51.悪夢龍VS3人組
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
「あのドラゴンの正体がわかった」討魔団本部の指令室で、レイが書類を片手に口にする。彼の前では、上着を脱いで椅子に腰掛けるラスティーがおしぼりを顔に乗せながら聞いていた。
「ヴァイリー博士の実験体か?」
「あぁ。元黒勇隊のレッドアイと言う男だそうだ。ドラゴンコンプレックスという精神病にかかった男を呪術兵器で化け物に変えたらしい。詳しくは秘匿で、まだ掴めていないとか」と、纏めた資料をラスティーの前に置く。
「……目撃情報では16メートルの飛竜らしいが……今迄の性質上、まだまだ進化する可能性があるな」と、置かれた資料に手早く目を通し、溜息を吐く。
「あの5人で大丈夫か?」
「……心配はないと思うが、もしもの増援要請に備え、ライリーの軍をバンガルド国へ入国させておこう」
「了解した」と、レイは踵を揃えて回れ右をし、足早に指令室を後にした。
「……正直、ドラゴンどころではないんだがな……ロザリアのヤオガミ列島行きの用意もあるし、同盟の準備もある。更に、ククリスでクリスの奴が妙な動きをしていやがるし……このデストロイヤーゴーレムに対する策も練らなきゃならないからなぁ……」と、椅子をクルクルと回転させながら頭を抱える。
「あぁ……忙しいやら楽しいやら……だが、アリシアとヴレイズもいなきゃ話にならないんだよなぁ……早く帰って来てくれぇ~」
アリシアは瘴気立ち込める化け物の間合いに突っ込み、牽制打に光弾を放つ。その攻撃は化け物の表面で虚しく弾けるのみで、効果は無かった。
「堅いし、怯まないし! 手応えナシ!!」と、シルベウスから借り受けた弓を取り、矢を放つ。その一矢は甲殻と甲殻の間へ入り込むが、その一撃も手応えは無かった。
「成る程……この程度でもダメか……」彼女の放つ矢は鉄船を一撃で沈没させるほどの威力を持っていた。それを弾く生き物は今迄見た事が無く、アリシアは心底肝を冷やした。
そんな中、ヴレイズは遥か上空まで跳び上がり、凄まじい勢いで急降下を開始する。光のオーラと炎が入り混じり、彼自身が火の矢となって化け物の頭上目掛けて足先を向ける。
「こいつならどうだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヴレイズの咆哮と共に化け物の項に彼の渾身の跳び蹴りが命中する。化け物の岩肌は爆ぜ飛び、赤紫色の肉片と紫色の血が雨の様に飛び散った。
「うわ、やった!! 流石ヴレイズ!!」と、目を丸くして驚くアリシア。
「いったか?! どうだ??」と、返り血と共に再び上空へ跳び上がったヴレイズは、確かな手応えに満足し、化け物の次の行動を観察する。
化け物は怯みこそしたが、倒れる気配は無く、相変わらず口から瘴気を漏らしながら唸っていた。その場で歩行を止め、身体を不気味に震わせる。
「何かするつもりだな……離れるぞ!!」と、アリシアに注意を促しながら退くヴレイズ。
「うん! こりゃヤバそう!!」と、彼女も目を離さぬまま数百メートル程距離を取る。
すると、化け物は身体を仰け反らせ、凄まじく大きな咆哮を上げ、周囲に瘴気をばら撒く。それはボルガルマウンテンまで届く勢いで広がる。
「危ない!」と、ロザリアはエディを抱えながら後退する。
「ロザリアさんが残ってくれて助かるよ……」と、エディは自嘲気味に笑いながらため息を吐いた。
「副指令はデータを取り続けて下さい!!」
「当たり前だ」と、メモ帳に戦況を奔らせるエディ。
次の瞬間、化け物は口を大きく開け、砦を一瞬で消し飛ばした炎をチラリと光らせ、一瞬で周囲を黒いオーラと共に消し飛ばす。凄まじい爆音と衝撃波が広がり、瘴気がロザリアらを襲う。
が、エディは身体から光を解き放ち、ロザリアと共に瘴気から身を守る。
「俺、一応、光使いなんだよな~」と、今度は得意げに笑う。
「助かる」
そんな爆発範囲から逃れたアリシアとヴレイズは、衝撃波から身を守りながら歯痒そうに表情を歪める。
「あの炎がある限り、近づけないな……」と、ヴレイズが口にする。
「うん……あれ? ケビンは?」と、彼の気配を探りながら周囲を見回す。
ケビンは先ほどの大爆発に身を任せながら上空を大剣片手に舞っていた。
「さて、よぉく見ておけよ!! この一撃で、どういう風なリアクションを見せてくれるか!!」と、ヴレイズが傷つけた項目掛けて急降下をする。
