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プロセス0「虚偽の平和」~プロセス1「平和の堪能」

紅茶と洋菓子が置かれて、静かで、温かくて、こんなにも平和な日々が送られているのに…そんなものは、虚偽の平和、偽りの平和。

人間という生き物は、戦争をやめない。平和な時期が訪れて、戦争が勃発して、復興して、平和がきて、また戦争が起こる。ずっとその繰り返しだ。

私の創ったこの世界も同じだ。

この世界は、あなたが住んでいる世界と限りなく似た世界。コピーされた世界にすこし『ある要素』が付け加えられた…感じか。

コピーされた世界だから、当然のごとく同じ歴史が作られる。第一次第二次世界大戦と戦争が勃発し、戦後は平和が訪れる。と私も思っていた。

この世界は素直ではなかった。

第二次世界大戦後、ドイツと日本は併合された。

彼らに主権は回復せず、今に至るまで併合されたまま。彼らは地獄のような毎日を送っている。

何故こうなったか?それは、終戦の直前のヤルタ会談にある。ヤルタ会談で、イギリス、アメリカ、ソ連が会談し、戦後処理について話し合っていた。

もう、時の歯車は狂いだしていた。

そのヤルタ会談で、ドイツと日本の永久的な併合は決まっていた。戦勝国の大国がほくそ笑む内容だった。

提言したのは、アメリカという説がある。そこは明らかではない。もし、それが本当だとしたのなら、正義の国とはなんなのか。

所詮正義とはそんなもの。

と、色々考えている。

「紅茶のおかわりは大丈夫ですか?」

と一人の少女が話しかけてくる。

「ああ、お願いするよ」

そういえば、私の紹介がまだだった。

私は、この世界の創造者。『ブレイク』だ。本名ではない。

意味は「破壊する」とかではない。「休暇」とか「逃避」とかを意味していると、いつも言っているのだが…「破壊」と言う方が連想しやすいらしい。まあ無理もない。

そして、先ほど話しかけてきた少女。彼女は『リーナ』だ。彼女は、この世界の管理人の一人である。

実は管理人はもう二人いるが、生憎どちらも仕事でいない。

紹介はここまでにしよう。話すと長くなるだろう。話を戻そう。

今は歴史が狂いだしてから、55年だろうか。もう、戻れない。この世界はパラレルワールドになってしまった。

終戦から55年間、世界は平和を保ってきた。その虚偽の平和を。偽りの平和を。

ドイツと日本を併合して、奴隷みたいに働かせて…

なぜ、人間は格差を好むのだろう。こういった格差や差別は、古代から人間は初めている。それが今も続いているのだろう。

そんなことを今考えても仕方がない。

「はあ…」

不意にため息をついてしまう。だが、リーナは色々と悟ったようでこう言う。

「嫌なことは、紅茶を飲んでゆっくりするに限ります。なんなら、私がお相手を…」

と、パーカーのチャックを下げながらいうものだから、

「あ、結構です。」

即答でブレイクは返事する。リーナはひどいです…と涙目で言うが、私はなんだか可笑しかった。こういった何気ないことが平和なのだろうか。この平和が続いて欲しいと願ってしまうが、平和はすぐに崩れる。いともたやすく。

