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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第一章 光の狩人と愉快な仲間たち
35/600

34.逆襲のアリシア

いらっしゃいませ! ごゆっくりどうぞ!

 盗賊の襲撃から数時間後。


 現場は血の海がまだ乾ききらず、濃く臭い立っていた。賊の死体は無残に切り刻まれ、ウルフソルジャーに死肉を食い荒らされていた。


 そんな地獄の跡地に仲間の盗賊団の本隊が到着する。


「……ったく。駅馬車相手に返り討ちにされたってか? 用心棒でも乗っていたのかよ」


「ありうるな。何せ、あの荷は相当なモノだからな」


「しかし情けないな……」


 軍隊狼を炎魔法で追い払い、山の様に大柄な盗賊頭が仲間の死体を検める。


「どいつも動脈を一撃され、血の海に沈める様に殺されているな……用心棒は血が好みの様だ」


「血が好み? 戦闘狂が大人しく駅馬車の用心棒なんかするか?」


「もしくは……ヴァンパイアか」


「ヴァンパイア?? あいつらは東の地の南部にしか生息していないって聞いたが? それに海を渡れないって話じゃあ……?」


 ヴァンパイアとは、約400年前にこの世界に現れた、呪われし者達の事をそう呼んだ。


 昼から逃げ、抗菌作用のある物(銀やニンニクなど)を嫌い、人間の生血に飢えた化け物……それがヴァンパイアだった。


 弱点だらけで不完全な者に見えるが、それを補う余りある程の力や知恵、魔力を持っているといわれ、恐れられていた。


「どちらにしろ、そいつを殺し、荷を奪わなきゃな。俺たちの名に傷が付いちまう。狙うなら朝だ。万が一ヴァンパイアなら、力を発揮できない筈だ」


「了解!!」


 盗賊たちは仲間の死体には目もくれず馬に乗り、馬車が向かったであろう方角へと奔らせた。




「ま、まだ着かないのですか?! もっと速度は出ないのですか?!!」


 荷を抱えた男は震えた声でビープマンに尋ねた。腕に深い傷を負っていたが、アリシアの治療ですっかり回復していた。が、盗賊に対する恐怖で頭が一杯になっているため、一刻も早く安全な城下町へ向かいたい様子だった。


「悪いが、さっきの混乱で馬たちが怯えてしまったし、疲れているんだ。そろそろ休ませなきゃな」と、ビープマンは殴られた頬を摩りながら表情を歪める。


「そりゃないですよ!!」


「まぁまぁ……」アリシアも治療を終え一息ついていたが、原因不明の熱に苦しめられ、大量の汗を掻き、息を荒くさせていた。


「一体何なの? まさかヴレイズにかけられた呪いがうつったの??」


「風邪かい?」同乗したケビンがアリシアの真っ赤になった顔を覗き込み、首を傾げた。


「仲間が言うには違うみたいなんだけど……わからない……んぐぅ!!」敵意を持った炎が彼女の胸の下を焦がし、再び全身に広がっていく。


「あっつ……がっ……うぅ!」鞄からヒールウォーターを取り出し、飲み下すが、更に熱を増したのか瓶を取り落とし、蹲る。


「た、たすけて……」


「どれ、診せてごらん」ケビンは彼女の額に手を置き、目を瞑る。


「風邪じゃないんだけど……」


「いいから……んぅ?」彼はアリシアの額から感じる熱、魔力に違和感を抱き、再び首を傾げた。


「なに?」


「アリシアさん。魔封じ系の道具か薬草は持ってないか? あればいいんだが」


「え?」彼女の鞄にはヴレイズの為に採ったものの、役に立たなかったクローヅ草が入っていた。


「流石アリシアさん」ケビンは早速、クローヅ草をナイフで細かく刻み、アリシアの持つ瓶に水と一緒に入れる。そして彼の手の上で火を起こし、瓶を熱する。


「火傷しないの?」


「ヴァンパイアですから」優しく笑って応える。


 しばらくすると湯気が立ち、それから数分して魔封じの茶が出来上がる。


「さ、飲んでくれ。熱いから気をつけて」


「う、うん」アリシアはクローヅ草独特の臭いに鼻を曲げながら飲んだ。口の中で不思議な味が広がり、たちどころに彼女の身体の熱がウソの様に消えていった。


「え……えぇ? な、なんで?」


 彼女の顔に笑顔と余裕が戻る。それを見てケビンは安堵しながら口を開いた。


「アリシアさん。もしかして最近、鉱山にでも行きましたか?」


「鉱山? ……バースマウンテンっていう火山になら……」


「え? あそこに? なんで? って聞いても話が進まないな。とにかく、君の体内に『炎のクリスタルの粉塵』が溶けていたんだと思う」


「粉塵?」


「それが君の魔力に反応して熱を発していたんだと思う」


「なるほど……なんでそんな事を知っているの?」



「普通、クリスタルの粉塵は力を高めるために使うんだ。炎使いが粉塵を吸って力を高めるんだ。だけど、異なる属性を宿した者が吸うと、適応されずにクリスタルの力が発動して、術者を傷つけてしまうんだ」



