episode,7
rank1 赤木圭人
…や、やった。僕、吸血鬼になれたみたい。
いきなりあの痛みが来たときは驚いたけれど、耐えて良かった。
あの瑠璃って人には感謝しないと。
だって僕にこんな機会をくれたんだもの。…ううん、僕はこのチャンスをもらうべきだったんだ。
この容姿、この力、この頭脳!なんでもっと早く僕にくれなかったんだろう?
ああ、早く行かないと!
僕をあんな目にあわせたこと、後悔させてやる!
──僕は学校でいじめられてる。
主犯はクラスのリーダー格の男子。
いつも上から目線で、自分の言うことは絶対だと思ってるみたい。
そんなやつに目をつけられた。
同じくらい性格が腐ってるやつを引き連れて、僕をいじめる。
集まれないと何もできない奴らなんだよね。
僕に何か自分でも気づかない優れたところがあって、そこが羨ましいだけなんだろ?
それを素直に言うのができないから、態度で伝えてるんじゃないのか?
ま、さすがにそれも疲れたし、そろそろお別れかな。
「なんなんだよ、あいつ。いきなり呼び出したりなんかして。しかもこの俺をよ」
「落ち着きなって。どうせ何もできやしないよ。だって圭人だよ?」
「…あいつに何かできるわけないよ」
…来た。最低なやつ。
1人で来いって言ったのに、やっぱり他に2人連れてきた。
まあ、もういいや。
どっちにしろだし。
ガサッ
僕は見物していた木の上からあいつらの目の前に飛び降りた。
「うおっ!?…なんだ、お前か。びっくりさせんなよな」
「用ってなんなの?」
「…手短に済ませろ。お前にかまってる時間がもったいない」
「今なら許してやる。僕に謝れ」
僕は目を見せないように顔を伏せながら言った。
1回だけ、チャンスをやろうか。これを断れば…。
「はぁ?何言ってんだ?俺がお前に謝るわけないだろ」
あーあ。
唯一のチャンス、捨てたよこいつら。
仕方ない。…殺してやる。
僕は伏せていた目を上げ、真っ直ぐこいつらを見据えた。
「あ?なんだよ」
「ね、ねえ。圭人の目、見て」
「…金色?」
「ま…まさか…お前…」
「その"まさか"さ!僕は吸血鬼になったんだよ。素直に僕に謝れば、命くらいは助けてやろうと思ったのに。…僕ね、今とても喉が渇いてるんだ。君達はあんまり美味しくなさそうだけど、仕方ないや。…ねえ?」
僕は心底楽しくなり、思わず笑みがこぼれた。
「ひっ…!」
「け、圭人。やめてぇ!」
「…逃げなきゃ」
3人は脱兎のように逃げ出した。
そんな遅いスピードで僕から逃げられると思ってるのかなあ?
…馬鹿みたい。ほんと、愚かだ。
僕は3人が逃げ惑う姿を見ながら、少しずつ追い詰める。
…楽しすぎる。3人の顔が恐怖に染まっていく。
「ふっ。じゃあ、いただきまーす!」
「こんなの、つまらないわ」
ポチッ
ん?何か今音が…。
「う、あ、ああああ!」
痛い、痛い、痛い!
体が壊れる!
最初のあの痛みとは比べものにならない!
自分の体が引きちぎられ、バキバキと音を立てて折れているかのよう。
も、もう、死んだ方がマシだ…!
死なせてくれ…。
僕は目を閉じて意識を闇の中に放り投げた。
そうして僕は、2度と目覚めることはなかった…。