集合
その三
『集合』
五月二日となって授業が終わり放課後になった瞬間佐野は逃げる準備をする。もちろんあの前庭という性格の悪い先生から逃げるためだ。もう一人の女生徒も早々と帰り支度をしていた。
「佐野、迎えに来たぞ」
「ちぃ」
出遅れたと佐野は舌打ちする。
この教師は俺の性格をわかっているとも思っていた。
「白鳥もついて来い、今から別の部屋に向かうからな」
「なんてこと、間に合わなかった」
佐野と同じく早々と帰り支度をしていた女生徒『白鳥 実里』は実は佐野と同じく呼び出された人物だったらしい。
眼鏡をかけ、一昔前のスカートの長い黒いセーラー服を着込んだ大人しそうなイメージできる。
「お前ら二人はある意味分かり易いからな、特に目立たないために伊達眼鏡なんかしているやつとか」
「先生、なんで知ってるんですか」
「お前、視力検査の時に眼鏡外して受けていただろうが」
どうやら女生徒の眼鏡は伊達眼鏡。
視力じたいは普通にあるらしい。
そんな二人を確保した前庭先生は職員室の隣の部屋に入った。
この部屋は物置だったのではと2人が入ってみるとそこには机と椅子が計16組並べられていた。まさに教室というべき部屋になっていたのだった。
「そこの席に座れ、名前が書いてあるプレートがあるだろう」
二人はわけもわからず自分の名前の書いてある席に座る。名前プレートにはBRクラスと記載されている。
「BRってなんだ? そんなクラス聞いたことないぞ」
「それについては全員が揃い次第教えてやる、二度手間だからな」
それもそうだろうと佐野が机に伏せると元気な女性の声が遠くから聞こえ。バターンと扉を開け放ったと同時に声の主らしき人物は前転してしゅたっと立ち上がった。
「こんにちわー……げふう」
「職員室まで走るなこの馬鹿者が!」
「さーせん」
その言葉だと廊下は走っていいと聞こえるのは気のせいだろうか。
それよりも入ってきた元気爆発女生徒である迷惑極まりない。ポニーテールで色は桜。身長も少し女性にしては高く前庭より少し小さいくらい。体は引き締まっている。彼女の性格から意識してないでの体型かもしれないが服装が少しはだけており大変目に悪い。
彼女は俺たちと同じように席に座ると爆睡し始めた。
「おい、あのアラサーの前で寝たぞ、危険じゃないのか」
「野獣の檻に餌を投げているみたいな所業ね」
「お前らいい加減にしろよ」
拳を握っている前庭が本気で怒り出す前に二人は落ち着くことにした。
もう三人目でここまで濃いのだ。多少のキャラではもう驚くことはないだ、
「秘技、隠れ蓑術」
背後から忍者服着た変人の男が現れる。流石にこれは驚いてしまう。時代が時代なだけにその格好だけはないと思っていた。
「伊賀 誠二も到着と……」
「先生、動揺無しっすか」
「昨日の時点で三回同じネタ見せられたから来るとは思っていた」
このネタ3回もやっていたのか。道理で反応が薄いと佐野は思っていた。
「これで四人、後十一人分の席が残っているわ」
「ああ、一体どんな猛者が来るかわからないぜ、驚きの連続だ」
「同意」
伊賀にちゃっかり同意されこの話は終了。佐野はこれ以上に濃い奴がこないように祈った。
「こんにちわです」
忍者も加わりバラエティ枠が増えて数分すると新たな来訪者。朱色の髪で整った若い顔立ち。しかしその姿は体にメリハリがなくまるでランドセルが似合いそうなワンピースの小さな女の子が立っていた。
「「はいアウトぉぉぉぉ!!」」
寝ている女生徒と前庭を除いた全員の声が揃った。
伊賀も声を口数か少ないと思っていたのだが見なと同じく反応をしている。
「先生、これは完全に犯罪ですよ!」
「そうですよ、どこから連れて・・・はっ! もしかして先生の子供!」
「愛の結晶か……」
「まさかアラサーは既婚者だったのか! ある意味裏切られた気分だぜ」