「……だからヴレイズは山の中で元気だったのか……ヴレイズ……」彼の事を思い出し、再び蹲るアリシア。


「……良ければ話してくれないか?」


 アリシアはケビンに自分たちの旅の目的、仲間、そしてヴレイズの事を話した。その間、ケビンは黙って聞き入り、アリシアは自分の話す内容に一喜一憂しながら語り続けた。


「いいチームだね。魔王討伐、か……話で聞くにはとんでもないヤツみたいだな」


「……うん。それにヴレイズは……あたしはどうすればいいのか……わからないから自分に出来る事をやろうと思って……でも……」



「常に正しく行動できる人間なんかいないよ」



 ケビンは目を鋭くさせて口にした。まるで自分で嫌というほど経験しているかのような口ぶりだった。


「……そうだけど。あたしは……ヴレイズ……」目に涙を溜め、ぽたりと一粒落とす。


 ケビンは彼女の涙を指で掬い上げ、手の中に握った。


「君に涙は似合わない。似合うのは……花さ」と、握った手を開く。そこには小さな花が乗っていた。


「……キザなんだね」


「ヴァンパイアですから」




 真夜中になり、星空と月明かりが辺りを照らす。


 馬車は停車し、御者とアリシア、ケビンは3人でたき火を囲み、相乗りの男は馬車の中でガクガクと震えながら辺りを警戒していた。


「あいつ、なんなんだ?」ケビンは黒コートを繕いながら、馬車の中の臆病な気配を探る。


「なんでも、バルジャス国の使いらしい。バルカニアに届け物があるんだと」


「それを盗賊が嗅ぎつけたってわけね」アリシアは夕刻に現れた盗賊の顔を思い出し、舌を出した。


「盗賊は嫌いかな?」ケビンが問いかけると、彼女は鬼の様な表情で口を開いた。


「大っ嫌い!!」


「でも、盗賊も大変らしいっすよ。元は敗戦国の兵士たちだったり、傭兵だったり、村を潰された農民だったり……必死で食っていくため仕方なくやっている連中ですからねぇ。まぁ今回の連中は根っからの盗賊みたいですが」と、言いながら御者のビープマンは鍋に詰めた野菜と肉を煮込み始める。


