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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第三章 光の使者と闇の息子
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75.VSヴェリディクト

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 ヴェリディクトはフレインを炎の玉に閉じ込めたままレストランを出て、街の外側まで歩く。その途上、町民たちから沢山の挨拶を受け取り、ひとりひとり丁寧に挨拶を返す。


 そんな彼の後ろをヴレイズは何もできずに付いて行った。いつでも彼の背後、首を狙う事が出来たが、返り討ちにされる自分が脳裏に浮かび唾を飲み込む。


「無理をせず、リラックスしたまえ」そんな彼の心中を見透かした様にヴェリディクトは優しく声を掛ける。


「……っ……」何も答えられず、ただ冷や汗を味わうヴレイズ。


 街から500メートルほど離れた場所で彼は立ち止まり、周囲を見回す。草木一本生えていない平らな荒野だった。


「たまに、私に挑戦しにくる強者がいてね。そういった者はここで会い手をしている。街を散らかしたくないのでね」と、炎の玉をヴレイズの隣へふわりと飛ばし、シャボン玉の様に弾けさせる。火花が飛び散り、中から勢いよくフレインが飛び出てくる。虚空を拳が空振りし、その場で転びそうになるもすぐさま態勢を立て直す。


「ん?! んん?! ここは?!」閉じ込められた記憶が無いのか、狼狽しながら周囲を見回す。


「落ち着けフレイン」


「ヴレイズ!? ここはどこ?!」と、彼から説明を受け、顔を真っ赤にして目を尖らせる。


「つまり何か?! あんたはあたしが火の玉に閉じ込められていたのを指を咥えて眺めていたって事?!」


「情けない話だが、そうだ……」


「本当に情けな……って、ここで喧嘩をしている場合じゃないね! ヴレイズ、作戦通りいくよ!」と、彼女は背に隠した短刀の柄を確認し、ヴレイズの表情を覗く。


 彼の表情は暗く淀み、完全に戦意喪失寸前になっていた。


「ヴレイズ!」叩き起こす様に背中を思い切り張るフレイン。


「あぁ……わかっている!」と、2人は全身に炎を纏い、魔力循環を高速化させる。


「ふぅむ……予想以上だな」ヴェリディクトは目を光らせ、不敵に笑った。




 2人は左右に分かれ、タイミングをずらして襲い掛かる。ヴレイズは炎の幻影をいくつも飛ばし、フレインは鋭い火炎弾を放つ。


 そんな牽制打をヴェリディクトは手をフッと動かしただけで消し飛ばし、一瞬で彼らの背後へと回り込む。


 その動きを読んでいた2人は、着地先で同時に地面を蹴り、上空へと飛ぶ。それと同時にヴェリディクトの足元が激しい火炎爆発を起こす。これは襲い掛かる前にヴレイズが仕込んだ罠であった。


 爆炎に包まれたヴェリディクトへ向かって2人は火炎弾を連射し、ダメ押しに火炎熱線を放つ。着弾すると同時に彼らの前方数十メートルが火炎地獄となる。


 2人が着地した瞬間、ダメ押しと言わんばかりに火炎地獄から巨大な火柱が立ち、彼らのいるフィールドの空を赤々と染め上げる。


 が、黒煙と炎が爆炎の中心へと吸い込まれ、あっという間に鎮火する。


ヴェリディクトは、傷はおろか汚れひとつ付かずにその場に立っていた。手の中にはヴレイズ達の放った炎が小さな玉となって浮いていた。


「あの時の10倍以上の火力だ。それにボルコン嬢も、それに負けない程……素晴らしいな。で、復習はしてきたのかな?」と、手の中の火球をヴレイズに向かって投げる。


 ヴレイズはそれを片手で受け止める。と、同時に火球が凄まじい勢いで膨張する。まるで太陽の様に膨らんだそれはヴレイズとフレインを飲み込まんとゆっくりと前進した。その熱量、威力は1万の軍隊を一瞬で消し炭にする程であった。


 そんな大火球をヴレイズは両手で受け、一息気合を入れると同時に両腕で火炎を吸収し、あっという間に火球を小さく縮小する。あっという間に火花に成り果てる。


「もちろんだ」ヴレイズは得意げに微笑を浮かべ、両腕を腰の横に置いて構える。


「素晴らしい……あの頃のガイゼルとヴォルカを思い出す……そう、丁度ここだな」と、ネクタイを締め直しながら口にする。


「……フレイン、挑発に乗るなよ」


「わかっている」フレインは深い溜息と共に奥歯を噛みしめる。


「あの頃の2人は、君たちと同じく何の勝算もないまま私に戦いを挑んだ。が、そこの所は大丈夫なのかな? 勝算はあるかな?」と、小首を傾げる。


「あぁ、あるさ」ヴレイズは頭の中で、どうフレインをサポートするか考える。


「きっと気に入るよ」と、フレインはヴェリディクトのどこを刺すか考える。


 すると、ヴェリディクトは目を瞑り、何かを嗅ぐ様に鼻を動かす。


「……この香りは500年以上前の封魔の呪術だな。鉄の香りもするから、短刀にでも仕込んであるのだろう。体重のかけ方から見て、ボルコン嬢が所持していると見える。それが君たちの切り札かな?」彼は全てを見透かし、怪しく瞳を光らせる。


