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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第三章 光の使者と闇の息子
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20.エディのステージ

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ!

 その夜、ラスティー達は悠々と帰還する。キャメロンはロザリアを引き摺って飲みに誘い、ローレンスはそれに黙って付いていく。ラスティーはネクタイを緩めながら村長宅へと向かい、そこで待つレイと早速作戦会議を始める。


「『挨拶』はどうでしたか?」薄々と勘付いている様な口ぶりをするレイ。


「予定通りだ。ロザリアさんがやり過ぎたかもしれないが、血は流れていない」と、レイが纏め上げた情報へと目を通す。そこで眉を顰め、気になった文面を指さす。



「おい、既に反乱軍穏健派とも、国王軍とも話が付いていることになっているぞ? お前が話を進めたのか?」



「いいえ……? しかし、諜報班の話と、先ほど訪問してきた兵士長補佐の話ではそう……一体誰が勝手に?」レイは自分の纏めた情報を確認する様に目を通す。


 すると、ラスティーは何かに気付いたように意味ありげに微笑みながら煙草を咥える。


「成る程……そういう訳か」と、椅子に座りながら煙を天井に向かって吹く。


「どういう事です?」


「エディさ。どうやら、あいつは俺が用意しようとしている舞台を自分色に染め、自分の思い通りに動かすつもりだ」


「……成る程……ラスティ―司令と合流する前からヤツの事は知っておりますが……油断ならんヤツだ……」と、目を尖らせる。彼は1000万をかすめ取られた事を恨んではいなかったが、しっかりと覚えていた。


「他人の舞台で踊るのは久々……いや、西大陸の時から俺が踊らされっぱなしか……俺もまだまだだな。よし!」ラスティーは手を叩き、立ち上がる。



「エディと一緒に踊ってやろうじゃないか! 出来るだけ楽しくな!」



「司令官自ら踊るのは、これで最後にして下さいよ」レイはため息をフッと吐きながらも楽しそうな彼の背を微笑みながら眺めた。




 その頃、キャメロンとローレンスは酒場で顔を青くしながら滝汗を掻いていた。眼前には殺気を放つ虎と化したロザリアが白目を剥きながらほくそ笑んでいた。


 先ほど、キャメロンは彼女に飲み比べ勝負を挑み、その一杯目でこの有様となっていた。ロザリアは突風の様な殺気を酒場中に吹き荒れさせ、キャメロンとローレンスを交互に睨む。


「ど、どうするんです? キャメロンさん……」ロザリアの殺気に対してトラウマを持つローレンスはカタカタと震えながらキャメロンにしがみ付く。


「どうするって……まさかこんな酔い方をするなんて……」と、卓に置かれた飲みかけのボトルのラベルを見る。あまり強くないごく一般的な労働者の為の安酒であった。


 ロザリアの殺気に怯え、他の傭兵たちや村人、バーテンダーまで外へ逃げてしまう。


「…………」充血し、獣の様な眼光がキャメロンを射抜く。


「な、なにか?」


「………」何も言わず、クスクスと笑うロザリア。


「怖いから何か言ってよ! まさか、アスカなの?! 勘弁してよぉ!!」


 そこへ、騒ぎを聞きつけたエレンが現れてすぐさま、酔い覚ましの水魔法を彼女の身体に浸透させる。みるみるうちにロザリアの顔が普段の表情へ戻り、カクリと首をもたげて眠ってしまう。


「全く……仕事を増やさないで下さいよ……」エレンは呆れ顔でため息を吐く。


「仕事終わりに一杯やってだけだよ! そうしたら急に……」と、キャメロンは言い訳をする様にそっぽを向いてブツブツと文句を垂れる。


 すると、エレンは急に膝を折って前のめりにバタリと倒れる。喉に何か詰まった様な呼吸を繰り返し、小さくなる様に蹲る。


「え、エレン先生!!!」ローレンスはすぐさま跪き、彼女を抱き起す。


「おいおいおい! エレンさん! ちょっとぉ!! お医者さんが倒れないでよ!!」




 エレンは仕事場の奥にある自分の部屋で横になり、額に濡れタオルを乗せていた。キャメロンとローレンスは慌て顔で自分なりの看病をしていた。


 そこへラスティーが急いで入室する。


「大丈夫か! エレン!」いつも平常心を忘れないラスティーも今回は冷静さを失いかけていた。


「はい、大丈夫です……直ぐに仕事へ戻らないと……」濡れタオルを取り、布団から出ようとする。気怠そうな表情に紅潮した頬。エレンは明らかに何かしらの病を抱えていた。


「ちょっとボスぅ! こんなになっている先生をまだ働かせる気なの!」


「少しは休ませましょうよ! ガムガン砦からずっと働き詰めなんですから!!」キャメロンとローレンスはエレンの働きぶりをよく知っていた。故に誰よりも心配し、旅の道中でも何度も休む様に勧めていた。


