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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第二章 炎の旅人と風の討魔団
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80.病人は酔っ払い

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ!

 夜が明けると、フレインは軽やかにベッドから飛び起き、身体の調子を調べた。凍傷になった指先や全身の噛み傷、刺し傷などの様子をみる。ニックの意外な縫合術とヴレイズの特製回復剤のお陰ですっかり完治し、身体が温まる程に動かしても、鈍さや軋みはなかった。


「……うっし! ニック! おはよう~!」風邪もすっかり完治しており、体力が有り余っていた。


 フレインの呼び声には誰も応えなかった。


「おぉい~ ニック?」と、宿屋ロビーへと降りる。そこに雇われの受付が酒を飲みながら突っ立っていた。


「ニックなら、診療所の方に行ってるよ~」


「診療所……そうだ! ヴレイズ!」と、フレインはコート片手に早速、彼の元へ向かおうと宿屋の出口まで走った。


 すると、そこにニックが現れる。


「おう、フレイン。もういいのか?」と、流れる様な動きで彼女の額と首に手を当て、体温の脈拍を調べる。「もう大丈夫の様だな。外は寒いぞぉ~ 飯食ってからの方がいいんじゃないか?」


「その前に、ヴレイズを診にいかなきゃ!!」


「慌てなくていい。あいつは君以上にタフだ。ま、そうは言っても、一緒にいた方がいいだろうな。だが、まずは腹ごしらえだ。体力を付けなきゃ、看病もできないぞ」と、ニックは足早に階段を上がり、台所で手早く朝飯の準備を始めた。


「……ううん、あたしはご飯の前に、とりあえず会いたい!」と、宿の扉に手を掛ける。彼女はヴレイズに言いたいことが沢山あり、今にも口から飛び出そうな勢いだった。


 勢いよく扉を開けた瞬間、攻撃的な吹雪が彼女を出迎えた。まるで彼女を拒むような吹雪は一気に彼女の体温を奪う。


「さぶぅいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」条件反射か、一気に鼻水とクシャミが飛び出る。身体を丸めてその場で蹲り、カタカタと震える。思ったより彼女の身体は万全ではなかった様子だった。


「だ~か~ら飯を食えって……食うとかなり違うんだぞ~」彼女の行動を読んでいたのか台所からニックの声が飛んで来る。


「う゛ん……」




 ヴレイズはその頃、話せるまでに回復したダンガと会話を交わしていた。昨日より彼らは夜を徹して情報を交換し合い、すっかり仲良くなっていた。


「なるほどなぁ……こう話を聞いていると、ククリスの学校で魔法を一から勉強したくなるなぁ~」毛布に包まりながら納得した様に頷き、感心する様に唸る。


「いや、ヴレイズの様に各地を回って修行し、己を高めるという学び方も間違いではないと思うし、俺が思うにその方が強くなれると思う。俺はクラス4だが、きっと技術面……魔力の練り方は君の方が上だろう。どこでそんな練り方を学んだんだ?」身体を小刻みに揺らしながら口にし、垂れた鼻水をかむ。


「説明すると長くなるなぁ~」


 すると、病室のドアが勢いよく開き、そこへフレインが現れる。


「ヴレイズ!! 具合の方はどう?!」


「お、無事そうで何よりだ。俺の方は……ちょっと平気とは言えないが、何とか生きている。フレインは、風邪はもういいのか?」


「うん。大丈夫! ニックが作った朝ご飯なんだけど、食べる?」と、鍋に入れたスープをテーブルに乗せる。


「食欲がないなぁ……」と、弱々しく笑う。様子を診る限りでは元気が良さそうだが、顔色は良いとは言えなかった。


「そう……でも、無理にでも食べなきゃ!」フレインは遠慮なくダンガ側のベッドに座り、鍋の蓋を開ける。中身はホカホカのシチューだった。


「う……匂いだけでもダメだ……ちょっと、勘弁してくれ……」顔色悪く口にし、何かがガタガタと崩れる様にベッドに横になる。


「ちょ、俺も気持ち悪くなってきた……」ダンガも枕に頭を預け、カタカタと震える。


「ちょっと~ これ凄く美味いのに! ほら、一口食べてみなよ!」と、スプーンを取り出す。


 そこへニックが現れ、慌てて鍋の蓋を閉める。


「まだそこまで回復できていないんだ……」と、ニックがテーブルに酒瓶をドンと置く。


「でも、食べなきゃ良くならないでしょ?」


「そういう、単純なものじゃないんだ……話していいのか?」と、ニックがヴレイズに尋ねる。彼は静かに頷き、次第に顔色を青くさせながら凍え、震えはじめる。



「ヴレイズと、ここにいるダンガは……魔石を凍らされたんだ」



「凍らされた?」フレインは首を傾げ、理解できない様に唸る。


「これのせいで魔法は使えず、更に体温が常に下がっちまって、普通の生活もままならないんだ。傷の治りも遅いしな……」


「凍らされたなら、溶かせばいいじゃない!」と、フレインは力説した。


「お前も見たろ? この凍結は、何をやっても溶けない。温めても、火を当ててもな」


「え……じゃあ、どうするの?」


「だから、溶かす方法を皆で探しているんだ。今、リムールっていうダンガの仲間が情報を収集している所だ。ウルスラはこの国出身だから、何か謎を解く手がかりがあるかもってな……」と、ニックはコップに酒を注ぎ、ヴレイズに手渡した。「飲めるか?」


