表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第二章 炎の旅人と風の討魔団
149/600

65.ナイア、現る!

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ!

「母親?! あ、アリシアの?!」ラスティーとエレンは揃って仰天し、口をパクパクさせた。


 ナイアは裏の世界ではかなり有名だった。


 数年前まで魔王を相手にスパイ活動、情報かく乱を行っていた。バルバロン国内に潜伏するレジスタンス、反魔王勢力を巧みに操り、戦力減少や技術力漏洩など、数々の策を成功させていた。


 更に昨年、魔王を本気で激怒させ、全世界で指名手配されていた。バルバロン国内では反逆者として、国外では『魔王と交渉する時、優位に立てる程の取引材料』として追われていた。


 ラスティーは彼女の名や実績について知っていたが、苗字までは知らなかった。彼女がアリシアの母親だとは夢にも思ってはいなかった。


「あなた達の動向はワイリーからよく聞いているわ」上品に微笑み、ラスティーの眼前までゆっくりと歩み寄る。控えめ且つ印象的な香水の匂いが香り、彼女の吐息と混じって妖艶な空気が彼を包む。


「お、お会いできて光栄です」普段なら顔色を変えずに難なく挨拶して見せる彼だったが、連日の疲労や驚き、緊張などで精神的にボロボロになっていた彼は、取り繕う余裕は無かった。


「そんなに固くならなくていいわよ」にっこりと微笑み、彼の周りの仲間たちの顔を眺める。


 キーラとレイ、ウォルターは彼女と面識があるのか、軽く会釈する。


 キャメロンは彼女の事を知らず、まるで値踏みをする様に頭の先からつま先まで舐める様に眺め、鼻で笑う。


「ふん、悪戯に胸の谷間を強調してさ……いかにも男を利用してますって感じの女ね」と、ふてぶてしい表情を作りながら腕を組む。


「あんたたが言う資格はないでしょう」目を鋭くさせてキーラが吐き捨てる。


「あたしはただ、捨てる前の服でちょっと遊んだだけだも~ん」


 すると、いつの間にかナイアがキャメロンの眼前に立ち、見下す様にニタリと笑う。


「貴方、ただの戦士ね……顔も小汚いし、身だしなみも何もあったもんじゃないわね。服もオーダーメイドじゃないから、フィットしてないし、胸なんてぶかぶかじゃない」と、キャメロンの胸を小突く。


 キャメロンの身に付けているスーツは本来、ラスティーがエレンの為に用意したスーツだった。故にサイズはあっておらず、胸のサイズも一回り大きく作られていた。


「な、なによ! あんたみたいに下品な格好じゃないだけマシよ!」


「下品? 今の貴女からはただのヒガミにしか聞こえないわよ? 貴女のその、誰にでも喧嘩を売るような態度は改めた方がいいわよ」と、憎たらしい笑みを彼女の瞳に映す。


「くっ……ふん! くだらない!!」キャメロンは彼女から顔を背け、鼻息を鳴らして唸る。


 すると、ナイアは更に追い打ちをかける様に彼女の身体に腕を絡ませ、素早くキャメロンの『弱点』を撫でる。


「ひっ!」背筋を凍らせ、身体を固める。


「いい? 簡単に弱味を握られるようじゃ、この世界、長続きしないわよ? 特に、貴女みたいに棘を振り撒き、常に威嚇するような人じゃ、ね」と、拘束から解放する。


 すると、キャメロンは何も言わずにフラフラとソファーの方まで歩き、ばたりと倒れる。


「何だろ……今日一番の敗北感……」




 その後、彼らは城内の客室でささやかな夕食を摂りながらナイアと今迄の事を話した。


 ナイアは大体の事は把握していたが、彼らの今迄の冒険の方に興味があり、仕事の話はそこそこに彼らの話を楽し気に聞いていた。


 しかし、アリシアの安否までは知らず、そこの所に話が行くと、表情を曇らせた。彼女は『ウィルガルムと交戦し、殺された』と聞いていた。


「彼女の無事は確認しています。安心してください」


「本当? その情報はちゃんと裏を取ったの?」ここに来て少々きつめの口調をしてみせた。それだけ彼女はアリシアの事を心配していた。


「裏までは取っていませんが……俺は信頼しています。仲間の事を」ラスティーはアリシア、ヴレイズの顔を思い浮かべ、自身満々に頷いて見せた。


「……懐かしいわね……ねぇ、ディメンズ! そう思わない?」頬杖を付き、隣で静かに酒を飲んでいる彼に向かって声を投げかける。


「あぁ……今のセリフ……仲間を信頼している、か……そのセリフが真っ直ぐ言えるって事は、まだ大丈夫だ」ディメンズは意味ありげに笑う。


「どういう意味ですか?」


「長年、こういう生活をしていると、心の底から信頼できないことがあるんだ。あ、誤解するなよ? 裏切られるって意味じゃなく……いざって時に……心を引っ張られるって言うのかな? わかるだろ? ラスティー」グラスの酒を一気に煽り、熱い溜息を吐く。


