頭髪前方後円墳
「…黙って聞いてたら丸投げしていったわね、あの挟撃ハゲ野原野郎は…。」
まったく信じられないわ。いつになったら、水樹と一緒に戦うシーンが来るのよ!今のところ私が語り部の回は、変態のやりたい放題フリーダムってことになってるじゃない!しかも作者公認(放任?)の。冗談じゃないわ!
しかも、よく考えたら、私は変態コスプレ神父にやられてから、意識が無かったから、水樹の今の状況とか全く分からないはずよ。なのになんでこの後、水樹とバトルシーンを演じるとか分かるの?不味いわ。さっそくフォローしようのないおかしな点を発見してしまったわ。
えっ?なに?そこは、リリーから説明受けたことにしろですって?
…いくら考えても、これ以上いい案はないわね。いえ、正確にはあるにはあるけど、それは書き直しってことになるわけで。書き直すと、そのままお蔵入りしてしまいそうなので、これで我慢することにするわ。
「ていうか、あんたいつまで、はあはあ言ってんのよ!」
ていうか、私もいつまで指突っ込んでんのよ!
雪のように白い肌を紅潮させて、潤んだ瞳をしているリリー。なんというか、この状況が状況だけに、全然蠱惑的に見えない。
「はあ、はあ、もふがまんへきない!」
いきなりリリーが襲いかかってくる。
「させないわ!」
突っ込んだままの指をくっと、上に動かしてリリーの顔を仰け反らし、動きをとめる。しかし、ふんが、ふんが言いながら手をバタつかせるリリー。それはそれで可愛い。
「甘い、甘いわねリリー。私はこの回の一切を任された女。今あなたにヤられる訳にはいかないのよ!」
「はあ、はあ、はあ」
「どうやら興奮が収まらないようね。どうしてかしら?」
「はあ、はあ」
「あっ!指突っ込んだままだからか!」
スポンッ!と指を引っこ抜く。するとさっきまで著しく興奮状態だったリリーが、途端に冷静さを取り戻し、くるりと回りブルマに戻る。
座る。
もちろん体育座りだ。
「もぅ、ダメじゃない那由他。鼻に指なんか突っ込んだら。興奮してしまうのが分からなかったわけじゃないでしょ?」
「いやいやいや、知らないから。地球人に、鼻の穴にホットスポットある人なんていないから。」
「じゃなんで挿れたんだよ。ボクの初めてを奪っておいて…。あれは遊びだったって言うの!」
「‼︎‼︎‼︎⁉︎」
えっ⁉︎なにその返し!
遊び以外になにがあるの?
目潤んでるし。
初めて?遊び?なんで鼻の穴に指突っ込んだだけで、修羅場突入フラグが立とうとしてるの?
私が悪いの?
まぁ、私が悪いのか…。
でも!でも!あの時はああでもしないと、18禁になりかねなかったし。そう考えると、私は正しいことをしたことになるわ。
そうよ!私は悪くないわ、悪いのは…、悪いのは…、うーん、どう考えても作者ね!そう!またしても作者が全部悪いのよ!
そもそも、百歩譲ってリリーの設定の件は許しましょう。私の持てる全ての慈愛を持って。それでも足りなかったから、腹いせに水樹の阿呆を痛ぶることで。
でも、でもよ、同性相手にも淫力が働く設定は要らなくない?あなたもそう思うわよね?うん、うん、そうよね!思うわよね!だってさ、頭髪前方後円墳さん♡
えっ?記憶にこざいません、ですって?
ふふふ、貴方、私を敵に回したことを後悔させてやるわ。
手始めにただでさえ見るに堪えないその中途半端なハゲ頭を ー
「…責任とって」
そう。そう。
その見るに堪えない散らかりきった頭を剃り上げて責任をって、え?
