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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第4章 光の討魔団と破壊の巨人
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78.アスカの異変

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 時を遡り、ロザリア達が出発した日の夜の討魔団本部。ラスティーはアリシアとヴレイズを指令室へ呼んでいた。


「2人に来てもらったのは他でもない。俺たちも行くぞ」ラスティーはいつになく真剣なまなざしで2人を交互に見る。


「おれたちも」


「いくぞ?」アリシアとヴレイズは目を丸くさせながら首を傾げる。


「出港は明日の明け方。ニックのジェットボートを使う。ヴレイズは魔動エンジンに魔力を注ぐのは馴れているんだろ?」と、ラスティーは手元に置いてあった資料を纏め、2人の前に置く。「出る前に頭に入れておいてくれ」


「いや、ちょっとちょっと!! 聞いてない!!」アリシアは目を震わせながら大声を上げる。彼女は今日と明日、更にはここ一週間の自分のスケジュールを破壊された気分になり、苛立っていた。


「俺もだ。明日も忙しい予定だったんだが?」ヴレイズも訓練の監督を行っている為、暇ではなかった。


「悪いな。俺たちだけでなく、敵も間者を使って探りを入れてきているんだ。すまないな」


「……つまり、エレン達は囮って事?」片眉を上げながらアリシアが問う。


「囮、と言うより正面突破かな? 俺たちは裏からの別動隊だ。今回の作戦は確実に成功させたいし、色々と欲しい物もあるんでね」


「欲しい物?」ヴレイズはまた首を傾げながら唸った。


「ニックにはもう話は通してある。速やかに準備を進めてくれ」と、ラスティーが口にすると、アリシアとヴレイズは『しょうがないなぁ』と言いたげな表情を浮かべた。


「……船で行くんでしょぉ?」アリシアは声を濁らせながら問う。


「「嫌なんだろ」」2人が同時に口にし、彼女はこくりと頷いた。


 大きなため息交を吐くアリシアを慰めながらヴレイズも退室する。


 そんな彼らの会話を無言で眺めていたレイは、ラスティーの正面に立ち、顔を顰めた。


「指令も行くとは聞いていませんよ?」と、腕を組む。


「欲しい物を確実に頂くためにね。それに、帰りに寄りたい場所があるんだ」と、一枚の手紙を取り出す。そこにはブランダと言う名が書かれていた。


「それは……旅を始める前に身を置いていたマフィアの……」


「ドン・ブランダが亡くなったらしい。墓参りをしたくてな」煙草に火を点けながら答える。


「そう……ですか……しかし、こう言ったスケジュール変更は私に相談してください」


「わかった、悪かったよ。取りあえず、俺の留守中は頼んだぞ。副指令にあまり好き勝手させるなよ?」と、煙を吐きながら苦笑した。


「了解だ」




 時を戻してヤオガミの反乱軍本部にて、ウォルターはサブロウと久々の再開をし、挨拶代わりに組み手を行っていた。互いに構えたまま一歩も動かず、張りつめた空気の中で睨み合っていた。


「……強くなったな。経験を積み、勝利と敗北を積み重ね……自己流の眼術も編み出したか」感心する様にため息を吐き、構えを解く。


「色々、ありましたから……」ウォルターはお辞儀をして上着を羽織り、サングラスをかけた。


「なぁにが色々あった、だ! こっちだって色々あったんだよ!!」サブロウの弟子のひとりが不服そうにウォルターのサングラスを睨み付ける


「リクトが裏切ったせいで反乱軍の情報が半分以上も漏れて、沢山の仲間が犠牲になったんだ! 土壇場で逃げたヤツが強いものか! きっとまた逃げるんだ!!」もう1人が激しく指を向け、奥歯をギリギリと鳴らす。


「何度言っても聞かんか、お前らは……なら、組み手をしてみろ。ウォルターの強さがわかるだろう」と、サブロウは一歩引いた。


「よぉし、やってやる! サングラスを外せ!!」


「その必要は、ないな」と、上着も脱がずにウォルターは重心だけを移動させる。


「「舐めるな!!」」と、2人一片になって襲い掛かった。




 その頃、エレンは本部内の怪我人の容態を診ながら、先の戦いのデータに目を通していた。


「相手はパワードスーツを装備し、更に機械龍で一網打尽に……こちらの作戦は筒抜けで、流したのはリクトというサブロウさんの元弟子……でも、裏切ったのは1年ちょっと前で、それ以降は……まだこの反乱軍にスパイがいるって事でしょうか?」と、難しそうに唸りながら患者のカルテを手早く作成する。


