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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第一章 光の狩人と愉快な仲間たち
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29.ラスティー・ザ・スパイ

ようこそ!

では、ごゆっくりどうぞ。

 時は少し戻り、ここはパレリア城の牢獄。ラスティーは守衛に引きずられ、ここに閉じ込められていた。


 しばらくして目が覚め、余裕たっぷりに大きな欠伸をする。身体の具合と装備の有無を確かめ、ニヤリと笑う。


「荷物と装備一式は取り上げられたようだが、煙草とライターはそのままか……」


 煙草を取り出し、一服つこうとすると、隣の囚人が檻越しに物欲しそうな眼差しを送ってきた。


「……なぁ、1本やるから、これからここで起きる事について、目を瞑ってくれるか?」


 手の中の煙草をチラつかせながら囚人に意地悪な顔を向ける。相手は何度も頷き、両手を差し出した。


 ラスティーは1本手渡し、火を点けて「頼むぞ」と、肩を叩いた。


「さて、ここは魔封じ仕様で頑強……中々いい仕事をしているな……だが」


 ラスティーは煙草をもう1本取り出し、解した。すると、中から太目の針金が出てくる。さらに靴の中からもう1本、アイスピックの様な金属棒を取り出し、鍵穴に挿し込む。


「錠前に金がかかってないな。俺くらいになると数秒で……」と、言う間にガチャリと音が鳴り、錆びついた音と共に檻が開く。


 ラスティーは忍び足で出ると、煙草を落とした囚人が彼の腕を握った。


「お、おれも……」


「俺が戻ってくるまで待っていろ。もし、それまで大人しくしていたら、出してやる」


「や、約束だぞ!」


 ラスティーは彼の腕を振りほどき、静かで素早い足取りで看守部屋に忍び込み、そこで事務仕事をしていた看守を気絶させる。制服を剥ぎ取り、代わりに自分の服を着せ、牢の中に転がして鍵をかける。


「うっし、いくかね」




 城内の執務室で大臣が何やら手紙を書き、蝋印で封をする。


「あなたも悪い人ですね。この国を売るとは」


 窓際で黒いフードを被った女が腕を組みながら宵闇の向こうのコロシアムの光を眺めながら口にする。


「売れと仰ったのは、貴女でしょう?」


「私はただの雇われの身ですので」黒フードの女は彼から封筒を受け取り、懐に仕舞った。


「ならわかった様な口を訊くな」


「はいはい。しかし、いい話ですね。次の戦争でワザと負けるだけで、この国は実質あなたの物になるわけだ」


「まだ決まったワケではないがな。お前の主人は約束を破らんだろうな?」


「えぇ勿論。金払いもいい。だから私はあの人の下で働いているわけで……」




「なるほど……」隣の部屋で資料を漁っていたラスティーが聞き耳を立てる。大臣と使いの密談に聞き入りながらも卓上の資料や手紙、走り書きにまで目を通し、全て頭の中に叩き込んでいく。


「マフィア時代に培った技が役に立つなぁ~。しっかしこの国の大臣は中々の陰謀家さん……いや、その陰で動くヤツがヤバそうだ。誰なんだ? 使いの主人ってやつぁ……」


 すると、資料室の扉がゆっくりと開く。


「いや、すいません。ウチの看守長がここで今日捕まえたヤツの素性を詳しく調べろと……」ラスティーは相手に目も向けず、自然に演技をした。


「王子……? 大きくなられましたな」


 このセリフを耳にした瞬間、ラスティーは資料から顔を上げ、相手の顔を見た。


「ブルース……ブルースさんですか?!」


 この目の前の守衛はラスティーの仲間、正確にはジェイソン・ランペリアス2世である父親の家臣の一人だった。


「少し荒々しく城内へ招待しましたが、まさか牢を破りここまで来るとは……成長しましたな!」


「俺の事を大臣にチクったのは貴方でしたか。確かに荒々しい」


 ブルースは足早に駆け寄り、まず跪いて彼の右手に口を付けた。


「期待した以上にご立派になられて……嬉しいですぞ!」


「12年ぶりだけあって、あなたは老けましたね」


「えぇ、あなたのお父上にだいぶ振り回されましたからな」


「……で、父さんは……新聞の通りに亡くなられたのか? それとも……」


「えぇ……お亡くなりになられました。それも3年前に」


「なに?!!」 ラスティーは目を剥いて仰天した。


「声が大きいですぞ。王は、3年前に無理が祟り、病に蝕まれ……亡くなる前の言伝で『我が死を聞けば息子が飛んでくるだろう。こちらの準備が整うまで死したことは伏せておけ』と……」