いや、やはりこの虚偽の平和は早く壊した方がいいかもしれない。

まあ、慌てなくてもすぐに崩れ去るだろう…こんな平和は。

多数が笑っていても、少数が泣いている。そんなものは平和とは言えない。

早く、壊さなければならない。だが、真の平和を築くのは私ではない…この世界の人間たちだ。

同じことを繰り返すか、真の平和か…

人間たちはどちらを選ぶのだろうか…


〈プロセス1~平和の堪能~〉


世界は、アメリカは今日も平和だった。

朝起きれば、鳥がさえずり、朝食はベーコンとスクランブルエッグ、そしてサラダである。コーヒーを飲んで、今日も仕事をする。

仕事は、国を守ること。私は国防軍所属の軍曹だ。国防軍だから、平和であっても暇ではない。仕事は山積みで、何か起きれば仕事を放棄して臨戦態勢に入らなければならない。

訓練もまた辛いが、国を守るためには鍛えなくてはならない。

「エステル、こちらの仕事をお願いできるかい?」

上司である、『ルイス・グラシス』である。彼は、上司だが階級が違いすぎる。幼馴染なのだが、絶対に逆らえない。

なぜなら、彼は大佐だからだ。幼馴染なのに隔たりを感じざるを得なかった。

「はい。大佐、お任せ下さい。」

「頑張ってね。」

彼は、心優しいので兵からの人気が高い。故に、上層部から憎まれやすくもあった。

そして、私は『フレイム・エステル』。先ほども言ったが、軍曹だ。幼馴染なのだが、自分とは違う存在。私の手の届かないところに彼はいる。そう思うと、悲しかった。

「そうだ、エステル。今日、一緒にディナーでもどう?」

「え?あ、はい。分かりました。」

彼と唯一対等に話し合える時間、それが彼との外食の時間だった。その時間はいつも、大切にしていた。

「ディナーの時間は敬語と仕事の話はナシだよ。場所は《いつものところ》だ。」

「分かっています。」

今日はさっさと仕事を終わらせてしまい、グラシスとのディナーに間に合わせようと考えた。

仕事をしていたら、いつの間にかに夕方だった。仲間に事情を伝え、職場を後にする。そして、《いつものところ》へ向かう。

《いつものところ》。それは幼馴染であるグラシスとの、数少ないディナーの誘いがあった時に毎回通う高級レストランのことである。

《いつものところ》へ着くと、レストランの入り口でグラシスが待っていた。小走りで彼のもとへ向かい、挨拶をする。

「こんばんは、大佐。遅れて申し訳ありません。」

エステルは軽く礼をしながら挨拶をした。すると、グラシスは頭を横に振りながら小さく笑う。何か、馬鹿にされた気分だった。

「忘れたのかい、エステル。ディナーの時間に敬語はナシ、だろ?」

エステルはうっかり、仕事の通りに挨拶をしてしまった。これなら何を言われても仕方がない。だが、日常通りの礼儀を直すのは難しいものだ。

「この時間だけは、大佐も軍曹も、階級もない。君と私はただの幼馴染。」

「わ、分かっているわよ…」

ものすごく恥ずかしかった。周りの目が気になって仕方がなかった。だが、この時間は無駄にしたくはない。

「お二人様ですね?では、ご案内いたします。」

ウエーターが、案内をしてくれて、ようやく席へ着く。

やはり、仕事で席に着くのと全く違う。ワクワクするというか、何か新鮮さを感じた。いつも来ているのに。だが、エステルも子供ではないので、その感情を外に出すことはなかった。

「エステル?」

「あ、な、なに?」

「食べるものは決まったの?」

「ま、まだだよ。」

完全に不意を突かれたエステルは、動揺を隠しきれなかった。さらに恥ずかしさが増した。

「はは、ゆっくり決めな。」

子供扱いされた気分だ。なんだか、今日は失敗続きのような気がして嫌だった。

そして、メニューとにらめっこしながら数分すぎた。頭の中が色々な思考でいっぱいだったので、まともに注文するものも決められない。

「私はもう決まったよ。エステルはどう?」

「…貴方と同じのを食べる。貴方の頼むものなら、何でも美味しいと思うし…」

「おっと、それは幼馴染としての信頼かな?はたまた試験かな?」

「どっちでもいいじゃん。」

エステルは、うつむきながら手を拭く。グラシスはウエーターを呼び、注文をした。

「このサーロインステーキを二つ。焼き方はミディアム。ライスもお願い。飲み物はワインがいいかな。」

サーロインステーキ。有りがちなものを注文したものだ。グラシスは、エステルの納得のいかなそうな顔をみて言う。

「ここのサーロインステーキは格別だぞ。肉は柔らかいし、ジューシーで。ナイフを少し肉につけるだけで、肉汁が溢れだす。それに、スパイスもきいている。」

「それはどこも同じじゃないの?」

「答えはノーだな。まあ、とりあえず食べてみることだ。来るまで待とうじゃないか。」

エステルは、急に空腹になった。目の前で食事レポートをされて、想像しただけでこの有様だ。彼が絶賛するここの店のステーキが待ち遠しい。

だが、毎回このレストランに来るのだから、なぜ今まで教えてくれなかったのだろうか?

