ブルマゆえの食い込み
「なるほどだわ。でも目的地はこの方向だとグラウンドよね?そこで戦うと教室で授業中の人達に丸見えじゃない?」
確かに、与勝第三中学校の校舎はグラウンドのすぐ隣に建っている。
校舎は3階建てで、上から1年、2年、3年となっていて、教室のベランダがグラウンド側にあることから、授業中横を見ればグラウンドの様子は丸見えとなる。
俺はよく、先生のつまらない授業を聞かず、グラウンドでブルマの食い込みを直している女の子を眺めたり、その食い込みを直した回数を正の字でノートに書き込んでいる。
「この際丸見えとか気にしている場合ではないだろ。今後の俺たちの人生が掛かっているんだぜ!殺るか殺られるか、だ。」
「・・そうね。」
那由他は何やら他にも懸念材料があるようだが、言っても仕方のないことだと判断したのか、問答より走る方に意識を持っていく。
と言っても先程説明した通り、校舎とグラウンドは隣り合っている。
しかも、三年生の教室は一階、つまり地続きでグラウンドまで続いている。
つまり、もうグラウンドだ。
「ウンタマーギルはちゃんと追って来てるか!」
確認のため後ろを振り返る水樹。
それに釣られて那由他も振り返る。
あの変態忍者のことだ。
俺たちを捕縛するとか、大人しく従わないと殺すとか言っておいて、保健室のダイナマイト先生を盗撮してる可能性は十分にある。
邪魔者は消えたとか言って。
そんな事も十分あり得ると思い、振り返った。
「・・来てないわね、あの変態忍者。」
グラウンドの中ほど。
ここまで来れば間違いなく校舎からは丸見え。
逆もまたしかり。
よって、追って来ているのならば視界に入らないわけがない。
しかし、ウンタマーギルは視界に入っていない。
結論。
「変態確定だな。」
「誰が変態忍者でござるか?」
「うわっ!!」
気配もクソもなく。
空間を抜けて現れたとしか思えない程に唐突に、突然に、後ろから声がした。
水樹と、実は那由他もこれには驚き、同時に飛び退る。
「て、てめー、いきなり背後から声かけるんじゃねー!普通に驚くぞコラ!」
「ござっと、これは失敬。つい癖で後ろをとってしまったでござる。」
「ふん!謝ったって許すもんか!」
水樹はアホみたいに、みたいにというかアホ故に、プンスカしてみたりしている。
そんな中、那由他だけは冷静に、氷のような心で、クールマインドで、ウンタマーギルのことを分析していた。
顔が真剣だ。
何故、この変態は水樹の背後から現れたのだろう?これが分からな限り、対策をとれない限り、後ろからサクッと殺られて試合終了になりかねないわ。
とか考えているのか。
「うわっ、面倒くさい奴でござる。なんでこんな奴が、世界に楔を打ち込む特異点に選ばれたのやら。世も末ということでござるか。」
「本人目の前にして、露骨にディスるな!盗撮忍者!」
「ござむむっ!某は盗撮などしていないと何回言ったら分かるでござるか、この瓢箪頭は。中身が入っているか心配でござるよ。」
「何をぅ!振れば駒くらい出てくるわい!」
瓢箪頭なのは否定しないのね。
ちなみに水樹みたいな頭の中が空っぽそうな奴のことを沖縄の方言ではノータリンと言うらしい。
脳みそが足りない。ノータリン。
「ござっ⁉︎なんでござるか、この不自然な霧は!」
「確かになんだこれは?」
いつの間にか。
水樹達の周りには分厚い霧のドームが出来ていた。
そのドームはグラウンドをすっぽりと囲うほどの規模で、その分厚さは太陽光を遮るほどであった。
「どうやら成功したみたいね。」
「お前がやったのか、那由他⁉︎」
霧。
それは空気中に含むことができる水蒸気の量、飽和水蒸気量の限界を超えることで発生する気象現象で、気温が低い程発生しやすい。
ということは、このあたりの気温を下げて、水蒸気量を増やしてあげれば霧は作れるわけだ。
霧が出来たあとは風魔法で霧を操作し、グラウンドの様子が外から見えないようにドーム型に形成してあげればいい。
「まぁね!流石に全校生徒に魔法とか使ってるとろを見られたらマズイでしょ、リアルに。」
「なるほど、助かったよ」
俺とウンタマーギルが文字数の無駄遣いとしか言いようがない、無駄な言い争いをしている中。
那由他はこれから起こるであろう戦いを予見し、密かに魔法を発動させていたわけだ。
ん?
でもこんな規模の魔法使ったら・・。
「そう、その通りよ。今の魔法で私の魔力は殆ど使ってしまったわ。」
「おいっ⁉︎」
「だってしょうがないでしょ!綺麗なドーム型にするには繊細な風の操作が必要なのよ!私が綺麗好きなの知ってるでしょ!」
「いや、知らねーよ!寡聞にして知らねーよ!別にドーム型じゃなくても、四角でも三角でもいいじゃねーか!ドーム型に拘って魔力使い果たしたら、本末顛倒じゃねーか!」
「ハッ⁉︎」
このハッ⁉︎は、恐ろしい子的な顔を想像してほしい。
わからない人は、「恐ろしい子 画像」で検索してみよう。
「ハッ⁉︎って今気付いたのか!どうすんだよ!俺一人でこの変態忍者と戦うのかよ!」
昨日だってブレイドさんと融合してやっと渚と互角だったってのに、今日は融合無しでバトらないといけない。
そしてセオリー通りなら、出てくる敵はどんどん強くなる。
つまり、この変態忍者は渚より強い可能性が高いわけだ。
「そうね、あなたに任せるのは不安で不本意なのだけど、そうするしかないわね。なんとか頑張ってちょうだい。私も魔力が回復し次第参戦するから。」
「おーい、マジかよ!無理だぜ、一人は。だいたい ー」
「そろそろいいでござるか?」
一応、ウンタマーギルにとっても、この霧のドームはありがたかったので二人の作戦が決まるまでは待っていようと思っていたが、よく考えたら世界を滅ぼすかもしれない相手にそんな気遣いは無用だと思い直し、割って入るように、割って入るウンタマーギル。
「うるせい!こっちは取り込み中だ!邪魔するとぶっころだぞ、この野郎!」
水樹は頭に血が上り過ぎて、冷静ではなかった。
故に、つい勢いでウンタマーギルの胸ぐらを掴んでしまっていた。
「「あっ・・」」
水樹と那由他は二人して同じことを考えていた。
賽は投げられた。
後悔先に立たず。
覆水盆に返らず。
秋の日は釣瓶落とし。
あっ、これは違うか。
とにかく、兎に角だ。
やっちゃったよね。