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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第4章 光の討魔団と破壊の巨人
371/601

64.バンガルド国攻略準備!

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 夜が明ける頃、討魔団本部へ流星が如き火の玉が飛来する。見張りの者は驚き、非常用の風の伝令を流そうと準備をしたが、その火の玉の正体がヴレイズであると気付き、胸を撫で下ろす。


 ヴレイズは滑らかに滑空し、背中のロザリアに負担をかけない様に着地する。そのままエレンの診療所へと向かう。


 そこには夜間勤務を終えようとしている新人魔法医が眠そうな目でカルテを眺めていた。


「早くからすなまいな。彼女が重体なもので、頼めるか?」


「ん……? あぁ、ヴレイズさん! 重体とは? あ、ロザリアさん!! 直ぐにエレンさんを呼びますので、そこのベッドへ!!」と、奥にある重症患者用の部屋へと案内する。そこは半ばロザリア専用のベッドルームになっていた。


 ここに辿り着いてから5分と立たないうちにエレンが白衣を羽織りながら現れ、手早くヒールウォーターバスの中へロザリアを入れ、診察を開始する。


「この傷は……殆どが彼女自身の古傷じゃないですか! それも開きようのない程に完治している……一体どういう事です?!」と、ヴレイズを見る。


 彼は今迄起きた事を手短に説明しながら椅子に座り、出された茶を啜った。


「そんな事が……ケビンさんやアリシアさんは無事なんですね?」と、彼女の傷に巻かれた包帯を取り、回復魔法をゆっくりと流し込む。ロザリアはエレンの魔力を感じ取り、安心した様な安らかな表情で寝息を立てはじめる。


「あぁ。エディとバンガルドに残っているよ。で、ロザリアさんは大丈夫なのか?」


「えぇ。これは不幸中の幸いですね。開いた古傷は全て、私が責任を持って傷痕を残すことなく完治させます!」エレンは自信たっぷりに己の胸を叩く。


「相変わらず頼もしい」と、診療所を後にする。


 外は既に日が照っており討魔団の隊員たちは皆、起床して各々朝食を摂っていた。


 そんな中、本部の周囲10キロをランニングしていた隊員たちが息を荒げながら帰ってくる。


「おっそいなぁ! 魔力循環をもっと効率的に行えば、朝食が始まる前には戻って来れた筈よ!!」彼らを出迎えたのは車いすに乗ったキャメロンであった。彼女は現在、部下たちの教育に専念していた。


「朝から精が出るな、キャメロンさん」ヴレイズは腕を組みながら彼女の隣に立つ。


「出来ればあたしが奔りたいくらいだけど、ピクリとも動こうものなら、見張りが黙っちゃいないのよね……」と、視線の方へチラリと目を向ける。そこには彼女の右腕であるエルが立っていた。


「完治まではまだ遠いか……」


「急いたら壊れやすい背骨になるって、爆弾を担ぐようなモノだってエレンがうるさいのよ。耳にタコが出来たわ」と、耳を摩りながら笑う。


「だが、彼女が言う事も正しい。さっき、ロザリアさんもエレンの世話になりに入院したぞ」


「本当?! おーし、揶揄いに行こうかな~」キャメロンは歯を見せながら笑い、診療所へ向けて車いすを進めた。そんな彼女を見て、エルが慌てて駆け寄り、取っ手を掴んでゆっくりと押す。


「じゃあ、俺があとを引き継ごう。えぇっと……次は何をするんだ?」息を荒げる隊員たちに向かって首を傾げながら問う。


「ヴレイズさんが特訓を?! 一体どんな?!」隊員のひとりが怯えた様に声を震わせる。実際、彼らは10キロランニングの前に、目覚まし代わりに基礎トレーニングを1時間以上やらされており、もうヘトヘトであった。


「あぁ……次は何をする予定なんだ?」


「魔力循環訓練と乱取りです。その後でやっと朝食です」


「そうなのか……でも、あまり厳しいのもなんだし……俺も腹減ってるし、飯にしようか」ヴレイズは手を叩きながら火の粉を出し、疲れ切った彼らの身体を癒す炎魔法をばら撒く。


「「「「助かったぁ……」」」」隊員たちはホッと胸を撫で下ろし、その場に大の字になって倒れた。


「相当きついんだな、キャメロンの特訓は……」




 バンガルド城下町では、アリシアらは宿で朝食を摂りながら本日の予定を整理していた。その間、フィルが喧しく騒ぐため、アリシア特製の睡眠薬を一服盛って深く眠らせていた。更に全身を雁字搦めに縛り直し、ベッドの上で転がしていた。


