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オンステージ! ~アンサンブル・カーテンコール!~  作者: 岩谷ゆず
第10章 ここが私たちのステージ
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(3) 前代未聞のイタチアイドル!?

 ですわー!?


 予想外の一言に、若干引き気味となったいずみたちだった。

 一方でお客さん達からはなぜか歓声が上がっていた。


 女の子は得意そうなドヤ顔を決め、右手を挙げてゲストをアゲてゆく。





 「小さくたって食肉目! イタチ科イタチ属の期待を一身に背負い、森の国からやってきた、前代未聞のイタチアイドル、絵智子<<えちこ>>ですわよー! エチりんってよんでもいいですわよー!!」


 "エチりん"はビシッとポーズを決めると、小さな子が「えちりーん」と呼びかけていた。ゲストはここでもなぜか盛り上がっていたが、美咲は「お、おう」と反応したあと、キョトンとしていた。


 その後、呼びかけてくれた小さな子たちに呼びかけながら、絵智子はリズム練習のシーンへとシナリオを進行していった。





 ――15分後


 ショーが終わると、絵智子は出口の近くに立って、手を振りながらゲストを見送っていた。小さな子やおっきなお友達と写真を撮ったりしていたが、しばらくするとさくらたちがいるバックステージにあるオフィスに戻ってきた。


 ステージの上ではアイドルを自称していた絵智子は、バックステージに戻った途端に、「ふぅー 疲れますわー……」と左手で自分の右肩を揉んでいた。

 その姿のままオフィスに入ると、さくらたちの存在に気が付いて、「どなたですの?」とベテランキャストのお兄さんに尋ねた。


 田所が「お願いしていた取材にやってきました」と声をかけると、2秒ほどして理解すると、即座にキャラを作り始めた。


 「そうでしたわね! さあ、絵智子を存分に取材するとよいのです!」

 

 効果音が聞こえそうな笑顔を作り、さくらたちにアピールした。

 さくらと美咲がきょとーんとしたままなので、いずみが念のために尋ねた。


 「えーと、絵智子さん、でよろしいんですよね?」

 「はい! えちりんって呼んでもいいですわよ?」

 「えちりん……」


 お兄さんの方をみると、お兄さんは別段気にもしない様子で、「年上の人たちは、"エチコ嬢"とも呼んでるよ」といずみに教えた。

 そういわれたものの、いずみは「……嬢」と、変な表情を浮かべていた。


 田所さんと佐藤さんが撮影をはじめ、美咲がインタビュアーとして、さくらといずみが両サイドにたって「にぎやかし」としてカメラの前に立った。

 

 美咲はなんだかおもしろくなってきたのか、笑顔を浮かべてインタビューを始めた。


 「えーと、絵智子さんは、プレショーを担当してるんですよね。森のアイドルっていう設定なんですね?」

 「設定!? 違いますわ! 私はイタチ科イタチ属の期待を一身に背負い、森の国からやってきた、前代未聞のイタチアイドル、"えちりん" ですわ! きゅぴーん!」




 お、おう と美咲は不明瞭な返事をかえした。


 言葉が止まったのに気が付いたいずみが、モデルスマイルを披露しながら話を進めようとした。

 

 「イタチ専門のアイドルなんですか? イタチ科イタチ属って範囲が狭い気が…」

 「そうなんですわ! 私がイタチアイドルになったのは運命なのです」


 絵智子がいうには


 ――― あれはゼミ……森の国の学校に通っていた私が、みんなと森のお勉強に行ったときのことなのです。登山道……みたいな感じの小道を進んでいると、白くて小さくてふわふわな森の妖精さんに出会ったのです。その妖精さんこそ! 私の運命の王子様、猛助1世だったのです!


 田所さんがゼミ? と小さく疑問を口の中でもみ消した。絵智子は続けた。


 ――― 猛助1世は、森の妖精、人間の皆さまには「イイズナ」と呼ばれていますわ。私は一目ぼれしてしまったのです、森の妖精の王子様に……それは、つまり! イイズナに一目ぼれしたという事は、絵智子は実はイイズナだったのです! 


