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オンステージ! ~アンサンブル・カーテンコール!~  作者: 岩谷ゆず
第8章 変ってゆく、変らないもの
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(3) お店プロデュース!


 翌日の水曜日の午前中に飛行機で東京から帰ってきた監督は、店舗運営部食堂グループのマネージャーを呼んで、SVと3人で秘書が持ってきたお茶を飲みながらミーティングを開いた。


 監督はSVから提出された簡単な企画案を読んでいた。

 その企画案のタイトルは「STARメンバーによるプロデュース店舗企画(案)」となっていて、事前にそれを渡されていたグループマネージャーは監督が口を開くを待っていた。やがて、監督がふーん、と何度かうなずいてからSVに顔を向けた。


 「猫実君は? 今日は県庁に行ってるんだっけ?」

 「はい。今日は広報の方と一緒に県の観光部局と打ち合わせがありまして。出かける前にお話ししたところ、エンターテイメント部としては問題はないとのことで、私にこの件では一任してくださるとのことです」

 「なるほどね。で、食堂グループとしてはどうなんだい?」


 食堂グループのマネージャーは一度SVに視線を向けた後、監督に答えた。


 「店舗運営部としては、もともとこの店舗については改装計画の検討に入っていましたので、問題はないとのことです。食堂グループとしても同時並行で複数の企画を検討している最中なのでお手伝いいただけるのであれば助かります」


 ただし、とグループマネージャーは付け加えた。


 「予算的な問題もありますので、大規模工事はしない、というのが条件になるとのことです。どうですか?」


 最後の質問はSVに向けたもので、SVは


 「もちろん、そういうことであれば条件の範囲内で対応します」


 と答えた。

 監督は手にしていた書類を机に置いて、座りなおした。


 「では、私からも条件を出そうかな」

 「はい、どのような条件でしょう?」

 「うん。まあ、お盆が近いからね。それまでには運営を開始できること、というのが条件だね。一番の稼ぎ時にクローズしているのは論外だからね」

 「お盆までに、ですか」

 「時間はあまりないとはいえ、もともと大規模工事はしないという条件だろ?」

 「つまり、短時間でできる範囲内で、ということですね」

 「そうだな。それが無理なら予定通り店舗運営部の方で改装計画を進めてもらう。ちょうどステージを移動させるところでもあったし、いっしょに工事してしまえば効率もよかろう?」

 

 グループマネージャーも、「そうですね」と答えた。

 監督はその返事を聞いて、SVに視線を向けた。


 「と、まあ、そういうことだ。その条件でよければSTARの子たちに提案させてみようじゃないか?」


 SVは座ったままグループマネージャーと監督に頭を下げた。


 「ありがとうございます。STARの3人にはその条件でと話しておきます」

 

 正午過ぎにはステージの管理権限をもつ猫実部長も帰社し、ステージの移設内容の変更も承諾された。そして、実際に改装案が実行されたらその時はキャンペーンを行って販促を行おう、ということも暫定的に決まった。

 こうして、STAR発案のプロデュース企画が実行に移されることが正式に決まった。



          **


 午後になって風がようやく涼しくなってきたころ、アウローラのメンバーは学校を終えて出社してきた。


 社内でのミーティングや外部との打ち合わせで席を外していたSVは、トレーニングが休憩になるタイミングを見計らってトレーニングルームに入ってきた。

 STARのメンバーは鏡の壁を背にして座って汗を拭き、3人の真ん中に座る田澤は、リフレッシュ・ドリンクをいれたドリンクボトルのストローに口をつけていた。田澤はSVを見つけると「あー、SVさん、おつかれさまです」と声をかけてきた。


 SVは「おつかれさま」と返事しながら、3人の視線の高さに合わせるために腰をかがめた。手前側に座っていたこまちが「ん?」という表情を浮かべていた。SVは3人を見渡してから、すこし微笑みながら田澤に話しかけた。


 「昨日3人がいってたこと、正式に決まったわよ」


 こまちが「ホント!?」と表情を明るくしたので「本当よ」と答えて、こまちの頭に手を置いた。田澤とつばさが顔を見合わせて、おおー、と反応していた。

 大まかな計画を聞いてSTARのメンバーはよろこんでいた。あまり本格的な改装は無理そうだったが、それでも何もしないよりはずっといいに違いない。



 

