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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第三章 光の使者と闇の息子
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99.戦いと嵐

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

「くだらない策を使うんだなぁ……」ローズは呆れた様にため息を吐く。彼女は診療室でエレンから仕上げの治療魔法を施して貰っていた。


「そんな策にやられる相手も相手ですが。まぁ、コレに関しては薬をすり替えたディメンズさんの手腕が凄いってのもありますね」と、ローズの脛を摩り、骨に問題はないか確認する。彼女の回復魔法は時間がかかるが、その分、完璧に治すことが出来た。


「あのオッサンの仕事なら間違いないね。魔王軍が手を焼くプロだからね……」


「その手の世界では有名みたいですね」と、彼の渋い笑顔を思い出す。


「なにせ、エリック・ヴァンガードの最初の相棒だった男だからね。ナイアさんよりも付き合いが長いとか……」


「エリック・ヴァンガード……ラスティーさんがよく話しているお方ですね。魔王から国民を守った本物の英雄だとか」と、彼の話を思い出しながら口にする。因みにエリックの話が出てくるのは、決まってセラピーであった。


「で、アタシはもうここから出てもいいのかな?」ローズは意気揚々とベッドから起き上がり、身体の調子を確かめる様に準備運動を始める。


「えぇ。その代り、戴冠式が終わるまで見張りが付きますけどね」


「わかってるよ……」と、うんざりした様な声を漏らしながら背後でにやけるキャメロンを忌々しく睨んだ。




 ディメンズは集めた手掛かりを元に、ラスティーから預かった兵を引き連れて、世界の影の潜伏場所である廃村へと向かっていた。


「やはり軍団長が消え、兵力が減って余裕がなくなれば、それ相応の隙が生まれるってね。あいつは良く分かっているな」と、異臭のする現場へと向かい、鼻をつまむ。


 そこには嘔吐と下痢で動けなくなった世界の影たちがもがき呻きながら転がっていた。


「……こういう光景を見ると、なんだかやり過ぎた気が……いいや、そんな事はねぇか」と、連れてきた兵たちに小声で彼らの拘束を命じる。その際、奥歯の毒で自決されない様に猿轡を噛ませるように注意し、拘束の際はピッキング不可能の手錠を使わせた。


 世界の影たちは拘束される際に、自決する事も忘れて、解毒剤か整腸剤を求めた。更に、この苦しみから救ってくれたら、なんでも情報を吐くと泣きながら約束した。


「全く、恐ろしい魔法医さんだ……」


 すると、そこへ凄まじい圧縮風圧波が飛んできて、中央広場に着弾する。あばら家が吹き飛び、大地が割れ、衝撃波が駆け抜ける。転がりもがき苦しんでいた世界の影たちは腸を吐き出して血みどろになり、半数以上が絶命する。


 ディメンズたちは咄嗟に魔障壁を展開し、辛うじて身を守る。ラスティーの兵たちは訓練と実戦を繰り返し錬度が高く、咄嗟の攻撃に対応できた。


 が、それでも衝撃波は凄まじく、魔障壁が歪んで消し飛び、兵たちは吹き飛ばされてしまう。ディメンズは受け流す様にスルリと宙返りをしながら、背負った大型ボウガンを殺気の向こう側へと放つ。


「流石はディメンズ。狙いは正確だな」額の数ミリ先で矢を止めたブリザルドが姿を現す。地面に転がる世界の影たちを睨み、息のある者にトドメを刺す様に圧縮竜巻砲で粉微塵にする。


「貴様……」


「本来は奥歯で自決するところだ。骸も残さないのだから感謝して欲しいね」と、次々と仲間である筈の者を次々と消し飛ばす。


「だが、軍団長は俺らの手に落ち、入国した実戦部隊はもう殆ど壊滅した。更に、こっちには賢者が3人もいる。賢者崩れのお前ひとりでは、どうにもならないぞ?」と、冷静に口にしながら煙草を咥えるディメンズ。


「確かにそうだな……だが、最後に笑うのはこの私である事に変わりはない。先の読めないお前らでは、この私を捕まえる事はできない」と、世界の影の者達を皆殺しにして証拠を隠滅し、ブリザルドは大人しく引き下がった。


「……ま、ここでやり合う理由は無いわな……お前ら、大丈夫か?」と、吹き飛ばされて鼻血を垂らす兵たちに声をかける。彼らは魔障壁のお陰で命に別状はなかったが、エレンの治療を必要とするモノが半数いた。


