暖房、暖房
「それは違う、断じて違うでござるよ!あれはたまたま美の女神が降臨していたから見惚れていただけで、上の命令ではござらん。上の命令というのは、那由他里紗、近藤水樹の両名を確保、できない場合は殺害という内容でござる。」
「な、なんだっ ー 」
「もちろん心当たりはあるでござるな?お主達は今やこの世界の命運を握っているでござる。特異点と言ってもいいでござる。某が入っている組織は世界のバランスを、均衡を保つことを役割としているでござる。お主達はまだ若く、幼いがその存在は世界の均衡を滅亡へと大きく傾けているでござるよ。」
「昨日もそんなことふざけたこと言ってたエセ神父やら変態尼僧と会ったのだけど、そいつらもお前の組織の一員なのか?」
十中八九そうだろうが、念のため確認だ。
俺たちを狙う組織が一つとは限らないからな。
「そのとおりでござる。しかし支部は違うでござるがな。某は日本支部の人間で、あちらはバチカンでござる。」
「いいのかしら?そんなに情報を話してしまって。私達には正直世界の均衡とか言われてもピンとこないし、存在自体が危ないとな言われても知るかって感じだし、死ねと言われて死ぬ程潔くないわよ?むしろ飛びかかる火の粉は積極的に元から払うかもしれない。」
ここで凄惨な笑みを浮かべることが出来るのがこの女だ。
俺は正直、命を狙われるのは嫌だし怖い。
「このくらいは構わないでござるよ。それにお主達はここで大人しく捕まるか、死ぬかの二択しかないでござる。」
こっちも冷静かつ淡々と、表情一つ変えずに返すウンタマーギル。
死ぬだの殺すだのは特に意識するでもなく、日常だとその目が告げていた。
底冷えのする目だ。
暖房、暖房。
「ちなみに大人しく捕まると俺たちはどうなるんだ?」
「良くて世界一厳重な隔離結界の中で死ぬまで生きてもらうことになると思うでござる。こんなことで偽っても仕方ないので正直に話すでござるが、最悪処刑もあるでござる。某も上の考えているのとの全てを伝えられているわけではないで正確なことは言えないでござる。ただ、むやみに殺すということは無いと思うでござるよ。」
良くて一生那由他と隔離(同棲)、悪くて那由他と一緒に処刑(天国へ)だと!
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ悪く無いと思ってしまった俺を殴りたい。
よし、殴ろう。
バキッ!
うん、痛い。
でも目は覚めた!
覚めたら分かった。
こいつに捕まったら終わりだ。
ゲーム終了。
ジ・エンド。
ノーコンティニューだ。
ん?これは違うか。
とにかく、俺はこいつと今からやり合うわけだ。
命のやり取りってやつを。
えっ?何言ってんだよ!
この足の震えは武者震いでい!
「話にならないわね!良くて一生隔離、悪くて処刑ですって?だったら最悪は奴隷ってとこかしら?どれも冗談じゃない!全人類の頂点に立つ私がなんでそんな、人柱みたいな人生を歩まないといけないの!やるわよ、水樹!」
「ちょっと待った!」
早速、ウンタマーギルへ駆け出そうとしたお転婆娘の腕を取り止める水樹。
急な制止で驚いたのか、那由他は目を見開き、後ろに控えていた水樹を振り向く。
「な、なによ!このへ、変態!」
【狼狽える那由他。もう、可愛いな。
たかが腕を掴まれたくらいで、そんな狼狽して。顔赤いぞー。】
「ナレーションはいよいよ殺すから!」
【おっと、聞かれていたようだ。】
「那由他!あんな生え際が崖っぷちのナレーションなんか構ってる暇はないよ!今はとにかく外に出よう!」
そう言って、那由他の腕を掴んだまま走り出す水樹。
目的地はグラウンドだ。
「ちょっと、何で移動するのよ?」
「室内だと巻き添えで関係ない人が怪我するかもだろ!それに2人で連携するなら開けた場所の方が何かと都合がいいと思って!」
まあ、そんなことを言っている今でも、俺たちは”関係ない人”に入っていると思っているんだけどな。
いや、関係ない人でありたいと言うのが適当かな。
人間誰しも夢半ばで死ぬのは嫌だ。