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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第4章 光の討魔団と破壊の巨人
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82.カウンセラー・エレン

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 エレンの乗った飛空艇はものの1時間弱で首都へと到着し、彼女はアスカとケンジの待つ医務室へと案内された。ここの設備は反乱軍の医療テントとは比べ物にならない程ハイレベルであり、下手をすれば討魔団本部のよりも上であった。


「この奥だ」リクトが案内すると、それに気が付いたケンジが困り顔で出てきて、彼の胸倉を勢いよく掴み上げる。


「連れて来たのか?! 連れて来たのか?! どうだ!!」額に汗と血管を浮き上がらせ、奥歯をガチガチと震わせる。


「貴方がケンジさんですね。落ち着いて下さい。まず、貴方の方から診ましょうか?」エレンは彼の腕に優しく触れ、宥める。


「そんな時間はない! 早くアスカを治してくれ!!」と、今度は彼女に掴みかかる。彼は完全に焦れており、我慢の限界に達していた。それ程にアスカは危篤状態であった。


「簡単に言ってくれますね……」と、彼の手に優しく触れ、彼の体内の水分からここ最近の記憶を読み取る。「……そうですか」


「何がだ?」


「いいえ、なんでも。さ、早く診せて下さい」と、彼の後ろのカーテンの向こう側へ入り、アスカの様子を診る。瞳孔と心拍数、体温に呼吸を調べ、カルテに書き込み、さらに飛空艇内で用意したヒールウォーターの瓶を開ける。


「どうだ? どうなんだ?!」ケンジは初対面である彼女の肩を掴み、揺さぶる。


「恐らく、私が来た事に安心して一先ず、安定したみたいですね。因みに、貴方たちの医療技術で、彼女の容態はどれだけ調べる事が出来ましたか?」と、片眉を上げながら問う。


「何もわからない! だからあんたを呼んだんだ!!」


「……今の所、彼女の心配は無用です。まずは、貴方の方から診せて頂けませんか?」と、彼女はケンジを椅子に座らせる「心労ですね。それに軽度の脱水……と」


「な? 俺? そんな暇は!」と、言う間に彼は彼女に言われるがままベッドに寝かされ、あれよあれよと言う間にヒールミストでリラックス状態になる。「ん……ん」


「はい、いいですよ。まず、貴方の事を話して下さい。楽になりますよ。それに、アスカさんを助ける事にも繋がります」


「あ、あぁ……」


 その様子を見たリクトはエレンに急いで詰め寄り、警戒するような目を向けた。


「おい、その人は一応俺らの隊長だ。まさか、誘導尋問しようなんて企んでないだろうな?」


「まさか。これは彼とアスカさんを助ける為の治療です。邪魔をしないで下さい」


「そうだ、邪魔をするな!」と、ケンジも彼を睨み付けて部屋を出て行くように命令する。


 追い出されたリクトは肩を竦めながら懐から酒瓶を取り出した。


「俺、知ぃらね」


 エレンは彼の分のカルテを片手に目を怪しく光らせながら、優しく促す様に話し始めた。


「まず、昔の事から聞かせてください」




 その頃、傷の治りきらないスカーレットは、身体を引き摺りながらヨーコから教えられた近隣の村へと入り、大通りの脇道で力尽きる。案の定、風邪をひいてしまい、頭は炎の様に熱くなっていた。彼女に気が付いた村人は警戒しながらも、害はないと見て民家へ運び込み、手当てを施した。


「ん……ぅ?」辿り着いて3時間後、目が覚める。全身に巻かれた包帯と、濃い薬草の匂いに咽る。気が付いた住人が歩み寄り、白湯を差し出した。


「あんた、海外の人だね? 熱が引いたら出て行ってくれよ」


「何故、助けてくれたんです?」傷の痛みから完治しかけている事に内心驚きながら問う。


「家の近所で行き倒れたまま死なれても困るからな」


「ありがとうございます」スカーレットはお辞儀をし、出された白湯を飲み下す。


「そう言えば、この近くで不法入国者が逃げているって噂が流れていたな。それも、反乱軍に加担してる……」住人は上目遣いに彼女の顔を覗き込む。


「……その者は、」


「いやいや、例えそれがあんたでも、一先ずは置いておくよ。この村は密かに反乱軍を応援しているからね」と、彼女の包帯と傷の様子を診る。


 この村に限らず、国民全体は魔王軍の支配を良しとは思っておらず、煙たがっていた。だが、魔王軍が来る前のヤオガミ国を支配していた貴族、政治家たちの半数を一掃したのを恩に想う一面もある為、複雑であった。


