表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第三章 光の使者と闇の息子
241/600

43.落ちる翼

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ!

 エルは片腕にリサのバスターガンを装着し、もう片手に己のエレメンタルガンを構え、眼前から迫りくる元同僚を迎撃していた。背後には闇の瘴気に蝕まれたリサが転がっており、未だに唸っていた。


「くそ! 来ないでくれよぉ!!」泣きそうな表情でフレイムボールを撃つエル。バスターガンから放たれる炎は弱々しく飛び、ダークグールの顔で弾けて火の粉を散らす。


 それもその筈、このエレメンタルバスターガンはただ威力の高い武器ではなく、魔力の調整や絞り方次第で強弱の分かれる玄人向けの武器だった。練度の低いエルでは満足な威力は出せず、かえってエレメンタルガンよりも弱かった。


「チクショウ!! くるな! くるなぁ!!」エルの訴えには耳を貸さず、ダークグールたちは牙を剥きだしてゆっくりと迫っていた。


 闇の瘴気に晒された隊員たちは肉体、精神、宿った属性までも侵され、正気を失っていた。彼らにあるのは、ただ眼前の『他属性者の抹殺』のみであった。


「ぐ! うわぁぁぁぁぁぁ!!」攻撃が効いていないと見ると、エルは迎撃を諦め、リサを自分の隠れていた部屋へ引き摺った。ドアは壊れている為、近くの本棚を倒して出入り口を封鎖する。


