抽象的神
「・・なあ、委員長。委員長は那由他のことどう思う?」
「なっ⁉︎なんだいきなり!!」
俺もそう思う。
なんでいきなりそんなことを聞いたんだろう?
でも、聞いておきたかった。
那由他ファンクラブの幹部である委員長が那由他をどう思っているのかを。
俺の気持ちを整理するためにも。
「いいから答えてくれよ。そしたら大人しく出て行くからさ。」
「・・もしかしてこれを聞くためにワザと阿保のふりして、最後まで教室に残っていたのか?」
そうなのか?
・・そういうことにしとくか!
「・・もちろんそうだ!そうだとも!さすが委員長。卓見だ!」
「ふん!君にそんなこと言われてもなんも嬉しくないね!」
モジモジ。
・・なかなかに委員長もキモいな。
「それで、どうなんだよ?」
「そうだな、那由他様は一言でいうなら神様かな」
「いや、そういうのじゃなくて、他にあるだろ?もっと具体的にさ。」
神様とか抽象的過ぎるだろ!
正直、何言ってんのか全然分からん!
「なるほど、具体的に、か。ではいくぞ?」
委員長たけしは何故か不敵な笑みを浮かべ、水樹を見据える。
そして、大きく息を吸い込み ー
「とても美しく可憐で清楚で上品でベッピンなお方で世界三大美女など那由他様の御御足元にも及ばず美人を表す言葉である立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花とは正に那由他様のみを表す言葉であると思うと共に那由他様を花などに例えるとは不敬極まりないとも思うわけでそこんところは我ら那由他ファンクラブでも二分するところであるのだが皆那由他様こそこの世でもっとも美しいということは一致しているわけでそう考えると那由他様は美の女神ビーナスの生まれ変わりではないのでは考えている!」
一息です。
一息で全部言い切りました!
拍手ー、パチパチ。
・・って⁉︎
全然何言ってんのか分かんない!
結局最後また神様って言ってるし!
具体的にって、神様の名前教えろって意味じゃないからね!
「・・まあ、もういいかな。悪いな、余計な時間とらせて。」
水樹は肩を落とし、とぼとぼと教室を出て行こうとする。
しかし、そこでたけしに呼び止められる。
「ちょっと待ってくれ。逆にお前は那由他様のことをどう思っているのだ?気に食わないが、那由他様とは幼なじみなのだろう?」
水樹の足はいとも容易く止まった。
それは水樹自身知りたいことだったからだ。
自分が那由他のことをどう思っているのか。
那由他とは幼なじみ。
それは委員長が言わずとも自他共に知っていることだ。
しかし、それだけ。
それだけだ。
幼なじみ。
それ以上でもそれ以下でもない。
なかった。
昨日までは。
でも。
昨日。
那由他に言われたあの言葉。
一体あの言葉はどういった意図で紡がれたものなのか。
わからない。
いや、分かるのだが。
あんなことは初めてで。
だから余計に。
分からなくなる。
いっそ適当に。
そう考えなくもない。
でも。
そんなことをすれば、俺は男と名乗ってはいけなくなるだろう。
それだけは絶対にしてはいけないことだ。
そう漫画に書いてあった。
俺の好きな漫画にだ。
だったら間違いなし。
しかしなー。
それだとなんの解決にもならないし、先に進まない。
だから、委員長たけしにヒントを求めたのだがな。
正直言って何の役にも立たなかった。
主人公の役に立たないなんてキャスト失格ですよ、まったく。
その上、主人公様に向かって逆に問いかけるとは。
なんたる不遜。
・・体育の時間覚えてやがれ。
「俺にとっては、そうだな、那由他は・・・」
水樹は決して少なくない沈黙の後、
「女の子だよ。」
そう答えて委員長たけしの返しを聞くことなく、颯爽と教室を出て行った、なんて書くとなんとなくカッコいい感じがしてムカつくので、逃げるように、教室を後にしたと書いておこう。
詳しく書くと、体育館に向かったのであった。
1人教室に取り残された委員長たけし。
彼は静寂の支配する教室で1人誰にとも言わず呟く。
「那由他様は女の子、か。」
彼がどんな気持ちでこの言葉を呟いたかは、誰にも分からなかった。
誰にもだ。
大事なことなので二回言いました。
大事なことなので二回言いました。