69.不死竜との決着
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
瞳を赤く染め、一気に気配の変わったケビンは、ドラゴンの甲殻の隙間を狙うように、更にその向こう側の筋を切断する様に斬り裂く。一瞬でドラゴンの四肢の自由を奪い、更に顎の下へ向けて大剣を突きたてる。彼の動体視力や筋力、反射神経などが凄まじく向上し、ドラゴンに負けない程の能力向上を見せる。
「やるな」と、リノラースがそれに合わせて大地から巨大な土槍を作り出し、ドラゴンの心臓目掛けて振り下ろす。その上で土槍を殴りつけて貫通させ、大地に打ち付ける。
「ただの不死身でも、これなら100年以上はおねんねの筈だが……」ケビンはドラゴンから心音が消えた事を確認し、安堵す領にため息を吐く。
次の瞬間、ドラゴンの腕が素早く動き、2人を爪で斬り裂こうと高速で動く。
2人は防御が間に合い、一気に間合いを開けて後方へ着地する。
「心臓を潰し、頭を砕いても動く……本当の意味で不死身だな」呆れた様にため息を吐くリノラース。
「確かに厄介だが……俺の親父ほどじゃないな」ドラゴンの再生能力に怯まず、ケビンは再び飛びかかった。
その頃、アリシアとヴレイズは2人で魔力を高めていた。彼女は手の中に光を作り出し、外へ漏れないように手の中に隠す。
「なぁ、アリシア……この技はあまり使いたくないんだが……」変わってヴレイズは魔力を高めながらも炎は沈めており、赤熱右腕も鎮火させていた。
「どうして?」
「なんか、炎使い以外にこの技を使うと体温を奪ってしまう可能性があるんだ。なんだか、命を握り潰しているような気分になって、その……」と、苦みばしった表情を浮かべる。
彼は半年ほど前、村に滞在していた時、熱を出した村人の治療に当たった時、試しに不要な熱を取り除こうと試みた。
しかし、魔力のコントロールを僅かに誤り、必要以上に熱を奪いそうになって肝を冷やしたことがあった。
その時、彼はこの技は炎使い以外に使ってはならないと心に決めた。
「でも、相手は討伐対象であるドラゴン! 遠慮する事ないよ!」と、手中に目を潰す程の光を集中させる。
「……なんか、この手段を選ばない感じが嫌なんだよな……」
「いい? あたしがドラゴンの表層を流れる闇を光で消し飛ばすから、それに続いて鎮火魔法で体内の炎を吹き消して。そうすれば、炎と闇が戻る間の攻撃は再生できない筈!」
「まぁ、アリシアがそう言うなら!!」
ケビンはリノラースの全身に合わせて大剣を振るった。
ドラゴンもただいい様にやられるのではなく、火炎を吐き散らして灼熱のステージを作り出し、更に熱線でリノラースを狙い撃つ。
彼は両腕でそれを受け、大火傷を負いながらも跳ね返し、前へ進んで拳を振るった。
しかし、ドラゴンは大翼で勢いよく羽ばたき、強風を巻き起こして炎礫を撒き散らす。
その炎をケビンは大剣で斬り裂き、更に斬り裂ける部位に刃を突き立てる。が、先程の様に上手く刃が通らず、跳ね返される。
「ぐっ! 唯一通った個所が……」と、怯んだ隙に尾が腹部へ命中し、激しい吐血と共に吹き飛ばされる。受け身を取れぬまま大地に転がり、全身の骨を砕くが一瞬で再生し、ヨロヨロと立ち上がる。
「くっそぉ……」大剣を引き摺りながら立ち上がり、奥歯を噛みしめる。
そんな彼の隣までリノラースが構えながら退いてくる。
「どうした? 君の中にはまだ力が眠っているようだが?」と、彼の体内で蠢く呪術を見透かすように口にする。
「あんた、わかるのか?」その力とは闇の瘴気をトリガーに強化される吸血鬼の持つ更なる力であった。
「吸血鬼の知り合いから呪術を教わった事があってね。それとは違うが、限りなく似ている。君は、それを使うのが怖いのかな?」
「あぁ……怖いし、自分で目覚めさせることが出来ないんだ。が、あいつを倒すには、この力が必要だな……一か八か、やってみるか?!」と、大剣を地面へ突き刺し、己の牙をニョキリと生やす。
「何をするかは知らないが、暴走だけはしないでくれよ?」彼の中の力の正体を知っている様な口ぶりをする。
「いくぞぉぉぉ!!」ケビンは大地が抉れるほど蹴って跳び、一気にドラゴンの懐へ入り込む。
