ホクホク顔
「にんにん、甘いでござるよ?って別に挑発している訳ではないでござるよ?うわっと⁉︎落ち着くでござるお転婆娘!某はこの学び舎にはただ人探しで来ただけでござる!信じるでござるよ。」
なら何故保健室のダイナマイト先生を覗いていたのだろう?
「なら何故保健室のダイナマイト先生を覗いていたの?これを説明出来ないと、少々手荒な手段を使ってお縄にかかってもらうことなるわ。不本意。本当に不本意なのだけれど。」
那由他、顔が笑ってるぞ。
「そ、それはあの部屋に探し人がいると思ったからで ー 」
「でも部屋に入らなのは分かるけど、何故ドアを少しだけ開けて中を覗きまくっていたの?息づかいも荒くなっていたようだけど?」
うわー、見てよ那由他の顔。
完全にハンティングを楽しむ肉食動物の顔だよー。
舌舐めずりまでして。
ウンタマーギルさん、御愁傷様です。
「ござふぅぅうう〜。某は悲しいでござるよ。確かに一般人に忍びの矜持を理解できるとは思っておらぬ。思ってはおらぬが、ついお主達には期待してしまったでござるよ。どうやらただの中学生ではないように見受けられるし。」
「なにござござ言ってるのよ変態!いくら分かってもらえないオーラだしても、あんたが変態だということと、今から刑務所行くのは変わらないわ。だから先生達が来るまでここで待ってなさい。」
「それでは何時までもたってもここで待ち惚けすることになるでござるよ。」
「どういうこと?こんなに騒いでいるのよ?そろそろ誰かくるはずよ。」
授業はまだ終わるには早いから他の生徒が来ることは考えられないが、保健室にはダイナマイト先生がいるはずだし、保健室と職員室は隣り合っている。誰かは異変に気付いて来るはずだ。
「ござふふっ、某は忍者。使える忍法は変わり身の術だけではないでござるよ?某の二つ名は、千の術を操る天才、コピー忍者ウンタマーギルと呼ばれて、呼ばれ、呼ば・・名乗っているでござる。よって、人払いに消音など造作もナッシングでゴザルウゥゥ!」
那由他の沸点は水なんかよりずっと低い。
すぐ沸騰するのだ。
熱しやすく、キレやすい。
しかもキレるとすぐ手が出る。
それを以前本人に指摘したところ、ストレスを溜めるとお肌によくないので、これは美を保つために仕方なくやっている、という回答を頂いた。
それがどうしたという話だが、今回も那由他の美を保つための自己防衛的暴力が発動したという話だ。
ただ今回のは直接的な暴力ということではなく、間接的な。
具体的にいうと、魔法で氷の弾丸を発射し、油断していたウンタマーギルの頬に長い切り傷を作ったのだった。
「あっ!しまった!つい魔法でやっちゃったわ!」
つい魔法だしちゃうくらい魔法に馴染んでるのかテメーは。
馴染むの早過ぎるだろ!
ダーウィンもびっくりすぎて、
進化論が怪しくなってくるぞ。
「ござむむっ!その魔法。お転婆娘!もしや名前は那由他里紗ではござらんか?」
「ふっ、なにを今更知れたことを。えー、ゴホンっ!遠からんものは音に聞け!近らばものは目にもみよ!私は唯一無二の絶対的ヒロインにして、泣く子も惚れる美貌の持ち主、あっ!那由他里紗たぁー私のことだ!」
ベベンッ!
大見栄を張り、会心の自己紹介をする那由他。
高邁の精神、自敬自尊の心意気。
そして、遠からんものもいないのに、目にもみよとかいう頭の悪さ。
極め付けは、自分で自分のことを絶対的ヒロインとか言っちゃう残念さ。
プライスレス、っていうより言うのはタダって感じか。
「やはりそうであったか!探してたでごさるよ、那由他殿!ということはそちらの御仁は近藤水樹でござるな?」
これは俺も見栄を切る流れか!
「如何にも!あっ!花は桜木、男は水樹!エロゲの主人公並みにモテにモテまくっている、入れ食い野郎たぁー俺のことだぁー!」
ドコッ!バキッ!ブシュ!
ザーー
大変御見苦しい場面になりましたので、画面を暗転させて頂いております。
水樹がボコられ終わるまで少々お待ちください。
「うっ、うっ、」
画面が元に戻った時、水樹の顔面はボコボコになっていた。
そして、那由他の拳には何故か血が付いていた。
何故かなんて言わずとも分かるが…。
「これは某もきちんと名乗るべきでござるな。某は先程も申したが、ウンタマーギルと申す。普段は山中にて修行の日々を送っているでござるが、今日は上の命令でここ、予勝第三中学生に参上つかまつった次第でござる。そして、上の命令というのが…」
「保健室のダイナマイト先生を盗撮だな!」
上というのも中々趣味がいいな。
しかし、盗撮というのはいただけない。
そんなことしなくたって、ダイナマイト先生は一言いえば撮影許可を出してくれる。
しかもある程度なら、要望通りにポージングやら、着崩しやらしてくれる。
そして僕らはホクホク顏で保健室を後にしていくのだ。
今晩を楽しみに。