「責任とってよ‼︎」
今にも堰きとめられた涙のダムが決壊しそうな顔で迫るリリー。
「いっ、一体、なにを言い出すの?藪からスティックに。」
「ボクの初めてを奪った罪は思いんだからね!あの人のために大事に大事にとっておいたのに…。これでさらに責任まで放棄したら、いくら、いくらボクでも、なにするか分からないっ!」
絶叫よね。絶叫。もう涙さんが今にも零れそうよ。
・・・・・・。
「一旦、落ち着きましょう!落ち着きくのよ!深呼吸、そう、深呼吸しましょう!」
私も深呼吸しなきゃ!
でないと…なんかヤバイ!可愛い!
あぁ、もう!舐めたい。
はっ⁉︎
深呼吸!深呼吸よ!息を吸っては吐き、吸っては吐くのよ!
「す〜は〜、す〜は〜」
「そうよ。その調子で落ち着くのよ。」
「す〜は〜、す〜は〜」
「落ち着いた?」
「…落ち着いたかも。」
「ふー、それはよかったわ。それと、さっきは悪かったわ。あの、その、初めてを奪ったりして。」
那由他、赤面しながら謝ります。完全に謝り慣れてないご様子。照れてます。ものごっつ照れてます。
「ううん。ボクも取り乱しすぎたよ。こっちこそごめんね♡」
ズキュン‼︎
「たいへん、たいへん、恋が生まれました!」
「コイがどうしたの那由他⁉︎」
グイと近づくリリー。
そんなに近づかれると、理性が無くなります!離れて下さい!さもないとキスしちゃうわよ!
ってバカやろうか私は⁉︎
私が、この私が頭だけでなく顔もハゲた作者の考えた設定に呑まれるというの!そんな訳ないわ!
否、断じて否よ!
「なんでもない!なんでもないわ!そんなことより、リリー。そろそろ本題に入らない?この調子だと、永遠とこんな感じのくだりが続くわよ。」
無理やり閑話休題。これは語り部のみ持つ切り札である、急な話題転換を使わせてもらうわ。
えぇ、もちろん異論は全却下よ。
「そうだねー。そろそろ合流してもいいころだしね。」
それに、読者もそろそろバトルシーンが読みたいはず!というか、このゴールの見えないやり取りにウンザリしてるはず⁉︎
(ちょっと、そこ!頷きまくってんじゃないわよ!流石の私も傷つくとこだったじゃない。これでも私、コルゲートなんだから。…デリケートなんだからね!)
「でも、ここまでふざけ倒すとなにが本題だったか分からないわね。なんだったかしら?」
えーとですね。メモによると、二人羽織的なシステムで戦うことを説明、と書かれてますよ、那由他さん。(ナレーションです)
ん?そうなの?たまには役に立つじゃない、脳天ミステリーサークルハゲ!(※作者のことです。あなたのことではありません。そこんとこ、勘違いしないでよね!)
「だそうよ、リリー。ということで、詳しい説明を読者にしてもらえるかしら?」
「なにが”だそうよ”なのか分からないけど、そこんとこ突っ込むと話が長くなるから説明しちゃうね。」
体育座りを崩し、正座する。手は膝の上。
「まずは、今の状況から説明するね。」
「それはいいわ。さっき聞いたことにしたから。」
「何を言ってるの那由他?ボクは一切状況説明なんてしてないよ。」
「さっきあんたがハァハァしてる間にちょっとあって、ある程度は知ってるのよ」
「そうなんだー。じゃ水樹君が今死にかけてることも知ってたのかー。じゃ、状況説明はとばして、元の世界に着いてからの話をするね。」
ん?
「ちょっと待ちなさい」
「なに?」
「私が知っているのは、この後コシマゲンゴロウもとい、水樹のアホと一緒に、さっきのエセ神父達とバトルってことだけよ。作者が言ってたんだから間違いないわ。それなのになんであのアホが死にかけてるなんて話が出てくるの?」
そこらへんどうなってるのかしら?
ハゲリンピック金メダリストさん?