 すると、2人の男女が運び込まれてくる。


「くそ、ウォルターの奴め!!」


「まさか、一触れも出来ないなんて……」2人は背中を強かに打って打撲し、男の方は肋骨に皹が入っていた。


「どうしたんですか?」と、エレンは2人に触れ、水分を読み取って事態を把握する。「ウォルターさん、仕事を増やさないで下さいよぉ……」




 ヤオガミ首都の機甲団本部では、ケンジらが集まり報告会を行っていた。その場には機甲団リーダーのゼオも姿を見せ、静かに報告を聞いていた。


 彼は全身黒ずくめで真っ黒なスーツを着用し、頭はフルフェイスヘルメットを被って顔を隠し、手袋まで嵌めて素肌を隠していた。


「ロザリア検めアスカを確保し、スカーレットは捕虜として尋問中。残りの密航者2人は反乱軍本部へ入ったようです。スパイによれば、その2人を味方に最後の攻勢に打って出るつもりです。狙いは、たった今建造中の『オロチ』でしょう」ケンジは淡々と報告し、終わるとその場に座った。


「私はスカーレットの尋問を進めます」ヨーコが口にすると、隣に座っていたエンジャが鼻で笑う。


「オマエノヤリカタデハムリダ。オレガヤル」


「はぁ? あんたじゃ無理だって何度も言ってるでしょ? あの女は痛めつけるだけじゃ何も吐かないって! 私に任せて下さい、ゼオ!」


「イイヤ、オレニヤラセロ」


 2人が前のめりに訴えると、ゼオは頬杖を突きながら重たく口を開いた。


「……どちらにしろ、スカーレット・ボディヴァは本国へ送り、処刑される。移送の邪魔さえされなければよい。尋問は、好きにしろ」


「……はっ……」


「フン」2人は納得できないのかイマイチな返事を残して着席した。


 最後にドンオウが立ち上がり、報告を開始する。


「反乱軍の残存兵力は凡そ1000弱。それを俺の500のパワードスーツ部隊。そしてマシンドラゴン2機で潰します。作戦開始は2日後の昼になるでしょう」


「2日後の昼……オロチの最終調整日だな」ゼオは体勢を変えぬまま口にする。


「その日が反乱軍玉砕の日となるでしょう。おそらく、主力である2人はこちらの手の内。万に一つも勝ち目はないでしょうが……全力で叩き潰します」と、ドンオウはしめて着席した。


 最後に、ゼオが立ち上がり、咳ばらいをする。


「よろしい。オロチが完成すれば、デストロイヤーゴーレムは無敵の海上戦力を得る事になる。更に、オロチは破壊の杖探索の要となる。失敗は許されん。気を引き締めて事に当たれ」


 この言葉と共に報告会は解散となり、ゼオはひとり執務室へと戻った。


「もう直ぐだ、父よ……」ゼオはメットを取りながら呟き、口元をギュッと引き締めた。




 ひとりケンジの部屋に残ったアスカは、久々に触れる様な手つきで木刀を握る。その瞬間、何かを思い出し、怯えた様な声を上げながら木刀を捨てる。


 その姿を見たケンジは心配する様に駆け寄り、肩を抱いた。


「大丈夫か? どうしたんだ?」


「も、もういや……戦うのは、嫌……血、肉、悲鳴、うぷっ!」アスカは目を剥き、胃から上って来たモノを吐き出す。


「もういい、戦わなくていいんだ、アスカ……もう誰も傷つけない。な?」


「本当? もう誰も傷つかないの? 大丈夫なの? 安心していいの?」恐怖に凍り付いた様な顔を向け、声を震わせる。今、彼女は自分自身を失った日の事を少しずつ思い出しており、それがまた心を蝕んでいた。治った筈の心の傷が少しずつ開いていく。


「わたし、うで、おなか……あ、あぁぁぁぁぁ! ケンジぃぃぃ!!」


「おい、アスカ!! もう忘れるんだ!! あの日の事は!!」暴れる彼女を必死で抱きしめ、ケンジは奥歯をギリっと噛みしめた。

如何でしたか?


次回もお楽しみに!

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