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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第三章 光の使者と闇の息子
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72.迫りくる黒炎

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 次の日、意気揚々と町を出た2人は作戦を話し合いながら歩いていた。


 彼らが向かう方角は南のモールブン国のタラントシティという、ヴェリディクトの支配する町であった。


 この町の場所はフレインが父ガイゼルの手記を盗み読んでいたため、場所だけは知っていた。その手記には農業が盛んであり、平和な町であると書かれていた。


「だから、真正面から突っ込んでも勝てる訳がないだろ?」ヴレイズは呆れ顔で深い溜息を吐く。


 ヴレイズは一度、ヴェリディクトと交戦したため、相手が一筋縄ではいかない事は重々承知していた。例え、フレインがクラス4で自分と2人で戦っても勝てる自信は無かった。


「でも、付け入る隙は殆どないって言うじゃない! だったら2人で殴り込むのが一番でしょ?」フレインもヴレイズと同等の彼に関する情報を持っていた。


 ヴェリディクトは常に紳士的であり、丁寧な口調で近づき、自分の欲しいモノを実力にモノを言わせて奪う世界最悪の炎使いであった。


 その強さは折り紙付きであり、賢者は勿論のこと、過去200年で現れた実力者の殆どが相手にならない程であった。


 彼と比肩しうる者は魔王か、今は亡き覇王、そして賢者のひとりリノラースぐらいであると言われていた。


 大地の賢者リノラースは過去に一度ヴェリディクトと交戦しており、互角の戦いを演じた事で有名であった。その戦いから、ヴェリディクトは彼に敬意を表し、南大陸で悪戯に事件を起こさない事を約束していた。


 魔王とは交戦した事は無いが、噂通り彼の師匠の様な存在であった。魔王となる前の彼に何かしらの技術を提供しており、魔王は彼に頭が上がらないと言った。


 それ程にヴェリディクトは実力を持っている為、彼に喧嘩を売るのは世間知らずな愚か者くらいであり、知る者は例え名を上げたい実力者でも近寄る事はしなかった。


「どちらにしろ、この短刀をどうやってあいつに突き立てるか、だな……」と、魔封じの短刀の入った箱を取り出す。抜き身では怖いのか、あれから彼らは箱に仕舞って持ち歩いていた。


