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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第三章 光の使者と闇の息子
305/601

107.ケビンVSバハムント

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 アリシアとフレインが殴り合いを演じている頃、ケビンはバハムントに向かって大剣を振るっていた。


 彼の一振りは大岩を真っ二つに断ち、分厚い鋼鉄の壁すらも斬り裂く事が出来た。


 が、そんな彼の攻撃をバハムントは無関心な表情で、しかも指2本で受け流し、防ぎ、更には受け止めた。


「相変わらず学ばないな……」


「ただの様子見だ」と、大剣を背負い直して距離を取る。


「そう言えば、80年前は様子見だけで終わったな」と、バハムントは相変わらず余裕で頬杖を突き、脚を組む。


「今回はどうかな?」と、ケビンは跳躍し、大剣の柄を蹴り、剛矢の様に飛ばす。


 勢いよく飛んでくる大剣を、バハムントは変わらず二本指で受けめる。


 その瞬間、ケビンは頭上から踵落としを蹴り下ろす。


 しかし、バハムントは大剣をおもちゃの様に二本指で掴んだまま振り回し、一瞬でケビンの踵落としを斬り飛ばす。彼の蹴り足は宙を舞う。


「ぐっ!」と、斬り飛ばされた脚を掴み、もう片足で壁を蹴って間合いを離そうとする。


 が、次の瞬間、バハムントは大剣をまるでダーツの様に飛ばし、ケビンの胸を刺し貫く。そのまま彼は壁に打ち付けられる。


 紙一重で心臓には刺さっていない為、彼は何とか引き抜く事が出来た。


「くっ……」どんな傷を負っても一瞬で再生したが、立て続けの反撃に遭い、体力を消耗していた。


「どうした? 80年前よりも酷い有様だぞ? 全く成長していないな」と、呆れた様にため息を吐く。


「いいや……そんな事はないさ。俺には頼もしい仲間がいるからな」と、彼女の方をチラリと見る。


 アリシアはフレインとの戦いを丁度終え、光の繭に包まれて全快していた。


「今いくよ!」と、彼女は弓に3本の矢を番え、バハムント目掛けて飛ばす。その矢先にはそれぞれ炸裂弾頭が仕込まれていた。


 それが高速で放たれ、バハムントの眼前まで迫る。


 彼はそれを椅子に座ったまま両手で2本掴み取り、1本を避ける。すると、掴んだ2本の弾頭が炸裂し、中から2種類の光が炸裂する。


 ひとつは目を潰し、脳髄を焦がす程の閃光。もうひとつは吸血鬼特有の回復を阻害する呪術の仕込まれた光であった。この呪術はケビンの協力もあり、アリシアが独自に練り上げた代物であった。


 そして彼の背後まで飛んでいった1本は瞬時に移動したケビンが掴んでいた。


「80年前とは違うぞ!」と、閃光で硬直したバハムントの前方へと回り込み、3本目の矢を突き刺す。その矢には強力な光魔法が施されており、現時点でアリシアが作れる最高の解呪魔法であった。


 その魔法は上手く行けば、ケビンにかかった呪いも解けるかもしれない代物であった。


「上手く行くか?!」アリシアは願いながらも次の矢を番え、既に狙いを定めていた。


「手応えはあった!」と、ケビンは一歩引きながら大剣を構える。


 光の渦へと飲み込まれたバハムントは微動だにせず、光が晴れるまでジッと座して待つ。項垂れて力を抜いていたが、瞼を開くと同時に顔を上げる。


「これほどの光を喰らったのは初めてだ。まるで太陽光……いや、それ以上か。久々に暖かさを感じた」と、ここで初めて玉座から立ち上がる。


「効いているの?」と、首を傾げるアリシア。彼女の光魔法は攻撃用ではなく、あくまで解呪用であった。


「試す価値はあるさ!」と、ケビンは再び大剣を構え、石床を斬り上げながら進み、瓦礫と土埃を撒き上げる。バハムントの視界を奪うと同時に粉塵の向こう側へ斬り込む。


 その斬撃は見事、バハムントの胸を斬り裂いていた。


「……だが、所詮は光。ただ目障りなだけだな」と、ケビンの腹部へ深々と掌底を突き入れる。その一撃は腹筋を突き破り、背骨を砕き、凄まじい勢いで向こう側の壁まで吹き飛ばす。


「ぐばぁ!!」再生するにしても、全身を砕かれるような衝撃なだけあり、ダメージは凄まじかった。


「ケビン!!」余裕の無い彼を見たのは初めてで、動揺するアリシア。


「あいつを心配している場合か、小娘」と、いつのまにやらアリシアの間合いへ入り込むバハムント。


 危機感を感じた彼女は間合いから離れながらも足元に光魔法を放ってバハムントの目を潰す。が、彼の目は眩む様子がなく、何事もない様子で腕を伸ばし、アリシアの小首を掴む。


「な!!?」


「目は見えずとも、匂いと音、気配だけで十分捕えられる。どれ」と、人差指で彼女の頬に傷をつけ、血を舐めとる。「ふむ……確かにヴェリディクトの言う通り、その身体はお前のモノではない様子だ。だが、魂と肉体が適合し、馴染つつあるな。ケビンとの記憶が見える……そうか、お前があいつの胸の剣を引き抜いたのだな」