「な……っ!」全てを見透かされ、心底仰天するヴレイズとフレイン。


「その様子は当たりかな? さて、それが果たして私に通用するかどうか……それを試すかな?」ヴェリディクトは全く構える様子を見せず、胸を張る。


「いいじゃん……やってやろうじゃん!」と、フレインはズイッと前に出て構える。彼女の背には短刀が抜き身で備わり、ヴレイズはそれをこっそりと取って背に仕舞う。


 それを合図にフレインは前に出て拳の乱打を繰り出す。


 ヴレイズは脇から高速で入り込み、赤熱拳を連続で繰り出す。


 ヴェリディクトはそれを涼しい表情でその場から一歩も動かず、受け流す。


 すると、フレインは背中からもう1本のナイフを取り出し、ヴェリディクトの首を狙って振り下ろす。


 それを予想していたようにヴェリディクトは指2本で受け止める。


「即席の子供だましか」と、次の一手を読んでいたのかヴレイズの攻撃を潰す様に足を払う。


「そう、その子供だましにお前は負けるんだ!」ヴェリディクトの注意がヴレイズに向いたと確信すると同時に、もう一本の短刀を光らせる。先ほどの乱打で再び封魔の短刀をヴレイズから密かに受け取っていたのだった。


 妖艶な銀が一閃し、ヴェリディクトの胸に深々と突き刺さる。それと同時に黒い靄が彼の身体へと浸透していく。


「いょしぃ!!」と、フレインとヴレイズはこれを機に体内の炎を爆発させ、彼の顔面を狙って拳を振るう。


 すると、ヴェリディクトの両手は初めてまともに動き、2人の首を掴み上げる。


「「んなぁ!!」」2人は仰天し、何が起こっているのか分からずに混乱する。



「で、次の一手はない、と?」



 ヴェリディクトはがっかりした様に漏らし、2人を10メートルほど遠くへ弾き飛ばす。


「な! 効いていないのか?」


「嘘でしょう?」


「古の呪術とは、教科書通りなら確かに強力な呪術だが、裏を返せばただの埃被った古い呪術だ。対策していればこんなものだ」悠々と胸に刺さったナイフを抜き取り、懐に仕舞う。


「心臓に突き刺した筈! 手応えも確かだったのに!」フレインは自分の手の感覚を疑うように睨み、歯茎を剥きだす。


「私の身体に施してある回復魔法は賢者らが使うそれとはレベルが違うのでね。いや、もはや回復魔法とは呼べない代物かもな」と、襟元を正す。彼の胸に空いたはずの傷は血の一滴も出ずに治り、ジャケットとワイシャツの穴まで塞がっていた。


「ぐっ……フレイン……どうする?」


「どうするって……やるしかないでしょ!」半ばヤケになったフレインは己の中の暴龍を解き放つ準備を始める。


「ん? ボルコン嬢、その技を乱用するのはやめておいた方がいい」更に彼女が何をするのか見抜いたのか、教師の様な口ぶりで注意をする。


「五月蠅い! お前の指図は受けない!!」と、目を赤々と光らせて喉の奥を発光させる。


「そうか……ヴォルカによく似ているな。人の忠告に耳を傾けようとしない。だが、あの時、殺したのは正解だったか」


「どういう意味? そんなにあたしを怒らせたいの!?!」


「いや、君の中の『呪い』があの時以上に強まっている。あのままヴォルカの身体で覚醒しても、不十分だっただろうが君の身体なら完全復活するだろうね」


「なんだ? 何の話だ? まさか、黒い炎の事か?」ヴレイズは彼女とヴェリディクトを交互に見ながら口にする。


「そう、バースマウンテン、否、西大陸最大の厄災が残した呪い……どうやら君の身体は復活に足りると言う事か……」


「お前がどんな戯言を吐こうともう遅い!! 殺してやる!!」フレインの中の何かが千切れ飛び、一瞬で相手との間合いが潰れる。


 彼女は暴龍宿しを発動させ、引き裂くような手の形で襲い掛かり、熱線を吐き散らす。


 ヴェリディクトは踊るようなステップで避ける。


 そんな戦いにヴレイズも飛び込み、相手の隙を誘うように攻撃を放つ。が、ヴェリディクトの掌が眼前に迫り、一瞬で火炎爆発が起こり彼を吹き飛ばす。


「少し、2人で踊らせてくれ」と、彼はフレインの目や表情、動きと魔力、熱量を観察し、楽しみながらステップを踏む。


 フレインは完全に理性を失い、化け物が如く暴れる。吐く熱線は大地を真っ二つにし、拳を振るうだけで熱風が吹き荒れる。


 しかしヴェリディクトはそれを楽しそうに観察し、紙一重で攻撃を躱す。


 少し経つと、フレインの炎が黒く染まっていき、咆哮と共に黒龍宿しが発動する。彼女を中心に黒炎の渦が巻き上がる。


「既に精神まで蝕まれていたか……ボルコン嬢は既に黒龍と取引をした様子だ」


 フレインは奥歯を噛みしめ、眼前の敵を食い尽くす勢いで襲い掛かる。


 が、その動きの前にヴェリディクトは彼女の間合いの内側へ入り込み、首を掴む。


「よし、もういいだろう」と、口にした瞬間、彼女の中の魔力暴走を強制的にストップさせる。


「ぐ……くっ、この……」フレインは彼の手を必死になって掴み、もがく。


「どうやら君は、一度死んで乗っ取られた様子だな。あと数回この技を使えば、黒龍が完全に復活するだろう。さて……」と、ヴレイズの方を見る。



「この娘を私に預けないか? ヴレイズ君」



「ぐっ……な、に?」吹き飛ばされた先でやっと起き上り、彼は表情を歪めた。

如何でしたか?


次回もお楽しみに!

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