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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第4章 光の討魔団と破壊の巨人
333/601

26.スカーレットVSミシェル

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

「え゛ぇ? アリシアに会ったのか?!」ジェットボートの上でヴレイズが仰天する。彼女が既にゴッドブレスマウンテンでの修行を終えた事に驚いたが、そんなアリシアが更にケビンと旅をしている事に驚く。


「彼女は凄いな。光魔法を実戦であんな風に使うのは初めて見たよ」と、流れる様に酒瓶を取ろうとし、それをスカーレットに踵で阻止される。「ちぇっ」


「あんたはシラフならマトモなんだから、操縦に集中して」と、正面の地平線を監視する。


 彼らの通る航路は海賊の多い無法地帯であった。が、ここ半年でニックとスカーレットが海賊船団の半数を制圧し、手懐けていた。そのお陰で国外との貿易がし易く、更に海賊共を味方に付けている為、他国の貿易もスムーズに行えた為、皆から感謝されていた。その手腕がラスティーらに認められ、重宝していた。


「それより、あの不気味な使いから聞いたか? 次の作戦ではヴレイズの力が必要だってな」彼の言う使いとは、ヴレイズを見つけた風の団の者だった。彼らは討魔団のメッセンジャーであり情報調達係であり、ラスティーが最も重宝している者らであった。


「……確かに不気味だった。俺の力が必要って、一体どんな?」


「なんでも、ようやく魔王軍と激突するらしい。しかも、あの魔界の軍団長が相手なんだと……ぶっちゃけ、今の討魔団の全戦力を合わせても勝ち目は厳しいだろう……だから、ヴレイズの力が必要なんだとさ」と、いつになく真剣な顔つきで話すニック。彼の母国はロキシーの操るナイトメアソルジャーに攻め入られ、成す統べなく降伏し、バルバロンの色に染め上げられ、実質滅びたのであった。


「俺がどれだけ役に立てるのか……正直、自身が無いけどな」


「謙遜するな。お前の実力は、俺がよく知っているからよ。いや、あの頃よりも更に腕を上げているから……期待以上かもな」ニックは誇らしげに口にし、再び酒瓶に手を伸ばす。


 今度はヴレイズが酒瓶を奪い取り、彼から遠ざける。


「そうだね、酒に手を出さない様に見張っていて。私は、ちょっと彼女を見てくる」と、スカーレットは腰を上げ、甲板へ上がる。


 そんな彼女の逞しい背を見ながら、ヴレイズは微笑んだ。


「……乗り越えた様子だな」チョスコ国を脱出した時に比べ、彼女が自信に満ち溢れて成長している様に見え、ヴレイズは安心していた。


「あぁ。あれから戦いと修行を重ねたからな。今や、俺よりも頼りになる。だから俺にそれを寄越しなさい!」と、操縦桿片手にヴレイズから酒瓶を奪おうと手を伸ばす。


「相変わらずだな! このボートの船長だって自覚を持て、この野郎!」


「お前の都合のいいアルコール燃焼魔法でどうにでもなるだろうが! いいから一口飲ませなさい!!」




 その頃、ミシェルは向かい風吹き荒れる甲板上で座禅を組み、瞼を閉じて集中していた。


「貴女、最近炎使いになったんですって?」スカーレットは彼女の隣に座り、同じように座禅を組む。


「えぇ……数か月前まで剣を振るい、軍団を統べていたけど……」と、複雑な表情を浮かべながら苦笑する。


「私も軍団を統べた事があるわ。でも、その才能は無かったかも……沢山の人を死なせてしまい、親兄弟をも……」


「私と一緒ね……ヴレイズさんがいなければ、国すら滅んでいたかも……」


「これ以上、無力な思いは御免……だよね。もっと強くなって……今度は守る。仲間を」と、スカーレットは甲板を軽く叩く。


「強くなる、かぁ……でも、ヴレイズさんや貴女には敵わないな」自分の魔力の弱さに歯噛みしながら口にする。


「……強くなるにはどうすればいいと思う?」スカーレットはしたり顔を向ける。


「強くなろうとするだけじゃあ……」と、ヴレイズの言葉を思い出す様に口にする。


「じゃなくて……実戦を重ねるのが近道だよ。私はここらの海賊共を相手に技を磨いたの。じゃあ貴女は?」


「貴方はって……? まさか」


「高速で奔る船の上で1対1……結構いい実戦になるんじゃない?」と、スクッと立ち上がり全身に魔力を漲らせる。


「えぇ……それは少しきついなぁ……」ミシェルはまだ実戦向きの魔力をやっと練れる様になったばかりだった。修行代わりに獣を狩り、ヴレイズとの組み手を繰り返し、短期間で一般の炎使い並には成長していた。