「飲まなきゃな……」と、彼は辛そうにそれを一気に飲み干し、喉を押さえながら唸った。ニックなダンガにもそれを渡した。


「お酒は飲めるんだ……」まじまじと無地の酒瓶を見るフレイン。


「遭難者用の酒だ。試しに一口飲んでみるか?」と、フレインにも手渡す。


 彼女は警戒する様に匂いを嗅いだ。無臭なのか、首を傾げながら一口煽る。すると、口内で灼熱が巻き起こり、舌や頬に無数の何かが噛みつく。


「んぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! ぅ……あっつぃ!!」涙目でコップを置き、息を荒くさせる。


「香辛料の元となる種を絞って作った、アルコール80パーセントのとんでもない代物だ。流石の俺でも、常飲はできないな。こいつを一杯やれば、一気に身体が内側から温まる。そう、内側っていうのがポイントだ」と、得意げに笑うニック。


「だが……問題がある……こいつを飲んだ後は、まともに瞑想も出来ず、考えがまとまらないって事だ」ヴレイズは早速、頬をピンク色に染め、楽し気に笑い始めた。


「身体が温まるのはいいが……楽しくなって、昨日もずっとヴレイズと話していてな」ダンガもクスクスと笑う。



「それじゃあダメじゃん!!」



 フレインは火を吐きながら怒り、テーブルを叩いた。


「わかっているんだが……謎を解くヒントも無ければ、魔力も無く……正直、絶望的だな」ヴレイズは頭を押さえ、参ったように笑う。傷がまだ痛むのか、胸を押さえる。


「くっ……ぐ……ぅ……!」フレインは居てもたってもいられず、病室を飛び出して外へ出て行ってしまう。


「どこへいったんだ?」ニックは首を傾げ、医療用酒を一口飲み、美味そうに唸る。


「長く旅していても、あいつの事はよくわからないんだ……」




 フレインはコートも着ず、雪降りしきる外へ飛び出し、しばらく走った。頭から湯気を噴き出し、口から火を漏れ出させ、火の足跡を残す勢いで走った。


 ギオスの町の外まで走り、数キロ程ノンストップで走り続けた。


 やがて雪原のど真ん中で立ち止まり、全身から炎を噴き上げる。



「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



 フレインは心中でごちゃごちゃしたモノを全て吐き出す勢いで叫び散らし、膝からがくりと落ちる。手を付き、肩を揺らし、大粒の涙をポタリポタリと流す。



「ごめんなさい……ごめんなさい! ごめんなさいぃぃ!!! 全部、あたしのせいだっ!!!!」



 フレインは自分の軽はずみの決断、行動を後悔し、頭を抱えてひたすら涙を流した。雪原を拳で力いっぱい叩き、周囲に地響きを立てる。木に積もった雪が落ち、周囲の獣たちが警戒する。


 近くにいたブリザードベアが獣気を上げて近づくが、フレインの物々しい気配に気圧され、喉を鳴らしながら遠ざかる。


「……あたしが責任を取らなきゃ……」声を震わせながら、ヨロヨロと立ち上がり、涙を拭いながら町の方へ戻った。




「んで、勝算はあるのか? ヴレイズ」頭をフラフラさせながら問うニック。彼は遭難者用の酒に馴れたのか、コップ一杯に満たされた酒を一気に煽った。


「……ウルスラと戦っている途中、気付いたんだが……あいつの放つ氷の結晶一粒一粒に呪術が書き込んである事まではわかったんだ。それに、この感じ……1年前にヴェリディクトから喰らった呪術に似ている……いや、正反対なのか。この2つの手掛かりから謎を解かなきゃならないんだもんなぁ……厳しいな。なぁ、ダンガはどうだ? 何かわかるか?」胸の内にある確かな氷の冷たさ身悶えながら口にするヴレイズ。


「……わからない……全身に氷を詰められている様な寒さなんだ! 考える事に集中できない! てぇかお前! 飲み過ぎだぞ! 俺にも寄越せ! 寒いんだ!!」と、酒瓶を奪い取り、二口程流し込む。「あ~ 回ってきた」


「このままじゃ、本気でマズいな……酒はダメだ、酒は!」と、ヴレイズは暖炉の傍へ向かい、毛布に包まりながら座禅を組んだ。


 しばらくすると、体内を温めていた酒がトび、身体が一気に冷える。それと同時にヴレイズはガチガチと震えはじめ、毛布に包まりその場で転げ回った。


「くそぉ!! 酒が無いとやってられない!! だが、それじゃあダメなんだ! それじゃあ!!」


「こいつぁ本格的にまずそうだな……」ニックは深くため息を吐き、腕を組んで唸った。

如何でしたか?


次回、フレインが行動に出る!

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