46.アリシアの秘密
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
目を覚ましたキャメロンは、早速起き上ろうと身構えるが、エレンが慌てた様に取り押さえてヒールウォーターバスに沈める。
「まだダメです! 動いたら二度と立ち上がれなくなってしまいますよ!」
「ゴボバボブバベバ……」キャメロンはエレンの手首を2度叩き、納得した様に頷いた。
その後、砦に戻ったエディが現れ、彼女から直接報告を聞く。
「すまない。俺が上手く立ち回れなかったばかりに……」エディは彼女の謝罪のタイミングを遮り、先に頭を下げた。
「やめてよ。副司令官が簡単に頭を下げちゃダメだって……」キャメロンは鼻でフンっとため息を吐きながら腕を組む。
「魔界の軍団長ロキシー……噂以上だった。大地魔法も賢者に匹敵する腕前……だが、リノラース殿ほどではなかったか……」ロザリアは自分の感じた手応えを口にし、拳をギュッと握る。
すると、エレンがカルテを片手にヒールウォーターバスに指を突っ込む。
「で、キャメロンさん。分かっていると思いますが、半年間は安静にしている事。でないと……」
「はいはい! 戦線復帰は無理って言いたいんでしょ?! 本当によく脅す先生だコト!」と、キャメロンは膨れ面を作った。
「半年も必要ないかもよ~」と、アリシアが指先から光の雫を作り出し、一滴垂らす。
すると、その光がヒールウォーターバス全体に浸透し、光が反射し、回復魔法が増幅していく。その魔法がキャメロンの腰へと集中していき、更に彼女の身体の魔力を高めていく。
「アリシアさん、これは光の?」
「そう。この前のとはまた少し違うタイプだけどね。治療の時間を短縮するのは良くない事だとは思うけど……でも、これでまた回復の効率が上がるよ」
「すごい……」と、光によって増幅されたヒールウォーターバスを目にし、目を輝かせるエレン。
「んで、どのぐらいで治るのかな?」と、キャメロンは近場に置かれた果物に手を伸ばしながら口にする。
「これなら4か月ほどでしょうか? あとは貴女次第なところもありますが、そこは私がケアしますので……」
「あたし次第、か……」と、ソルティーアップルを頬張りながら唸った。
その後、エディは作戦室へ向かい、ロザリア達もそれに続いた。
アリシアも向かおうとしたが、それをエレンが止める。
「ちょっと、いいですか?」深刻そうな顔でエレンが口元を結ぶ。
「なに?」と、脚を止める。
「……アリシアさん……その身体、以前の貴女のではありませんね?」
エレンは恐る恐る口にする。
「やっぱりわかる? 流石エレン……」
「貴女の身体の水分には、私たちと旅をした記憶がありませんでした。しかし、貴方が以前のアリシアさんである事に変わりはありません……一体どういうことです?」
「……色々あってね。シルベウス様に新しい身体を貰ったってところかな? あ、そうだ!」と、アリシアは思い出した様に鞄から小さな宝石の様なモノを取り出す。
「これは?」
「ん……これは……言うなれば、『あたしたちとの旅を封じ込めた光』ってトコロかな? あたしが作ったんだ」と、エレンの手に優しく握らせる。
「綺麗ですが……ただのお守りではないですね?」その宝石から淡い魔力を感じ取り、何かを読み取る。
「うん……もしも、もしもあたしが突然、エレン……みんなの前から姿を消す様な事があったら、これを壊して欲しの」
アリシアはいつになく真剣な眼差しでエレンの目を見つめる。
「壊すの……ですか?」と、渡された宝石をまじまじと見つめる。
「うん。結構固いから、思い切り地面に叩き付けてね!」
「いや、そうじゃなくて……何故? アリシアさんが私たちの前から姿を消すと?」
「え……と……念のため、かな?」と、アリシアは苦しそうに笑いながら答える。
すると、エレンは彼女の腕を掴み、考えを読み取ろうとした。
「……!! ブロックした……?!」驚いて手を離し、後退る。