 「そして!」


 ビシッとポーズを決めて、絵智子はアイドルっぽい表情を顔に浮かべ、話をまとめに入った。


 「私は、その王子様に会うために! そしてー! イタチ科イタチ属の皆さん、オコジョも! イイズナも! 小っちゃくたって食肉目! この素敵な妖精さん達の魅力を世に広めるべく、私は森の国を出てイタチ属の代表としてアイドルになったのです!」


 ビビシィ! とポーズを決めた絵智子はやりきった感のある視線をカメラに向けた。

 いずみもさすがに、はあ……と、納得したのかしないのか微妙な表情だった。

 

 「イタチ科なら……クズリとかラーテルとかは含まれないの?」

 「……ラーテルさんたちは、別に独自の世界観があるので……」

 「そ、そうなんですか……」


 テンとかラッコもどうやら含まれそうにない。美咲は「イタチ族?」とそもそも理解していないようだ。美咲はインタビュアの任務を思い出して、他の話題に移ることにした。


 「絵智子さん以外にもプレショーを担当しているキャストはいるんですか?」

 「森の住人は他にいるのですわ。学生さんだったり、専業さんだったり……」


 お兄さんが腕を組みながら付け加えてくれた。


 「プレショーに立つのはアトラクション・エンターテイメント・キャストっていう専門のキャストだけなんだ。ここ以外にもプレショーでステージがあるアトラクションはいくつかあるからね。でも、まあ、絵智子嬢はキャストのリーダーとしてエンターテイメント部にトレーニングに行ったりしてるんだ。キャラの割には努力家なんだよね」

 

 絵智子嬢は美咲よりずっと大きい胸を張って答えた。


 「キャラではありませんわ。リーダーとして、アイドルとして、当然のことですわ。それに、学びの姿勢は忘れません。なんて言ったって現役JDですもの」

 

