変わりゆく日常
分けました
その二
『変わりゆく日常』
少年は先生の宣言通り反省文を書かされた。内容は『もう遅刻はしません』を百回書くことであり精神的苦痛を受けていた。
まさか少年も遅刻しただけでここまで書かされるなど思ってはおらず多少の怒りを込めて全文を書き終えた。
「仕方ない、今回はこれで許してやろう。ありがたく思えよ佐野」
これが少年「佐野 國光」の電話をかけた先生の「前庭 光」という女教師である。
他人から見て見た目は超美人。あり得ないほど綺麗な地毛茶髪でスレンダーかつとある部分が激しく強調。女性が羨むような完璧なプロポーション。服装はスーツをいつも着込んでいる。
「あー、はいはい。ありがとうございますアラサー様」
「どうやらまだ書き足りないようだな」
「すいません。口が滑りました」
「たく、お前の将来が心配になるよ」
佐野は本気で前庭先生から心配され少し戸惑ったが絶対に心もとない言葉を発していると顔に書いてあったため平静を取り戻す。
もうようはないはずだと職員室を後にしようとしたが佐野は前庭先生によびとめられる。
「実はお前に伝えたいことがあるんだ」
「愛の告白ですか? 教師と生徒の恋愛は間違いなくネタにされますよ」
「ちげえ、お前今Bクラスだろ」
あー、あの無駄に真面目なクラスなと佐野は頭を抱えた。
「わり、あいつらとは仲良くできないわ。堅物すぎて息が詰まる」
「そういう意味でもない。お前には違うクラスに行ってもらう」
「はい?」
「明日の放課後また職員室に来い。説明をしてやる」
佐野は内容もわからないまま明日の放課後の予定が一つ決まってしまったことに世界の理不尽さを感じた。
「それにしても何の話だ」
公立琴原学園には二つの学科が存在する。
戦闘技能を磨くAクラス『アタッカーズ』。この学科では進化した生物との戦いを想像されたカリキュラムが組まれ臨戦時には対応できるように教育される。
二つ目に佐野が所属するBクラス『ブレインユニット』。その名の通り頭を使って行動を得意としている。作戦式の構造や戦術を幅広く学ぶ。
前庭先生がBクラスに頼みがあると言うなら頭脳関係なのだろうがその辺はどうなのだろうかと佐野は考えていた。
「ただいま、帰ったぞ」
「おかえり、今日もまた何かやらかしたの」
「いつも何かやらかしているように言わないでくれませんか妹よ」
佐野が帰るとリビングで半袖シャツと短パンを履きだらしなくテレビをごろ寝して観ている妹『佐野 桜』がいた。
体にメリハリはないが美人さんの類だろう。髪は黒色で今は結っているが長い。健康美のような細い足も特徴的。
「またお前はそんな格好を」
「だって楽だし家だもん」
言いたいことはわかるが年頃の娘としてどうだろうか。
佐野はいつも通り何もしない佐野妹を尻目に夕ご飯を作る。
今日は何かなんて決まっているので簡単に作ってテーブルに並べた。
「今日は麻婆かぁ、甘口だよね」
「うちの伝統だからな」
そっと佐野たちは遠い目をする。目の前の麻婆は思い出の品だからだ。
「そっか、お母さんの味かぁ」
「父さん母さんが死んでもう八年になるな」
佐野が母に習った最初で最後の料理。
それがこの甘口の麻婆。市販のタレを使わず香辛料も自分で調節することを真髄とした辛味がほとんどないオリジナルの激甘麻婆。
八年前、進化した生物が東京の空から江東区に攻め入ってきた。江東区での被害人数約1100人。鉄壁とも呼ばれた東京はその日を境にほぼ壊滅させられる。最終的には二万人を超える死亡者がでたのであった。
中心の江東区に住んでいた佐野家族は佐野兄妹を逃がすために囮になった。
そして殺された。八年前の事件の犯人に。
「今やこの東京付近、一之江以外は進化した生物だらけなんて信じられないよね」
実は東京の一之江だけがシェルターのようなものに覆われている。だからこそこの一之江ではまともに過ごせるしさほど見守りに人数をさくこともない。
「ここにこられて学生になれただけでラッキーてことだろうな」
とはいえ戦闘を想定した学園だそのうち戦場に駆り出されるだろう。
それまでこんな日々が続けばいいなと佐野は心から思っていた。