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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第三章 光の使者と闇の息子
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1.もうひとりの闇

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ!

 世界の中心と呼ばれる聖地ククリス。現在、この国の王であるバーロン・ポンドが病死したと国中で騒ぎとなっていた。実際に死んだのは3か月ほど前であり、死因は不明勢力による暗殺である。


「死を隠す程の人間だったか?」バーロン・ポンドのひとり息子であり、王位につく予定のクリス・ポンドが新聞に書かれた嘘を読みながら呆れ声を出す。


「バーロン・ポンドではなく、ククリスの、世界を代表する王の死だ。諸々の準備が終わるまでは、な」光の議長であり、この国の最大権力者でもあるシャルル・ポンドが静かに答える。彼は王の死を発表するまでの3か月間、国内外に対する情報操作に勤しんでいた。お陰で西大陸同盟は順調に進んでいた。


「で? 貴方の予定では、戴冠式はいつなのかな?」新聞を畳み、脚を組み直し、手で三角形を作る。


「2か月後を予定している。全世界に通達し、世界中の王たちを招待するのには時間がかかるからな」


「同盟の輪に東と南も加える口実みたいなものだろ?」彼の計画を見透かす様に口にする。


「鋭いな」


「本当は、貴方が父を暗殺したのではないか?」シャルルの瞳を悪戯気に除きながら問う。


「よっぽどの策が無い限り、そんな事はしないな。正直、いいタイミングで死んでくれたよ」バーロンは彼の兄であったが、少しも悲しむ素振りを見せなかった。


「アレは愚鈍な飾り物だったからな……有意義に死んでくれてなによりだ」彼もシャルル同様、少しも父の死を悼まなかった。


「さて、これから寝る間もないほどに忙しくなるぞ。覚悟しておくのだな」と、シャルルは腰を上げ、クリスを見下ろした。


「……叔父上。貴方にこれだけは言っておこう」


「なんだ?」



「私をオヤジと同じ飾り物だとは思わない事だな。私は私なりにやらせてもらう」



 長身のクリスはスラッと立ち上がり、お返しと言わんばかりにシャルルを見下ろし、口角を上げてワザとらしく笑った。


「お前の事は全て知っている。身分を隠して留学先で、何をしたか……私の目の届かないところでどんな事を企んでいるのか、な」


「書類上では、だろ?」クリスはニヤリと笑いながら退室した。


「……フン、全く……誰に似たんだか」




 トコロ変わってマーナミーナ国。この国では革命が終わり、新たな指導者の下、新しい政権が確立されつつあった。以前の王であるオウラン・ブリーブス2世は事態を察知し、西大陸会議以降、帰りの船に乗ったまま逃亡し、行方知れずとなっていた。


 そんな国とグレイスタンの国境にある小さな村の酒場。真昼間だったが、この店には既に常連客が半分を埋め尽くし、下品な笑いを響かせていた。


 そこへ2人の少年が現れる。


 ひとりは青紫色のパーカーを着て、フードを目深に被っていた。


 もう1人も黒いパーカーを着崩していた。つかつかとカウンターへ歩み寄り、バーテンダーを呼ぶ。


「ここにはどんなのが置いてあるんだ?」10代半ばと思われる少年は生意気な口調で問うた。


「ガキの来る場所じゃないんだよ。家に帰るか、ママを連れてこい」そう答え、バーテンダーは顔を伏せたままグラスを磨き続けていた。


 すると、青紫のパーカーの少年が椅子に座る。


「折角、ここまで観光に来たんだ。冷たくしないでくれよ」


「生意気なガキだな。お前ら2人だけか?」


「そうだ!」黒パーカーが苛立った様な声を出す。


「……ま、いいだろう。飲めるもんなら飲んでみな」と、バーテンダーはショットグラスを2人の前に置き、琥珀色の液体を慣れた手つきで注いだ。グラスから蒸気の様な白い靄が上がる。


