生きのいい砂
「那由他様のとこをご主人に直してもう一回よ。」
えっ!
もう一回だと!
俺もうアゴまで埋まっちゃってるんだけど。
「ご、ご主人様、ぺっ!ぺっ!お助け、ぺっ、下さい!」
かなり生きの良い砂が口に入ってきやがる。
お口の中が〜、ジャリジャリ祭りじゃーい!
パシッ!
もう頭まで砂の中に埋まって、残るはバンザイしていた腕を残すのみとなっていた時。
誰かが腕を取り、俺の体を大きなカブの如き勢いで引っこ抜く。
誰か、というのは那由他だと思うのだが断定はできない。
なんせ、頭まで砂に埋もれるという貴重な体験の最中だったのだからな?
まあ、手の感触から那由他なのはほぼ間違いないか。
「まったく、私がいないとダメね、あんたは。」
「た、助かった、ぺっ!ぺっ!ありがとう。ぺっ!」
いやー、すごい体験だった。
体が徐々に埋まっていくって、恐怖だね!
もう二度と砂にはめり込みたくないな。
「ほう!お転婆娘は舞空術まで使えるでござるか!成る程、お主達が例の予言に関わっているというのはどうやら誠のようでござるな。」
例の予言。
そんなことを昨日、渚も言っていたな。
俺たちが世界を破壊するとかなんとか。
一応予言の内容を引用しとくと、
”遠い異世界より、第二、第三の神の子来たる。これら、偽りの世界を滅さん。第一の神の子猛り狂い、創生の息吹が世界を包みこむであろう。”
である。
うーん、改めて考えてもよく分からないな。
多分第二、第三の神の子はブレイドさんとリリーのことなんだよな。
ちょうど二人だし、制覇者ですとか言ってたし。
でも、第一の神の子って誰だよ!
偽りの世界ってなんだよ!
創生の息吹って、急に比喩表現使うなよ!
分かりづらいわ!
などと考えていた水樹の思考は、那由他が急に掴まえていた手を離したことで遮られた。
「うわっ⁉︎離すなら離すわよ、とか言ってから離して!せめて!」
別にそんな高いところ飛んでなかったから、いいけど。
「ほらほら、私のブルマ見てると殺されちゃうわよ。」
くっ!何故俺がブルマを見ていることがバレたのだ!
確かに下から見上げる角度からのブルマは初めてでドキドキだったけど、言う程そんな見てなかったのになー、って言って間にウンタマーギルは目前まで迫っていた。
「某との戦いの最中に余所見、それもおなごの御御足など見ていると命取りでござるよ。」
「見てたのは足だけじゃなくてブルマもだよっ!」
水樹はなんとか反応し、ウンタマーギルの顔面パンチを躱すことに成功する。
「か、躱せた!」
見える、見えるぞ!
「甘い!でござる!」
顔面パンチが躱さたウンタマーギルは、傍から逃げようとしている水樹に回し蹴りをお見舞いする。
しかし、突然の回し蹴りにもなんとか反応し、ガードする水樹。
「あっぶねー」
いくら身体能力が上がっていると言っても痛いものは痛いからな。
綺麗なお姉さんに蹴られるならともかく、こんな変態忍者になんか蹴られてたまるか。
「むう、案外しぶとし。これは某の得物を使うほかないでござるな。」
そう言うとウンタマーギルは、右手を腰の後ろに回し、腰の後ろに差している刀を抜く真似をする。
ここで真似をすると表現をしたのは、実際は腰の後ろに刀など差していないからだ。
いや、正確には差していないように見える。刀など見えないから。
それに実際にウンタマーギルの右手には何も握られてはいない。
これも見えないから。
・・手の形は握っているようだが。
「某の得物は些か面妖でな。見ての通り、見えないのでござる。」
見えない物を見ての通りなんて言われても、見えないのだが、こいつの言ってることが本当ならば、右手に刀か何かを持っていることになる。
見えない武器。
長さ、形状、何も分からない。
よくその手の武器はアニメなんかに出てくるし、なんだかんだで見えない武器相手に闘うシーンはある。
戦士としての長年の勘が間合いを教えてくれるとかなんとか。
もしくは、相手の手の動きで刃の角度を見て対応するとか。
理屈ではわかる。
やれないことはない。
後、心眼とかを駆使したら。
見えないなんて問題では無くなる。
しかし、その前提は戦士であることだ。
中学生であることでは決してない。
いくら身体能力が上がってようと。
戦士としての勘は身につかない。
心眼なんてエッチな能力もない。
ただハイスペックなだけだ。
使いこなすなんて出来てない。
それはサッカーの試合で既に証明されている。
これは、あれだ。
詰んだ。