「賢者を相手にその程度で済むのは、中々の錬度だ。いい兵だな。さて、あのブリザルドの上を行けるか……いや、向かうべきはあいつの上ではないな」と、ディメンズは煙を吐きながらニヤリと笑った。




 その頃、グロリアはひとりグレイスタン城下町の門前まで迫っていた。仲間の殆どはダウンし、残ったのは運よく彼女だけとなっていた。


「くそぉ……ラスティーめ……ローズめ!」一番の仇敵であるローズへ殺気を向け、鼻息を荒くさせる。


 すると、彼女の背後にひとりの影が立つ。その者は、劇薬を必要とせず投薬せずに指示を待っていた男であった。ジャレッドと言う男の遺伝子情報を持ち、あらゆる戦闘データで学習し、戦闘技術のプロとなった殺し屋であった。ブロンと呼ばれていた。


「本部から撤退命令が下った」


「それがどうしたの?」殺気の籠った鋭い目つきで睨み付ける。


「本部の命令だぞ」彼女の殺気を受け、少し痒そうに表情を歪める。


「だから? せめて私は、私の目的を果たすつもりよ!!」と、全身に稲光を纏い、邪魔する者は殺すと言いたげに声を荒げる。


「……本部の」と、言いかけた瞬間、グロリアの鋭い拳が眼前に迫り、それを受け止める。そこに籠った殺気が彼に流れ込み、また表情を歪める。


「邪魔をするなら貴様から殺すぞ!!」と、鬼面を向ける。


 すると、ブロンは顔をクシャクシャにさせながら唸る。しばらくして目をカッと開き、気配をガラリと変える。先ほどまでは無感情な男であったが、今はまるで好敵手を目の前にした大型獣の様な獣気を上げていた。



「なら、好きにしろ」



 ブロンは急に生気が戻った様な表情となり、鬼面毒笑を向ける。


「え……?」こんな彼を見たのが初めてだったのか、グロリアは冷や水を掛けられた様に狼狽する。


「い~い殺気じゃねぇか……それを無駄にすることはない! 思う存分、暴れてこい!」ブロンは急に目をギラギラさせた。力の抜けた身体には熱気が籠り、蒸気を上げて膨張し、普段の彼の1.5倍増しに大きくなる。


「な、貴方……何者?」


「さぁな……俺の中の何かが……そう言っている」と、ブロンは彼女の前に出て両腕を握り込む。


すると、鋼でも詰まっているかの様に膨れ上がり、蒸気と殺気が吹き上がる。


「何をする気?」グロリアはつい声を震わせる。


「そのローズには強ぇ仲間がいるんだろ? そいつは俺に喰わせろ」


「は、はい……」と、彼女は調子を狂わせながら首を傾げ、城門を潜り、気配を消した。




 ブリザルドは国境付近まで飛び、空中で急停止する。腕を組み、ローブを靡かせながら誰かを待つ。彼の予想通り、何者かが飛来し、回り込んでくる。


「逃がしませんよ!」その者は現風の賢者ミラであった。彼女は今迄ずっとブリザルドの気配を探り続けていた。


「くくく……逃げるつもりはない、お前をわざわざここへ呼んだのだ。そして、ここに呼んだ理由は……あの2人の賢者に邪魔をされたくないからだ」と、静かなる魔力を、天空を貫く竜巻のように噴き上げる。彼特有の魔力の高め方であった。


「それはありがたい。私もあの方らに邪魔をされたくなかったからな!」と、同じように魔力を高め、殺気を込める。


 この場所は近くに村も集落もなく、半径5キロ程、動物程度しかいない荒野であった。


「暇つぶしには丁度いい……存分にやらせてもらうぞ!」と、口にした瞬間、周囲の風の流れがピタリと止まる。


 同時に2人の間に高密度な空気の塊が現れ、拮抗する様に周囲の風を吸収していく。しばらくして空気が炸裂し、周囲に鋭いカマイタチが撒き散らされる。大地が斬撃で抉れ、破片が弾丸の様に飛び散る。


 彼らの周囲の風がビリビリと緊張する様に音が鳴り、2人の戦いに応える様に暗雲が立ち込める。


「貴方を倒し、ククリスへ連行する!」


「殺す気で来なければ、私は倒せんぞ?」


如何でしたか?


次回もお楽しみに!

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