えっ?カッコつけようとしたら普通に斬られて重症ですって?それがめちゃくちゃ面白かったですって?
…あんた作者のくせになにやってんのよ!使えないわね!自分で決めた展開ぐらい守ることもできないの?
なに?
那由他が来るまで待てと台本にはちゃんと書いたけど、アドリブで突っ込んでいったから制御できなかったですって?
はぁ〜、もういっそ爆ぜれば?
「状況は刻一刻と変化し続けているのだよ?那由他君。ボク達がちちくりあってる間に、水樹君と誉れ高きブレイド様は勇敢にも野蛮で粗野な2人組に特攻をかけて闘っている最中なんだよ」
「えっと、この際細かいことは気にしないわ!たとえ話の中にものすごく評価の高い人物が、それも重要そうな人物が一人二人出てきても気にしないわ!私の言いたいのは一つだけよ。早く水樹の阿呆と合流して、語り部の任を降りたいということだけよ!」
そろそろ私も自由に暴れたいのよ!
「そうだね。ボクも敬愛してやまないブレイド様が闘っているのに馳せ参じないのは、下僕としてなってないと思うし。」
胸の前で手を組み、遠くを見つめているリリー。
体が光だす。
「そうね!私もそう思うわ!だからさっさと次に行きましょう!」
わかってる!わかってるの!突っ込まなければいけないことは!私だって気になってるわよ。ブレイドって誰?なんでそんなに敬ってるの?てか光ってるよ!とかね。
でも、突っ込んでたらいつまでたっても次の回に進めないの!実力不足の私をどうか許してほしい。
「でも、行く前に最低限知っといてほしいことだけ、説明するね。」
今から言うことは重要らしいわね。仕方ないから聞いあげるわ。
光がリリーの体から周りへと円状に広がっていく。
「まず、今のところボクは向こうの世界、つまりは那由他がいた世界には入れないの。まぁ正確には入れるのだけど、それは幽体限定でおまけになんの力も出せないから、ボクは戦力にはなれないということ。」
「ちょっと!それじゃあ ー 」
唇に、人差し指を添えられ黙る那由他。
今リリーの体、めっちゃ光ってる。
「まだあるから質問は後でまとめて聞く。説明を続けると、向こうに行くと、実質、那由他一人で闘うことになるのだけれど、心配はいらないよ。なぜなら力はボクの力を”そのまま”使うことが出来るようにしてあるからね。少し制約はあるけど、ある程度の敵なら問題なく倒せるはずだよ。」
「使えるようにって、いったいいつ ー 」
また人差し指を添えられてしまった。
ん〜、シャイニング‼︎
「まぁ、まぁ、質問は後でだよ那由他。心当たりはあるはずだよ?それより、こここらが重要なんだけど、力はいくら大きく、強くとも、使う人次第で良くも悪くもなる。このことは、ドラゴンボールでいうところのナメック星編、ギニュー隊長と悟空の戦いを見てもらえば分かる。いくら強くても使いこなすことが出来なければなんの意味もない。ボクから言えるアドバイスは唯一つ。冷徹なこと氷の如く、冷血なこと吹雪の如く、ただ冷たくあれ。ようは、クールにいこうぜ!ってことね。これがボクの根源だから忘れないでね。これさえ忘れなければ、きっと那由他なら使いこなせるはずさ〜」
言い終わるやいなや、更に光りだすリリー。
「なんで最後、ちょっと沖縄っぽく言ったの⁉︎トリコ!トリコの影響ね!もしくは作者のってなになに!なにしてんのよあんたーーーー!!!!」
那由他が甲斐甲斐しくツッコミいれてる最中。リリーの発光(元いた世界への移動魔法)によって、異次元空間へ突如移動。そして、一瞬にして元いた小路に戻ったのであった。
そして、そして、結局なにも質問できず、右も左も分からないままエセ神父と戦うことになるのであった。