 夕食時が近づいた時、ストレッチ中の他のメンバーに田澤が美咲よりもはるかにある胸を張って、みんなに話かけた。


 「みんな、今日は社食行かなくても大丈夫だよ」


 美咲とさくらがストレッチの手を止めて田澤の方をみた。

 さくらに押されていた美咲が興味深そうに田澤に話しかけた。


 「なになに? どういうこと?」

 「実は今度ね私たちで海賊レストランの改装をプロデュースすることになったのだ!」

 「ほほう! それはすごい!」

 「で、まあ、実際のメニューを確かめないと計画も立てられない、ということで実際に食べてみよう、ということになってて」


 広森と話していたいずみが話を聞いて振り向いた。


 「それってお金は?」

 「会社が出してくれるって。その変わり感想聞かせてね。ああ、もちろん、強制じゃないから、ご心配なく」

 「ふーん、まあ1食分浮くなら」

 「みんなはどうかな?」


 田澤がみんなに意見を聞くと、「タダならー!」と美咲たちから返事が返ってきた。



          **



 みんなから承諾を得たので、久保田が社有のワゴン車を運転して海賊レストランまで連れて行った。久保田がお店に挨拶に行くと、長沼さんが出てきて、ブレイクエリアの隣の部屋を指差した。そこは倉庫として使っている部屋で、中には会議用の長机やパイプ椅子が並べてあった。意気揚々と入ってゆくこまちに続いてみんなが中に入ると、机の上にちょうど料理が並んでいた。大川さんが長沼さんと一緒に待っていた。連絡を受けて配膳していてくれたようだった。


 倉庫とはいっても、もともとオフィスか何かに使う予定の部屋だったらしく、部屋の中はきれいでエアコンもついていた。外のむっとした空気とは違って涼しい風が送風口から流れていた。


 久保田が長沼さん達に「お手数おかけしました」と挨拶すると、長沼さんは手を振って返事を返した。今日はゲストもスローな状態で、タイヤキ以外の商品はほとんど売れていないそうではっきり言ってヒマだったそうだ。

 長沼さんも大川さんも仕事の途中なので、こまちと何か雑談した後、すぐにお店に戻っていった。

 

 つばさが、みんなに呼びかけた。


 「はいはーいっ ちゅーもーく。このお店のメニューをどうするか考える参考にしたいんで、いまからうちが配る紙に料理の感想かいてねー。あ、ボールペンもあるから」 


 つばさが急いで書いた手書きの調査票をコピーしたものをみんなに配り、ちょっとした立食パーティーが始まった。やはり女の子であるからか、みんなが最初に手を出したのはタイヤキだった。


 そのタイヤキは、1口食べたときから美咲と舞が絶賛していた。

 

 「ちゃんとしたお店のタイヤキだよ!」

 「そうだね。ちゃんとしたタイヤキ食べたの久しぶりかも」


 広森はもう一つの保冷ケースに入った冷やしタイヤキを食べていた。あまり期待はしてなかったが、口にしていい意味で予想を裏切られたと広森は思った。 


 「これは……普通にデパ地下で出しても売れるんじゃないかな?」


 広森の隣に立ったこまちは、冷やしタイヤキをすごく幸せそうに口でモキュモキュしていた。さくらがそれを見て、「そんなに、気に入ったの?」と面白そうに尋ねた。こまちは「幸せ」と単語で答えた。


 一方で、田澤とつばさは発泡スチロール製のお椀に入ったラーメンをズルズルと口に運んでいた。みそと塩もあったが、二人ともオーソドックスな醤油味を選んでいた。幸せそうなこまちとは対称的に、つばさの顔は、一言でいえば「無感動」という表情だった。


