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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第三章 光の使者と闇の息子
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83.スパイ! ローズ&キャメロン

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ!

 ロザリアに武具を提供したワルベルトは、次に大きめのケースを手にし、診療所へと向かった。


 現在、エレンが現場責任者として務めるそこは大きく発展し、魔法医が10人以上で働いていた。現在はリンが副責任者として指揮を執り、毎夜、勉強会を行っていた。


「お邪魔しやす。リンってぇ魔法医さんはいらっしゃいやすか?」と、胡散臭い笑顔で診療所内を練り歩く。


「はい? どなたですか?」と、手を拭ってマスクを取りながら現れる。


 ワルベルトは馴れた様に自己紹介をし、早速ケースを机の上に出して開く。


 その中には、様々な薬剤が仕舞われていた。その全てに淡い魔力が仕込まれていた。


「これは?」薬の入った小袋を摘み上げるリン。


「そいつは魔王の元で働く魔法医、ホワイティ―・バールマンが調合したっていう魔法薬でやす」


「……え゛ぇ!! あのかの有名な!!」と、目を剥いて仰天する。


 ホワイティ―・バールマンとは、呪術と水を組み合わせて様々なヒールウォーターや治療薬を開発し、解毒や解呪に長けた技術を持った魔法医であった。その腕は超一流であり、身体の8割を失った戦士の命を助け、脳死した者を蘇らせた、という伝説を持っていた。


「こいつはサンプルでしてね。万能解毒薬に、回復剤や精神安定剤、解呪剤など様々。どうでやしょう? こいつを教材に勉強してみては」


「わぁ! って……御代は?」と、我に返ったリンは伸ばした手を引っ込め、訝し気に眉を顰める。


「大丈夫、代金は既にラスティーからいただいてやす」


「本当ですか! じゃあ遠慮なく!」と、リンは無邪気な笑顔でケースを抱え込む。



「何を企んでいるんだよ、ワルベルト」



 いつの間にか彼らの背後に立っていたエディが目を光らせる。


「あっしはただ、商売をしにここへ来てるんでやすよ」


「あんたは各国に武器を横流しして、引っ掻き回しているって聞いているが……薬にも手を出しているのか?」エディはリンが手にした薬剤を取り上げ、目を細める。


「戦争になれば、なんだって武器となりえやすよ。上手く転がしゃ、国の行く末を左右させることだってできやす。マーナミーナを見たでしょう?」と、毒笑する。


 マーナミーナ国は革命を成し遂げ、王を追放させることに成功していた。そこにはワルベルトが武器と革命軍を転がし、ラスティーが王と裏取引をしたという事実が隠れていた。現在、マーナミーナ王は東大陸へ逃亡し、身を隠していた。


「おっそろしいオッサンだなぁ……あんたは。ウチの軍もどうにかしようって企んでいるのか?」


「あんたは足元ばかりを見ている人でしたかねぇ? もっと先を観察した方がいいでやすよ?」


「それはラスティーの役割だ。俺の仕事は、軍を纏め管理するのが仕事だ! 本来はな……」と、疲れが頭に回ったのか、くらりと揺れる。


「今はそのラスティーの役割も務めているんでしょう?」ワルベルトは意地悪気に口にする。


「……帰ってくるまではな。リンさん、何か疲れに効く薬を2人分頼む」


「あぁ、それならこいつが効きやすよ?」と、ケースから薬の入った小袋を取り出す。


「そいつはいらない……リンさん、早くぅ!」エディは呆れた様に首を振り、ため息を吐いた。




 グレイスタン城、地下牢では四六時中、兵がエリアを見て周っていた。牢には城下で悪さを働いた者が多く囚われていた。


 通常、囚人はひとつの牢に6人ほど詰め込まれていたが、キャメロン達は城内に侵入した罪人としてひとりひとり特別な造りの牢に閉じ込められていた。魔封じの手枷で魔力を封じ込められ、牢は頑丈で鍵も特別製であった。


「さぁて……」ローズは見回りの兵がフロアから出たのを確認し、髪の中から細く小さな鍵束を取り出す。それを手の中で踊らせ、あっという間に扉を開ける。


「お、動くの?」その動きに気付いたキャメロンはムクリと起き上る。


「まぁね。で? あんたはどうするの? 目を離さないんでしょう?」


「もちろん」と、キャメロンは自分の手の親指の関節を引っこ抜き、魔封じの枷から抜ける。指先に火を灯して鍵穴に突っ込んで弾けさせ、強引に開錠する。関節を嵌めながらローズの隣に立ってニヤリと笑う。