「あたしはケビンと一緒にドラゴンの探索をするよ。リノラースさんからは詳しいドラゴンの特徴は聞いているから、狩りのアプローチを変えてアタックしてみる」と、目玉焼きをパンに乗せて黄身を潰し、頬張る。


「だが、ドラゴンは毎回形態を変化させているからな。また大きさが変わっているかもしれないな」ケビンは相変わらず珍妙なハンバーガーを自作し、齧り付いていた。今回はスイートトマトとチキン、揚げピクルスを挟んだ代物であった。


「お前ら2人で大丈夫か? 明日はヴレイズが帰ってくるし、ライリーの部隊が援軍で入国している。あいつらを待った方がいいんじゃないか?」エディはスープを行儀よく飲み、ゆで卵を一口で頬張る。


「今日は探索と分析だね。討伐は多分、明日になるかもね。エディはどうするんだっけ?」


「俺はこの城下町に残ってやることがある。ま、俺がそっちに参加しても脚を引っ張るだけだからな。こっちはこっちで頑張るよ」


「何をする気だ?」ケビンは指に着いたソースを舐めながら問う。


「交渉を対等に持っていくための下準備、かな? まぁ、俺に任せなさい」


「頼んだよ」アリシアは昨夜の事を思い出し、エディの事を信じる様に頷く。


 そんな彼らの部屋にノックと共に、巨体の男がのそりと現れる。


「り、リノラースさん?!」エディは仰天しながら立ち上がる。変わってアリシアとケビンは彼の気配に気付いていたのか、普通に挨拶をした。


「朝食をご一緒してもいいかな?」と、彼の前では小さく見える椅子に座り、大きな弁当箱を卓上へ置く。


「どうぞ。貴方はこれからどうするおつもりで?」と、アリシアは彼の目を見ながら問う。


「出来れば、君らと同行したいと思ってね。あのドラゴンを探しに行くんだろ?」


「やはり、貴方も気付いていましたか。あいつが生きていると」ケビンはポテトを口にしながら小さく唸る。


 リノラースは弁当箱の蓋を開け、中のサンドイッチを手にする。これは彼のお手製であり、挟んである野菜も彼が育てたものであった。


「あのドラゴンは殺せない。例え心臓が止まっても、あいつの体内に流れる呪術が復活させ、より強くしてしまう。だから、時間稼ぎに地割れの中へ閉じ込めたんだ。ほんの半日で出てきてしまったようだがね」と、卓上に置かれたゆで卵を手にし、アリシアに食べても良いか尋ねる。


「流石ですね。貴方が同行して下されば、実に頼もしい。100万の兵を得るとはまさにこの事」と、エディは営業トーク混じりに口にし、機嫌良さそうに手を叩く。


「ライリーの部隊が入国しているんだよな? あいつらはどうするんだ?」ケビンが問うと、エディは水を飲みながら細かく頷く。


「それなら、あいつらには別の仕事を用意してある。ぶっちゃけ、そっちがメインなんだがな。さて、食い終ったら準備だ!」




 その頃、ラスティーは本日届いた手紙に目を通しながら紅茶を啜っていた。目の前には彼の朝食のレッドソーススパゲッティが用意され、湯気が立っていた。


「なるほどね、どこの国もそう言う感じか」と、手紙を畳み、フォークを手に取る。


 そこへ、早々に朝食を終えたレイが現れる。


「先ほどの手紙の内容だが……どう思う?」


「魔王軍と繋がるバンガルドは潰した方が早い、と……耳の速いククリスはシャルル・ポンド様直々の助言だ。確かに、その方が手っ取り早い。が……俺のやり方は違う」と、パスタを音もたてず上品に啜る。


「策の進路変更はしない、と?」


「あぁ。バンガルドは予定通り、互いに納得できる同盟を結び、西と南、東の大同盟に加える。魔王討伐に必要なのは、団結だ」


「だが、無理にバンガルドを加えても、やはり一度魔王の息がかかった国だ。周りは信用しないし、この国もいつ裏切るか……同盟が不安定になるのをシャルル様は恐れているんだ」


「なぁに、その為にバンガルド国内ではエディが動き回っているんだ。絶対に裏切られない様な弱味を握る為にな」と、素早くスパゲッティを食べ終わり、紅茶を飲み下し、口を拭う。


「あの副指令なら、何かやらかすだろうな……トラブルを持ち込まなければいいが」


「正直、俺も参加したいんだが……」と、言いかけた瞬間、レイが持参した書類束を勢いよく机の上へ置く。


「そんな暇はないぞ」


「だよなぁ」と、ラスティーは頭を掻きながら苦笑した。

いかがでしたか?


次回もお楽しみに!

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