「あいつ!!」彼を目にしたヴレイズは、驚いたように目を剥いた。
「この前はよくもモグモグしてくれたなぁ?! 今度は俺の番だ!!」と、化け物の傷口目掛けて大剣を突きおろし、そのまま体内へと突入する。
ケビンが潜り込んでから数秒後、化け物は苦しむ様に呻き、ヘドロの様な血唾を吐きながらもがき苦しむ。
「え、もしかして……あいつ?」ヴレイズは彼の身を案じる様に唾を飲み込む。
「彼なら大丈夫だと思うけど……随分無茶をするねぇ……」と、アリシアも彼を心配する。
しばらくすると、化け物は凄まじい量の血を吐き出し、前のめりになって倒れ込む。大翼の前脚で身体を支えてバランスをとろうとするが、身体に力が入らないのかそのまま崩れ、倒れ込む。そこから更に瘴気臭い立つ血をゴボゴボと吐き出し、痙攣と共に目玉をひっくり返す。
すると、化け物の口内からケビンが姿を現す。彼は顔を青くさせ、嗚咽させながらヨロヨロとアリシアらの元へ駆け寄る。
「やっぱやるんじゃなかった……おぇ、めっちゃ気持ち悪ぃぃぃ」と、大剣に体重を支えながら歩く。
「おいマジかよ! 今ので倒しちまったのか?!」と、我が目を疑いながらケビンに近寄る。が、彼は凄まじい悪臭を放っている為、鼻をつまみながら距離を取った。
「まさか、あのまま心臓を?」彼が体内でどう暴れたのか察したアリシアが呆れた様に苦笑する。
「あぁ……力強く奏でていたそこを、引っ掻き回してやったよ」と、自慢げに肉片のこびり付いた大剣を掲げる。
「えげつねぇなぁ……」
「それよりアリシアさん……光魔法で解呪してくれないか? いくら不死身でも、こいつぁキツイ……」ケビンは吸血鬼を超えた不死身であったが、流石に瘴気に蝕まれては無事では済んでいなかった。
「あぁ、すぐやるよ。でも、後で身体を洗いなさいよ」と、鼻をつまみながら光魔法で彼を包み込む。
「言われるまでもなく」
「でも、これで本当に終わりなのか? こんなあっさり?」と、ヴレイズは不思議そうに化け物の顔を睨みながら首を傾げた。
「心臓を引っ掻き回され、切り刻まれたら流石の化け物でも……」と、ケビンが口にした瞬間、地響きと共に化け物が首を上げる。
「え? まさかでしょ?!」アリシアが狼狽しながらも身構えた瞬間、化け物が大口を開き、黒紫色の光を炸裂させた。
遠くから戦いを見守っていたフィルは、口笛を吹きながらサンドイッチを齧っていた。
「わぁお……どんな手を使ったのか知らないが、あの化け物からワンダウンを奪うとはな……」と、感心した様に口にしながら手からパンのカスを払う。
だが、彼はあの化け物がどんな攻撃を加えても死なない事を知っていた為、次のアクションがどんなモノか注目する。
すると、化け物が首を上げて前方へ向かって熱線にも似た暗黒破壊砲を吐き出し、地表を薙ぎ払った。彼のいる場所にまで衝撃波が届き、荷物を吹き飛ばす。
「アンチエレメンタルキャノンにも似た凄まじい熱線だな……この国の形が変わっちまうんじゃないか?」と、真っ二つになったボルガルマウンテンを目にし、表情を強張らせる。
その後、化け物は何事も無かったように上体を起こして歩き始めた。
しかし、再びランペリア国方面へと方向転換をし、来た道を戻り始めた。
「相当なダメージだったんだろうな。再び瘴気を取り込む気だな……てか、あいつらは無事なのか?」と、彼らがいた方へと望遠鏡を向け、凝視する。
「けほっけほっ! 大丈夫?」アリシアは土埃を払いながら苦しそうに咳を繰り返した。
「あぁ……咄嗟に息を合わせてくれて嬉しかったよ」と、ヴレイズは服に付いた埃を払う。
彼女ら2人は息を合わせ、化け物の熱線の攻撃範囲内側へケビンの襟首を掴みながら一瞬で移動し、数千トン級の衝撃波を2人の魔障壁で防ぎ、事なきを得た。
更にアリシアは周囲の瘴気を光魔法で払っていた為、ヴレイズは安心して炎の魔障壁を作る事が出来た。
「流石の2人だな。いいコンビプレイだ」と、コートを脱いで上半身裸になったケビンはクシャミ混じりに口にした。
「で? どうする? そろそろ戻るか?」ヴレイズが口にすると、アリシアは首を振った。
「もう少し情報が欲しいんだけど……付き合う?」と、先程よりも強めの光のオーラを2人に施し、化け物が向かったランペリア国方面へと脚を向ける。
「「マジですか?」」
「マジです」と、アリシアは不敵に微笑んだ。
如何でしたか?
次回もお楽しみに!