「本当に好き勝手言ってくれるな、お前ら……後で校舎裏な」
前庭がゴキゴキともう臨界点突破しそうなほど血管を浮き上がらせドスの効いた声。まともに向き合えば足がすくんでちびりそうなほどである。
「随分と盛り上がっているな」
「んにゃ、面倒くさい気がする」
「ちょっとうるさいかな」
「そんなことどうでもいいから俺も仲間に入れろ」
さらに四人組の男子生徒が入室。
一人はイケメン王子風ファッションを着こなしスラリとした体型に爽やかな笑顔という一見完璧な男。一人はチャラ男のように耳にピアス、髪色は染めている茶色、制服も少しはだけているだらしない男。一人はパソコンをいじりながら様子を見ているメガネをかけた体の線が細い男だ。
最後に元気ハツラツの男は髪がツンツンで赤毛、ガタイも良く男の強さを表現している。
先ほどまでのインパクトには確実に勝てないもののそれなりのキャラが揃っている。
「結構まとめてきたな」
これで人数は九人。後六人は一体どんな人物なのだろうか。
佐野は気になってしょうがない。
「んで、この小さい子はなに?」
「最初に来た奴らには言ったが自己紹介は後だ。もう一人も来たようだしこれで全員だ」
「失礼します……兄さんがいる!」
ピシャーン。強く扉が閉められる。そこには佐野のよく知る人物。
「その声は麗しき妹! なぜここに」
そう佐野の妹である。
「それは私が呼んだからだ、さて基本的な面子は揃ったな。全員席に座ったら始めるぞ」
今来た五人が席に座ると前庭が教壇の前でバンと机を叩く。
「それでは転校生と留学生を紹介する。入ってこい」
「いきなりの急展開とか笑えますです」
聞いたことのない声が廊下から聞こえると今までと違い緩やかに丁寧に扉が開かれる。今まで乱暴に扱われた扉は心があるなら嬉しさよあまり泣いているかもしれない。
入ってきたのはこの学園の全員スカートを履いていた。全員女生徒であるようだ。
「では転校生たちから挨拶をしてもらおうか」
「私は牧野 春香と言います。もと千葉の蘇我シェルターの時笠高校に通っていました。よろしくお願いします」
「よろしく、すごい綺麗な人だね」
「あら、ありがとうございます」
最初に挨拶したのは清楚な雰囲気を持った大和撫子を体現したかのような女性。胸も大きくしっかりとしたくびれは男を惹きつけるには十分だ。
「では次は私か、茜々木 日向。剣道が得意だ。もとの高校は栃木の天王洲」
「おう、強そうな奴が来るのは大歓迎だ。よろしく」
背中にしない袋を持っている彼女もすこし胸が小さいものの全身が引き締まってレベルが高い。後ろ髪が三つ編みになっている。
「私は京都の矢来学園から来た荒木 八名、よろしく」
「……うん、よろしく」
身長140ちょい、横周り推定120。この場にて最大の異質。つまりは、
「随分と体が大きいな。デブ?」
ああ、俺たちが言わなかったことをという目で佐野たちは空気読めないイケメン王子を見る。
「これは筋肉、デブではありません」
衝撃の事実。横周りは全て筋肉らしい。男たちは女子に頼み込み確認させる。硬さから間違いなく筋肉らしい。
世の中不思議だらけである。
残り二人の希望である、線の細い女生徒はどんな挨拶をするのだろうかと佐野が身構えていると。
「こんにちわ、瞳子 翡翠です。愛媛出身です。これでも男の子です。よろしくね」
「よろ……男?」
衝撃の自己紹介が再びやってきた。
「えー、嘘でしょ!!」
「本当です男の子です」
皆が嘘だと思う中佐野はスカートの中を一大決心で覗いた。もしこれが女性ならば大犯罪確定。しかし幸いなことに男のシンボルがそこにあった。予想外だったのはなぜか女性下着を履いていたこと。どういうことなのかのぜひ問いかけてみたいと佐野は好奇心で思っていた。
「どうだったの、警察呼んだ方がいい?」
「やめろ。確かにこいつは男だった」