「ごめんね。今は何も言えないんだ……」と、変わらぬ笑顔を見せながら、アリシアは作戦室へと向かった。
「アリシアさん……貴女は一体っ……?!」
3日後の夜、バンガルド国首都へと到着したラスティー達は城下町の異変に気が付く。夜でも活気があり、沢山賑わっていた町民たちがひとりもおらず、町中は武装した兵たちでごった返していた。滅多に出さない防衛兵器を城壁にズラリと並べ、いつ敵が来ても撃ち落とせるように狙撃手を配置していた。
「こんな時に何の用だ!! 今来られても迷惑なだけだ!!」ラスティー達の到着報告を受けた兵士長が怒鳴り声を上げる。
「この物々しさ……例のドラゴンですね?」
「わかっていて来たと言うのか?!」
「えぇ。ちゃんと約束は書状でつけたはず。謁見をお願いしたい」
「そんな暇はない!」
「そうですか……我々なら、力になると思うのですが?」ラスティーは兵士長ににじり寄りながら不敵な笑みを見せた。
「必要ない!!」
「そうですか……ん?」と、遠くの夜空が赤く染まるのに気が付き、眉を潜ませる。
次の瞬間、火炎弾が流星の如く城下町へ降り注いでいた。
それに既に気が付いていたヴレイズが一瞬で上空へ跳び上がり、火炎弾の全てを城下町の外へと弾き飛ばしていた。
「あれだ。間違いない」いつの間にか城下町の監視塔へと昇っていたディメンズがスコープ越しにドラゴンを確認する。
「なんだあんた?!」監視兵が仰天しながら後退る。
「悪いが、この場を借りるぞ」と、大型ボウガンを素早く構え、一発撃つ。放たれた矢は真っ直ぐドラゴンの顔面目掛けて飛んだ。が、それは鱗に弾かれて刺さる事は無かった。
「挨拶にもならないか……なら!」と、ボウガンにファイアクリスタルの入ったカプセルを取り付け、魔力を送り込む。更に矢ではない大きな筒の様な弾を装填して構える。
そこへヴレイズが飛来する。
「手伝おうか?」
「おう、少し囮になってくれないか?」
「またかよ……ま、俺しかいないしな!」と、ヴレイズは得意げな表情でドラゴンいる方角へ飛んでいく。
「頼れる囮だ!」と、スコープを覗き込み、引き金に指を掛ける。
ヴレイズは高速でドラゴンの方へと突っ込み、牽制に熱線を放つ。それは鋭くドラゴンの顔面に当たるが、鱗には傷ひとつ付けることは出来なかった。
「固いヤツだな……これじゃあ、赤熱拳も通らないな」
そこまできてやっとヴレイズを敵と認識したのか、ドラゴンは彼のいる方へと進み始め、大きく咆哮した。
「遠くから見たら小さいが、ここから見ると……うわっ、めっちゃ大きいな!!」と、50メートル程間合いが狭まった途端、相手の巨大さに気が付き、怖気づく。
ドラゴンは火炎弾を撒き散らし、火炎放射で夜空を薙ぎ払いながらヴレイズに近づく。
「いいぞぉ……もっと近づけろ……」と、唇を舐めながらスコープを覗き込み、必殺のチャンスを待つ。
「早くしろよぉ!! こいつ、巨体の割に速ぇんだよぉ!!」ヴレイズは久々に臆病風に吹かれ、城下町の方へと飛んで逃げた。が、ドラゴンが必要以上に町へ向かわない様に何発も熱線を放った。その全ての攻撃は大翼の根元や脚の付け根などに命中させ、怯ませた。
ある一定距離まで来ると、ヴレイズは逃げるのを止め、魔力を全開まで高めて炎を纏わせた。
「頼むぜ、こいつの牙が俺に届く前に!!」
次の瞬間、ドラゴンはお返しと言わんばかりに熱線を吐き出し、ヴレイズはそれを正面から受け止めた。
「んおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」火花を撒き散らし、奥歯を砕かんばかりに噛みしめる。ドラゴンの吐く熱線の温度はヴレイズが扱える温度を遥かに凌駕している為、少しずつ彼の体力は削れていた。
「んぐぅぅぅぅうぅぅぅぅ! こうなったらぁ!!」と、彼は敢えて熱線の中へ突っ込み、ドラゴンの大口目掛けて鋭く飛びこんだ。
「いま、俺、すんげぇ馬鹿なことやってる!!」
如何でしたか?
次回もお楽しみに!