 しかし、まだスカーレットと戦うにはまだ早かった。


 



「やっぱお前は最高だぜ、ヴレイズぅ……ひっく」結局、ニックは彼から酒瓶を奪い取り、一瞬で半分以上の量を飲んでしまっていた。その為、操縦桿を手放してしまい操縦席の後ろで丸まって顔を赤くしていた。


「ったくぅ……急ぐんだから、勘弁してくれよぉ……ペダルを踏めばいいんだよな?」と、ヴレイズは見よう見真似で操縦桿を握り、魔力供給機へ魔力をゆっくり送り込む。


 すると、外から稲光の音が鳴り響き、火炎が炸裂する。


「なんだぁ? 晴れているよなぁ?! まるで嵐じゃないか!」


 窓の外ではスカーレットが雷速の蹴りを放ち、ミシェルがそれを炎で受け止めていた。


「どう? 実戦の味は! これに慣れなきゃ、魔王軍とは戦えないよ!!」と、ボートの速さと揺れに身を委ねながらも体勢を崩さず、甲板に着地する。


「ぐっ! やはりいきなり貴女と戦うのは無茶……」


「そんな事を、魔王軍を前にしても言う気? だったら最初から魔王軍に挑もうとするな!!」と、目を血走らせながら稲妻をのたくらせる。


「確かに……もう、あんな思いは……」と、グレイとの戦いを思い出し、自分の無力さを思い出す。


 すると、体内の熱が少しずつ増していき、魔力循環の回転速度が上がっていく。



「御免だ!!」



 ミシェルの体内で何かが炸裂し、今迄止まっていた何かが動き始める。並だった火炎拳に必殺の魔力が宿り、スカーレットの顔面を狙う。


 彼女はそれを、冷や汗を流しながら受け、口笛を吹く。


「この感じ、フレインと戦った時みたいの熱ね……」


 そんな言葉には耳を貸さず、ミシェルは魔力を放出するままに攻撃を繰り出す。彼女の体術は騎士学校仕込みの行儀のよいモノだったが、それに炎魔法の勢いが乗っていた。


 スカーレットの体術は1年前よりも荒々しくなり、鋭さを増していた。が、防御に関しては少々甘く、つけ入る隙が多かった。


 故に、ミシェルとスカーレットの実力の差は魔力を抜きにすれば、頭ひとつ分程度であった。


「ぬっ、少し調子に乗り過ぎじゃない?!」額に血管を浮き上がらせ、手加減抜きに襲い掛かるスカーレット。


 しかし、ミシェルは怒涛の攻撃を真正面から受け、怯まずに殴り合いを演じる。


 これは、彼女のエレメンタルクリスタルに炎の魔人の記憶が色濃く宿り、それが反映された為であった。


 次第に、ジェットボートの甲板上は稲妻と火炎の地獄絵図となり、周囲は暗雲がかかり、突風が吹き荒れる最悪な天候になっていた。


 それでも2人は戦いを止めず、ついには互いの骨を折り、肉を裂傷させるほどの死闘へ発展する。


「やるじゃん!! フレインに勝るとも劣らない覇気! 流石はヴレイズさんと共に旅をするだけある!!」口血を吐きながら笑うスカーレット。


「成る程……これが実戦訓練ってやつね……強くなるわけだ、貴女も……ヴレイズさんも」と、身体から煙を噴き上げながらも戦闘態勢を崩さぬまま甲板を踏みしめる。


「で、まだやる?」荒くなった息を整えながら痛みを奥歯で堪える。


「もちろん! この場で貴女を超えてやる!」ミシェルは興奮そのままに口にし、再び炎を吹き上がらせる。


「大きく出たわね……それじゃあ!!」と、2人は再び間合いを詰め、拳を振り被った。



「このシケはお前らのせいかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」



 2人の間に割って入り、拳と蹴りを受け止めるヴレイズ。


「今すぐヤメロ!! 衝撃で沈没するだろうがぁ!!!」



「「止めて欲しければ、止めてみろぉ!!」」



 戦闘の興奮で頭に血が上り、2人してヴレイズに襲い掛かる。2人の同時攻撃は普通なら、必殺級の代物であった。


 が、ヴレイズはため息ひとつでまずミシェルを熱操作魔法で無力化する。


 更にスカーレットを呼吸の合間に当身を入れて気絶させる。


「ったくぅ……海賊は出ないから安心しろとか言って、結局穏やかには済まないじゃないかぁ……」と、気絶して転がった2人を見下ろしながら、ヴレイズは大きなため息を吐いた。


 その後、酔いから覚めたニックは自分のジェットボートの外装がボロボロになり、ヴレイズが勝手に操縦した事に気が付き、激怒した。


「なんで俺のせいになるんだよ!!」


如何でしたか?


次回もお楽しみに!

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