 が、ここ最近、魔王軍の新兵器を開発する影で、この国を本格的に支配する動きが活発化している為、国民たちは反乱軍を影ながら支持した。


「本格支配?」


「ウィルガルムって奴はこの国を救いに来た感じだったが、その後から来たゼオって奴は……新兵器完成後、その兵器を使ってこの国を乗っ取るって噂が立っていてね。ここ最近流れて来たんだが……それが事実ならエラい事だ」住民は腕を組みながら唸る。


「それが本当なら、直ぐに……っぐ!」起き上ろうとするが、頭痛に負けて倒れ、再び布団に倒れる。彼女の頭蓋骨は未だに小さな皹が入り、万全ではなかった。


「無理しないで。一先ず、風邪だけでも治さなきゃな。体力をつけろ」と、台所から熱々の鍋を持ってきて、粥を椀に注いだ。「食べる体力は?」


「貴方の言う通りだ。お言葉に甘えさせてもらう」と、椀を受け取った。




 エレンが飛空艇で行ってしまった後、反乱軍はしばらく進軍した後に馬を休憩させる為に停止し、その場でキャンプを張った。


 リーダーのゴウジは今後の作戦をサブロウたちと話し合い、頭を抱えていた。


「魔王軍は本気を出せば、飛空艇の兵器で俺達を薙ぎ払う事が出来た。だが、やらなかった。つまり、俺達を弄んでいる訳だ」


「確かにそうかもしれない。だが、その慢心を突いて勝利を掴んだ者がいる。そう、我々の協力者であるラスティー・シャークアイズだ。たった4名でグレイスタンを救ったリーダーだ。あのお方の力添えがあるのだ。我々は勝利を掴める」サブロウは彼を元気付ける様に口にし、弟子たちが頷く。


「慢心を突く、か。ウォルターはどう思う?」テントの隅で腕を組む彼に話を振る。


「……確かに、司令ならこの国を救えるだろうが……スパイがいるとなると話は別だ」


「スパイ……情報が漏れているのは確かだ。誰が漏らしている?」


「リクトに決まっている! あいつが全部喋ったから!」弟子のひとりが怒りに震えながら奥歯から絞り出す。


「だが、この作戦まで筒抜けみたいだ。これまでリクトが?」ゴウジは頭を抱えながら口にする。


「あいつは諜報活動も得意だ。ワシの一番弟子だったからな」サブロウは参った様にため息を吐いた。


「それだけかな……少し気になる。俺は先に首都へ潜入する。諜報活動なら、俺も得意だ」と、ウォルターはテントから出ようと皆に背を向ける。


「ウォルター! 頼んだぞ!」ゴウジは藁にもすがるような表情を見せながら彼の背を見守った。


「……指令が動くまで、被害は最小限に抑えなくては……」ウォルターは馬に跨りながら、サングラス越しに目を尖らせた。




 その夜、新たな指令を受けてリクトがケンジに伝えようと医務室をノックする。新兵器オロチの最終調整の為のブリーフィングと反乱軍を迎え撃つための布陣の作戦会議の為の招集指令だった。


「あの、ケンジさん……ん?」カーテンを捲ると、我が目を疑った。


 ケンジはエレンの前で号泣していたのである。


「そうです、誰かの前で泣くのも精神を安定させる為にも重要です。それに、」と、エレンは彼の頭を優しく撫で、自分の胸に押し当てる。「誰かの胸で泣くのも効果的です」


「う、うわぁぁぁぁぁん……」ケンジは遠慮なく彼女の豊満な胸の中で泣き声を上げる。


「……(うわぁ……)」リクトは見てはいけない物を見た様な複雑な表情を浮かべ、一歩退く。


「あ、使いの者ですか? 彼はメンタル回復中です。彼の代りの者をやってください」と、慣れた様に軽くあしらい、リクトを退室させる。


「さ、このお茶を飲んで下さい。頭がクリアになりますよ」と、持参した水筒を取り出し、ヒールウォーターで淹れた薬膳茶をコップに注ぎ、彼に飲ませる。


「あ、ありがとうご、ございまずっ!」ケンジは鼻水を啜りながらそれを呑み、息を大きく吐き出す。


「相当疲れていたみたいですね……ケンジさん」


 退室したリクトは大きなため息を吐き、やっていられない様に酒瓶を傾けた。


「ったく、ゼオの長話に付き合ったら、いつもの店だな……」

如何でしたか?


次回もお楽しみに!

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