 「うち、ラーメンにこだわりないから、別に普通ので十分だけど……まずくはないな。うまくもないけど。グルメアンバサダーの田澤さんはどう思いますか? はい、どうぞ!」


 マイク代わりに蓮華を差し出された田澤はどこかのお姫ちんのように、真顔になってラーメンの味をレポートした。


 「味に特徴もなく、可も不可もなく、なんと面妖な味なのでしょう……」


 から揚げを食べていたさくらは、藤森と舞の間で首をかしげていた。


 「なんか、どこかで、食べた味……」


 それを聞いた広森が、プラスチックのフォークで一つを食べてみた。

 口を少しモゴモゴさせた後、「あー」と気が付いた。その様子を美咲が見ていたので、広森は美咲に顔を向けて予想を告げた。


 「これ、たしか、スーパーで売ってた業務用の……」

 「えー、スーパーで売ってる奴なの?」

 「うん。学園祭で買って出店で使ったものだから、たぶん」


 舞と藤森も同じように食べていた。最初に揚げた方のものを食べたようで、口に入れてからむー……と目を閉じた。

 舞が紙コップの水を一口飲んでから藤森に話しかけた。


 「なんか、油っぽくて、のどがイガイガするね?」

 「はい、お水がないと食べきれないかもです。食べられない味じゃないですけど」


 他にもフランクフルトやポテトなどがあったが、フランクフルトなどの焼くものはともかく、油ものは時間がたったものほど油っぽさ酷くて大不評だった。


 総じて結論をまとめると、タイヤキ以外は評価が厳しく、揚げ物などは大不評といった感じだった。出来立てのうちは普通に食べれるのだが、時間がたつと油っぽさが目立ったりするようで、いずみがいうには「祭りの出店で出る料理にそっくり。時間がたつとまずくなるところとかが特に」とのこと。


 その一方で、タイヤキだけは全員一致の評価で「専門店で売れるレベル」とのことだった。随分とギャップがあるな、と田澤は思った。




 みんなが夕食後の食休みでパイプ椅子に座って飲み物などを飲んでいる間、STARの3人は回収したアンケート用紙を読みながら相談していた。 つばさがパイプ椅子に座りながらボールペンで頭をかいていた。


 「どれを残すかとかいう話じゃなくて、タイヤキ以外全部だめじゃん」

 「一応レストランだし、ちゃんとしたメニューと思ったけど、私らだって料理のプロじゃないしなぁ」


 つばさの隣に立って思案していた田澤のトレーニングウェアをこまちがつんつん引っ張った。


 「おじさん! 相談!」

 「そうだなぁ。やっぱりプロの話を聞いた方がよさそうだね」




          **




 他のみんなは久保田が運転するワゴンでオフィスに戻っていった。入れ替わりにSVがやってきた。田澤からアンケート用紙を渡され、一応残しておいた唐揚げとポテトを口にした時、SVはアンケート用紙にもう一度目を向け「……なるほど」とつぶやいた。

 

 こまちたちがSVとともに海賊レストランの厨房に行くと、長沼さんが暇そうにしている。厨房はガラスがあるが、そこは壁ができていて本来見えるはずのオンステージが見えない。フライヤーや麺の茹で上げ機などは厨房の奥にある。

 長沼さんはこまち達が来たことに気が付いて、「おお、きたのか?」と声をかけてきた。田澤たちが理由を説明し、どうやって調理しているのか教えてもらえないかとお願いすると、長沼さんはそれならと、いろいろ説明してくれた。


 まず、不評だったラーメンの作り方から教えてくれた。


 麺は製造工場である程度湯がいてあるものが袋に入っていて、これを茹で上げ機の網に入れてゆでるだけらしい。1分も湯がけば食べられるとのこと。そして、スープもパウチに入ったメーカーの業務用のもので、決められた分量のお湯を入れれば出来上がり。


 そして、唐揚げは広森いった通りの市販のもので、「業者から購入している業務用の冷凍品で、スーパーで特売してるときがある」ものだという。


 長沼さんはお店での調理などは任されているものの、お店のメニューまで口出しできるわけではないので、こればかりはしょうがないという。長沼さんもさすがに質を下げることがないように、油の温度や提供時間の管理などはしっかりやっているので商品としてはちゃんとしている。

 だが、やはり、"遊園地のジャンクフード"の域を出ていないのは否めない。


 「遊園地のフードスタンドの料理なんて、どこもこんなもんじゃないかな? まあ、こういう場所での食事にそこまで期待する人もいないだろうしな」


 長沼さんはそういうと、なんというか苦虫を半分ほど噛んだような顔をしていた。 そこに大川さんがやってきて、クリームのタイヤキがなくなりそうと教えてくれた。


 こまちが大川さんに気が付いて「おつか!」と挨拶すると、「おつかれさま」と返してくれた。もう一人いるカウンター担当のキャストは暇そうにしていて、カウンターに立つ大川さんがいうには、平日は昼が過ぎたらゲストはあまりこなくなり、いつもこんな感じだという。