 しかし、エレンは頑なに休むことはせず、傭兵たちや彼らの家族などの世話を続けていた。



「……ちょっと、2人きりにしてくれないか?」



ラスティーはぎこちない笑顔をキャメロン達に向け、頭を下げる。


「う、頭を簡単に下げないでよ……うちらのボスなんだからさ。いこ、ロース」察した彼女はそそくさとローレンスを連れて退室する。


 それを見届け、ラスティーはエレンの横たわるベッドに座る。


「何故、休まないんだ? 会議のあと、休もうって言ったじゃないか」


「貴方だって、休まないじゃないですか」苦しそうに呼吸を繰り返しながらゆっくり口にするエレン。


「司令官って立場になって、余計にな……だがエレン。自分の体調管理が出来ない程に余裕がなくなるくらいなら……大人しく休んでくれ」


「……しかし……」と、隣に置かれた水に魔力を流し込み、それを飲もうとする。


 そのグラスをラスティーは奪い取ってしまう。


「ダメだ! 見たところ、ただの風邪だな? 魔法を使わず、ゆっくりと療養してくれ。治すのは一瞬だろうが、治ったらまた仕事に戻る気だろ?」


「……はい……わかりました……しかし、」


「何のためにリンを雇ったんだ? しばらくは彼女に頼れ! いいな?」と、彼女の眼前に指を向ける。


「はい……その代り、私の次はラスティーさん。貴方の番ですよ!」と、お返しと言わんばかりに睨み返す。


「……へいへい」と、ラスティーは適当な返事で彼女の部屋を去った。


「ズルいですよ……」と、エレンは布団を被り、重々しくため息を吐いた。




 その日の夜、エディとウォルターは港近くでキャンプを張っていた。相変わらずエディは自分で纏めた情報を眺めてはニヤニヤと笑い、ウォルターはそれを不気味がっていた。


「で、明日はどうする気だ? 船で逃げる気か?」と、指の骨をワザとらしく鳴らす。


「冗談だろ? 折角、3つの勢力が入り混じる舞台の立役者になれたんだぜ? こんなに楽しいのに今更、逃げられるかって!」と、歯を覗かせて笑う。


「せめて、お前の計画を聞かせろ」ウォルターは彼に詰め寄り、彼が読む情報を読もうとする。


 しかし、エディはそれを見せようとせず、直ぐに鞄へしまう。


「おいおいおい、お前の役割はなんだ? ただの見張りなんだろ? だったら、これを見る資格はないなぁ~」


「力ずくでも見せて貰うぞ!」と、殺気を滲ませながら立ち上がる。


「だったら、約束しろ。俺の言う通りに手伝うってな」と、鞄を抱えて逃げる様に立ち回るエディ。


「……」ウォルターは黙りこくって考える。彼は戦闘において考えるのは得意であったが、こういった策を弄するような頭の使い方は苦手であった。難しく考えればそれだけ脳がむず痒くなり、手先が震えて相手を殴りたくなり、それを必死で押さえる。


「どうする? 手伝ってくれるか?」ウォルターのサングラスの向こう側を覗き込む様に口にする。


「……わかった、約束しよう」『口車には絶対に乗せられない』と、己に誓いながらウォルターは小さく頷いた。


「よろしい! では、読んでみな」と、するりと情報を纏めた手帳を彼に手渡す。


 ウォルターはそれを奪うように取り、メモ帳に目を通す。


 しばらくしてウォルターは表情を強張らせながら顔を上げる。


「……読んでもわからないんだが……説明してくれないか?」


「読み聞かせろってか? そこまではサービスできないなぁ~」と、エディはまた楽しそうに笑う。


 ウォルターは悔しげな顔を覗かせながら彼の胸倉をむんずと掴む。


「俺にこのメモ帳の内容を読み聞かせろ!!」


「お前、今、すんげぇダサい事を言ってるぞ?」




 夜明け頃、エディは港に泊められた船の船長と出会い、そこでまた彼はラスティーの使いだと口にし、貨物の受取書にサインする。次に、港近くに止まった大きい荷車を引く馬車に貨物を積み込み、御者に金と書類を渡す。


「さぁて、これで反乱軍は動くな。約束を守ってくれれば国王軍も動く。そして……くふふふふ……」と、ウォルターを見る。


「なんだ?」


「お前にやってもらいたい事があるんだが、やってくれるかな?」


「断る」


「あれぇ? 昨晩の約束はどうしたのかなぁ?」と、上から目線でニヤつくエディ。


「……ぐっ……なんだ? 何をすればいい?」悔し気に歯を剥きだし、サングラス越しに睨みつける。


 エディは耳打ちする様にウォルターの近くで囁いた。


「………………断わ……りたい」

如何でしたか?


次回もお楽しみに~

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