「えぇ……わかります」と、ラスティーも一気に煽り、煙草を咥える。


「生意気だねぇ~ その歳でもう『わかります』とかさぁ~」ナイアは彼の煙草を吸う仕草を眺めながら笑う。


 すると、彼女は急に表情を強張らせ、辺りを見回す。


「? どうかしました?」只ならぬ彼女の雰囲気に、咄嗟に身構えるラスティー。


「……いや……なんでもない……かな?」腑に落ちない様に首を傾げ、唸る。


「敵か? 俺は何も感じなかったが?」ディメンズは彼女の不安げな瞳を覗き込み、気遣うように肩に触れる。


「大丈夫……気のせいだったみたい。一瞬だけ、闇の気配を感じたから」彼女は気分をスッキリさせる様に首を振り、酒を呷った。




 その頃、王専用の寝室にて、この城の主、バーロン・ポンドがベッドの上で震えていた。恐怖のあまり声も出ないのか、叫ぶことなく、ただ眼前の脅威を凍りついた瞳で見ていた。


「な、何者なんだ、お前は……」か細い声で相手に尋ねる。


「……言う必要はないだろう。光の王よ」どこから侵入したのか、ヴァークは闇色の瞳を輝かせながら正面の王を睨み付けていた。


「わ、私は好きでこの地位にいる訳ではない……ただの飾り物なんだ……だから、殺す意味は……」


「だが、文献や周りの者はそうは思っていない。意味はある」ヴァークは懐から短刀をとゆっくりと取り出す。


 構えると刀身が淡く輝き、無属性のエネルギーが生える。それは、やがてヴァークの身長を超える程にまで長く伸びる。


「一体何が目的なんだ?」バーロンが恐る恐る尋ねると同時に、エネルギーの刃が顔にめり込み、一瞬でベッドごと斬り裂く。


「……この国から光を絶つとどうなるか、見て見たくてな」ヴァークはゆっくりとそれだけ言い残し、寝室の闇の中へと溶けていった。




「闇の気配って、まさか魔王の?」先ほどのナイアの発言が気にかかり、尋ねるラスティー。


「えぇ……いや、アレは魔王のモノではなかった……この世界で闇属性の使い手は3人。魔王と、その息子と娘。子供たちの方とは面識はないけど、中々の使い手だと聞いているわ」


「子供がいるのか……」


「年齢は娘が15で息子が14だったハズ……」


「さっきの気配は、確かに魔王のモノではなかったんだな?」ディメンズは念を押す様に問う。


 魔王はナイアに対して相当な因縁があり、隙あらば目の前の影から現れ、自らの手で殺そうとする程に恨みが深かった。


 しかし、魔王の闇を介しての移動範囲はバルバロン全域であり、居城から動いたという情報はなかった。更に、自ら動く事もなかった。


 故に、このククリスに魔王が現れる可能性は殆どない筈だった。


「息子も娘もバルバロンから出ていない筈……きっと、お酒のせいね。ごめん……ちょっと不気味な気配がしたから……」


「それでも、気になりますね……」ラスティーはこの城を探索すべきか迷っていた。しかし、今の彼のコンディションでは、それは不可能だった。


「それにしても、ジーンの奴、まだ帰ってこないなぁ……大丈夫か?」ディメンズは嫌な予感ついでに彼の行方を心配した。




「……流石は『世界の影』の間者か……」ジーンは追い詰めた侵入者の骸の横に立っていた。


 侵入者はジーンに追い詰められ、呪術を施した奥歯の呪いを解放して自決を試みたが、それを止められた。その際、手早く呪術の施された奥歯を引っこ抜き、キツイ尋問をした。


 彼が『世界の影』から来た者だとやっと聞き出す事に成功する。


 しかし、少し隙を見せた瞬間、侵入者は舌を噛んで飲み込み、窒息死したのであった。


「こいつらが直接行動するのは珍しいな……それだけのモノがククリスにあったという事か……しかし、こいつらが欲する物は情報くらいなモノ……もしくは……『闇』……か……」ジーンは荒野の闇を眺め、一息吐いて風だけ残して跳躍し、消えた。


如何でしたか?


次回、バルバロンにて幹部会議が始まる?!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