「では……」と、2人はグラスを鳴らし、一気に呷る。青紫パーカーの少年は馴れた様に熱い息を吐き、黒パーカーは喉を押さえ、脚をジタバタさせた。


「グホァ! ゲホッ! ま、まぁまぁだな!」黒パーカーはグラスを逆さまに置き、強がるように鼻息を鳴らす。


「あんま美味くないな。出鱈目にアルコールの高い、医療用の酒か」


「ガキのクセに鋭いな。魔法医がいない時は、こいつで消毒するんだ」バーテンダーはクスクスと笑い、彼らの顔色を伺った。


 しばらく2人は酒を飲みながら昼食を摂り、酒場内の世間話に耳を傾けていた。


「国内では革命だなんだと忙しい筈なんだが、辺境だとそうでもないのか?」黒パーカーはフォークに刺さったソーセージを食べながら口にした。


「ここはマーナミーナではなく、グレイスタンだぞ? いや、あれ、どっちだっけ? バーテンさん、この村はどっちなの?」青紫パーカーが首を傾げる。


「今となっては、どっちだかなぁ? 一昨年は激しくやり合って、結局……どっちなんだっけなぁ? ま、どっちも一緒だろ」バーテンダーは興味なさそうに口にし、鼻で笑った。


「自分の国だろうに……」青紫パーカーは呆れた様に口にし、酒を呷る。


 すると、酒場のスイングドアが勢いよく開く。



「やっと見つけたぞ、ガキ共ぉ!!」



 左目に嵌った義眼が目立つその女性は、ローズ・シェーバーだった。大股で2人の席まで歩み寄り、雷光を唸らせながら睨み付ける。


「アタシを指し置いて昼間から酒ですか? コラァ……」凄む様に唸り、黒パーカーの前に置かれた酒を一気に呷る。


「誰が来るかと思ったら、ローズさんか。コリャ安心だ」青紫は上機嫌に鼻歌を歌い、ローズの表情を伺う。


 すると彼女は青紫パーカーのフードをひん剥き、胸倉を掴んだ。


「あんたらのせいでアタシぁまたこのグレイスタンにとんぼ返りだよ! トレイ! あんた、このバカに何を吹き込んだの?!」青紫パーカーの少年はトレイといった。


「このバカとはなんだよローズ!」黒パーカーが吠えると、ローズは容赦なく彼の頬をつまみ、そのまま持ち上げた。「いでぃいでぃいでぃいでぃいでぃ!!!!」


「えぇ? 今なんて言った? え? 呼び捨てでぇすかぁ?」と、ワザとらしく耳を傾ける。「おら、口の利き方くらいはパパから教わったんじゃないの? スワート」


「あんな奴の事をパパとか言うな!! 殺すぞ!!」と、スワートは手から暗黒のオーラを滲みだし、ローズを激しく睨み付けた。


「無闇に殺すって言葉は使うべきではないよ?」と、ローズは豪速のデコピンを彼の額に見まい、椅子から吹っ飛ばす。


「いでぇ!!」額から血を流し、悔し気に歯を剥きだす。


「……で、ローズさん。俺っち達を連れ戻しに来たのかな?」冷静にトレイが問う。


「いい勉強になるだろうってさ。アタシはお目付け役だよ。よろしく」と、バーテンダーにお替りを催促し、用意されたボトルを奪い取る。


「……ま、それでもいいか。よろしく、ローズさん」トレイは愛想笑いを浮かべながらグラスを傾けた。


「ちっ、またオヤジの手の平の上か……だが、このままじゃないからな……見てろぉ!」スワートは紅くなった頬と額を摩りながら鼻息を大きく鳴らした。




 その村から少し離れたグレイスタン南部の密林にて。鼻息を荒くしたゴーレムベア(岩肌熊)が舌を振り乱しながら、弓を片手にした狩人目掛けて突撃していた。狩人は後ろに纏めた金のポニーテールを靡かせ、その突進を華麗に躱す。同時に熊の眼前に光球を投げ、眩い光を炸裂させる。