ドラゴンは羽虫を掴もうとするように両腕を振るったが、ケビンはドラゴンの身体を蹴って更に跳び、隙を伺うように周囲を回った。
その隙を見てリノラースはドラゴンの鼻柱や喉、鳩尾、腹などを順に殴りつけ、その中で一番手応えのあった喉を集中的に殴りつける。比較的柔らかいそこはグチャグチャに潰れ、最後の渾身の一撃で喉が破ける。
「そこだ!!」と、ケビンは破けたそこへ牙を突き立て、ドラゴンの体内を巡る闇を吸い始める。
リノラースには血を吸っている様にしか見えなかったが、次第にケビンの肌が浅黒くなっていくのを見て首を傾げた。
「おいおい、大丈夫か?」と、魔力と呪術の流れの分かる眼でケビンの体内の様子を探り、冷や汗を掻く。
彼の体内の呪術が一気に活性化し、禍々しい何かが膨れ上がっていた。
「ぷ、はぁぁぁぁぁぁぁっ……やっぱいい気分だ……それに、これで……」と、膨れ上がった腕を掲げ、ドラゴンの顔へ向かって振り下ろす。彼の今迄の腕力ではダメージを与えられなかったが、彼の一撃はドラゴンの頭蓋を破壊する程の威力を秘めていた。
「さぁ、始めようか!!」と、ドラゴンの尾の先を掴んで片手で振り回し、上空へ放り投げる。宙高く舞い上がったドラゴンを追い抜くようにジャンプし、大剣を手に取ったケビンはそれを真っ二つに斬り裂き、更に八つ裂きにする勢いで襲い掛かる。
ドラゴンは咆哮と共に墜落し、遅れて血の雨が降り注いだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」ケビンは真っ白な蒸気を口から吐き出し、真っ赤になった目で再生を始めているドラゴンを睨んだ。
今の彼は、心臓をあえて潰して本能を目覚めさせた時とは比べ物にならない程に身体能力が強化され、背後で構えているリノラースよりも頭ひとつ上の腕力を秘めていた。しかし、ドラゴンの闇を吸収したせいで、やはり精神が不安定となり、凄まじい興奮状態にあった。故に、ケビンは自分で自分の舵を手放しそうになっていた。
「どうしたぁ!! もうおしまいかぁ!!!」化け物の様な口元をしたケビンは理性を失ったように駆け出し、再生を完了させかけているドラゴンに再び斬りかかった。
「準備はいい? ヴレイズ!!」と、手の中の小さな光の粒を確認し、彼の方を見る。
「あぁ……あいつは凄まじい炎を体内に宿してはいるが、魔力を巧みに操る使い手じゃないからな。鎮火魔法は効くはずだ」
「下では大変な事になっているみたいだけど……彼のタイミングに合わせてやれば……さ、いくよ!!」と、アリシアは光と共に駆け出し、ドラゴンの方へ向かう。
流れる様な滑らかな動きで弓を構えて矢を番え、矢先に光の粒を備え付ける。
ヴレイズもそれに合わせて飛び、ドラゴンの体内の熱に集中する。
「準備オーケー!! さん、にぃ、いちぃ!!」アリシアは合図と共に一筋の光矢を放つ。その矢がドラゴンの口内へと入り込み、光がそのまま前進へ駆け巡る。
そこからドラゴンの体内を流れる闇は一気に浄化され、結合していた呪術が弱まる。
それを合図にヴレイズは鎮火魔法を集中させ、ドラゴンの体内にある熱を吹き消す。今までは闇魔法がそれを邪魔していたが、今はそれがないため、意図も容易くそれが可能であった。
すると、アリシアが予想した通りドラゴンが崩れ落ちる。先ほどケビンから受けた切断痕がばっくりと開き、力なく倒れる。
それを見て、ケビンは更にドラゴンの脳天から尻尾の先まで大剣でなぞる様に斬り抜け、盾に真っ二つにする。
ドラゴンは再生する事も動く事も無く、ずるりと二つに分かれ、そのまま動かなくなった。心音は消え、呼吸も途絶え、更には体温すらも低下していく。
「や、やった……やっと、終わった」ヴレイズはドラゴンの沈黙と共に膝を折り、安堵のため息を吐いた。
「本当、やっとだね。ご苦労様」と、アリシアはまだ暴れ足りなさそうなケビンに光の波動を当てて正気に戻す。
「うん、う……おぅ、アリシアさん、悪い! 俺、無茶したわ!」目の色をまともな色に戻したケビンは済まなさそうに頭を掻いた。
そんな彼らを見て、リノラースは腕を組みながら頷いた。
「いいチームだ」
如何でしたか?
次回もお楽しみに!




