保健室の先生ってなんかエロげ
「ねぇ。」
「ああ、分かってる。」
なんて、如何にも全ては我が手中にある的な台詞を二人して言ってみたが、何実一つも分かってはいなかった。
現在、水樹と那由他は保健室手前で立ち尽くしている。
ある事が原因で立ち尽くしている。
保健室のドアの前に。
普段は閉ざされている保健室のドア。
そこが今は少しだけ開いていて。
その隙間からは保健室の中が見えていて。
しかし、大切なのは保健室の中ではなく。
何故普段は閉ざされている保健室のドアが開いているか、である。
では何故か?
それは客観的に見ると、第三者的な位置から観察すると、不審者がドアを少しだけ開けて、中を覗いていたからである。
「那由他。」
「ええ、私の合図でいくわよ。」
二人は不審者に聞こえないように、気付かれないように、慎重かつ大胆に行動し、行動しようと動き出す。
しかし、ここでナレーションの仕事として、何故二人が保健室のドアを開けている人物を不審者と認定したかを説明しておきたい。
嫌がらずに静聴して欲しい。
まず一つ目の「こいつ不審者だな」の要因だが、見た事ないおっさんだという点である。
ぶっちゃけこれだけで、不審者認定してもいいだろう。
だって、中学校に知らないおっさんなんて来ないだろう。
それにと言うのが第二の要因となるのだが、仮に知らないおっさんが校内に現れたとしても、保健室の中をコッソリ覗くなんてエキセントリックな行動は取らないだろう。
そして三つ目の要因が、おっさんの格好である。
この不審者で変質者のおっさん、格好がどっからどう見ても忍者なのだ。
背中に刀を背負い、腰には忍具と思わしき手裏剣やらクナイやら巻物やらが差してあり、履き物は草鞋の草履だ。
これまでで間違いなく大人を呼ぶには十分なのだが、最後にもう一つ付け加えておくと、この忍者、覗きながら鼻息荒く、ふがふがいいながらニヤニヤしているのだ。気持ち悪い。
まあ、確かに保健室の先生といったらトラブルの影響でエロ可愛いというイメージがついているが。
本物語もその例に漏れず、保健室の先生はエロ可愛いい設定なのだ。
「今よ!」
水樹と那由他。
二人は那由他の合図で同時に動きだす。
水樹は火災報知器のボタンを押しに、那由他は不審者の目から水樹を外すためにスカートを捲り上げ、と思ったがそういえば体育の授業からそのまま来てるから那由他スカート履いてないな。
どうしよう?
ブルマ下ろさせようか?
でもなんか、ほら、あれでしょ?
ダメでしょ?
それにブルマ下ろすと、その後に動けないでしょ、足にブルマが掛かって。
どうするかなー。
今の那由他はオッパイも駄目だしなー。
ずん胴だしなー。
ここは那由他本人にどうするか決めてもらおう。
ということで那由他さん、よろしくお願いします。
「ちっ!無能な作者を持つと苦労が絶えないわね!しかたない、ここは!」
那由他は何をするか迷った末、不審者に向かって走ることを選んだ。
水樹が目指している火災報知器はちょうど那由他たちが立ち尽くしていたところと、保健室の間くらいの位置にある。
つまり、水樹も半ば不審者に向かって走っていることになる。
よって、生半可なことでは不審者の目を水樹から外すことは出来ないのである。
普通は明らかに火災報知器狙いの奴をなんとかしようとするだろうから。
だから、那由他は不審者に向かってダッシュすることにした。
水樹よりも不審者に注目されるように。
気を引くように。
気を逸らすように。
「あぴゃぴゃぴゃぴゃー!」
ついでに奇声も発することで、自分への引きつけを盤石のものとする那由他。
・・女の子がそんな奇声上げちゃ駄目!
「何奴⁉︎」
「えっ⁉︎」
那由他の奇声で不審者はやっと保健室のドアから顔を離し、那由他たちを認識する。
その顔はあまりの奇声に度肝を抜かれたような表情で満たされていたのだが、それは計算通りで狙い通りだったのだが、一つ計算外で想定外のことが起こっていた。
それは一刻も早く火災報知器の警報を押さなければいけない水樹もあまりの奇声に驚いてしまい、不審者と同じく立ち止まり、こちらを振り返ってしまったのだった。
「馬鹿!早く警報を押しなさい!」
那由他は水樹を抜きしな、アホ面の水樹を叱責する。
この場合、命令といった方がいいかもしれない。
「はい!ご主人様!」
水樹には下っ端の才能があるのだろう。
とっさの命令に、とっさに答えた言葉が「はい!ご主人様!」なのだから。
「ぬぬっ!お主ら何者でござるか!某に気配を感じさせぬとは只者ではないっぷぅあっ!!」
不審者からの誰何など聞く耳持たぬと、飛び膝蹴りをかます那由他。
その蹴りは不審者の顎に、チンにクリーンヒットし、まぁ吹っ飛ぶ。
「水樹!押した⁉︎」
不審者を蹴り飛ばした後、油断なく不審者と距離を置きながら水樹を振り向く。
「押したけど鳴らないよ!」
「こんな時にふざけんなよ!クソが!押し倒すぞ!」
「ひぃぃ⁉︎」
不審者を蹴り飛ばしたことで、脳内でアドレナリンか、なんかが分泌したのか、興奮状態で口調がおかしい那由他。
怖い。
不審者より怖いかも。
「もういい、どきなさい!私が押すわ!」
ポチ!
・・・・・・・。
「・・鳴らないわね。」
「だろ!俺は悪くない、悪いのはこの火災報知器だ!こんな時に鳴らないなんて、メーカーにクレーム付けないとこれは収まらんぞ!」
「それはメーカーの所為ではごさらん。」
「「うおっ!」」
「「きゃ!」」
急に背後から不審者の声。
二人は二人して火災報知器を殴ったり蹴ったりしていたので、完全の不意打ち。
にしても、動きがあったなら流石に気付くはずなのだが。
視覚には入っていたし。
「この火災報知器が作動しないのは、某の忍法でそうしたからでござおっと!」
勇猛果敢で血の気が多いうちのヒロイン那由他は、またしても不審者の台詞の途中で攻撃を繰り出す。
今回は流石に躱されてしまったが、これいいのかな?
普通、かどうかは分からないけど、暗黙の了解で相手が話している間は攻撃をしないというのがルールとしてあるはずだ。
だからこそ、ヒーロー戦隊は安心してカッコつけた変身を行えるし、背後が盛大に爆発する。
仮面ライダーにしたって、敵側が変身前に攻撃を仕掛けてきたら死んでいる。
プリキュア達なんか、一回全裸になってそこから魔法の衣装に着替えるだろ?あの変身シーンの秒数すごいぞ!
この暗黙の了解が無かったら何回殺されてることか。
まぁ変身シーンではないからいっか。