episode,5
「私の名前は天寺瑠璃といいますが、これを信じるか信じないかは皆さん次第!
私がこれから言うことに関しても同じです♪
では、発表しましょう!
私は"ファンタジア"と呼ぶ薬を作り、それを国内のある5人に投与しました。
"ファンタジア"とは、一言で言えばヴァンパイア、つまり吸血鬼になる薬です。
これにより吸血鬼化した人の特徴としては、
不老不死。
人並み外れた身体能力。
理想的な外見。
そして日に当たると金色になる瞳。
滅多なことでは死なない丈夫な体。
あ、滅多なことというのは、一般的な吸血鬼の弱点のイメージのものは全く通用しません♪
例えば、十字架や日光、ニンニクに銀の弾丸などですね。
これらが主なものです。
他にもありますが、これは5人のうちで"ファンタジア"に見事体が適合した人のみに現れるので、むやみに公表はしません!
ちなみに、"ファンタジア"の効果は私の手でいつでも切ることができます。
でも、効果が切れたとき体に何らかの害が及ぶ可能性が高いんですよー。
ま、それはその人の運次第ですね!
場合によっては命を落とすこともありますので、ご注意ください♪
…とは言っても何を注意すればいいかわからないでしょうけどね。
私の目的は1つだけ。
私の研究成果を皆さんに知ってもらいたいだけです。
もう既に5人の体は少しの痛みを乗り越え、吸血鬼となりました。
その類稀なる身体能力を何に使うも、被験者5人の自由です。
では、失礼♪」
「これに対して政府は保護のため被験者5人に近くの警察署への出頭を願う、とのことです──」
──ただただ、衝撃だけが残っていました。それと同時に、この喉の渇きが血を望んでいるものだということにも気づいてしまったのです。
とっさに浮かんだのは黄鈴先輩と茜の姿でした。2人に迷惑はかけられません。
テレビの、というより瑠璃さんの情報から考えるに、これが他人に自然に伝染るということはないのでしょう。
そして私は警察のもとへ行くか迷いましたが、やめることにしました。
この体でいる限り、1つの例外を除いて死ぬことはないからです。(1つの例外とは、もちろん瑠璃さんです)
私は黄鈴先輩と茜に手紙を書くことにしました。スマホで連絡しないのは、電波などのことを考えると1つでも危険を減らすためです。
2人の家の場所は覚えているので、今着ている服の上に金色の目を隠すためのフード付きのパーカーを着て…。
それから気持ちゆっくりめに2人の家へ向かいます。ゆっくり行くのはこの人並み外れた身体能力をごまかすためです。
道中、様々なことを考えました。
私以外の被験者4人のこと。
黄鈴先輩と茜のこと。
瑠璃さんのこと。
政府の早すぎる対応のこと。
…そして、これからのこと。
そうやって考えこんでいるうちに、最初に茜の家に着きました。
万が一の可能性を考え、人間の耳には聞こえない声量で、
「茜」
と名前を読んでみます。…やはり、茜は被験者ではないようでした。
私は郵便受けに手紙を入れ、次に黄鈴先輩の家へ向かいました。
ここでも、茜のときと同じように、
「黄鈴先輩」
と呼んでみますが、反応はありません。…ちょっとさみしいですが、喜ぶべきことなのでしょう。
「黄鈴先輩。…今までありがとうございました。──さようなら」
私は一言添えて手紙を郵便受けに入れた後に、その場を去りました。
ひとまずこの喉の渇きをなんとかしなければいけませんね。
いくら人通りが少ないとはいえ、通らないわけではありません。
…私は人殺しにはなりたくないです。
──最近、害獣が増えてきたと言われていた山林へ向かい、そこで動物の血をもらうことにしましょうか。