 美咲が感心したのか、さくらに視線をむけると、おお? と声を上げた。


 「女子大生、てことは、私たちとそんなに変わんないのかー。広森さんと同じくらいかな?」

 「広森さん、たしか 二十歳ぐらい?」


 いずみもその点には感心していた。


 「なるほど。すごいですね。私、絵智子さん、もっと年上かと思ってました」

 「うぐっ! ……あはは、小さいころから大人っぽいってよく言われてましてよ」

 「ところで、猛助1世ってことは猛助は他にもいるんですか?」

 「猛助3世なら、さっきプレショーエリアでお会いになってましてよ?」

 「え? そういえば、イイズナっぽいキャラがいたっけ?」

 「そうです。その子が私の大事な猛助3世なのです」


 お兄さんは、いや、そんな設定はないんだけどね? と少し苦笑していた。

 絵智子はそれを無視して話を続けた。


 「このアトラクションに配属されて、運命感じたのです! こんな偶然、きっと、猛助3世との出会いもまたイタチアイドルとして必然だったのです!」

 「え? 偶然? 必然?」

 「どっちもなのです! さあ、カメラさん、イタチアイドルの魅力を存分に撮るとよいのですわ!」


 絵智子がポーズを決めたところで、田所が「OKです!」といってカメラを止めた。


 「あら? よいのですか? もっと撮ってもいいのですわよ?」


 さくらは絵智子のイタチキャラぶりが気に入ったのか、目が輝いていた。


 「絵智子さん、いえ、えちりん! すごい、です! 私も家に猫がいるので、食肉目の魅力、何となく、わかります!」

 「ふふ! さすが猫さんのご家族にはわかってもらえるのですわ!」 


 意外なさくらの感想に、美咲が若干引き気味だったが、別に絵智子がとっつきにくいわけではないのは、その会話の中身から感じ取ってはいた。

 美咲は、その話の中で気になったことを口にした。


 「あの、絵智子さん、質問が」

 「なんですの?」

 「猛助1世と3世なら、2世は? あ、ひょっとしてイタチを飼ってるとか!?」

 「……も、猛助2世はフェレットなのです……」

 「フェ、フェレット?」


 さくらが助け船を出した。


 「フェレットも、イタチ科の一種、だから実質イタチ、だよ?」

 「え? そうなんだ! ならOK! ……だよね?」


 絵智子がほっとした表情を一瞬浮かべた。

 一連の流れをマイクを持って見ていた佐藤が、はー…と感心したような、あるいは何かを発見したような視線をさくらたちに向けた。


 「エンターテイメント部の皆さん、いろんな方がいるんですねー ちょっと感動しました。本当にタレントさんみたいなんですね」


 それを聞いた絵智子が「え゛!?」と戸惑いの表情を浮かべた。


 「いえ、あの、私、エンターテイメント部の所属ではありませんわ……」


 美咲たちは一斉に驚いた。全員が絵智子がエンターテイメント部所属だとばっかり思っていたからだ。一番驚いていたのは企画の進行を担当していた田所だった。


 「でも、エンターテイメントオフィスで何度もお会いしてますよ!?」

 「それは、トレーニングや演技指導をエンターテイメント部で受けてるからですわ……あ、あれ~……、き、聞いてませんでした?」


 お兄さんも別の意味で驚いてた。田所さんと絵智子嬢の交互に見てから事情を明かした。


 「えーと、アトラクション・エンターテイメント・キャストっていうのは配役の名称で、所属は運営部なんだよね。ただ、トレーニングとかレッスンとかエンターテイメント部に依頼している関係で、エンタ棟とかに行くのはよくあることで……」


 田所さんは、それを聞いて顔が赤くなっていた。冬なら湯気が上がったはずだ。


 「すみません! わたし、てっきりエンターテイメント部の方だとばっかり!」

 「いえいえいえ! なんか、こちらこそなんだか申し訳ないですわ……」 

 

 絵智子は"なぜか"社会人のお手本のように田所に恐縮していた。

 もっとも社交辞令とか演技というより、アイドルの部分が隠れて「素が出た」という感じだった。いずみが二人の様子をみて、事態を収拾しようと口を開いた。


 「でも、エンターテイメント部でトレーニング依頼されて、レッスンまで受けてるんだから、まるきり無関係というわけでもないと思いますよ田所さん? 」

 「そうですね……エンターテイメント部のデスクさんも、取材の申し込みの手配で特に何もおっしゃらなかったし……」


 その話を聞いて、絵智子はアイドルスマイルでまたまたポーズを決めた。


 「そうですわ! 部署もロケーションも関係ないのです! ステージに立つからにはみんな同じ仲間! そう、実質仲間ですわ! キュピ――ン!!


 

 ……と、そういうことで、ひとつ……」



 さくらがそのポーズにキラキラした視線を向けている間、田所が内線用の携帯電話でエンターテイメント部デスクに確認すると「運営部の了承は取ってるし好きにしていいといっている」との事だったので、"森のコンサート"での収録はとりあえず無事に終了という運びになった。




          **



 森のレストランの取材を終え、今度はステージがあるレストランに移動することになった。そのお店は宇宙港のそばにある「カフェ・エモーション」というお店で、看板は大きなエレキギターだった。そのお店の中に入るのは初めてだという美咲は、ステージやお店の雰囲気を見て、「いやー、ロックだね」ときょろきょろと見渡していた。


 そのまま、キャスト用のドアを開けてバックステージのオフィスに向かった。取材対象のキャストはトレーナーさんが推薦してくれた子で、さくらたちと同じまだ高校生ながら、レストランで行われるいくつかのショーに出演しているとのことだった。


 オフィスにいた女性の社員さんが対応してくれるとのことで、キャスト用のロッカールームにそのキャストさんを呼びに行ってくれた。みんなは、オフィスの奥にある応接間兼用の部屋に移動して待つことにした。そこは基本的に部内で使用する部屋なので、応接間とはいってもホームセンターで安売りされているような合成革のソファーと、これまたセットで売られていそうなテーブル、そして、大手ではない電機メーカーの安いテレビとDVDプレイヤーが置かれていた。




 田所さんがメモを取り出しながらそのキャストさんの事を説明した。

 

