男なら揉みしだけ!
「水樹、私、誰かさんのお陰で本格的に魔力切れだわ。何だかピンチそうだけど頑張ってね。」
「嘘でぴょ!」
余りに詰んでいる状況に、滑舌に気を回してる余裕などなかった。
那由他はこんなヤバい状況なのに、のん気に魔力切れとか言って座ってるし。
ウンタマーギルは見えない武器でも十分なのに、空いた左手で印を結んでブツブツ何かを唱えている。
あの変態忍者、俺たちを確実に仕留める気だな。
・・どうする?
どうすればこの危機を乗り越えられるんだ?
何か。
何か手は無いのか?
水樹はこれまでにないくらい、無い頭をひねって考える。
俺一人だと、確実に殺られる。
しかし体術勝負だとなんとかなる気がする。
一発も当てていないが、こっちだってなんとか致命傷は避けているし。
だったら、俺と那由他なら?
・・可能性が見えてくる。
那由他の魔法ならあの見えない刀をなんとかしてくれるかもしれない。
あいつの忍法を相殺してくれるかもしれない。
・・でも、現実は残酷。
那由他は魔力切れ。
とても戦える状態ではない。
なんとか。
なんとか那由他の魔力を補充できないだろうか?
・・・思いついてしまった。
一つだけ。
方法がある。
しかし。
出来るかどうかは賭けだ。
なんせ、やったことないのだから。
でも。
可能性は高い。
でもでも。
やるのか?
あれを?
那由他に?
下手するとウンタマーギルに殺させる前に、那由他に殺されるぞ!
でもでもでも。
このままだと、待っているのは確実に死だ。
それなら。
俺の生存に魂を賭けるぜ!
「那由他、事情は後で説明するから抵抗するなよ!」
意を決した水樹。
すぐ後ろで座っている那由他を押し倒し、壁ドンならぬ、グラウンドンを披露する。
「なっ!なっ!」
那由他はいきなりのいきなりすぎる展開に、処理が追いつかず、混乱が頭の中を渦巻いていた。
「うおー!那由他!受け取れー!」
水樹はグラウンドンしていた両の手を、あろうことか、那由他の自己主張の少ない胸に持っていき、モミモミしだす。
「はっ?はっ⁉︎ハッ!!な、な、何してんの⁉︎何しだしてんの!ちょっ、意味分からない!分かりたくもない!」
もちろん那由他は顔を真っ赤にしながら、手足をバタつかせ、抵抗する。
「ちょっ、動くな!やったことないんだから、集中させて!」
「あ、あんたこんな時に何に集中する気なのよ!感触楽しんでる場合じゃないのよ!それに、昨日渚相手にやってたじゃない…。」
何故か、最後のほうは尻すぼみになる那由他。
可哀想に。
嫌なことされてる時に、嫌なことを思い出したんですね。
「いや、昨日やってたのとは違う!むしろ逆だ。何か感じないか?」
「か、感じるって!あんたなんかのテクでこの私がどうにかなると思ってるの!ば、ばかじゃない!」
「ばっ!バカ!感じるってのは魔力のことだよ!回復してるだろ!」
「えっ!・・そういえば確かに魔力が回復してるわ。」
「よし、なんとか成功したみたいだな。」
昨日、渚から乳揉みで魔力を吸収したのを思い出して、もしかしたら魔力を送り込むことも出来るのではと考えたけど。
まさか、こんなに上手くいくとは。
主人公って罪だよね。
那由他の魔力をチャージするとこに成功した水樹は、すぐさま立ち上がり、正に印を結び終えたウンタマーギルに対峙する。
本当は混乱している那由他のケアをしないとなんだろうけど、あいにくそんな余裕はない。
「やはりお主達は生捕りでも危険でござる。このおませさんめ!よってその命。この『怪刀 彼岸渡し』で断たせていただくでござる!外道忍法 朱天慟地!!」
怪刀でぶっ殺すとかいいつつ、忍法を繰り出してくるウンタマーギル。
しかし、水樹たちにはツッコミを入れるほどの余裕は無い。
よって、代わりにナレーションである私が入れておきましょう。
【忍法が先走っとるがな!】
と、まあ、冗談はこのくらいにして閑話休題。
ウンタマーギルの繰り出した忍法は、まさに名前の通りで、天は炎で朱に染まり、地は泣き叫ぶが如く、激しく振動している。
「どうでござるか、某の忍法は?天空には炎で逃げられず、かといって地の方もこう揺れていては立っているので精一杯でござろう?」
「・・確かに凄いな、これは」
なんだこの視界いっぱいの炎は。
那由他が霧のドームでグラウンドを覆っているとはいえ。
とはいえ、グラウンドも中々の広さだ。
野球とサッカーが同時に出来るほどの。
東京ドームが二個分だ。
多分。
田舎だし、土地は腐るほどあるし。
まあ、二個は大袈裟にしてもこのグラウンドを覆い尽くす程の炎。
空一面に炎。
いや、恐らくこの炎は面ではなく。
立体的に。
それこそ、ドームいっぱいに、溢れんばかりに、溢れているのだろう。
そして、炎だけでなく地面はガクブルときた。
更に更に、相手は見えない刀まで出してきて。
大人しく捕まっていたほうがよかったのかなと、後悔してる今日この頃。
きっと後頭部を踏まれている気がするのも、余りの絶望に脳が作り出した錯覚ですよね。