 だが、早速ダークグールたちは本棚を激しく殴りつけ始める。


「ぐ……副隊長! 大丈夫ですか!!」リサを揺さぶり、安否を確認する。


 彼女は黒い吐息を吐き、未だに苦しそうに唸っていた。


「まさか、副隊長まであんな風になりませんよね?」エルが不安そうに表情を引き攣らせると、封鎖していた本棚が砕け散り、ダークグールが入ってくる。


「くそぉ!」エルは苦し紛れにエレメンタルガンを乱射したが、撃ち過ぎによって銃口が変形して壊れてしまう。


 ダークグールは黄色い目をギラつかせ、エルを見据えた。同僚のジップも今や正気を失い、黒い涎を滴らせていた。


「お、終わりか……う、うぅぅぅぅぅぅわぁぁぁ!!!」エルは苦し紛れに己に宿った属性、光を腕から放ち、彼らの目を眩ませようとする。


 すると、ダークグールの顔面が焼け爛れて潰れる。堪らず部屋から逃げ出て、唸り散らす。


「……え?」何が起きたのか理解できないのか、目を丸くして首を傾げる。


 再び無傷のダークグールが襲い掛かったが、エルは首を傾げながら再び光を放ち、撃退する。元同僚たちは光で肉体を火傷し、堪らず牢獄エリアから逃げ出す。


「……え? どういう事ぉ?」




「で? どうするんだ隊長?」城下を練り歩くダークグールの群れを見下ろしながらレックスが口にする。彼らは未だに、3階の玉座に立て籠もっていた。


「…………」耳に入っていないのか、ヴァークは天井を見上げながらブツブツと何かを呟いていた。



「おい隊長!! 聞いているのか!?」



 レックスは煮立った様に怒鳴る。


「……う、あぁ! 済まない……とにかく態勢を立て直すため、飛空艇に戻ろう」


「戻るだけか? 立て直すためのブリーフィングならここでも出来るだろ? それより、積んである兵器で邪魔な連中を一掃して貰おうぜ」


「……そうだな、我々の目的は調査だ。邪魔なものは粗方、排除しよう」と、ヴァークは同意し、隊員に飛空艇に合図を送るよう指示する。


 隊員は早速、窓から身を乗り出し、エレメンタルガンのファイヤーモードで照明弾を撃つ。


 退屈していた飛空艇はすぐさま城の上空を滞空し始める。


 それからヴァークは風の伝令を送れる伝言機を使い、城下のダークグールを一掃するように指示する。


 飛空艇は早速、ブースターを最大で吹かし、城下町を旋回し始める。


 操縦士は張り切って操縦桿を握り、色濃く群れる場所に向かってフレイムグレネードを発射する。轟音と共に爆裂し、飛び散る。更に追撃する様にサンダーバルカンを連射する。


「はしゃいでいるなぁ……普段、あの兵器を使う事がないし、楽しいんだろうな……」呆れた様にレックスは苦笑する。


 ガルムドラグーンの暴れぶりを見て、隊員たちも興奮し、掛け声を上げていた。


 すると、城内から巨体の何者かが飛び出て、建物の屋上伝いに跳び、飛空艇へ向かう。


 その者は先程、彼らと交戦した獣であった。闇の瘴気を吸い込み、全身を黒く染め上げていた。


 獣は天を劈くように咆哮しながら飛空艇に向かって跳躍し、一瞬でコクピットに取りつく。


「うわ……嫌な予感……」レックスはその様子を見て表情を歪めた。


 獣はコクピットの窓を一撃で粉砕し、内部へ侵入する。小さな悲鳴と喧しい警告音と共に窓から血飛沫が上がり、飛空艇はぐるぐると回りながら落下する。そのまま黒煙を上げながら建物に突っ込み、小さな魔力暴走と共に爆炎を上げた。


「うっそだろぉ……」


「え、どうやって帰るんだよ?」


「馬鹿な……」隊員たちは一斉にどよめき、絶望の声をポツリポツリとつぶやく。


 炎上する建物から肉体を急速再生させた獣がモゾりと現れ、再び城下町へと戻る。その途上、転がったダークグールの死骸を拾い、口へと乱暴に運んだ。


「……一旦、飛空艇に戻って態勢を立て直すって案の方が良かったかもな……」レックスは航海する様に呟き、その場にしゃがみ込んだ。


「いや、乗り込んで襲われたら……我々が全滅していたかもしれない。飛空艇を読んだのがそもそも間違いだったか?」ヴァークは冷静に口にし、炎上する城下を見下ろした。


「どちらにしろ、どーすんだよ……」




 エルは室内の本棚や机を出入り口に山と積み上げ、先程よりも大きなバリケードを築く。その間に城外から爆発音と共に激しく揺れる。


「……なんだ? もう~ いい加減にしてくれよぉ~」と、弱った声を上げながら上着を脱ぎ、リサに被せる。彼女はダークグールになる事も、死ぬ事もなく未だに苦しみ続けていた。


「どうしたらいいんだよぉ……」と、サバイバルキットを開き、水筒を取り出す。中身はヒールウォーターの為、とにかく彼女に飲ませようと口に近づける。


「飲んでください」と、傾けるが、リサはそれを拒み、顔を背けて唸った。


「参ったなぁ……」水筒を仕舞い、次に何をしようか悩む。


 今の彼の答えは『救援がくるまでこの部屋で静かに待つ』ことだった。


 とにかくバリケードをもっと頑丈にしようと最後の本棚に手をかける。が、それは他の違い、中々動かす事が出来ず、エルは首を傾げた。


「どうなってるんだ?」と、本を片っ端から払い落とす。


 すると、本棚は音を立てて動き、そこから秘密の通路が現れる。


「こりゃあ……丁度いい、のか?」他にやる事もないため、エルはリサをおぶり、通路を進んだ。




 塔の上から爆炎を目にしたフィルは、口をあんぐりと開いて仰天した。


「な、なにやってるんすかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?! 馬鹿じゃないっすかぁ!?」自分の帰りの便が四散したため、彼は驚愕と同時に怒りを覚え、地団駄を踏んだ。


 フィルは舌打ちと共に城内へと戻り、様子を確認する。


闇の瘴気が若干、薄い霧の様に残っており、まだ1階へ降りるには早かった。


「……気を取り直して……」フィルは双眼鏡を覗き込み、3階玉座で固まるヴァークたちの様子を確認した。


「さて、連中は次にどう動くか……」フィルは懐からサンドイッチを取り出し、遅めのランチタイムを始めた。


 現在、日は落ちかけており、もう夕暮れだった。


「……日が落ちたら連中の時間だ。そこからが本番っすね」

如何でしたか?


次回もお楽しみに~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