喧嘩と餌付け
不定期更新です。
竜護の民は、その呼称から竜に守護される者だと思われがちだがそれは違う。
竜護の民とは、そもそも世界の維持に必要な魔力を配給するレイライン──東方の島国で竜脈(正確には龍脈)の内部より生まれる世界の子供と呼ばれる存在である。
長い時を経て、現在ではその意味を知る者は長命種であろうとも少なく、そして竜達もまたその勘違いを良しとして守り続けている為その誤解が現在では定説として認められている。
そして本日、新たなる竜護の民が産まれ、そしてまた竜により保護された。
その竜護の民はいわゆる森と光の民と呼ばれるエルフ、もしくは谷と闇の民と呼ばれるドラウに似ていた。
耳は彼らよりも短いが、細く鋭い。
髪色はドラウ同様銀糸の如く美麗さで、しかし肌色は褐色ではなくどこまでも穢れないエルフの如く純白さだ。
瞳の色は青の瞳を持つエルフでも、赤の瞳を持つドラウでもなく、そのどちらをも混ぜたかのような、深く鮮やかな紫だ。此処までも見事な紫はないと、竜族の多くの者が見入ってしまう程に深く美しい紫だった。
どこまでも無垢なその少女は、その愛らしさと美しさから忽ち多くの竜族を虜にして、現在では誰が彼女の従者となるか、それを必死になって奪い合っている最中であった。
「金銭面でアバウトな手前等が外の世界で約に立つか!」
「戦闘能力の低い貴様等が偉そうに言うな、ろくに護衛も出来んだろうが!」
「戦闘馬鹿と守銭奴が子供の子守が出来るか、まずは最低限の礼儀作法を覚えてからきやがれ!」
「子供を育てた事もない男共が偉そうに立候補するんじゃないよ、女の子の育て方なんて知りゃしないだろうが!」
「年の取った人達より近い私の方が仲良くできるよ! というか、私妹ほしいの!」
「俺も娘欲しいわ!」「俺も妹ほしいわ!」「私もおなじだよ」「ちくわ大明神」「ロリなご主人様マジ最高」「誰だ今の」
それぞれの主張は途中から願望の投げ合いになっており、途中から件の少女の存在すら忘れ去られて喧嘩が勃発。呆然と見やる少女を放置して、竜族総数247体の内231体の大喧嘩が始まった。
空でぶつかり合う最強の種族の大喧嘩、それを始めた直後、周囲の獣が一斉に逃げだした。
「ほら、ご飯だ」
そんな中、喧嘩に参加しなかった竜族の一体、最古の王族の血を引くムシュフシュだけは、少女の為に食事を与えていた。途中からおなかの虫が鳴り続けており、泣きそうな顔だったのでいても立っても居られなかったのだ。そもそも可愛いもの好きである彼は、一応王族の血を引いているという事実から先程の論戦に加わる事を禁止され、五月蠅い輩がいなくなった事でようやく触れあえる機会を得たと、尻尾を文字通り振りながら自作したパン粥を持ってきたのだ。
少女はそれを嬉々として食べさせてもらい、こちらも頭のあほ毛がみょんみょんと動く程に喜んでいた。もととなった人物の座右の銘が「食べ物に対する愛以上に誠実な愛はない」なので当然彼女も食べる事が大好きだった。ちなみに初めての食事はそこまでも美味しくはないが、何物よりも温かで、どこか懐かしい味だった。
それが決め手だったのだが、食事を与えたムシュフシュも、空で大喧嘩している大勢も、ソレを眺めて賭けをしているそれ以外も、誰一人気付く事無く、こうして竜護の民の従者はムシュフシュに決定した。
◆
──竜護の民ってなんだろう。
大きなベットの上に座らされた私は、とりあえず何も考えずに周囲で騒いでいる人達の話を聞いていた。
なんでも私は守られないといけないらしくて、守りたい人が沢山いて、決められないから喧嘩してるらしい。意味分かんない。
そんな事よりご飯食べたい。ぐるるるるって鳴り響いてる。
そんな時に綺麗なお姉ちゃんが私におかゆを持ってきてくれた。
「ほら、あーん」
「あーん」
……あんまり美味しくない。
パン粥って、お粥とちがって食べ慣れてない──あれ、お粥って食べた事あったっけ?
まあ、ともかく、ドロドロとした小麦味の何かで正直食べるのがつらい。
でも、あったかいし、なんだか懐かしい。昔誰かに、こうして食べさせてもらっていたような。
「……まずいのか?」
「あんまりおいしくない」
「……まあ、パン粥だししょうがねえか」
「でもあったかいよ?」
あんまり美味しくはないけど、それ以上に大好きな味だった。
こういうのをおふくろの味って言うんだろうか。言わないんだろうか。
ともかく美味しさよりも優しい味だったから不満なんてない。
「そっか、それはよかった」
「うん、ありがとうお姉ちゃん」
「────お兄ちゃんな?」
こうして、私はお兄ちゃんことムシュフシュお兄ちゃんと仲良くなった。
ちなみにだけど、それが私とムシュフシュお兄ちゃんが従者と姫という関係になる切っ掛けだったのを知ったのはこれから五分後くらいだった。
ロリの名前募集中。