リーダーたけし
体育。
それは勉強ばかりで息が詰まりそうな学校生活に、安息を与える一陣の風。
体育。
それは時にプライドとプライドのぶつかり合い。
体育。
それは汗迸る肉の祭典。
体育。
それは男の本能を呼び覚ます束の間の遊戯。
体育。
それは女子の体液(汗)が飛び散り、滴り。
体育。
体育館だと、飛散した体液は床に残る。
体育。
それを女子が着替えに更衣室へ戻った瞬間。
体育。
男共は床を舐めて綺麗にする。
そう!
体育とは男の煩悩を満たすための、神聖なる遊戯である(嘘)。
そんな煩悩の果てにある遊戯に今、一人の修羅が生まれようとしていた。
5時間目!!体育!!
バァーーーーン!!
パフ!!パフ!!
ということで、ことの始まりは一人の男のこんな思いつきによる。
「あれ?体育の授業で身体機能強化の魔法使えばヒーローじゃね?」
まあ、こんなこと考えるのは世界広しといえど一人しかいない。
そう、のび太である。
・・じゃなくて、水樹である。
彼は一応魔法を使うことが出来る。
しかしながら、覚えたてであるため、彼一人では簡単で魔力消費の少ない、膂力を上げる魔法しか使うことが出来ない。
でも、
「体育の授業でヒーローになるのなら、これで十分だよね。」
と考えた訳である。
なるほど、なるほど。
でも、那由他さんに色々と目立つといけないから、魔法を使うのは控えましょうと言われたなかったっけ?
と、ナレーションとして一応設定を教えてあげたのだが、
「大丈夫、だって俺の魔法、目に見えるようなものじゃないからバレないって!」
だそうだ。
なら止めはしない!
突き進め少年!
だが覚悟してほしい。
君の進む道はどうやら修羅の道のようだから。
「グヘヘ!今から楽しみすぎて涎が止まらんぜよぉ」
ここは更衣室。
という名の教室である。
水樹の通う、与勝第三中学校の体育館には、何故か女子の更衣室しかない。
お陰様で男子は女子のお着替えタイムを覗くのは時間的にほぼ不可能で、着替えも女子全員が体育館に向かった後に、もぞもぞとやるしかない。
ここで一つ補足というか、説明をしておきたい。
昨日水樹が渚とやり合った体育館だが、地理的位置としては、本校舎とかなり近い。
というか、渡り廊下で繋がっている。
よって、男子が教室でもぞもぞと着替えようが、始業時間にはなんの影響もなく、始まりのチャイムが鳴る頃にはクラス全員が体育館に集合する。
まぁ、念のためである。
念のためついでに、昨日ド派手に壊したであろう体育館の屋根だが、朝の緊急集会が開かれてないことからも分かるように、設定通り、問題なく、何事もなかったかのように、元どおりである。
ここら辺から神父さんの仕事ぶりを伺えるのではないだろうか。
さすが紳士!今は入院中だけど。
「おい、あいつ着替えながらグヘグヘしてるぞ。」
「誰の裸みてグヘグヘしてるんだか。」
「・・委員長だ。」
「間違いなく委員長だな。」
「確かに委員長は男の俺らからみてもいい体してるよな」
「ああ、あいつ那由他ファンクラブも頑張ってるけど、野球部でもキャプテンだもんな。」
「それに委員長だぜ、どんだけリーダーなんだよ。」
「それはねぇ」
「「名前がたけしだもんなw」」
ギャハハハ!!
更衣室にモブキャラの汚い笑い声が響く。
水樹&委員長改め、たけしにはこのモブキャラの会話は聞こえていない。
陰口ってやつだ。
まあどこの学校にもあるし、いるだろう。
陰口好きと、頑張ってる人を羨み卑下するクズは。
しかし可哀想かな。
そんなクズモブの会話が、これからも登場機会のあるであろう委員長の名前を決めたというのは。
でも、たけしはリーダーらしい良い名前だから別にいいか。
「確か今日の体育は男子がフットサルで、女子がバレーボールだったな。ふむふむ、ボールを勢い余って破裂させてしまわないか心配だな〜。」
水樹はとっくに着替え終わったが、脳内で今日の体育のデモンストレーションを行っていたため、特に何をするでもなく、突っ立ったままニヤニヤしていた。
ナレーションの立場からみても、それは形容し難いくらいに気持ちが悪かった。
今の水樹に触れるくらいなら、ナメクジとマブダチになるほうがマシだと思えるくらいに。
いや、こんなこと言ったら、キサンタに怒られるな。