「そうか……では、準備が整っている、と?」


「はい。この大陸の最南端に位置する国『バルジャス』にて、この15年でかき集めた戦士約10000が王子を待っておられます」



「いちまん?!」



「声が大きいですぞ。その殆どは傭兵、国亡き者達ばかりでまとまりはイマイチですが、王子のカリスマ、人を纏め上げる力、統率力があれば!」


「統率力、かぁ……俺でいいのか?」


 ブルースはラスティー、ジェイソン・ランペリアス3世の顔を見て、確信に満ちた目を向けた。


「王子ならできます! 我が目に狂いはありません!!」


「声が大きいぞ」




 ブルースは資料室を後にし、持ち場へ戻っていった。


 ラスティーは彼もいっしょに来るようにと頼んだが、自分はもう歳で足手纏いになると口にして断った。代わりに彼の息子がマーナミーナで待っていると、自分はここで情報収集を続け、逐一報告すると約束し、自分が持っている情報を手渡して頭を下げた。


「あいつ、別れた時は5歳だったか。元気にしているかな?」


 手渡された書類と盗み取った資料を鞄に入れ、資料室を後にする。


 すると、廊下の奥を歩くローブの女性、隣の部屋にいた使いを目にし、静かに歩み寄った。


「ヤツの正体が知りたいぞ、と」ローブの紋章、フードの形、歩き方などを見てどこの国出身かを予想するも、情報が足りない事に苛立つ。


 ラスティーは思い切って駆け寄り、彼女の前に立った。


「どちらへ向かわれるのです?」自信たっぷりの声色で看守になりきる。


「……そういう貴方こそ、ここは持ち場ではないんじゃない?」


「看守長から使いを頼まれまして。で、そちらはお客人が入れる場ではありませんが?」彼女の向かう先は王の間だった。


「大臣からの許可は得ています」


「……それは失礼しました」


 ラスティーは首を垂れ、彼女を見送った。


「……グレイスタンからの使い、か……」彼は彼女の胸にかかるペンダントを見て判断し、満足げに笑った。


「さて、もう少し漁ってから牢に戻るか」




 ラスティーはその後、大臣が後にした執務室、軍議会場、さらに王の間にまで忍び込み、有益な情報を嗅ぎまわった。彼の足取りはごく自然であり、足音を自在に使い分けているため、例え衛兵の目に入っても不審がられず、彼は自由に城内を歩き回った。


「コロシアムの試合がもうすぐ終わる頃か……城の兵が戻ってくるな……」兵たちの3分の2はコロシアムで観戦していた。もし、皆が戻って来ればラスティーも怪しまれてしまうだろう。


 彼は足早に牢獄へ戻り、未だに気絶している看守に服を戻し、部屋に寝かせる。自分の装備を取り戻し、最後に世話になった囚人を出してやる。


「お前はなんで捕まったんだ?」1000ゼルの金と煙草を渡す。


「俺はポポス村の村長の使いだが、大臣の話を聞いているのを見つかってここに……」


「その話の内容は?」


 彼が言うには、大臣はバルジャスという国から来た軍師と密談しており、それを立ち聞きしただけだと言う。話の内容は難しくて理解できず、覚えてもいないが、明日、処刑されると口にし涙ぐんだ。


「そうか。ありがとよ」ラスティーは深くお辞儀して彼を城の裏から逃がした。


「どうやら、次の戦争で大きく動くみたいだな……」




「ってわけ。ていうか何で俺が殴られなきゃいけないんだよ!!」


 ラスティーは脳天のたん瘤を摩り、エレンの膨れ面に目を向けた。


「と、いう事は……大臣は立派な売国奴という事だな」


 ロザリアは目を光らせ、大剣を握った。


「許せん……」


 そんな彼女を見てラスティーは慌てた様に彼女の前に立った。


「待ってくれ! なぁ……俺に賭けてみないか?」


「なに?」


「俺たちは魔王討伐を目指して旅をしている。その目的の為には膨大な軍事力って奴が必要なんだ。で、俺はこの国……いや、あらゆる国を利用してその軍事力を、力を手に入れるつもりだ」


「そんなに上手くいくんですか?」エレンが口にすると、ラスティーは拳を握った。


「やらなきゃ! もう後戻りできないところまで来ているんだ」


「……で、貴方の策は?」


「まず、大臣の思惑通りに事を運ばせておいてくれ。俺たちは情報をかき集めながらマーナミーナを目指し、10000の兵を引き連れて、戦争が始まる前に戻ってくる。そして……」


「加勢してくれるのか?」


「いいや、大臣を……いいや、裏に隠れている陰謀家を暴く。そして戦争を止めてみせよう!」ラスティーは胸を張り、どんと叩いた。


「……そんな事、できるのか?」


「俺は元マフィアなんだ。策士をハメるのは初めてじゃあない」自信たっぷりの笑みを見せる。


「ふぅむ……」


「で、話が変わるがエレン。頼みがある」


「なんでしょう?」


「明日の朝早くにボルコニアのバースマウンテンに……アリシア達を追ってくれ!」


「なぜです?」


「ヴレイズが心配なんだ……俺が掴んだ情報によると、今そこにはあいつの仇、ベリディクト・デュバリアスがいる!!」

如何でしたか?


次回は久々にアリシア&ヴレイズのお話です。


ではまた!

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