毎回来ているのに、彼のステーキを食べているところも見たことがなかった。

思い切って、彼に聞いてみる。

「なんでそのステーキの事を教えてくれなかったのよ…そして、いつそのステーキの事を知ったのよ。」

「実は、エステルがいないときに部下にこのステーキを紹介してもらってね。思わずその部下を褒めまくってしまったよ。」

笑いながらグラシスは言う。

部下との飲み会もここかよ!とエステルは思った。

「そして、まあ、選ぶ選ばないは自身の自由だろ?ここは自由の国だからな。」

うまくいったつもりなのだろうか。なんだかまるで私が無知かのような言動だ。恥ずかしすぎる。エステルはさらに、しかめっ面をする。

すると、ようやく注文したものがきた。例の《ステーキ》が。

「お待たせいたしました。まず、グラスワインがお二つ。」

赤ワインの入ったグラスが、目の前にくる。正直言うと、お酒は好きではない。だがもう、色々と失敗してきたので飲んで忘れたい気分だった。

「そして、ステーキのセットのパンがお二つ。」

熱々の小さなサイズのパンが二つ。とても美味しそうだ。パンの匂いも漂ってきた。

「サーロインステーキがお二つ。」

さて、メインの《もの》が目の前に来た。ジュウジュウといいながら、牛肉の香ばしい匂いが食欲をそそる。肉汁もあふれ出ている。

思わずよだれが出そうだった。

「ご注文は以上ですか?ではごゆっくり。」

役者はそろった。早く食べたくてうずうずする。

「はい、エステル。ナイフとフォーク。」

「では、いただきます。」

エステルは、迷わずステーキにナイフをいれる。

「肉汁が…すごい…」

思わず口に出る。もはや、口にそれを運ぶことにしか頭になかった。

エステルに最大限の食欲を提供したそれは、ようやく口の中にたどり着く。

次の瞬間に、肉汁が口の中に広がり最高の幸福感を味わった。ジューシーで、やわらかい。確かに、スパイスがきいている。

先ほどまでの、恥ずかしさ、失敗の落ち込みなどが、この一瞬ですべて吹き飛んだ。今まで悩んでいたことが、馬鹿みたいだった。

ワインを飲む。なんだか、仕事の疲れがとれていく感じだった。そして、熱々のパンが他では味わえないほどの美味しさであった。麦の味が口に広がっていく。

グラシスは、エステルの非常に満足そうな笑顔をみて可笑しく思えた。だがそれよりも、心の中が温かくなるものを感じる。こちらまで満たされる。

グラシスは安心して、食事を進める。やはり、いつ食べても美味しい。

また、ここに来よう。とグラシスは決めた。グラシスがたまにエステルをディナーに誘う事にも目的があった。

エステルに息抜きをさせるためである。エステルが仕事で疲れているのは、彼が一番分かっていたし、階級などで格差のストレスも感じていることも彼は知っていた。

エステルは満足そうに食事をしている。それだけで、彼の目的は達成していた。

そして約15分後、二人の食事が終わった。エステルは心の底から満足した。好きではなかったワインも、今日は不思議と美味しく感じた。

そして、勘定に入る。満足した分、その代価を店側にお金を払う。これは常識だ。

「あ、私もお金払うよ。」

「大丈夫だよ。私が奢るよ。」

「わ、悪いよ…」

「君の満足そうな顔を見ていたら、奢らずにいられなくなったから奢らせてよ。」

「え…!?」

一度どこかへ消えた恥ずかしさが、自分のもとへ戻ってきた。

勘定を終えると、後は帰るのみ。

「エステル、送るよ。」

「何から何までごめんね…」

「気にするなよ。」

そして、彼の車に乗り家まで送ってもらう。

エステルは、感じた。こんな何気ない日常が平和なのだと。このような日常が毎日続けばいいのにな…。彼女はこう思う。

エステルの家へ着く。グラシスと別れの挨拶をして、就寝の準備をする。また明日も早い。特別な時間が終わり、また仕事の日々が続く。

彼女は眠った。永遠の幸福と平和を願って。

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