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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第4章 光の討魔団と破壊の巨人
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19.ヴレイズVSグレイ 決着

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 ミシェルの体内のクリスタルが覚醒し始めた魔力に反応し、2つの記憶がゆっくりと頭の中で流れ始める。


 ひとつはグレイの部下であったジャルゴのモノであった。


 彼の中にはグレイ同様の野心があり、結果裏切って力を握って溺れ、結局はグレイに殺された。


 そんな彼の中にはグレイと共に戦った良い記憶があり、その中には数々の仲間と共に砂を噛んで努力し、笑いあった時代も存在した。


 だが、グレイの野心は仲間たちには受け入れられず、炎の軍に亀裂が入り、その結果彼らはかつての仲間と殺し合ったのであった。残ったのがリーダーであるグレイと ジャルゴ、そして彼らの力についてきた者達であった。


 その中でジャルゴも同様に歪み、腹の中で黒い野心が生まれ、グレイを裏切りという行動に走ったのであった。


 



 もうひとつは炎の魔人グラードのであり、彼のそれにも仲間たちとの殺し合いの記憶が刻まれていた。


 彼自身も元は仲間たちを守る為に力を蓄えて強くなり、仲間らと共に灼熱の塔を建て、魔王の進行に備えた。


 しかし、魔王はこの国には攻め入らず、グラードの中で力を持っているが故の野心が芽生え、仲間を炊き付けて国を乗っ取ろうと画策した。


 結果、彼は仲間らの手によって塔の力で封印されてしまうのであった。


 その戦いの際、彼は家族兄弟を屠っていた。




 これら2つの記憶を感じ取ったミシェルは、眼前で行われる戦いを複雑な心境で眺めていた。


 隣のリヴァイアは悟ったのか、一歩近づいて優しく触れる。


「この戦いに、貴女はどんな決着を望むの?」


「え?」心中を見透かされて怯えた様に瞳を震わせる。


「私は、正直どうでもいいの。建前上は、グレイは裁かれるべきだと言ったけど……あの2人は兄弟であり、唯一の肉親であり、そして数少ないサンサの一族……殺し合う事は無いと思う……」


「……しかし、奴は……」ミシェルは未だに残る復讐心を瞳に宿し、戦いへ目を戻す。




 グレイとヴレイズの実力差は殆ど変わらなかった。


 熱操作の法を身に着け、炎の魔人を凄まじい胆力を持って打倒したヴレイズの方が一見勝っている様にも見えたが、グレイも熱操作のコツを掴み始めており、己の炎を吹き消されない様に立ち回っていた。


 更にグレイは蒼炎を凄まじい勢いで操り、ヴレイズを圧倒していた。容赦のない攻撃魔法である蒼炎は水の賢者であるリヴァイアも恐れる程の代物である為、これを掻い潜るのは困難であった。


 ヴレイズ自身は『グレイを倒す、止める』という信念は持っていたが『殺してでも止める』つもりは無いため、いまいち踏み込めず、攻めあぐねているのが現実であった。


「どうした? 一歩浅いぞ?」と、腕に蒼炎刀を作り出し、ヴレイズの赤熱右腕を斬り飛ばす。


「くっ……くそ!」と、ムキになって一歩出るが、そこを杭の様に鋭い膝蹴りが突き刺さり、背中まで蒼炎が貫く。「ぐぼぇあ!!」堪らず焦げた血を吐き出して崩れる。


 グレイは勝ち誇る様に一歩引いて不敵に微笑む。


 が、その目の前でヴレイズはゆっくりと起き上り、再び構える。彼の腹部の傷はすっかり回復していた。


「何?!」


「悪いが、絶対焦熱の蒼炎は、もう俺には通じない」彼の言う事はハッタリではないく、実際に蒼炎に対する対処法は掴んでおり、簡単に治療する事が出来た。


 更に、ヴレイズの自己治療魔法は、この数年の勉学と実戦経験の成果で賢者のレベルまで昇華しており、致命の重症を負ったとしても意識がハッキリしていればほんの数秒で治療する事が可能であった。


「くくく……サンサ族らしい強さだな、ヴレイズ。優しいが制圧力の無い、甘い炎だ」


「そう言うお前はどうなんだ? グレイ。本当に自分の事を強いと思うか?」と、彼の目の奥の蒼炎を睨み付ける。


「なんだと?」


「いいか、グレイ……『強くなるだけでは、強くなれない』、だ」その昔、サンサ族の長から教えられた言葉を口にする。


「なんだ、その意味不明な言葉は……?」


「村長から教わった言葉だ。この言葉が俺にとっての始まりだったかもしれないな」


「そんな甘っちょろい事を言うから滅んだんだ!! いいか?! 仲間を守れるのは力だけだ! 強さだ!!」


「その強さで仲間を殺したんだろうが!! そんな力は意味が無い!!」


「黙れぇ!!!」と、蒼炎刀で再び斬りかかる。


 すると、ヴレイズは赤熱右腕を淡い蒼色に染め、その攻撃を受け止める。


「ぬっ!!?」


「確かに身を守る為、仲間を守る為には力は必要だろう……だが、その力を操る人間が弱いと、力に飲み込まれる。あんたは飲まれ、正気を失ったのだろう。俺が、目を覚まさせてやる!!」その瞬間、グレイの蒼炎刀が握り潰され、その握り拳のまま彼の頬に強烈な一撃をめり込ませる。