 クリーム味とつぶあんのタイヤキを補充するため、長沼さんが焼くというのでそれを見学させてもらうことになった。


 

 長沼さんが厨房に立つと、火のついた釜のような場所があり、そこに並べてある焼きゴテのようにもみえるものを引き出した。その先端にはタイヤキの型が付いていた。長沼さんはマスクを着け直し、生地の入ったボールを引き寄せると、こまちたちに説明した。


 「タイヤキには焼き方に違いがあるんだ。よく出店なんかで一度たくさん作れる釜で焼く奴があるが、あれはこの業界では本に書かれた影響で"養殖もの"とか呼ぶんだ。大量に早く作れるから安く提供できる。で、この店みたいに一本ずつ焼くのは"天然もの"とか呼ぶ。養殖ものも悪くはないが、やはり、こうやって焼き加減を確認できる天然ものにはかなわないな」


 その焼き釜の隣には、その養殖用の焼き型もある。


 「ただ、天然ものは皮が薄くてパリッとしてるから、クリームとか中身を変えるにはちょっと不向きでね。だから、中身によってうちは焼く型を変えてるんだ。今から焼く天然ものは、一番オーソドックスな"つぶあん"だよ」


 そういうと、長沼さんは天然もの用の型を開いた。こまちたちが見守る中、長沼さんがまず、生地を型に流し込む。型の中に生地を行きわたらせると、つぶあんの山からあんこをすくい取り、生地の上に乗せる。その上からまた生地をかけて、型を閉じ、釜の中に戻す。


 「やることは簡単だろ? だけど、生地の厚さとか焼き加減とか見なきゃいけないことはいろいろあるんだ。手間ヒマかかるから一度にたくさん作れないのが難点だな」


 そういいながら、同じように他に5つほどタイヤキを焼いてゆく。

 感心しているSVやこまちたちに、少し自信ありげな顔を長沼さんは見せた。


 「こればかりは手を抜くわけにはいかないからね。このタイヤキを焼くためにこの会社に拾われたんだからな」


 焼きあがって型から外されたタイヤキは、確かにしっぽまで餡子が詰まっていて自慢の一品だという事がよくわかった。



          **



 お店の見学を終えてSVが運転する車でオフィスに戻った後、STARの3人は退勤時間近くまで応接エリアのソファに座ってあれこれ話し合っていた。ガラゴロと音を立ててホワイトボードをテーブルの前まで移動させて、何やらいろいろ書き込んでいた。


 つばさがソファーの上に行儀悪く座り込んで、思ったことを口にした。




 「うち思ったんだけどさ、海のエリアでやっぱりあのメニューはイメージにあってないと思うんだよなー。無理してまで残すようなものでもないなぁって気がする」


 ホワイトボードの前の田澤も向かい側に座るこまちも、その点は同じ考えらしく、うんうんと同意してうなずいていた。ただ、田澤は腕を組んで考えながら2人に疑問点を口にして見せた。


 「でも、たいやきはどうなんだろう?」

 「おいしい! よろこぶ!」


 こまちが手を挙げてそう答えるのを聞いて、つばさも腕を組んだ。


 「確かに、職人さんだけあっておいしいよね」


 テーブルの上には、SVが許可を得たうえでみんなのために買ってくれた長沼さんのタイヤキが置いてあり3人はそれに目を向けた。田澤はそれを一つ手に取ってしげしげと眺めた。


 「これをなくすのは、やっぱりもったいないよね……」


 こまちも田澤にならって一つをとって口に運んだ。

 もきゅもきゅと口を動かすうちに思いついたように顔をぱぁっと明るくした。


 「専門店! たいやきのお店!」

 

 つばさがむー……と考えこんだ。


 「タイヤキの専門店か……テーマ的にはどうなんだろう?」

 「そうだよな……んー……でも、結局それがオーソドックスだけど正解な気がする」


 田澤の言葉にこまちがむふーっと満足そうな顔を浮かべた。

 それを見た田澤がホワイトボードに「たいやきの専門店(仮)」と書き込んだ。3人が同意したことと退勤時間が迫ったことから会議はお開きになった。



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