「その方法で確認しようとする人は初めてだよ。可愛いの履いてないのに」
実は家庭の事情で女の子として育てられ今では女子の服でないと落ち着かないらしい。
「さて、最後になったが留学生。挨拶しろ」
「ハイ、リョウカイデス」
備え付けてあった黒板に名前を書いていく留学生。銀色の長い髪をなびかせどこかのお嬢様かと錯覚してしまいそうになるほどだった。
「ユーナ、ユーナ・ブァルナレフ。ロシアカラキマシタ。ヨロシクデス」
「よろしくだな」
言葉は片言。だか日本語はしっかりと理解がてきている。背も小さめでお人形みたいな見た目で幼さを感じさせる。とにかく可愛らしいという言葉が似合う娘である。
次は佐野たちの自己紹介。
簡単に皆が自己紹介し始めた。
イケメン王子の名前は『星野 恭』。男性アイドルみたいな名前である。チャラ男風の男は『東野 海』。パソコン弄っているのは『新崎 一』。そして一際ガタイのいい男は『柳沢 剛』と言うらしい。
この四人が自己紹介を終えると佐野たちの番がきた。
「俺の名は『佐野 國光』、んでこっちが妹の『佐野 桜』。以後よろしく」
「兄共々よろしく」
よろしく。等しく誰もがそういう。全員人あたりがいいのだろう。これまでの挨拶もしっかりとしている。
「……伊賀 誠二」
忍者は出来るだけ寡黙を貫くことを決めているらしく名前しか名乗らなかった。後は寝ているのと小さい子。
「起きなさいです、このバカ満」
「あぶら! アレ、ここどこですか」
小さいあの子にどつかれて起こされる。ある意味夢が広がるが絶対に佐野はやりたくないものだった。
「自分で来といて何言っているのです。さっさと自己紹介しなさいです」
「ラジャ、もとAクラス三組の江利知 満です。よろしく」
「同じくAクラス三組の小牧 小豆です。皆によく言われますがこれでも同い年。小学生ではないのよ」
懐から学生証を取り出してふんぞり返る。確かに彼女の年齢は16でありいわゆる合法なアレだということがわかった。もう一度重ねるが世の中不思議で溢れている。
「自己紹介は済んだな。ではこのクラスの意義を説明する」
やっとかと皆が前庭の方へ向く。
前庭は黒板にこのように書き入れた。
『BRクラス『ブレイブレイド』へようこそ。諸君らは選ばれた人間だ』
佐野はなんだこれと黒板をまじまじと見た。だけれども内容は代わりない。
「前庭先生、ブレイブレイドとはどういう意味です」
「小牧、いい質問だ、では答えよう。クラス『ブレイブレイド』とは進化した生物のことを今後役立てるように研究し依頼や被害が及べば討伐、もしくは捕獲を行うクラス。いわゆる解放軍の研修生となるわけだ」
「つまりは被害が及ぶなら対処を行う必要があるわけですね。しかも進化した生物相手に」
進化した生物は年々増え続けている。最近ではかなりの上位個体が発見されているとの報告がある。
「そういうことなら元のクラスに戻りたいのですが」
「おっと、それは出来ない。なぜならばお前たちのクラスはもう変更済みだからだ。これから元のクラスで授業を受けても単位は所得できん」
「退路は塞がれていた」
「だけど悪いことだけじゃない、学費は免除されるしむしろ増える。こちらは危険を率先しているのだからな。それくらいの見返りはある」
「なるほど、ですがどうして私たちなのですか?」
実際の言葉通りどうして自分たちを選んだのか。それを聞きたくて佐野妹は前庭に質問した。
「これまたいい質問だな。答えは単純だ。総合能力で優れたものを選出しただけさ。他に理由はない」
「そうですか。前庭先生ありがとうございます」
「もう質問はないな、なら明日から授業だ。今日はもう休むように。解散」
解放軍の研修生『ブレイブレイド』。
学園に新たに設立されたエリートだと思われる人物が選ばれる。まだみない人類の可能性として。