「離せ!」と、必死で抵抗する様にナイフを相手の手首に刺す。そのナイフにも光の呪術が仕込まれていた。


「……どうだ? 手応えが無いだろう? もっとよく我が呪いに触れてみるといい」


「……う、そ……」アリシアはバハムントに触れ、彼の体内を蝕む悍ましい呪術を目の当たりにする。


 バハムントのそれは、最高度の呪術が複数絡み合い、更に彼自身が練り上げたであろう天然の呪術が合わさり、たとえどんなに強力な解呪魔法を注入しても、呪術同士が合わさり決して消え去る事はなかった。


「……こんなの見た事が無い……本にもないし、シルベウス様から聞いた呪術でもない!!」


「我に施された呪術は500年前のそれとは別物だ。日々我が体内の憎しみと嘆きを喰らい、増幅、成長している。どんな強力な解呪を施そうとも無駄だ!」と、アリシアをそのまま振りかぶり、ケビンへ向かって投げつける。


 ダメージに喘いでいたケビンであったが、咄嗟に彼女を庇い、受け止める。


「ぐあぁ!」まだ再生が終わっておらず、骨に響く。


「大丈夫?!」


「あと数秒で全開だが……このまま終われない!!」と、ケビンは短剣を取り出し、自分の心臓に突き立てる。それと同時に全身から真っ赤な呪いがオーラとなって吹き上がり、目が真っ赤に染まる。


「呪術同士を噛み合わせた自己強化か。吸血鬼本来の力を更に引き上げた、我らだけに出来る技だ」と、ケビンの身体に起きた事を一瞬で見抜くバハムント。


 ケビンは何も言わず、石床を蹴り砕きながら跳躍して襲い掛かり、大剣を細剣の様に振るう。


 バハムントは鼻で笑いながら2本指でそれを次々と受け流す。


「例え身体を強化しても、技が同じなら見切るのは容易い。それに、お前の太刀筋は世間では通用しても、我には無力だ」


「だが、これならどうだ!」と、大剣の一撃を受け流されると同時に一瞬、両手を離して手刀を突き入れる。それと同時に自分の体内で暴れる呪術を注入する。これはケビンが編み出したモノであった。


「ぬっ!!?」急な体内の変化に狼狽し、咄嗟に距離を取るバハムント。


「こいつぁ効いたか?」と、宙を舞っていた大剣を取り、更に横一閃で薙ぎ払い、バハムントを真っ二つに斬り裂く。


 彼の胴体は下半身を残して床に転がり、そのまま動かなくなった。


「どうだ……80年前とは違うだろ?」


「……温いな」バハムントは上半身だけでムクリと起き上る。「先ほどの光は良かった。我を焼き尽くし、呪いを解き、打倒そうという意志があった。だが、これはダメだ。我が体内の呪いと、お前の半端な呪いを喧嘩させようと思ったのだろう? そんな温い戦法では、我を滅ぼす事は出来ん」と、斬り口から真っ黒な霧が勢いよく吹き上がる。それがケビンらの視界を塞ぐ。


「んぐ! 目が……」霧に触れた眼球が真っ黒に染まり、激痛と共に視力を奪う。アリシアは直ぐに光魔法で洗い落としたが、視力が回復するには時間がかかった。ケビンも同様に視力を奪われ、父親の気配を耳と鼻で探った。


 霧が晴れると、バハムントは元の姿に戻っていた。が、両腕両足は大型蜥蜴の様に鱗で包まれ、爪は刀剣の様に鋭く光っていた。


「お前程度ならこれで十分か」と、大きく振りかぶり、ケビンを斬り裂く。彼の胸は3つに胸骨ごと斬り裂かれ、血と腸が勢いよく飛び出る。


「ぐぶぉあ!!」堪らず前のめりになり吐血をすると同時に、彼の目にバハムントの2本指が突き刺さり、頭蓋骨を貫通する。そのまま更に蹴りが見舞われ、ケビンの左腕と下半身がすっ飛び、壁が真っ赤な染みで汚れる。


「ケビィィィィィィィン!!!!!」アリシアは一瞬で起きた出来事に仰天し、悲しむ間もなく弓を番え、連続で放つ。その矢は今迄の解呪の矢ではなく、光を纏った熱貫通矢であった。


 その矢は全てバハムントの顔や胸に命中して貫通し、焼き尽くしたが、全く怯む様子がなかった。


「安心しろ小娘。こんな無様な姿に成り果てようと、すぐに再生する。だが、この愚息には教育してやらねばな……我を失望させたらどうなるか……そして、そろそろ諦めるんだな。我を殺す事は出来ん!」と、残った上半身を地面に叩き付け、頭を踏み潰す。


「ケビン!!!! うわぁああああああ!!」例え再生しても、虫けらの様に潰された彼を見て、アリシアは取り乱さずにはいられなかった。


 だが、それと同時に眼前のバハムントには敵わないと言う絶望にも襲われ、もはや彼女は万策尽きた小娘同様に弱り果てていた。


「さて、ヴェリディクト。いい余興だった。明日の食事の準備を……」と、踵を返した瞬間、彼の胸に大剣の刃が生えた。その一撃は彼の心臓を貫いていた。


「どんなに呪術が強力で、お前が強かろうとも……油断の前にはどうする事も出来まい……」ケビンの残った右腕には大剣が握られていた。


「……心臓を貫いたところで、殺せはせん」


「だが、長時間刺されたなら……そう、80年前の俺の様に封印は出来るだろう? このまま眠りについて貰うぞ、オヤジぃぃぃ!!!」と、握った手に力を籠め、抉る。すると、唯一の弱点とも呼べるバハムントの心臓は衝撃で弾け飛んだ。


「ぐぶぉあ!!!」堪らず爆ぜた様に吐血し、ここで初めて彼の膝が崩れる。

如何でしたか?


次回もお楽しみに!

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