「それでも嫌い!」と、子供の様に頬を膨らませるアリシア。


「ま、それはそうと……アリシアさん。ひとつ大事なお話が……」


「ん?」



「私も共に魔王討伐へ連れて行ってはくれませんか?」



「……え? いいの?」


「もちろん。どうせ、行く当てがありませんから」


「……本当に?」アリシアは不思議そうに口にしながら彼の胸ポケットから一枚の紙を取り出した。


「あ! それは!?」


 その紙には女性の似顔絵が描かれていた。アリシアが彼を埋葬した時に見た物と同じ物だった。


「あなたの帰りを待っている人、いるんじゃないの? これは特別みたいだからね」何かを察したかのような声を出しながら彼に絵を返す。


「……ふ、もう80年前の話さ。俺の事も忘れている……ってかもう生きているかすら……」


「なんでそう言い切れるの?」


「へ?」



「自分が生きているだけで希望を持てるじゃない! 例えどんな結果でも、何が待っていても……向こうが貴方の事を待っていたらどうするの?! 信じなきゃ!」



「う……でも、80年も経っているし……」


「それでも、会いに行かなきゃ!」


 アリシアはケビンに向かって元気よく笑いかけた。


「はは、まるで太陽だな。眩しくてかなわないな……」


「そうだよね……あたしも信じなきゃ! ヴレイズ、信じてるよぅ!!」


「いいな……あの娘も俺の事を信じてくれているのかな……うん」


「お2人さんも手伝ってくれよ~」ビープマンは彼らの雰囲気に混ざろうと歩み寄った。




 夜が明ける。


アリシアが目を覚ますと、御者は馬に挨拶をしながら鼻の頭を撫でていた。馬車の中の男にも朝の挨拶をしようと笑顔を向けるが、彼の顔を見た瞬間、表情が引き攣った。


 マーナミーナからの使いは恐怖で顔を青くし、未だ震えが止まずにカタカタとさせ、一睡もしていないのか目を血走らせていた。


「もうバルカニアに入ったのかい? どうなんだい? んん?」鼻息を荒くさせ、アリシアに詰め寄る。


「あ……あの、ビープマンさんが言うにはあと3日は……」


「みっか?! 冗談じゃない!! 私は金を払ったんだ! 無事に向こうまで届けるのが御者の仕事だろう!!」


「まぁまぁ……」彼を宥めていると遠くの方から数頭の馬の蹄の音が響いた。まだ遠くだったが、その音に混じる怒号と殺気を感じ取り、アリシアは額をピクリとさせた。


「アリシアさん。悪いお知らせだ」ケビンが歩み寄り、耳元で囁くと彼女は素早く頷いた。


「……良い知らせね。昨日はやられっぱなしだったから……お返しをしなきゃ」


 静かに微笑み、狩人は目を光らせた。




 盗賊頭が合図をすると、7人の盗賊は馬を嘶かせ、停車した馬車目掛けて突撃した。掛け声で士気を上げ、思い思いの武器を掲げながら血圧のままに興奮し、目を血走らせる。


 すると、一筋の銀が馬の間を通り抜け、中央ではしゃいでいた盗賊の肩を吹き飛ばす。大量の血と肉片が飛び散り、後方の者達の目にかかる。


「なんだぁ?!」盗賊頭が声を上げると、ひとりまたひとりと肩や膝を吹き飛ばされ、落馬した。


「なんだこりゃあ?!」


「あの馬車、バリスタでも積んでいるのか??」


 残り4人となった盗賊たちの先には、アリシアが弓を片手に目を光らせていた。


「命までは奪わないから安心しな!!」と、また矢を放ち、1人を落馬させる。


「いやぁ……奪ってやった方があいつらの為じゃないか? 鉄弓を操るなんて……ますます惚れたぜアリシアさん!!」腕を組みながら感心した様に頷くケビン。彼はアリシアに手を出さないように言われていた。


 すると、不測の事態が起こる。


「また盗賊かね! もう嫌だ! 沢山だ!!」使いの男は頭を掻き毟り、堪らず馬車から飛び出したのだ。


「だめ! 今出たら危険!!」アリシアの注意を聞かず、使いの男は大切な荷物を抱えて、どこへ目指すことなく走って行った。


「あいつだ! 用心棒を相手にするな! あいつを殺れ!!」


 盗賊頭の掛け声と共に3人の盗賊たちが使者目掛けて、馬に鞭を打つ。


「くそっ! 俺がいくか!」


「お願い! 援護する!」


ケビンは人ならざる走りを見せながら使者を追い、アリシアは後続の盗賊をまたひとり仕留める。


 だが、残った1人の盗賊が炎の煙幕で彼女の視界を塞ぎ、もう1人がボウガンで使者を狙い撃つ。


「くそ! 間に合うか?」ケビンの健脚は馬ほどではないが、獣の様に俊敏だった。放たれた矢も彼の瞳には止まって見えたが、流石の彼でも矢より早く駆ける事は出来なかった。


「ぐあっ!」使者の腹に矢が命中する。


「くそ!」ケビンは長剣を抜き、まるで投げナイフの様に投げてボウガンを持った賊の胸に命中させる。


「くっ、あの炎使いめ!」忌々しい賊を睨みながら矢を放ち、見事命中させる。


「よし……ケビン! 使いの人は大丈夫?!」


 ケビンの返答よりも先に背後に違和感を覚え、ナイフを投げつけるアリシア。


「夢中になり過ぎだぜ、用心棒」


 いつの間にかアリシアの背後に立った盗賊頭は歯でナイフを受け止め、噛み砕き吐き捨てた。


 アリシアは馬車の屋根から飛び降り、矢を番えようとするが、盗賊頭は彼女の間合いに入り込み、蹴りを放った。


「弓を使う距離じゃないぜ、お嬢ちゃん」


「そうだね……」額をピクリとさせながらアリシアは弓を置き、ナイフを構えてクローの爪を出した。


「変わったクローだな……」


「特別製のクローだよ。得物第一号があんたみたいな小物とはね」


 アリシアの挑発と共に盗賊頭は必殺の間合いに入り込み、熊殺しの拳を放った。


 彼女は彼の懐に難なく入り込み、ナイフで太ももを突き刺し、クローで脇腹を抉った。


「ぐあぁぁぁ!!」盗賊頭は苦悶の表情で膝を付いたが、ブーツの中に隠されたナイフを抜き、アリシアの腹目掛けて突いた。


 だが、彼女はその気配を察知し、ナイフを払い退け、顎目掛けて膝蹴りを放つ。


 眼前に歯と血が飛び散り、目がでんぐり返る。


「どうだ! 二度とお嬢ちゃんとか言うな!!」




「毒が塗ってあったのか……」ケビンは冷たくなった使者の腹から矢を抜き取り、忌々しそうに投げ捨てた。


「息は?」アリシアは駆け寄り、彼の傷を確認するが、手遅れだと気づき目を瞑る。「毒を塗るなんて……なんて卑劣な……」


「で、連中はまだ息があるみたいだが、どうする? 俺がとどめを刺そうか?」地面に転がる盗賊たちを指しながらニヤリと笑う。


「いや、放っておこう。あたしは仕留めた獲物は無駄にならないように綺麗に解体する主義なんだけど……人間のバラし方は教わってないから……」


「こ、怖いよアリシアさん……」


「半分は冗談だよ」


 アリシアは使者の手から荷物を取り、それを見つめながら何か難しい表情を作る。


「どうしたんだ?」


「この人、バルカニアに大切な荷を運ぶ予定だったんだよね? あたしもそこに用があるから、代わりに届けてあげようかなって……」


「……で、この人はどうする? 弔うかい?」


「……寝袋に詰めて、ビープマンさんにお願いして故郷に送ってもらおう。それが一番だと思う」


「流石アリシアさん。優しいな……ますます惚れたぜ」


「惚れなくていいから手伝って」

如何でしたか? 次回は一先ず数日前に戻ってヴレイズがどうなったのかを執筆させていただきます!


お楽しみに!

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