「ぐぶぁ!!」防ぎ損ねてまともに喰らい、後方へ大きく吹き飛ぶグレイ。


 それを追い掛け、更なる追撃を加えるヴレイズ。彼の赤熱拳は容赦なくグレイの肉体を防ぎ手ごとベコベコに凹ませ、骨を砕く。


「ぐぁあぁ!!」堪らず吐血しながら転がり、うつ伏せに丸まる。殴られた個所から煙が上がり、激痛を超えた熱さが彼の肉と骨を炭化させる。


「……グレイ」


「俺を殺すのか? ヴレイズ……」何とか仰向けに転がり、吐血混じりに口にする。


「それを望んでここに残ったんじゃないか? 逃げようと思えば逃げられただろうに」


「……もう俺には何も残っていないからな……」一筋涙を流し、地面に後頭部を預けて目を瞑る。


「なら、何をされても文句はないな?」と、ヴレイズは赤熱右腕を強く握り込み、拳を構える。凄まじい魔力と共に振り抜き、その炎はグレイ全体を包み込んだ。


 すると、その炎は彼のグズグズになった肉体をあっという間に癒した。前回とまでは言わないが、灰になりかけた肋骨や、腹筋が回復し始める。


「なに?」急なことに狼狽し、理解できないと言う表情を作る。


「……ここからは、彼女の番だ」と、グレイはミシェルの方へ顔を向ける。


「え?」不意の言葉に驚き、心臓が飛び跳ねる。


「さ、煮るなり焼くなり好きにすると良い。肉体は回復を始めているが、体力はそのままだ。君でも殺せる」と、ヴレイズはミシェルのいる位置まで歩き、リヴァイアの隣に立つ。


「本当にいいのか?」無表情のままリヴァイアが問いかける。


「俺には殺せません。しかし、彼女には殺す権利がありますし、どの道……」


「それしか道が無いと考えるか?」


「……彼女次第です」と、腕を組んでミシェルの背に視線を注ぐ。




 ミシェルはゆっくりと歩を進め、仰向けに倒れるグレイまで近づく。彼女にとっては念願の兄の仇であり、夢にまでに見たシチュエーションであった。


 しかし、今の彼女の中では心境が変わりつつあり複雑な意見が交錯していた。


 腰に携えた剣を抜き、鋭く構える。が、切っ先が震え、次の行動が固まっていた。


「どうした? やれよ」腕ひとつ動かせないグレイは、目を瞑ったまま笑い、ミシェルからの一撃を静かに待った。


「……わかりました」と、次の瞬間、グレイの顔面目掛けて突きを見舞う。


 が、その切っ先は彼の顔の横に深々と突き刺さる。


「弟同様、甘ちゃんか……」呆れた様にグレイはため息を吐いた。


「そう、あなたは彼の兄……私が奪っては、貴方と同類になります。それに、貴方の犯した罪は重い。私の一存で処す訳にはいきません。それに、貴重なサンサ族の生き残りですもんね……」と、剣を重たそうに引き抜き、腰に戻す。


「……いい決断だ」リヴァイアは感心する様に口にする。


「後の事は、賢者様に委ねます。私はもう、この国にはいられない身ですので」彼女は独断で軍を動かし、多くの犠牲者を出した罪で軍法会議に処される予定であった。更に、塔の制圧にも失敗したため、父親の養護があっても温情は無かった。


「俺と一緒に来るか?」ヴレイズも灼熱の塔を破壊した為、この国から追われる身となっていた。


「はい。その方が楽しそうですしね」と、笑顔を覗かせるミシェル。


「国を守ったのに追われるか……皮肉なモノだな」リヴァイアはこのエルーゾ国の王族らにウンザリした様にため息を吐きながら、グレイを水の檻に捉える。


「エルーゾ国へ引き渡すのですか?」ヴレイズが問うと、彼女は首を振った。


「この男は魔王と繋がっている容疑もある。情報を引き出す為、ククリスへ引き渡す。私が掛け合って、処刑にはならない様に口添えしておく」と、リヴァイアは水の竜巻を作り出し、その場を去る準備をする。


 その際、グレイに最後に言い残す事はあるかと言いたげに水魔法で引き起こし、ヴレイズの前に立たせる。


「……お前の優しさには反吐が出るが……ヴェリディクトに対してもそう接するつもりか?」


「いいや、あの男は必ず殺す……約束する」と、力強い眼差しを見せる。


「それならいい」と、グレイは満足した様に目を瞑り、水の檻の中へと身を委ねた。

如何でしたか?

次回もお楽しみに!

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