「鬱陶しい奴ね……」と、ローズも彼女と同じように枷を外して床に捨てる。


「こっちも仕事なんでね」



「ちょっとぉ!! 俺たちも出してよぉ!!」



 スワートは牢に齧りつき、声を荒げた。元々、ローズの任務はスワートの護衛であった。


「あんたはそこでお留守番よ。ま、自分の事がわかっていない奴はお邪魔虫だから好都合よ。じゃあね」と、ローズは軽やかに扉の向こうへと向かった。


「そりゃないよ!! なぁ、あんた! 俺らを出してくれよ!」と、今度はキャメロンに問いかける。


「あんたはあたしのボスじゃないもんね~」キャメロンは歯を剥きだして笑い、ローズ後を追った。


「くそぉ!! 何のためにこの国に来たんだよぉ!! くそぉ!!」スワートは地団太を踏み、唸り散らす。


「……ま、これもいい経験だな。スワート、しばらくここで頭を冷やすんだな」トレイは冷静に口にしながら牢内にあるボロベッドの上で転がる。


「なんだよ、頭を冷やせって? どういう意味だよ?!」


「……ひと眠りしたら教えてやるよ」と、入国してから散々スワートに振り回されていたトレイは、欠伸ひとつの後に寝息を立てはじめた。


「おい……トレイ? おーい! 寝るな!!」




 深夜の城内は見回りが多く、更に戴冠式前という事で、警備は2人1組で行動し、更に風の探索魔法で全フロアを警戒していた。


「さてさて、久々の古巣ね」と、ローズは物陰でほくそ笑む。彼女は1年半ほど前、この国で潜伏し、王代理として君臨していたブリザルドの補佐をしていた。彼女は城内の構造を全て知りつくしており、警備も知らない裏道や秘密の部屋、からくりなども熟知していた。


「何笑ってんの?」ローズの背後を取り、目を光らせるキャメロン。


「別に。てか、あんたがいると見つかるんだけど?」ローズは風の探知から逃れる雷魔法を身に纏ってかく乱していた。が、すぐ後ろにキャメロンがいると発見される事は明確であった。


「じゃあそのかく乱魔法をあたしにもかけてよ。そうすれば見つからない」


「あんた、邪魔だからどっかいってよ」


「ボスの命令で、そういうわけにはいかないなぁ~」と、意地悪気な顔を覗かせる。


「ちっ……邪魔はしないでよ」と、彼女にかく乱魔法をかける。


「うわっなんか肌がパチパチして痺れるんだけど」


「あんた、喧しいわね……」と、ローズは警備の視線を読む様に角から物陰へと移動し、滑る様に各部屋を回り、あっという間に玉座の間へと侵入する。


 キャメロンは彼女の歩法を真似て音を立てずに付いて回る。


「あんた、中々やるね」ローズは感心した様に唸る。


「もちろん、プロですから」


「浸ってんじゃないよ……」と、玉座のさらに奥へと向かい、王の執務室へと鍵を開けて入る。丁寧に施錠し、本棚を弄る。


 すると、本棚が音も立てずに開き、隠し扉が姿を現す。


「うわ、あからさま……」キャメロンが呆れた様に口にする。


「ブリザルドが使っていた秘密の部屋よ。あいつはこういう無駄に凝ったのが好きだったなぁ……今、何やってるんだろ」と、昔を懐かしむ様に口にする。


「で、ここで何をするの?」


「わざわざあんたに教える訳がないでしょう」と、ローズは彼女に構わず隠し扉を開き、キャメロンを締め出すつもりか、素早く本棚の仕掛けを閉じる。


 しかし、彼女も素早く侵入しており、ローズよりも早く隠し部屋の物色を始める。


「なぁんだ、何もないじゃない」と、埃を払いながら引き出しを下から引いて中身を調べる。


「流石に城内の連中もここを見つけて全部回収したみたいね」と、ため息を吐く。因みにこの部屋の存在に気付き、探る様にアドバイスをしたのはラスティーであった。


「じゃあ、こんな部屋に入らなくても良かったんじゃない?」


「いやいや、ブリザルドも抜け目のないヤツだったし……」と、机を退かし、床に隠されたスイッチを押す。


 すると、小さな収納スペースが現れ、手紙束が現れる。


「やっぱりね」と、ローズは枚数と中身を素早く確認する。


「それはなに?」


「だから教えないって!」と、懐へ仕舞い、隠しスペースを閉じる。


「ま、これと同じ『世界の影』関係の文章なんでしょうけど」と、キャメロンは一枚の封筒をチラリと見せる。


「!! それをどこで!!」ローズは彼女からそれを奪おうと雷速で奪いにかかったが、彼女はそれよりも素早く身を翻す。


「別の隠し引き戸から……バルバロンにいた時、あたしも似た様な部屋を探索した事があってね」


「返しなさい!!」


「返せって、元々これはあんたのじゃないでしょう?」と、呷る様に封筒をひらひらさせる。


「う~わ、何コイツ! 憎たらしいヤツ! ここから出たら殺してやるから覚悟しなよ!」と、ローズは額に血管を浮き上がらせながら鼻息を荒げる。


「楽しみにしてるよ」と、封筒を懐に仕舞い、得意げな顔で笑った。

如何でしたか?


次回もお楽しみに!

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