行間三
六時になり外は紅に染まり始める頃に二木理を初めとした数十人が慌てふためいている。その様子を見たハロルドは隠れて様子を見ることにした。隠れた場所は掃除用具が入れてあるロッカー。漫画とかノベル小説とかで案外見つからないベストな隠れ場所であった。やがてどうにもならないと二木理は立ち止まった。
「まさか、あの商人のやつが例のブツを置き忘れるとは」
「仕方ありませんって、引き渡し場所がまずかったのですよ」
「東京駅にしたのが間違いだったということか、だからと言って街中でやるわけにはいかないだろう」
「ですね、アンダーグラウンドの新秋葉原や新東京では人が多すぎます」
実は東京は一部の地下増設が進んでいたのだが八年前の事件でほぼ凍結。東京と秋葉原の街だけが完成している状態である。
「では二木理様、我々は失礼いたします」
「ああ、今のままでは動けない。物が手に入り次第連絡しよう」
「了解しました。それでは」
二木理ともう一人を除く八人がぞろぞろと帰っていく。そして二木理は現代の携帯通信端末『アルゴデバイス』を片手にどこかに通話をかけていた。
『こちら榎本商店隠れ東京支部です』
「私だ、二木理だ。沢田をだせ」
『あいにく沢田さんは留守にしております。二木理様のように携帯端末を持ってないのであちらから連絡していただくしかないかと』
「そうか、なら連絡がついたらこちらに連絡するように言って置いてくれ」
『わかりました。なので切って良いですよね、切ります』
ツーツーツー。二木理は何も言わず携帯端末をしまった。
「あいつ、仕事に真面目なのか不真面目なのかわからないぞ」
「きっと不真面目でないかと、それよりも計画に遅れが出そうですね」
「全くだ。内部の侵入工作も無駄にならないことを祈るしかない」
カツカツと二木理たちは掃除ロッカーから離れて行く。ハロルドは十分に離れたことを確認するとロッカーから飛び出た。
「今のは作戦の話か? 新情報には違いないが余計気になってきたぞ」
一体何を考えているんだとハロルドは二木理相手に警戒を強めることになった。