 「えーと、トレーナーさんのお話ですと、ロックでボーイッシュなカッコイイ系の女の子だそうです。高校2年とのことですから皆さんと同じぐらいですね」


 さくらたちは「へー」と感心して、それぞれがいろいろとその姿を想像した。

 それぞれ違う姿を想像したらしいが、共通しているのはメタルでロックなイメージだった。


 ――が、扉を開けてそこに現れた女の子は、長い髪のゴシック系の衣装で固めた女の子だった。あれれ、という表情を無意識にうかべたさくらたちだった。

 それに気が付いた女の子は、「思ったのと違ったのかな……なんか、ごめんね…」

とすまなそうな顔をしたので、3人はあわてて「いえいえいえ、お気遣いなく!」と声を揃えた。


 その女の子は空調が効いて涼しいとはいえ、そのゴシック系の衣装は長袖で、スカートこそミニだったが、脚にはオーバーニーのストッキングとリボンガーターを履いていて、さらに黒のゴスロリデザインのアームドレスを着け、黒と赤を中心にコーデをまとめたその姿はどうみても夏向きではなかった。

 

 美咲は「あの、暑くないの?」と聞くと、「私はこれが……落ち着くんだ……肌を出すのは、いやじゃないけど……夏の間は特に……」と答えた。


 そういって少し恥ずかしそうに顔をあげたその子の顔は、美咲がおお……と声をだsほど整ったボーイッシュ美少女のものだった。


 「その髪、きれいだね?」

 「あ……エクステ……」

 「あれ? そうだったの? 似合ってるから自前なのかなって」

 「ふふ……ありがとう」



 準備を終えた田所さんと佐藤さんがカメラを三脚に据え置いて、マイクを向けた。

 田所さんがその女の子に声をかけた。


 「あの、そろそろ、初めてもいいですか?」

 「はい……どうぞ……」


 誰がインタビューする? と聞いたところ、美咲がはいはい! と立候補したので、美咲に佐藤さんがマイクを渡した。


 例によってにぎやかしとしてさくらといずみが両端に立った。 

 田所さんの「では、どうぞ!」という声で収録が始まった。


 「はーい! それは、ここカフェ・エモーションでステージを担当するエンターテイメント・キャストをご紹介します! あ、お名前は?」

 「樽山<<たるやま>> 深雪<<みゆき>> です……」

 「ここでのお仕事は?」

 「ステージで、ピアノ弾いたり、歌ったり……あ、エレキギターも……」

 「みゆきちゃん、衣装も凝ってるし、雰囲気もミステリアスだけど、かわいいですねー! それ、自分の服なんですか?」

 「うん……私の服、会社でデザイン承認取ってくれて……だから、好きな服で、好きな歌を歌えて……お仕事、とっても楽しい……」

 「なるほどなるほどー!」


 声は小さめで、表情のハッキリ出すタイプではないようなのだが、少し顔を赤くしながら少しだけ微笑むその表情をみて、美咲は自分の中で「なにか」が目覚めそうになり、自分まで少し顔を赤くしながら、頷いて見せた。


 「ロックな感じって聞いてたけど、なんかすごく女の子っぽい感じだね!」

 「あんまり、意識したことなかったけど……ゴシックパンクとかは、好きだから」


 その後もインタビューは続いたが、絵智子のインパクトと比べて深雪はおとなしめの女の子だったこともあったからか、見た目に反してそれほど予想から外れるようなインタビューにはならなかった。


 むしろ、予想外なのはその後だった。

 収録が終わり、佐藤が「広報用の写真を1枚お願いできますか? あ、できれば外の明るいところで……」とお願いし時だった。


 それを言われた深雪は、困ったような表情を浮かべて、両手てあわあわと振って見せた。


 「あの、外は私……ここじゃダメかな……?」

 「え? あ、外はだめでしたか」

 「ご、ごめんなさい……太陽の光は私の体を焼くので……」

 「夏ですからね。日焼けが困るんですよね。わかりました」

 「はい……あ、外で写真撮るなら……夕方とかなら……やさしい闇が、私の身を守ってくれるから……」

 「そ、そうですね……」


 佐藤は、んん?? という表情をなんとか隠していたが、さくらたちは深雪の独特の表現に文字通り目を点にしていた。深雪がそういうなら、ということでステージや広報用写真の撮影は日が暮れてから行うことになり、いったん収録は終了した。



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