 狩人は岩肌熊の首に捕まり、ナイフを抜く。刀身に光を纏わせ、うなじの中央に真っ直ぐ突き立てる。岩肌熊は目と口から光を放ち、数瞬で糸が切れた様に動かなくなり、地響きを立てて倒れる。


 戦いが終わると同時に、木の上から大剣を背負った青年が降りてくる。


「流石、アリシアさんだ。あっという間だったな」ケビンは口笛を吹きながら口にし、岩肌熊に歩み寄る。


「さ、直ぐに解体しちゃお! 内臓がダメになる前に袋に詰めて、塩で漬けこまなきゃ! 血もなるべく回収してよ!」と、アリシアは木陰に隠した大鞄を片手で投げ、器具と袋を並べる。


「君と一緒なら、いつまでも不自由なく旅が出来そうだな。頼もしいよ」と、彼女の間合いに背後から入り込む。


「口より手を動かして」アリシアは彼に慣れたのか、そのまま作業に取り掛かった。岩肌熊の文字通り、堅牢な甲殻を丁寧に剥がし、肉を切り取って骨を抜く。


「……鮮やかなお手並みで」と、まだ慣れないのかおぼつかない手つきで内臓を瓶に詰めていく。


「あ~あ~! 血が零れてるよ! 一滴も無駄にしないでって言ったじゃん!」


「厳しいなぁ……」




 その後、2人は近場の村へと入り、そこの道具屋で狩ったばかりの岩肌熊の素材の殆どを売り、残りを肉屋へ持っていった。高品質の品だと絶賛され、相場に色の付いた値段で取引を終える。そこで得た資金で宿へ向かう。


「さ、部屋も空いていたし……早速、この村の鍛冶屋で得物の調整でもして貰おうかな~」と、ナイフと弓を床に並べ、自分で手入れを始める。これらは既に使い込まれ、細かい傷が付いていた。


「流石に、宮殿にいた頃よりも生き生きしているな。出会ったばかりの頃を思い出すよ」ケビンは懐かしむような目で彼女の手作業を眺める。


「ケビンはその剣の手入れはしないの? 大きいから時間がかかると思うんだけど?」


「こいつは特別製でね。魔剣ってやつなんだよ」と、自慢げに大剣を片手で抜き、翳して見せる。バハムント家の紋章のついたこの大剣は、呪術の練り込まれた特別製だった。


「でも、可愛がっておかなきゃ、いざって時に裏切られるよ?」


「…………それもそうだな」心当たりがあるのか、彼女の言葉に相槌を打ち、乾いた布で磨き始める。


「正直でよろしい。ん?」アリシアは鼻をヒクリと動かし、警戒する猫の様に辺りを見回す。


「どうした?」


「……なんか、妙な気配がするなぁ……いや、それが気になってこの村に来たんだけどさ……改めて近いって感じ」


「新しい獲物か何かか?」




 アリシア達の泊まる宿のカウンターで、スワートが鼻息を荒くしていた。


「部屋が無いってどういう事だよ!!」


「すいませんねぇ、今日は珍しく全部埋まってるんですよぉ……」主人が手を揉みながら困り顔で口にする。


「なんで、村にきて直ぐに部屋を確保しなかった?」馬鹿を見る様な目でローズが口にする。


「いや、一部屋ぐらい空いてると思って……」スワートは悔し気な表情でローズを睨み返し、フンっとそっぽを向く。


「ま、俺っちは野宿でもいいんだけどね」トレイは歯を見せてケラケラと笑った。


「アタシは朝まで酒場で飲んでようかな~ 久々のグレイスタンの酒だし」と、ローズは足早に酒場へと帰り、大テーブルにひとりで座って一瓶注文した。いつも彼女は一期一会の飲み仲間と共に頭が割れる程に飲み明かすのが、酒場での楽しみであった。


「……あのババァ……」スワートはポツリとつぶやき、ため息を吐いた。


「彼女の耳に入ったら、殺されるぞ?」


「望むところだよ……ったく! 俺らも酒場へ行くか!!」


「ま、俺っちはいいけど……」

如何でしたか?


次回、アリシアとスワートが交差する? かも

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