鬼軍曹
「・・・整列っ!!」
東風平楓、彼女は一介の体育教師である。
しかしながら、彼女の雰囲気というか、身に纏う空気は、さながら鬼軍曹といったところで、そんな彼女に逆らうものは皆無であった。
体育の授業中限定だが。
「よし!出席確認を行う。番号!」
「1!」
「2!」
「3!」
・・・
・・・・・・・
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「30!」
「うっし!全員出席だな。それでは直ちに女子はバレー、男子はフットサルの準備をし、準備でき次第スポーツマンシップに則って正々堂々とスポーツを楽しみなさい!私は教官室でコーヒーでも飲んでるから、なんかあったら呼びにくるように!」
「「はいっ!!」」
ここからは速かった。
東風平先生の話が終わり、教官室へ引っ込んだ瞬間、いや、引っ込む前から皆、弾丸のように飛び出し、一目散に体育館倉庫に向かう。
もちろん男子はフットサル用のボールとゴールポスト、女子はバレーボールとバレー用のポールとネットを取るためだ。
そして、1分としない内に男子、女子共に全ての準備を終え、チーム分けを始める。
ここまでで、授業開始から5分と経っていないことから、皆の体育に対しての熱い思いが感じられる。
しかし、この統率の取れた働き蟻のような動きは、水樹達が最初から出来ていた分けではなく、東風平楓の一時間まるまるかけて行った特訓の成果から生まれたものであることは特筆しなくても分かるだろう。
「諸君!チームはいつも通り、出席番号が奇数の人と偶数の人で分けた後で、チーム内で更に半分に分けてくれ!」
ここら辺のリーダーシップをとるのは委員長だ。
たけしの名に相応しいリーダーっぷりだ。
皆もたけしに素直に従い、さっさとチームに分かれ、前半後半で誰がでるのかを決めている。
男子は全員で20名なので、奇数チーム10名、偶数チーム10名に分かれ、更に前半5名、後半5名に分かれることとなる。
「ついに、ついに俺がスターになる時が!」
いよいよ待ちに待った体育ですよ。
何時もは勝ち負けに関わりにくい前半にでて、ポジションもバックスという冴えない役をしていたけど、今日の俺は違う。
「俺は後半にでる!」
だから俺は先手を打ち、自ら宣言をして後半のメンバーに名乗りを上げる。
「お、おう。」
このお、おうとかなんとも失礼な反応をしたのは、さっき教室でハンドアクション付きのウインクをしていたモブ男だ。
こいつ、というか、こいつらはいつも後半に出て、サッカー部であることをフルに活かし、女子達に俺サッカー上手いですよアピールをしているキザ野郎なのだが、それも今日までだ。
いや、今日までではなく、この前の体育までだ。
何故なら今日からは俺一人が大活躍するからだ。
女子達の視線は俺一人のものとなるわけだ。
ニヤニヤ。
「おい!水樹のやつ、またニヤニヤしてるぜ!」
「気持ち悪いこと、ゲロの如くだな。」
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