吾輩は竜護の民である
私は竜護の民である、名前はまだない。
竜に拾われて守られるようになってから早3日も経っているらしい。
太陽が昇って、沈んで、月が昇って、沈んで、また太陽が昇ると一日だ。
ちなみに太陽は空に浮かんでいる燃える気体の塊らしい。月は地面に落ちている石がすっごく大きくなったものだとか。ついでに月は二種類あって、「古い月」と呼ばれる常に同じ動きをする月と、「新しき月」と呼ばれる不規則に動く月がある。重要なのは古い月で、新しき月は知る必要がないって言われたので気にしないでいるけど、なんとなく、月が二つある事に違和感を感じる。──なんでだろう。
今日はその古い月が空の真ん中で輝いた時にとても大切な事を決めるらしい。
そのために今日は朝から大忙しだった。
普段はベッドで寝てるとご飯をもらえるんだけど、今日はご飯じゃなくてお風呂に入った。ムシュフシュお姉ちゃんに頭を洗ってもらって、そのあと体は自分でやりなさいって言われたけど、遅くて最後は洗ってくれた。ムシュフシュお姉ちゃん優しい。
ちなみにムシュフシュお姉ちゃんは自分を男だと思っている残念美人さんだ。確認したけど胸柔らかかったし、股の間は水着で見えなかったけどもっこりしてなかったから間違いない。だから一緒にお風呂入っても問題ないはずなんだけど、何故か嫌がるんだよなぁ。
まあ、ともかく、次は本日の三回あるメインイベントのご飯だった。
焼き立てのギッフェリーって言うパンと、丸い葉っぱを千切った物にトマトをいれて、薄切りにしてから塩漬けしたレモンを刻んだ物を少しと、クルトンを入れたサラダ。後はコンソメみたいなスープだった。
ギッフェリーって要するにクロワッサンの事らしい。形が違うけど触感は同じ。とても美味しい。7個食べた。サラダは塩づけしてあるレモンのおかげでなにも掛ける必要がないから手が汚れにくかった。3杯もらった。コンソメ最高、言う事無し。全部飲み干した。
……何故か食べている時、みんな驚くんだけどどうしてだろう。そんなに食べ方きたないのかな。マナー? とかはよく分からないけど。
そのあとはいつもみたいにムシュフシュお姉ちゃんが服を着せてくれた。
今日は青草色のワンピースだった。胸元に小さな鳥の絵があるのがチャーミング。頭には桜みたいな花の髪飾りをしてもらった。いい匂いするのが不思議なんだよなぁ。
その後はいつも通り、私が出来るお手伝いだ。ムシュフシュは完璧未満超人だから基本的になんでもできるけど、裁縫とか、お掃除とか、家庭菜園とか苦手。裁縫すると布がすぐになくなるし、お掃除すると埃だらけになるし、家庭菜園すると野菜がモンスター化する。比喩じゃなくて本当になるから注意が必要だ。
だから私は敗れた服とか縫って、お掃除して、家庭菜園してる。ちなみに敗れた布類は基本的に補修したり、再利用するには悲惨なのは雑巾にしたり、あとはカーテンの飾りとか、ポケット増やすのに使ってる。最近は自分用の鞄作ったら皆に驚かれた。案外簡単なんだけど、……そんなに私不器用そうに見えるのかな。
まあ、見えても問題ないんだけどね。ともかくある程度終わったら昼御飯だ。
お昼にはお肉が出た。いわゆるステーキだ。ステーキってすてーき、なんちゃって。
……後は水菜と千切り大根のサラダにふかふかの蒸パンだった。マーベラス、ブリリアントだった。
ステーキ500gはやっぱり多かったかも。でも美味しかったしいいかな。
次は身を清めるとかで滝にいって、その裏側にある小さな泉に30分くらい浸かってた。
小さな光がふよふよ浮かんでて綺麗だった。何より声を掛けるとすり寄ってきてすごくかわいかった。
その中に一つがふわふわと私の掌に落ちてきて、そしたらそれが溶けるみたいに私の中に入っていく。温かくて、どこか冷たい不思議な感じだった。
そして気がつくと周囲の光が消えていた。もう何も見えなくて、ただぬるい泉があるだけだった。
声を掛けられて戻って、そこでようやくここが何かを教えてもらった。
此処は竜護の民が、世界から力を分けてもらうために竜族が用意した聖域の一つなんだとか。聖域って言うのはとにかく不思議な場所らしい。
そして、次はなにか色々とお着替えしました。
まっ白な和服と赤い袴というなんともオーソドックスな巫女服だったり、お姫様みたいな薄桃色のフリルたっぷりなドレスだったり、何故か唐突に紺色のスクール水着だったりと統一性のないラインナップ。──最終的に巫女服に決まりました。なんでも伝統的な服装な方がそれっぽくていいとかなんとか。なんのこっちゃ。
その後は籠に乗せられてどこかへと連れて行かれた。
多分晩御飯を食べに行くんだろう、ちょっといいところだから服装にもこだわったに違いない。
そう思って運ばれた先に晩御飯はなくて、とても大きな竜の石像でした。
口には綺麗なまん丸い宝石を咥えているその竜の石像の前に案内されて、私は今日初めて口を開いた。
「ごはんは?」
何故か全員ずっこけてた。