは武器庫の壁を突き破って遥か彼方へと飛んでいってしまう。右腕に残った微かな違和感を覚え、首を傾げる。


「逃げられたか。まぁいい……」と、周囲に散らばった武器を眺め、鼻で笑う。「オロチが完成すれば、こんなモノは全て無意味になる。そして……我は」と、先程より更に固く拳を握り、頬をぐにゃりと緩めた。


 



 アスカは首都トウオウから数キロ離れた荒野まで吹き飛ばされ、地面に不時着した。が、彼女はゼオのパンチ力を利用し、その勢いのまま飛んだだけだったのでダメージは殆どなかった。


「凄まじい威力だな……もろに喰らったらタダじゃ済まなかった」と、蒼電を抜刀して様子を診る。この刀で受けたため、下手をすれば折れるか曲るかを覚悟したが、無傷だったため安堵した。「流石だ」


 アスカはその場で演舞をする様に刀をゆっくりと振り、自分が遥か昔に体得した型を思い出す様に構えをとった。それら全てはこのヤオガミの実家である道場で父から教わったモノであった。


「身体は覚えているな……そして」と、納刀して刀を地面へ置き、今度は目を閉じて全身に稲妻を撓ませた。これはロザリアである期間に体得した魔力循環であった。これは一時的にクラス4かそれ以上の身体能力を引き出す、彼女独自の技術であった。


「こちらは、まだまだだな……」と、彼女はしばらくその場で静止し、深く息を吐いて魔力の練り上げを無意識に行った。




 その頃、首都トウオウ機甲団本部の地下数十メートル下では、巨大な兵器が低い唸り声を上げていた。それは百数十メートルも巨大な代物であり、その巨体からは長い首のような物が8本伸びていた。


「ヤオガミ列島の伝説の龍、オロチを象った兵器か……デストロイヤーゴーレムを守護するには最適だね」コンソールパネルを弄りながらベンジャミンが口にしていた。現在、彼は兵器の最終調整を行っていた。


 そこへゼオが現れる。


「海上だけでなく、空も守れるように設計されている。この一機だけで十分だ」彼は自信満々に胸を張った。


「そう言えば、バルバロンに送られて来た図面にはこの部分が空白だったんだが……一体どんな機能が仕込まれているんだ?」ベンジャミンは所持していた図面を広げ、オロチ中央、コクピット部分の隣にある不自然な空白に指を置く。


「そこには図面の通りだ。何もない。強いて言うならば、長期の航海の時に食料などを詰んでおく倉庫の様なモノだ」ゼオは顔色を変えずに口にする。


「なるほど。納得した」ベンジャミンは軽く頷いてこれ以上問おうとはせず、口を結んだ。


 その後、2人は起動実験のスケジュールを詰め、ベンジャミンはそのまま調整を続けた。ゼオは他の隊員たちの警備状況を確認する為に地上へと登る。


 それを確認し、ベンジャミンは図面を再び広げ、深い溜息を吐きながら頬杖をついた。


「倉庫だぁ? 嘘が下手だねぇ……僕の考えが正しければこれは……おそらく……」と、コンソールを手早く操作し、オロチのハッチを開いて中へと入る。ものの五分で作業を終わらせ、何事も無かったようにコンソールの前へ戻る。


「あいつのやろうとしている事はわかった……」と、椅子にチョコンと腰掛け、冷めたココアに口を付ける。「お手並み拝見といこうかな……ラスティーさん」




「クソがぁぁぁぁぁぁ!! あの女! 次会ったら殺す!!」診療室で治療を受けて砕けた右腕を治したドンオウは、壁を殴りつけながら唸り散らしていた。実際、彼は見た目も振る舞いも武人の様ではあるが、実際は魔王軍のテクノロジーに頼り切った男であり、アスカに手も足も出なかったのも当然の結果であった。


「あらあら、酷い目に遭ったみたいねぇ」そんな彼を見たヨーコはクスクスと笑いながら背後に立ったが、そんな彼女の首を掴み上げて目の前まで引き寄せるドンオウ。


「黙れ! あまりちょろちょろ喧しいと、達磨に戻すぞ!!」


「んぐっ……今の貴方に出来るかしら?」片眉を上げながら鼻で笑い、掴んだ手を振りほどいて間合いを離す。


「見ていろ……反乱軍の連中なんぞ、俺ひとりで皆殺しにしてやる!!」と、彼は武器庫へと駆けて行った。


「……ひとりでどうするつもりなんだか……?」ヨーコは呆れた様に口にしながら肩を上げた。


 ドンオウは武器庫のドアをぶち破り、エレメンタルガンやブレードには目もくれず、奥に置かれた小さな箱をむんずと掴み、握り潰した。その中にはヴァイリー・スカイクロウが制作したとされるブローチが入っていた。それを起動させると怪しく光り、6本の棘が飛び出て、彼の胸に突き刺さる。


「ぐ、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉあ!!」全身の血管が浮き上がり、凄まじい魔力と共に周囲が激しく揺れる。体内の魔力循環が高速で回転を始め、彼は今迄感じたことの無い力が全身から吹き上がった。「これであの女を殺せる!」




 遡る事半日前、ラスティー達はヤオガミ北東部へと上陸していた。プランは、ラスティーはニックと共に首都へ潜入し、アリシアとヴレイズは小高い山の頂上で動きがあるのを待つ事となった。


「大丈夫かなぁ?」アリシアは焚き火を見つめながら口にした。


「まぁ、あの2人なら平気だろ。こう言うのには慣れているってさ」


「いや、ラスティー達じゃなくて、エレン達……あたしが診る限りだと、エレンも皆も結構ギリギリだと思ったからさ」


「それを承知でこの国に来たんだろ? それに、ボロボロなのはエレンらだけじゃないさ」と、ヴレイズは彼女の手首を掴んだ。


「ん?」


「痩せたんじゃないか? アリシア」


「ちゃんと食べているんだけどな」


「俺が診る限りだと、アリシアが一番弱って見えるぞ。俺たちと合流してから休みなしだし、ドラゴンの一件で相当疲れた筈なのに……」


「ヴレイズって、本当に魔法医に向いているんじゃない?」


「俺もそう思う。平和な世の中になったら、炎の魔法医として開業するかな? アリシアはどうだ? 魔王を倒したらどうする?」


「あたしは……あたしは……」アリシアは少しずつ表情を曇らせていき、俯く。


「どうした?」


「まだ具体的に考えてない、かな?」と、苦しそうに応え、それ以降口を結んで遠くを眺めた。


「アリシア……」彼女の心中の暗い部分に触れた事に気が付き、ヴレイズも口を閉ざして焚き火を突いた。

如何でしたか?


次回もお楽しみに!

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