「とにかく、それはあたしがあいつに刺すからね!」フレインは目を鋭くさせて口にする。


 彼女の生みの父親であるヴォルカを殺されており、その仇を討つために復讐心を燃やしていた。


 更に育ての父ガイゼルの炎の賢者の威厳の為にとも考えていた。


 現在の炎の賢者は他の賢者と比べて世間的には『ナンバー2』の様な立ち位置にいた。ヴェリディクトがいる限り、炎の賢者は軽く見られていた。


「俺だってあいつには……」ヴレイズも5歳の頃、ヴェリディクトに村を焼き払われ、サンサ族を皆殺しにされていた。


 それから彼は復讐の為だけに生き、そして1年半程前に戦い惨敗した。その出来事から、ヴレイズの心は折れて復讐の炎は消えていた。


 が、フレインの炎に炊き付けられ、再び復讐心が灯っていた。


「フレイン、あまり復讐とか仇とか考えずに冷静に、な」ヴレイズは首を振り、我に返る。


 ヴレイズはヴェリディクトと戦った時、復讐の炎で我を完全に忘れて殴りかかっていった。結果、勝算はされど触れる事も出来ずに倒されたのである。


「あたしはいつも冷静だよ!」


「すでに冷静じゃないじゃないか……」




 ランプル国を出て3日の夜。


 ヴレイズは焚き火の前で夕食の準備をしていた。鍋の中に野菜と鶏肉を入れ、そのまま火にかける。


 そんな彼の背後で、フレインは座禅を組んで静かに目を瞑っていた。ヴレイズが修行の際に行っている高速魔力循環の安定化の為の瞑想であった。


「…………んぬぅ……ぅ!!」と、目を開けた瞬間に火炎爆発が起こり、周囲に衝撃波を撒き散らす。


 ヴレイズはそれを無表情のまま魔障壁で軽々と防ぎながら料理を続ける。


「んがぁ~!! 上手くいかない!!」フレインは頭をくちゃくちゃに掻き、火を噴く。


 彼はそんな彼女に向かって何か言いたげに口をムズムズさせたが、言葉を飲み込む。


「何が言いたいの?」イラついた目を向けるフレイン。


「いや……クラス4を目指すなら、その修業は逆効果だぞ?」


「わかってる! あたしは『暴龍宿し』を使いこなす為にやってるの!」


 彼女の奥の手、『禁じ手・暴龍宿し』は全身の力や魔力、強靭さを爆発的に上げる代わりに我を忘れて暴れる技であった。今の彼女はこの技を半分だけ使いこなせるまでになっていたが、それでは足りないと今でもこの技を磨き続けていた。


「クラス4は目指さないのか?」鍋の中の灰汁を取りながら問う。


「目指してるけど……やっぱりヴレイズの……それに教本や父さんの教えだけじゃわからないんだよね……何よ、解放って……いつも解放してるっつーの」彼女は苛立ちながら深呼吸をし、また目を瞑る。


「じゃあ、少し俺が『解放』ってやつを少しだけ……」ヴレイズはオタマを置き、彼女の背後に立って背中にそっと手を置く。


「何?」


「目を瞑ってリラックスするんだ」と、彼はフレインの中の魔力循環に干渉し、自分の中にある魔力の流れを見せる。


 フレインの魔力循環は、血液の流れと共に魔力が高速で奔り回り、筋力と反射神経などを増強させていた。


 ヴレイズのそれは高速で奔り回る事もなく、体内の魔石を中心として魔力が太陽の如く輝いていた。更にそこから血液の流れを無視して渦を巻いていた。


「どうだ? これが俺の中のクラス4の流れだ。因みにウルスラやパトリックに触れたが、皆、違う流れを自分の中で作っているみたいだ。故にクラス4は他人に教えても理解されないんだろう」


「……う……ん……今のあたしには無理かな」彼から見せられた流れのビジョンは彼女にマネできる代物ではなく、気落ちする。


 今迄、フレインは殆ど戦闘技術を磨き続けていた。魔法訓練にはあまり力を入れておらず、ヴレイズには遠く及ばなかった。それでも一塊の魔術師よりは上だった。


「……じゃあ、シチューが出来上がるまで俺と試合するか? その方がフレインらしい修行になるだろ?」


「そりゃあ……嬉しい誘いだね!」フレインは勢いよく立ち上がった。




「フレイン、暴龍宿しを発動してくれないか?」試合開始から10分すると、突然ヴレイズが提案する。


「え? いいの? でも、夕飯前にそれはきつくない?」暴龍宿しは使用後、身体に相当な負担がかかった。初めて使った時よりはマシになったが、それでも試合で使う様な技ではなかった。


「いいから。その技を使いこなす為に修行をしていたんだろ? それに、試合後は俺が治すからさ」いざと言う時の回復剤、魔法の準備は万端であった。


「じゃあ……」と、フレインは目を瞑り一瞬で己の中の龍を解き放つ。


 そこから更に魔力を高め、魔法循環を早めていく。更に、先程ヴレイズの見せたビジョンをイメージする。


 すると、大地が高鳴って揺れ始め、地面に皹が入り、炎が噴き出す。


「ん? なんかいつもと違うな……」


 その瞬間、フレインの炎が黒く染まる。


 彼女が地面を蹴った瞬間、間合いが潰れてヴレイズの顔面を狙い、拳を振るっていた。。


「んぬぅ!! なんだ今のは!!」ギリギリで彼女の拳を皮1枚で避け、仰天の眼差しで彼女の炎を見る。


 彼女の黒炎は大蛇の様にのたうっていた。


「なんだ、それ?」


 その問いに対してフレインは黙殺し、荒れ狂う様な構えのまま駆け出し、彼に猛攻を浴びせかける。


 ヴレイズは彼女の乱打を全て避ける。が、黒炎が掠めると耐えようのない激痛と共に火傷を負う。


「おい、これは普通じゃないぞ?!」

如何でしたか?


次回もお楽しみに!

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